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「トラウマ映画館」町山智浩著:映画史上の問題作満載! [映画:その他]

トラウマ映画館

トラウマ映画館

  • 作者: 町山 智浩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/03/25
  • メディア: 単行本
7.8点

帯に書いてあるキャッチは、
「呪われた映画、闇に葬られた映画、一線を超えてしまった映画、心に爪あとを残す映画、25本!」

読んでみると、本当にそういう映画ばかり。

著者はアメリカ在住の映画評論家町山智浩氏。
以前この著者の「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」(リンク先感想)を読んだ。
面白かったけど、広く浅く事例を並べただけ・・という感じも。

しかし、この本は、映画評論家の本領発揮という充実した内容(^^)。

この本で、紹介されてる映画25本は、古い映画ばかりで、日本未公開、
DVD・ビデオ化されていない作品も多く、見たことがある映画は一本も無かった。
それでも、どの映画評も面白く読めた。

幼児虐待、サイコパス、アメリカ南部の奴隷牧場、息子を溺愛する母、孤独、ゾッとするほどの悪意、
人間の野蛮さ・・・etc、とにかく醜悪なもの、陰惨なもの、人が心の奥底に持っているドロドロした部分を、
強烈に突きつけてくる映画ばかりが紹介されている。

それら映画のかなり詳しい粗筋、それが作られた時代背景、類似した作品、当時の評判、
他の映画や社会への影響などが、とても詳しく語られていて、読み応えもすごくある。
特に、それほど昔ではないのに、今とは大きく違う価値観(特にアメリカの)は、とても興味深かった。
映画の監督や、出演者に関しても、関係した作品や、いろいろなエピソードが語られているのが嬉しい。

また、子供の頃、強烈に嫌な印象だけが残った映像やストーリーの一部分や、
そういう物に出くわした時の嫌悪感や不安な気持ちを、読んでいる最中に何度も思い出した。

「これは見たい!」と思った映画もあったけど、きっと今見ても面白く感じられないんじゃないか
と思える映画も多かった。
こういうトラウマになる映画というのは、バランスが悪かったりすることも多いし、見る年齢も大きいと思う。
思春期に見ていたら、トラウマになったんじゃないかと思うものもあった。
多感な時期には、バランスの悪さ故、その映画が強く訴えかけてくる部分が、
心に傷を残したりするだろうし。

映画も、本も、観たり読んだりする時期が重要なファクターになる作品ってあると思うので、
若い頃、この本で紹介されている映画に出会わなかったのは、残念なような、良かったような(^^;)。

でも、わざわざ見る気になれない映画の話でも、上記したように、興味深い解説満載で、
とても面白く読めました。

すっごくお勧め(^-^)ノ!!

本で紹介されてた映画の覚書↓
●「バニー・レイクは行方不明」監督オットー・プレミンジャー(1965年)(日本DVD未発売)
娘が行方不明になった。
しかし、周りは娘の存在すら否定する。
そんな中奮闘する母親を描いた映画「フライトプラン」。
他にもそういう設定の映画はいくつかあるらしいが、そのもとになったという。
日本ではビデオもDVDも出ていないとか。
周囲が自分を騙しているのか、自分がおかしいのか・・・というのを越え、観るものに実在的不安を
与える傑作だという。
監督プレミンジャーの他の作品にも興味を持った。

●「傷だらけのアイドル」監督ピータ・ワトキンス(1966年)
アイドル・スティーブンは、英国の国民から熱狂的な支持を受ける。
しかし、スティーブンは、政府によって管理されたアイドルだった。
そして、そのアイドルによって巧妙に誘導・管理される民衆を描いた近未来もの。
監督はドキュメンタリー手法で、いろいろな作品を撮っている。
「クローデン」「ウォーゲーム」「グラディエイターズ」など。

