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「祭兵団インパール戦記 歴戦大尉の見た地獄の戦場」 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

祭兵団インパール戦記―歴戦大尉の見た地獄の戦場

祭兵団インパール戦記―歴戦大尉の見た地獄の戦場 

  • 作者: 深沢 卓男 出版社/メーカー: 光人社 発売日: 2004/02 
  • (5点)

戦記物というのは、自分が全く知らない戦争という極限状態を生き抜いてきた人の貴重な体験談であるので、点数を低めにつけるのはあまりしたくないのだけど、ちょっと低めです。

司令部付きの大尉の自伝であるので、司令部が、現場を全く知らない本部からの命令(戦況を無視し、頻繁に変わり、矛盾した指令まででる)に右往左往する様子、苦悩する様子が、この本ではよくわかる。
またインパール戦の最前線で戦った3師団、祭兵団、烈兵団、弓兵団の内の、祭兵団の歴史が、満州あたりから書かれていたり、砲兵だった著者の執筆なので砲を使った戦略なども詳しく説明されており、いろいろ興味深い点はあった。

で、何で点数が低めかと言うと、1つは、あまりにも著者本人の自慢話が多い事。
特に、インパール戦に入る前の、中国大陸編では(この部分が本の半分ほどある)、日本軍が躍進を続けた事もあり「我が栄光の歴史」という感じで、著者本人の昇進物語のようになっている。
自伝なのだし、手柄を書くのは仕方がないのかな?とも思うのだが、「(自分が立てた)作戦の成功をみなから賞賛された」と一文でも済みそうな事を「深沢大尉は有能であられる」「君は素晴らしい、きっとやってくれると思っていた」など、自分を褒め称える会話を長いと1ページも書いてしまうのはどうかと思う(その上、そういう箇所が随所にある(^^;))。

もう1つは、当番兵が付く程の上級兵の自伝というのは、どうしても戦争で極限状態に陥った人間の醜い部分、汚い部分を隠しているように思えて仕方が無いのだ。
例えば、撤退の路に累々と横たわる行き倒れた兵士の屍をこの著者も見ていて、辛いと感じる。その部分の記述はある。でも、死体以外にも動けなくなった兵士もたくさんいたはずだ。歩兵など下級兵の自伝では、動けなくなった兵士を助けられない自分の辛さや、段々それを見捨てる事に何も感じなくなる自分の気持ちの移り変わりなどが克明に記されていたりするのだが、その部分に関しては全く触れられていない。
戦場には友情もあるだろうか、そういう残酷な部分もある。しかし、この戦記には、自分を貶めるような記述は全く無く、自分がいかに部下思いの上官であったかという記述しかない。
当番兵が「深沢大尉は、他の上級兵と違って当番兵と同じ物を食べていらっしゃる」と褒めるシーンがある。司令部付きだったので、歩兵などに比べれば食料事情は良かったのだと思われるが、戦闘より飢えで死んだ者が多かったこのインパールで、歩兵達が、飢えの中軍刀などの武器を全て捨て去っても飯盒(最後の生きるすべ)だけは捨て去らないのを、他人事のように、いやどちらかというと「嘆かわしい」という感じで書いている。
ある下級兵の自伝に、インパール戦で死んだ兵士の多くは下級兵であり、上級兵の多くは生き残ったと書かれていたように、極限の戦場にいたとはいえ、著者の待遇は他の何万の兵士に比べ格段に良かった物なのだろうと思われ、飢えで倒れていく兵士達の本当の苦しさをわかっていなかったのではないか?もしくは敢えて書いていないのではないかと思ってしまう。

私が戦記物に求めるのは、極限状態の中で、人がどう変わり、どう思い、そして人間として自分の醜さを認識しつつも、いかに人間らしく生きようとするかという事である。
他の戦記物でも、自分の人間として恥ずかしい部分を前面に出しているという物は少ないが(自伝を書く人は、品行方正な人が多いのだろうか?)、この本の場合はあまりにキレイ事過ぎるかなと思ってしまった。

以前読んだ「悲劇の島―記者の見た玉砕島グアム」著:堀川 潭(光人社NF文庫)は、私が読んだ中では珍しく、自分が生き残る為には誰に取り入ればよいのか悩んだり、体力の無い自分に代わってもっと体力のある人間が自分のやるべき仕事をやってくれればいいのにと恨み言を書いたり、人間のあまり知られたく無いような心の動きを赤裸々に書いていて、この本とは対極だなぁと思った。

 


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コメント 2

NO NAME

当番兵が「深沢大尉は、他の上級兵と違って当番兵と同じ物を食べていらっしゃる」と褒めるシーンがあるページを読めば、人並み以上に動いた上で兵と食事を分かち合って感謝されている事が書かれていますが、本当にこの本を読まれたのでしょうか。
著者の待遇は他の何万の兵士に比べ格段に良かった物なのだろうと思われていますが、兵站線からの距離や兵科による差異で前線の歩兵と食糧事情が違うことは至極当然ですね。それがなぜ飢えで倒れていく兵士達の本当の苦しさをわかっていなかったと思われるのでしょうか。
傷病兵の後送や遅滞戦闘で身を挺しており、斃れていく兵への思いは随所に見られます。極限状態での自己犠牲性を「皆神様」という衛生下士官の言で締めくくって居ますが、あくまでも赤裸々な描写でなければ理解できないのでしょうか。
by NO NAME (2009-12-20 07:32) 

choko

NO NAME様

読んだのがかなり前の本なので、詳細はすでに曖昧で申し訳ないのですが、上に書いた感想が読んだ直後に感じたことだと思います。

それに「武器」を捨てなければならない状況まで追い込まれている兵士の状態がわかれば「嘆かわしい」とは絶対思えないと私は思います。

赤裸々な描写である必要はあるとは思えませんが、
命をかけ他人を救ったり、傍目から見れば素晴らしいと思える行動をしたとしても、失った多くの仲間を思い、生き残ったことを恥、
戦争中の事を語らない元兵士が多くいる中で、
いかに戦時中自分が素晴らしかったかを語る著者を、
私は理解できませんでした。

by choko (2009-12-20 20:04) 

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