SSブログ

「図説 蛮族の歴史 世界史を変えた侵略者達」トマス・クローウェル著:興味深い一冊! [本:歴史]

図説 蛮族の歴史 ~世界史を変えた侵略者たち

図説 蛮族の歴史 ~世界史を変えた侵略者たち

  • 作者: トマス・クローウェル
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2009/06/25
  • メディア: 単行本
7.5点

ゴート族、フン族、アッティラ、ヴァンダル族、アングル族、サクソン族、フランク族、
ヴァイキング、モンゴル人・・・蛮族と呼ばれた民族のヨーロッパ史への影響を追った本。

世界史の教科書などでは簡単にしか触れられていない「蛮族」について、詳しく語られているのと、
その影響が想像以上に大きかった事がわかり、なかなか興味深い内容になっている。

「蛮族」(バーバリアン)の語源は、ギリシャ語の「バルバロス」(複数形がバルバロイ)
-ギリシャ語を話さない人々-で、後に、野蛮な異国人をあらわす言葉になった。

第一章はローマ市を襲い略奪したゴート族について。

第二章・第三章は、そのゴート族すら恐れさせたアジア系の匈奴の流れを組むフン族と
その王アッティラについて。
彼らは、定住しようとせず、略奪と破壊と虐殺を繰り返す遊牧民族で、
現在のルーマニア、ハンガリーなどを荒廃させたり占領し、ローマ帝国内にも何度も侵入、
民族大移動も引き起こし、西ローマ帝国崩壊の要因の一つとなった。

フン族は、アッティラで最盛期を迎え、その死後、歴史の表舞台から消えて行った。
アッティラが最強の軍隊を作り上げた手段や、ローマ教皇との駆け引き、戦いなどが書いてある。

第四章・第五章はヴァンダル族とその王ガイセリックの偉業について。
心なき破壊行為、汚損行為をヴァンダリズムというらしいが、その語源がヴァンダル族。
ただ、ゴート族やフン族ほど激しい破壊行為は行わなかったらしく、ローマ文化を取り入れたりもした。
カルタゴを中心に、ヴァンダル国を作りあげ、キリスト教のアリウス派を信仰した民族。
西ローマを滅亡に追いやった。
ガイセリックがローマを襲撃した際、同じキリスト教徒として教皇の申し出に対し譲歩し、
略奪はしても虐殺や都市の破壊はしなかった。

第六章は、ブリトン人の苦悩として、アングル族、サクソン族、ジュート族の
ブリタニア(イングランド)侵入について。
元々イングランドに住んでいたブリトン人(ケルト系)が、
ゲルマン系の侵入によって制服されていく過程が書かれている。
現在のイギリス人は、ゲルマン系のアングロサクソン人がメイン。
当時、ブリタニアはローマ支配下にあったが、ローマの兵士達は逃げてしまい、
身を守る術のないブリトン人達は見捨てられてしまう。
ブリトン人とゲルマン系民族の戦いの中、アーサー王伝説の元となる人物が活躍したらしい。
結局、アンゴル族やサクソン族がブリタニアを占領し、ローマ・キリスト教文化を破壊する。
しかし、サクソン族は比較的速やかにキリスト教に改宗し、
ゲルマン系民族がヨーロッパキリスト教社会に入るに入る、さきがけとなった。

第7章はフランク族とクローヴィスについて。
フランスの元となった民族フランク族。
元々ゲルマン系だったが、早々にローマ文化を取り入れ、言語もラテン系に。
クローヴィスの時代、カトリックへの改宗も行っている。
ゲルマン民族が、ラテン系へとなった顕著な例な気がする。

第8章~第14章まではヴァイキングについて。
北欧系のデーン人、ノースメン(フランスでは「ノルマン人」)は、機動力があり浅瀬にも泊められる船で、
ヨーロッパ各国を荒らし回った。
ヴァイキングに7章も裂いて語られているのからも、その影響が大きい事が伺われる。

イングランドでは当時あった7王国の内、6王国までがヴァイキングに占領され、
最後に残ったエセックスの王アルフレッドがヴァイキングに打ち勝っていなければ、
現在のイギリスは違う姿になっていた可能性もあるらしい。

フランスではノルマンディー地方に入植したヴァイキングの事が書かれている。
当時のフランク王単純王シャルル三世が、ヴァイキングのロロにノルマンディー地方を譲り、
その代わりに、その地域を他のヴァイキングから守る事を約束させた。
またロロはカトリックに改宗し、2世紀ほどの間に、この地のヴァイキングは、
フランク王国に同化していったという。

