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「遥かなインパール」 伊藤桂一 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

遥かなインパール

遥かなインパール

  • 作者: 伊藤 桂一
  • 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1993/02 メディア: 単行本  8.5点

無謀な計画により、戦闘でだけでなく、飢餓で多くの兵士の命が奪われたインパール作戦。作戦を中止し撤退した日本軍の退路には、飢えや病、怪我などで倒れた兵士が累々と横たわり、白骨街道とまで呼ばれるに到った。

この作戦は、牟田口中将が周囲の反対を押し切って実施した作戦で、ビルマ側からチドウィン川を渡り、標高2千メートル以上のアラカン山脈を越え、インド領の要塞インパールを占領するというものであった。

無謀と周囲から反対されていたこの作戦が、実行されてしまった結果、ここに派兵された兵士達は、どんなに無謀な事でも「命令」という名の元にそれに挑まなければならなくなった。

インパール作戦はその悲惨さからか、自伝など、いろいろな本で取り上げられている。私も光人社の文庫で、インパール作戦に関する自伝をいくつか読んだ。

「遥かなインパール」は自伝ではなく、作者がインパール作戦に参加した兵士達から話を聞いたり、データを集めたりしてまとめた戦記小説である。

インパール関係は自伝ばかり読んでいたので、特定の主人公がいないこの小説に最初少し戸惑ってしまったが、自伝が一つの隊の動きを追った1本の線なのに対し、こちらは、複数の隊の動き、戦況の流れを追ったもので、前線に立つ兵士の様子、心境だけでなく、インパール作戦の全容を知る事が出来る名著である。

インパール作戦は、烈、祭、弓の三つの兵団によって実行されたが、「遥かなインパール」ではその中の祭兵団を中心に、烈、弓との絡みも交え、インパール作戦の前線の様子を克明に描いている。
この作戦の途中、作戦実行前に約束された補給がほとんど無い事や、敵との兵力差(敵戦車に対し、日本軍は有効な武器がほとんど無く、白兵戦で挑んでいる)などから、無駄に兵士の命を浪費する状況に陥ってしまい、烈兵団の佐藤中将が、独断で作戦を中止し撤退してしまった。この事で烈の兵士の多くが助かったと言われ、撤退を命令した佐藤中将の勇気ある決断を賞賛する声があるが、烈の突然の撤退によりあっという間に前線が崩れ、本部の命令を尊守しようとした祭兵団が悲惨な状況に追い込まれる様子がよくわかる。
インパール作戦の全容を知るほどに、いかに無謀な作戦であったのかがわかる。夜襲するしか敵と渡り合う方法が無く、命をかけて夜襲をかけ、その陣地を攻略しても、夜が明ければ戦車や爆撃機によって取り返されてしまう。それでも、また夜襲をかける・・・それは、まるで命をかけた賽の河原のようにも見える。
絶望的な状況、不可能と思える作戦に命をかけて挑む前線の兵士達の心中はどのようなものであったのだろう。
人の命が一つのコマのように簡単消費される戦争の姿を描き、表立って戦争反対と唱えている訳でも無いのに、戦争のむごさ、悲惨さを伝えてくれる一冊でもある。

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