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「ポル・ポト死の監獄S21」「インドシナの元年」大量虐殺監獄ツゥールスレン [本ノンフィクション:ジェノサイド]

ポル・ポト 死の監獄S21―クメール・ルージュと大量虐殺

ポル・ポト 死の監獄S21―クメール・ルージュと大量虐殺

  • 作者: デーヴィッド チャンドラー
  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本
8点
 
インドシナの元年 作者:小倉貞男 大月書店  7.5点
 
ポルポト政権下のカンボジアに存在した、監獄ツゥールスレン(暗号名:S21)に関する書籍を続けて読んでみた。
ツゥールスレンは現在ポルポト派の虐殺の証拠として博物館となっている。ここに連れてこられた1万5千~2万人にものぼる人々のほとんどが拷問の末虐殺され生還できたのはたった7名。加害者である看守の中にも、途中何かしらの罪に問われ虐殺される側になってしまったものが多くいるという。
そして生還者の1人が、この「ツゥールスレン虐殺博物館」の館長をしている。
この監獄の特徴は、連れてこられた人の多くに自白を強要し、調書をとった事、また虐殺される前と、虐殺後の写真もかなり残されている事である。
「ツゥールスレン虐殺博物館」には被害者の頭蓋骨で出来たカンボジア地図や、拷問の様子を書いた絵、虐殺された人々の写真などが展示されている。
上記の2冊とも、残された調書などを元に、S21で行われた事を詳細に調べているが、アプローチの方法はかなり違う。

「インドシナの元年」の方は、拷問虐殺の実態や、被害者数の検証だけでなく、被害者達一人一人を丹念に調べる事により、ポルポト派内部での動きを追いかけようとしている。
ポルポト派支配化のカンボジアの全体情勢はあまり分かっておらず、 この著者は、ポルポト派の中で権力をもっていたと思われる人物が粛清された時期とポルポト派の権力闘争の歴史を推測したり、ある時期、特定の地区からこのS21に連れて来られる人が増えた事から、その地区で何かしらの動きがあったのでは無いかなどを調べたりしている。
今まで何冊かのポルポト関係の本を読んだが、ポルポト派に属している兵士の叛乱に関してはっきり書いてある本は無かった。しかし、この本では、上記のような事から、ポルポト派兵士による中央に対しての叛乱があったと思われると推測しているのだ。
他の本を読むと、ポルポト派兵士は、完全に中央の言いなりになり、民衆の弾圧、虐殺を行ったように取れる事が多いが、そうではなく、中央のやり方に疑問を持ち反旗を翻した部隊もあったと思うと、少し救われたような気がする。
また、この本に載っている数々の調書は、ポルポト派の指導の元、普通に生活し、自分が何故捕まったのか全くわからないまま拷問による自白を強要され虐殺されていった人々の悲しい末路を垣間見させてくれる。

「ポルポト死の監獄S21」の方は「何故人は虐殺するのか」という文化人類学的な切り口で責めている。
ポルポト派の拷問の方法や、調書の取り方、処刑の方法などのルーツを探り、普通の人であった看守が「S21」のルールに染まっていく様子などから、人を虐殺に駆り立てる心理を探っている。
ナチスドイツのユダヤ人虐殺や、映画「es[エス] 」の元になった、立場の違いと心理的変化を検証するため囚人と看守という立場を試験的に作り出し悲惨な結末を迎えたスタンフォード監獄実、指導者がいる場合、人は被験者に危害が及ぶと思われても指導者の指示通りに行動するという衝撃的な結果を出したアイヒマン実験などにも言及する内容となっている。
誰でも虐殺者になる可能性があるという事実、そしてその恐ろしさ、この本が言いたかったのは、それなのだろう。
同じ監獄を調査しながらも、全く違う内容となっている2冊。両方ともお勧め。
「インドシナの元年」は絶版なので、図書館でどうぞ。

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