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「ヒロシマ・ナガサキ 戦争×文学」原爆、原爆病、差別、ビキニ水爆被曝、原発・・多方面に渡ってます [本ノンフィクション:戦争・戦記]

ヒロシマ・ナガサキ (コレクション 戦争×文学)

ヒロシマ・ナガサキ (コレクション 戦争×文学)

  • 作者: 原 民喜
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/06/03
  • メディア: 単行本
7点

集英社の「戦争×文学 コレクション」(全20巻)の19巻。
現時点では、まだ「アジア太平洋戦争」(リンク先感想)など5~6巻ほどしか出てませんが、
次々と刊行されているようです。

で、この本は、原爆を落とされたヒロシマ・ナガサキの話だけではなく、ビキニ水爆被曝、
韓国人被爆者など、原爆や放射能被害が与えた影響について、多面的な視野で中短編を選び、
編纂されています。

第一章は、原爆投下とその直後の事を描いた中短編3編。
・夏の花(原民喜著)広島の原爆投下直後の悲惨な様子をリアルなタッチで描いている作品。
・屍の街(大田洋子)広島原爆直後の惨劇や、その後の原爆病の事などを、
女性ならではの心理描写も折り込み、描いている作品。
中編で読み応えもあり。
・祭りの場(林京子)あまり読んだことが無い長崎の原爆投下直後の様子を描いている作品。
平和に生きていた人たちの、変わり果てた姿の描写が辛い。

第二章は原爆投下とその後の状況を伝えた中短編。
・残存者(川上宗薫著)-復員した兵士と、被曝した少女の話。
焼け野原を歩く二人のやり取りと心理描写がメイン。
エロティシズムの要素が見え隠れし、かなり異色だった。
・死の影(中山士朗著)-酷い火傷を負ったが助かった少年の、痛みや蠅との戦いの闘病記と、
その後醜いケロイド跡が残ってしまった彼の心理や行動、周囲の反応を描いた作品。
・少年口伝隊一九四五(井上ひさし著)-原爆で孤児となった3人の少年が、
印刷できない新聞の代わりに、ニュースを口伝する話。
子供の純粋さが悲しい。

第三章は被曝がもたらした様々な影響について。
・夏の客(井上光晴著)-戦後、8月になると広島を大挙して訪れる記者達に対する皮肉と、
被曝者のおかれた境遇について語った話。
・戦(美輪明宏著)-美輪明宏が長崎で被曝した子供の頃の体験を綴っている。
・炭塵のふる町(後藤みな子著)-原爆で兄が死に、狂ってしまった母。
原爆で壊れる家庭を描いた作品。
・暗やみの夕顔(金在南)-日本で被曝し帰国した韓国人の母親と娘の話。
日本人以外の被爆者の置かれた悲惨な状況がわかる。
また、朝鮮戦争で、家族が殺された韓国人のアメリカ軍に対しての憎しみと、
戦後教育で「アメリカは平和の国」と教えられて育った著者の認識のギャップは、
日本人にも通じるものがあるのかも・・と思った。
・鳥(青来有一著)原爆投下で奇跡的に生き残った産まれたばかりの主人公と、
家族も何もかも判明しないその彼を育てた義父母。

第四章は、核を巡る様々な事柄を扱っている。
・死の灰は天を覆うービキニ被爆漁夫の手記(橋爪健著)-あまり詳しくなかったビキニ被曝。
運命に導かれるように死の灰をかぶってしまった船員達と、灰まみれになっても、
網の回収を続けた漁師達の気持ちが印象的。
・アトミック・エイジの守護神(大江健三郎著)-被曝した孤児達を、10人も引き取った男の話。
彼らに保険をかけた男の真意とは・・・。
ちょっとオチがまとまり過ぎてた気が。
・金槌の話(水上勉著)-原発勤務と原発ができた周辺の農村の話。
原発の周辺農村への影響が、著者と原発で働く男性のやりとりの端々でそれとなく書かれているが、
さわりだけなので、もっと詳しいルポタイプの物を読みたいと思った。
・「三千軍兵」の墓(小田実著)-水爆実験が行われたビキニ諸島に住む人達の、悲惨さをこれを読んで知った。
・「似島めぐり」(田口ランディ著)-被爆者である祖母の思い出を語った話。

同じ全集の「アジア・太平洋戦争」に収められている作品に比べると、
文芸の香りは弱く、読みやすい。
一章・二章は、実際体験した人が書いた手記的なものも多いが、後半は、完全な創作もので、
原爆そのものの被害などでなく、差別や、被爆者として生きることなどに触れた作品も。
長崎の原爆の手記は、ほとんど読んだことが無かったので、印象深かった。

「核」というものを多面的な視野で捉えていて、興味深い作品が多かった。
ただ、その為、3章・4章の作品は人の人生・家族などがテーマで「核」が中心ではない作品もあり、
「ヒロシマ・ナガサキ」というタイトルから期待する作品としてはちょっと弱い(短編なのでより、
中編だったらもうちょっと違ったかも)。
「核」「原爆被害」などに関して、いろいろ読みたい人にお勧め。
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