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「くらやみの速さはどれくらい」エリザベス・ムーン著:自閉症の青年から見る世界は不思議な感覚に満ちている。 [本:SF]

くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

  • 作者: エリザベス ムーン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 単行本
7.8点

2004年ネビュラ賞受賞。
「21世紀のアルジャーノンに花束を」と評された作品。

文庫版「くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワSF文庫)」も出てます。

幼児期に治療を受ければ自閉症が治る未来世界。
しかし、まだ治療法が発見されない時期に幼児期を過ごした自閉症患者達。
そんな最後の自閉症者の一人である青年ルウ。
日々戸惑う事、困る事は多くても、職も友達も住む所も得て、自立して生きていた。
そんなルウに、職場から、自閉症の最新治療の実験台にならないかとの提案が。
自閉症でなくなるとはどういう事なのか?
自分が自分で無くなってしまうのではないか?
悩むルウは、どのような決断を下すのか・・・・。

自閉症者ルウの視点から語られる世界や、感覚は、すごく新鮮。
数字やカラー、パターンにこだわり、同じ刺激を与えてくれるトランポリンでのジャンプを好むルウ。
ノーマルな人々が自分が当たり前のようにできること、わかることが、できないことに驚く。
また、ルウは、理解できなくても「ノーマルな人々の感覚・感じ方」や「ノーマルな人々が
自閉症者に持つイメージや知識」を知識として持っていて、
普通の人々が自分たち自閉症者に持つ偏見や固定観念による誤解を敏感に察知する。
そして、「自分が頭を動かすと常同症と言われ、普通の人は首筋ほぐしと言われる」など、
自閉症者とノーマルとの評価のされかたの違いに疑問を持つ。
人を不快にしない為に、何故するのかは理解できなくても学び実行しているマナーを、
ノーマルの人々が守らない事や、ノーマルの人々でも悩みがあることを知り、戸惑いを覚えたりもする。

ノーマルの女性への片思い、フェンシング大会への参加、自分を狙ったらしい嫌がらせ・・・・、
様々な出来事を通じて、ルウは、自閉症者のままでいるべきか、治療を受けるべきか、
自問自答を繰り返す。

とにかく、独特の感性を持ち、ある意味純粋な心を持つ、自閉症のルウがとても魅力的に、
描かれており、その独自の世界観、感じ方に触れる事が、この本の楽しみ方だと思う。

一般に言われている自閉症者の考え方、感じ方を、彼ら自身が語ったら、
こんな風に語るんじゃないだろうか・・・と思えるのは、著者の子供が自閉症児だからだろう。

著者本人が自閉症である「自閉症だったわたしへ」に比べると、
普通とは違った感覚を持っていることの苦労、辛さ、混乱、怒り、
自閉症であるが故に陥った悲惨すぎる状況、周囲からの悪意・・・そういう暗い部分は弱い。
この話の場合、現実世界で自閉症者が遭遇する苦しさを描くのではなく、
彼らの持つ世界観の、面白さや良さ、そして特徴などを伝える事により、
彼らを少しでもわかって欲しいという、著者の願いが込められているような気がする。

新鮮で、優しく、そして物悲しく、また人の偏見や、当たり前と思っている物の考え方などについても
考えさせられる本。
すごくお勧め(^-^)ノ!

↓以下完全にネタバレ(ラストが書いてあります)なので、読む人は反転して読んで下さい。

ラストはすっごくあっさりしたハッピーエンド。
読んで、すごく複雑な気持ちになった。
ルウは、治療に成功し、過去の記憶も、天才的な頭脳も残ったまま 普通の青年になり、自分の大きな夢を叶える。
しかし、ラストに登場するのは、感じ方も考え方も変わったノーマルな好青年となったルウ。
作中で、その個性と純粋さが愛おしかった自閉症者のルウはいない。
それが、とても切なかった。

それは、好きだった田舎の風景が、開発の為消えてしまった、
未開の人々の素朴さが、文明化することで無くなってしまった、そんな寂しさ。
当事者にとってはいいことなのに、傍観者としてのわがままなノスタルジー・・・
そんな事を感じてしまった。

また、もし自閉症の治療法が確立したとした場合、
自分の子供がノーマルになり、しなくてもいい苦労をしなくなって欲しいという気持ちと、
自閉症児であることもひっくるめて愛しているその子がいなくなってしまう悲しさ・・・
そんな著者の複雑な気持ちがラストには反映されているような気もした。
自分の子供の成長も、嬉しい半面、寂しさがあるし。
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