また、このノルマンディー地方に入植したヴァイキングの子孫ノルマンディー公は、
後にイングランドに進行し、イングランドを統治下に置く。
その後、アイルランドにも進行した上、フランス貴族とも揉め、
イングランド、アイルランド、フランスが長きにわたって諍うきっかけともなった。

ヨーロッパ各地に侵略を行ったヴァイキングであるが、地中海では、ムーア人に大敗。
地中海のヨーロッパ世界は、ムーア人によって守られたことも書かれている。
ムーア人はスペイン・ポルトガルを700年という長い間占領下におくわけだが、
その影響についても触れられている。

15章・16章は、ロシア帝国の発端となるヴァイキングの子孫が作ったキエフ王国について。
元々異教の神を信じていたキエフ王国が、キリスト教へと改宗した事の影響の大きさがわかる。
キリスト教国となったことにより、ロシアはヨーロッパ社会の一員として認められることになる。

17章~18章は、モンゴル帝国を築いたモンゴル人(タタール人やダッタン人とも呼ばれた)と
チンギス・ハーンについて。
チンギス・ハーンの優れた才能、ヨーロッパ各国の軍隊をけちらしたモンゴル軍の戦術、
また、互いに協力しようとしなかったヨーロッパ各国の諸侯の態度が、
モンゴル人の進撃を許したことなどが書かれている。

また今までの歴史ではないほど、モンゴル族の破壊、略奪、虐殺が激しかった事と、
その影響が記述されている。

通して読んでみると、キリスト教であるか、そうでないかの影響の大きさにびっくりする。
中世ヨーロッパはローマ帝国の影響もあり、キリスト教国が多く、同じキリスト教国であれば、
教会に逃げ込んだ人や司祭を殺さない、教会の破壊はしないなどの不文律があるが、
違う価値観・常識を持つ蛮族達は、実際悪魔のように恐ろしい存在だったのだろう。

現在、キリスト教国や、イスラム教国というのは、割と足並みを揃えようという感じがあるのに、
仏教国はあまりまとまりがないような気がするんだけど、それは気のせい??

中世ヨーロッパの人々を震撼させ、猛威を振るったヴァイキングの祖国、
デンマーク・ノルウェー・スェーデンは、現在好戦的国家ではないのも不思議。
モンゴル帝国を築いたモンゴルもそうだけど。

また、火薬や船の性能の違いなど、新しい兵器、戦術を持っている方が、圧倒的に有利なのが、
性能の良い船を持っていたヴァイキングの進撃や、
中国から火薬などの技術を手に入れたモンゴル人の帝国建設の過程からよくわかる。
現代でも、兵器開発に多額の費用が投じられているのは、抜きん出た兵器を開発した国家が、
圧倒的に有利になるからかもしれない。

教科書では「異民族の侵入」「異民族の侵略」などとしか書かれていないけど、
それは定住し穏やかに暮らしていた人々達が、略奪の為突然襲ってきた蛮族達に為す術もなく、
都市や町を破壊され、虐殺され、生き残った者たちは奴隷とされてしまう・・という凄惨な状態だったことも、
この本を読むとよくわかる。
歴史は、そういう恐ろしい事例の繰り返しなのが実感できる一冊でもあり、
歴史は血生臭い・・・と改めて思ってしまった。
今現在も、そういう血生臭い事例は、世界を見ると事欠かないけど・・。

他に読んでいて気になったのが、王様のニックネーム。
敬虔王、征服王、懺悔王、単純王(狡猾ではないという意味と注釈付き)、
無策王(策が無かったではなく、誤った助言を受けたという注釈付き)・・・
変なのもあるので調べてみると、
禿頭王、童貞王、肥満王、吃音王・・・とんでもないニックネームが目白押しだった(^^;)。

蛮族の影響は、マイナス面が大きいけど、プラスの面があったことも、この本では触れられている。

以前読んだ「世界の民族地図」(リンク先感想)で、
今の世界・国家の多くは侵略で形成されたものなのがよくわかったが、
一つ一つの事例に関して詳しく述べられているものは少なかった。
この本ではヨーロッパ国家の成立に影響を与えたいくつかの民族が詳しく語られているので、
「世界の民族地図」のヨーロッパに関する部分の肉付け的内容になっている。
2冊合わせて読むと、より面白いと思う(^^)。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。