SSブログ

「消された一家 ――北九州・連続監禁殺人事件」この事件は恐ろし過ぎる [本ノンフィクション:実録犯罪・犯罪史]

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件

  • 作者: 豊田 正義
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 単行本


8.5点

以前読んだ「なぜ家族は殺し合ったのか」と同じく、北九州監禁殺人事件を扱った本。
最近、 文庫 にもなった。

1人の少女が「父親が殺された」と訴えたことから発覚したこの事件。
逮捕された男女は、最初黙秘を続けてたが、身元が明らかになると、女性の方の家族(両親・妹とその夫や2人の子供)6人が行方不明になっていることがわかる。
そして、女性の家族がお互いを殺し合うという、想像を絶する事件全貌が裁判で明らかになった。

この事件の特筆すべきところは、主犯であると見られる男性が手も下していないし、明確な指示をしているわけでも無いこと。
しかし、女性の家族は、主犯の男に操られるように、1人・また1人と家族を殺していったのだ。

カルト宗教内で起きる殺人事件と似ているのだが、この事件の場合、言葉や拷問による洗脳は行われていたが、宗教絡みではないというのが怖い。

宗教絡みであればそれに近寄らなければいいが、この男の場合、言葉巧みに人に取入って、徐々に支配下に置いていくので、家族が1人でもその毒牙にかかれば、巻き込まれる可能性が高いともいえる。
加害者でもある女性や、女性の家族はみな真面目で勤勉、近所の評判もよく、仲も良かったらしい。
妹の夫は元警察官でもあったという。

そんな家族1人1人に取入り、ほんの少しでも弱みを握ればそれを最大限に利用し、家族同士には互いの悪口を吹き込みそれぞれ孤立させ(親族・親しい知人に関しても、罵詈雑言を言わせたり、借金をさせ踏み倒させたりして、孤立するよう仕向けている)、自分は頼れる相談役として立ち回る・・・そんな狡猾な男の罠にはまってしまった一家。

結果、その一家は、家族で殺し合うという、想像を絶する状況に追い込まれる。
それも、自分達が望んでいるわけでもなく、罪悪感もあるのに、家族を殺してしまうという異常な状況、そして殺害の様子や経過が詳しく述べられている。

男が起業した会社でも、従業員達は、お互いを監視し、密告しあい、強引な商法・違法な行為を男に気に入られるために繰り返していたらしい。

「なぜ家族は殺し合ったのか」は、事件の流れを淡々とドキュメンタリータッチで描いているが、こちらの方は、事件の流れだけでなく、事件以前の男の行動や生い立ち(両親・親族からの証言が全く得られていないらしく、詳細は載っていないが)など、事件の周辺に関してや、男に対する周辺の人物の印象に関しての、記述もある。
とても人当たりがよく、温厚で誠実そう・・・それが、拷問による洗脳により、家族を殺し合わせた男の印象だという。

この本の著者は、主犯格である男の心の深淵、本音を知りたがっているが、男の供述、裁判での発言では、全くそれが見えないのを残念がっている。

唯一、美人捜査官が取り調べに当った時、珍しく本音らしい事を言っているという。

これだけ陰惨な事件なのにも関わらず、裁判中、自分の保身に徹し、笑い話まで交え、嘘と思える供述をまくしたてる男の姿は、何よりも恐ろしい。
「サイコパス」というのは、彼のような男の事を言うのかもしれない。

人間の恐ろしさ、そして弱さを目の前に突きつけられるような本。
お勧め!

コメント(2)  トラックバック(0) 

コメント 2

コステロ

リンクされていたWikiの記事を読んで、初めてこの事件を知ったのですが
被害者の中には、大の大人の男もいるんですよね?
私としては「なんで言いなりになるのか?」が、どうしてもワカラナイ。
本書を読めば、その辺の疑問は氷解するのでしょうか?


by コステロ (2009-02-25 11:41) 

choko

コステロさん

この本には、主犯の男に徐々に洗脳されていく人々の様子と、男の手口が書いてあります。
DV被害者や監禁された女性なども同じ心理に陥るようで、アウシュビッツなどの強制収容所などでも見られたようです。
アウシュビッツ関係の本を読むと、最後まで自分の意思を持ち続けられる人って本当にすごいんだ・・と思ってしまいます。

この事件の被害者の場合、ある程度性格的な要因もあるとは思いますが(逃げようと思えば逃げられる状況だし、主犯の男も組しやすいタイプを選んでいた可能性も)、アウシュビッツなどの閉鎖された絶望的状況の場合は、同じパターンに陥る人の方が多いんじゃないかと。
そういうのを読むと、人間って弱いんだなーとも思います。
ほんと、怖いです(>_<)。
by choko (2009-02-25 11:59) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。