●「裸のジャングル」監督・主演コーネル・ワイルド(1966年)
映画「アポカリプト」の元ネタ(というか、「アポカリプト」はパクリだと著者は指摘)らしい、人間狩り映画。
でも「アポカリプト」より、暴力の生々しさや「人間」というものをしっかり描いている作品だという。

●「肉体の悪魔」監督ケン・ラッセル(1971年)
●「尼僧ヨアンナ」監督イェジー・カヴァレロビッチ(1961年)
それと映画「エクソシスト」は、どれもオルダス・ハクスレー原作の「ルーダンの悪魔」を、
原作や元ネタとしているらしい。
「ルーダンの悪魔」という事件は、修道女が集団悪魔憑き(ヒステリー)状態になり、
ハンサムな青年司祭グランディエが、悪魔と契約したことが原因として処刑されたという話。

で、この本と併読していた双葉社の「戦慄!世界怪奇ミステリー」(感想こちら)にも、
丁度この「ルーダンの悪魔事件」の話が、載ってた。
ストーリー展開は、映画「肉体の悪魔」の粗筋のまんま(^^;)。
「肉体の悪魔」は全て事実に基づいていますというクレジットが入るらしいんだけど、
それをそのまんま、歴史的話として取り上げてました。
ちなみに原作のハクスレーの「ルーダンの悪魔」は、政治的冤罪を暴くという趣旨の元、
「ルーダンの悪魔事件」を徹底的に調べたものらしいです。

●「不意打ち」監督ウォルター・グロウマン(1964年)(日本ではビデオ・DVD未発売)
は、屋敷のエレベーター(格子状で中が見える)が壊れ、その中に閉じ込められた母親の話。
息子はリゾート旅行中、周囲の人々は無関心。
助けを求める母親の前に現れたのは、ハイエナ達。

救いのないストーリー、残酷な描写、そして暴力の為の暴力が展開される。
丁度、アメリカでは、女性がレイプされ殺害されるのを、38人の目撃者がいたにもかかわらず、
誰も助けなかったという事件が起きた直後で、その事件を映画にしたと、
バッシングがすごかったとか(製作時期を考えると、単なる偶然らしい)。

●「愛と憎しみの伝説」監督フランク・ベリー(1981年)(日本未公開、ビデオ・DVD未発売)
女優ジョーン・クロフォードの養女クリスティーナが、クロフォードの死後出した、
養母からの凄惨な虐待の事実を綴った回想録「親愛なるマミー/ジョーン・クロフォードの虚像と現実」
を原作にした映画。
クロフォードの残虐ぶりが、虐待ショーが延々と描かれ、「観客を徹底的に打ちのめすだけ」と酷評され、
ラジー賞も受賞したという映画。
しかし、今現在カルトムービーとして愛されているとも言う。

隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)」をはじめ
あまりにも救いの無い話を書いているジャック・ケッチャムの小説に通じるものがあるのかもしれない。
ジャック・ケッチャムの話って、心にずっと残る引っかき傷を作るし。

●「悪い種子」監督マーヴィン・ルロイ(1956年)
愛らしい8歳の少女は、実はサイコパスだった・・・・。
そして、彼女の周囲で巻き起こる悲劇。

この映画のストーリーを読んだ時、わたなべまさこの漫画「聖ロザリンド (ホーム社漫画文庫)
を思い出した。
かなり似ている部分もあるようなので、この映画が元ネタなのかもしれない。
「聖ロザリンド」は子供の頃読んで、強烈なインパクトを受けた漫画でした。
また、少し前に読んだ貴志祐介の「悪の教典」(リンク先感想)の、
サイコパスである主人公の幼少期のエピソードにも、この映画のエピソードとかぶるものが。

●「恐怖の足音」監督ハーク・ハーヴェイ(1961年)
見えざるものが見えてしまう主人公メアリー。
青白い顔の紳士に付き纏われるようになり困惑する。
彼女を救おうと手を差し伸べる者もいるが、誰も彼女を救えない・・・。

