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「アジア太平洋戦争 戦争×文学」太宰治、高村光太郎、川端康成、三島由紀夫、吉村昭など錚々たるメンバーによる戦争文学集 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

アジア太平洋戦争 (コレクション 戦争×文学)

アジア太平洋戦争 (コレクション 戦争×文学)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/06/03
  • メディア: 単行本
7.5点

ノンフィクションではなく、「文学」なのですが、戦争文学なので、
「ノンフィクション:戦争・戦記」カテゴリーに入れました。

タイトルに表記した通り錚々たる作家陣。
1~4章まで、その章ごとのテーマに沿った戦争文学が収められています。

1章は「開戦と進軍」がテーマ。
開戦当時の人々の不安もあるが高揚した気持ちを描いた「歴史の日」(上林暁)、
潜水艦で真珠湾攻撃に参加した兵士を描いた「真珠湾・その生と死」(豊田穣)、
バターン半島前線での初年兵達の過酷な状況を描いた「バターン白昼の戦」(野間宏)、
戦死した兵士の前線での勇敢な行動を、その子供達に伝える手紙「軍曹の手紙」(下畑卓)、
操業先のオーストラリアで捕虜となった漁師達の生活を描いた「船幽霊」(庄野英二)など8編。
高村光太郎が「十二月八日の記」として、戦記高揚ものを書いていたのが意外だった
戦後、本人はかなり後悔していたようです)。

「バターン白昼の戦い」は初年兵(一番下っ端)は、酷いシゴキやいじめに合うとは聞いていたけど、
それが克明に描かれていて、軍隊内部の陰惨さを強く感じた。
逆に「軍曹の手紙」は、勇敢な兵士の美談とも言える内容。
外国で漁をしていて、開戦の為突然捕虜の立場となった漁師達の姿、捕虜の生活を描いた「船幽霊」は、
戦争モノとしてはあまりない設定で興味深かった。

2章は「南方、南洋での敗走・玉砕」がテーマ。
インパール戦で敵にも味方にもなった現地人との関係を描いた「異民族」(火野葦平)、
玉砕した南方の小島テニヤンでの軍医の体験「テニヤンの末日」(中山義秀)、
パラオで民間人で従軍させられた男とその家族の運命を描いた「礁瑚」(三浦朱門)、
マニラ陥落時、突然徴用された市民兵であるにも関わらず軍に縛られる男を描いた
「ルネタの市民兵」(梅崎春生)など5編。

「異民族」の主人公である真面目で、自然を愛し、インテリである将校の、
国の為には、迷いなく道理に外れた事をする、恐ろしいほどの信念、
戦局が変わった事により突然裏切った異民族への深い理解、
その二つの考えが、違和感無く独りの人間の持つものであると表現されていた事がとても印象に残った。
また、「礁瑚」は、日本にいる家族を守るため戦っている兵士と違い、
現地に妻子がいる民間徴用兵が、兵役につきながらも、近くの島にいる妻子が
衰弱死していく様を目の当たりにしなければならない悲惨な状況に胸をかきむしられるような気がした。

3章は「国内での玉砕・特攻」。
戦艦大和、最後の数日間の状況や伝聞を綴った「戦艦大和ノ最後」(吉田満)、
突撃直前に終戦となった水上特攻部隊を描いた「出発は遂に訪れず」(島尾敏雄)など3編。
「戦艦大和ノ最後」は、漢字とカタカナ文で読み難くちゃんと読まなかった(^^;)。

4章は「戦後からの眼差し」
戦死してしまった人を慕い・想う「生命の樹」(川端康成)、
帰神の会で、神霊が語った天皇のあるべき姿を描いた「英霊の声」(三島由紀夫)、
樺太での看護婦集団自決の真相を追う記者の話「手首の記憶」(吉村昭)、
祖父が孫に語る潜水艦での死を覚悟した想い出「夜光虫」(蓮見圭一)など4編。
三島由紀夫の「英霊の声」は、割腹自殺した三島由紀夫らしいなーと思った。
「手首の記憶」は吉村昭らしい、ドキュメンタリータッチにあふれた一作。
「夜光虫」は死を目前にして人が何を考えるのか、どう変わるのか、考えさせられた作品。

戦争体験者が書いている戦争文学なので、重く、深く、考えさせられるものが多かった。
望むと望まざるとに関わらず、生と死の狭間を通り、生き延びた・生き残った人が書いた話は、
生と死というものや、生きるということが、単純なものではない事を伝えてくれる。
また、あとがきでも指摘されていたけど、会話文が少なく地の文主体で話が進むものが多く、
その分雰囲気が重厚でもあるし、作家の文章の上手さ、言葉の選び方などに特徴も出る
(会話文主体の文章に比べると、読むのに時間がかかるけど)。

一般市民、兵士、捕虜、民間雇用兵、残された者、戦場で死んだ兵、生き残った兵、軍医、
従軍看護婦・・・いろいろな視点、立場から描かれた戦争文学が集められており、
バリエーション豊かなのもよかった。

ノンフィクションものとは、また違った奥深さがある作品が揃った全集で、すごくお薦め。
絶対胸を打つ話、深く考えさせられる話と巡り会えるはず。

この「アジア太平洋戦争」は全20巻の「戦争×文学 コレクション」(集英社)の8巻。
第二次世界大戦だけでなく、「ベトナム戦争」「朝鮮戦争」「9・11変容する戦争」など、
戦争に関する文学を多方面から集めた全集で、他にも読んでみたいものあり。
一冊一冊かなり厚いので、時間がある時に手を出したい。
この「アジア太平洋戦争」は単行本・2段組で800Pくらいあり
、読むのにかなり時間がかかったので(^^;)。
図書館で借りた他の本をなかなか読めず大変だった。
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