版権が安く売られた為、一時期アメリカのテレビで何度も放送され、大きな影響を与えたという
カルトムービー。
ロメロの「ゾンビ」やデヴィッド・リンチなどもその影響を受けているという。

●「戦慄!昆虫パニック」監督ソウル・バス(1974年)
知能を持った蟻と人間の戦い。
昆虫パニックものって、「燃える昆虫軍団」「黒い絨毯」など好きな映画が多いんだけど、
これは全く知らなかった。
見てみたい。

●「不思議な世界」監督リチャード・レスター(1969年)
モンティ・パイソンを思わせる、バカバカしすぎる核戦争後のイギリスの風景。
放射能の影響で、「ベッドルームに変化していく男」とか、本書で紹介されている
幾つかのエピソードを読むだけでも、そのナンセンスさが伝わってくる。
そういう不思議ワールドってすごく好きなので、これも見たい!

●「マンディンゴ」監督リチャード・フラインシャー(1975年)
南北戦争前の南部で、白人による黒人奴隷の扱いを赤裸々に描いた作品。
そして、陳腐な映画や馬鹿げた映画を選ぶ「史上最もヒドイ映画」のランキングの常連。
この作品に出てくる白人の行いが、あまりに残酷で愚劣で差別的で、笑えるほどだかららしいが、
実際は、今なら「あり得ない」と思える内容こそ、実際の奴隷農場の姿だったという。
名作「風と共に去りぬ」などで描かれる農園主達の貴族まがいの生活は、
このような残酷な奴隷からの搾取で成り立っていたと著者は指摘している。
そして、公開当時、全世界ではヒットしたが、アメリカ国内ではさんざん叩かれたこの映画、
叩いた映画評はどれも「これは事実ではない」とは書いていなかったという。

●「質屋」監督シドニー・ルメット(1964年)
ホロコーストで生き延び、アメリカのハーレムで質屋を経営するソル。
しかし、アウシュビッツでの体験は、彼の心を氷のように冷たいものにしていた・・。

●「コンバット恐怖の人間狩り」監督ハーヴェイ・ハート(1976年)(日本未公開。DVD、ビデオ未発売)
●「早春」監督イエジー・スコリモフスキー(1970年)(未DVD・ビデオ化)
●「追想」監督ロベール・アンリコ(1975年)妻と子をナチスに殺された男の復讐劇
●「去年の夏」監督フランク・ベリー(1969年)
●「ロリ・マドンナ戦争」監督リチャード・C・サラフィアン(1973年)
●「ある戦慄」監督ラリー・ピアース(1967年)
●「わが青春のマリアンヌ」監督ジュリアン・デュヴィヴィエ(1955年)999・メーテルの原型だとか
●「妖精たちの森」監督マイケル・ウィナー(1971年)
●「かもめの城」監督ジョン・ギラーミン(1965年)
●「かわいい毒草」監督ノエル・ブラック(1968年)
●「マドモアゼル」監督トニー・リチャードソン(1966年)
●「眼には眼を」監督アンドレ・カイヤット(1957年)
●「愛すれど心さびしく」監督ロバート・エリス・ミラー(1968年)

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rudies

町山氏の本、買って読んでます。(^_^;)

映画の見方がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー
ブレードランナーの未来世紀(長いタイトル^_^;)や
映画の見方がわかる本
『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで (長い)なども
さすが映画評論家という感じで面白いです。f(^ー^;

このトラウマ映画館もかなりそそられるお話に
なっていて、映画が観たくなりますねえ。
by rudies (2011-09-27 18:25) 

choko

rudiesさん

町山氏の映画評論本、初めて読みましたが、
一つの映画に関して、多面的に書いてくれてて、面白いですね~♪

rudiesさんが書いてる他の映画評論本も面白そう♪
機会があったら読んでみます(^^)。

トラウマ映画館で紹介されてる映画の難点は、
観たくても、日本未発売とか未発表で、敷居が高いことですよね。



by choko (2011-09-27 19:35) 

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