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「日本人が知らない世界と日本の見方」中西輝政著:戦争や平和、国際政治への考え方の違いがわかる! [本:歴史]

日本人が知らない世界と日本の見方

日本人が知らない世界と日本の見方

  • 作者: 中西 輝政
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2011/09/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
7.3点

日本人にとって戦争と言えば、第二次世界大戦。
戦争への嫌悪感、軍隊を持たない、核を持たない・・・その時の教訓はいまだに日本人の心の中に
生きている。
でも、ヨーロッパでは「第一次世界大戦」こそ、日本人にとっての「第二次世界大戦」と同じ位置付け、
と本書では解説している。
民衆の反戦意識の強さ、「反戦平和主義」が、政府の及び腰を産み、ナチスドイツの他国への
侵略を傍観、結果ナチスドイツの台頭を許し、フランスなどは、国土をほぼ占領されてしまう。
「第二次世界大戦」で新たなる教訓を得たヨーロッパ諸国と、
「第一次世界大戦後」のヨーロッパの考え「反戦平和主義」に囚われている日本。

この本で述べられている、反戦主義から、国家否定、そして、社会主義や共産主義へと、
つながる過程も面白かった。

三国干渉などの話は、以前読んだ「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(リンク先感想)で
書かれていた、「自国防衛の為に戦争に突き進んだ日本」の背景がわかるような気がした。

「満州事変で日本に拒否権があれば、日本は第二次世界大戦に参戦しなかった」
「イラク戦争でアメリカに拒否権が無ければ、アメリカは侵略国家の烙印を
押された(下手をすれば、日本と同じように国際連盟脱退・・という道を選んだかもしれない)など、
国際連盟での拒否権のある意義、問題点。
いまだに「平和を尊ぶ心を育てれば戦争は回避できる」というような、「主観的・感情論的学問」
が主体であること、そして、「戦争が何故起きるのか」という解明は不十分であるということへの
嘆きなどが、戦争回避に関しては語られている。

国際政治に関しては、最初に、目の前の現実を容認するという日本の「現実主義」(現状是認型)と、
「世の中の原理」「世の中には起こりうることと起こりえないことがある」の観点から語る
ヨーロッパの「現実主義(リアリズム)」の違いから、日本と世界の政治のあり方の違いが
述べられている。

またフリードリヒ大王を例に、理想主義者は最悪のマキャベリストでもあることが述べられている。
フリードリヒ大王は、ドイツの基礎を築いた人で、ドイツにとっては名君だったけれど、
諸外国にとっては狡猾で目的のためには手段を選ばない危険な人物だったわけで、
政治というのは、清廉潔白だけではやっていけない、というのがよくわかる。

面白かったのが、過去に、明治天皇の命令で、各国の条約違反をした数を調べたら、
1番ドイツ、2番ロシアで、ドイツは条約を破る時、ものすごくたくさんの理由をつける、
ロシアは何も言わずに破る・・・ってエピソード。
日露戦争でも、ロシアは日本への賠償金を「無視」の形で支払わなかったらしいし、
イギリスなどは、外交的姿勢が「嘘で得る利益より、信用を失う事による損失の方が結果的に大きい」
という感じで、あまり条約を破らないけど、「ここぞっ!」って時には破る(一番効果的)ようだ。
お国柄はやっぱりあるようです。

9.11同時多発テロに対する報復が、一時的に国民の指示を得たように、
アメリカは「道徳的憤怒」によって戦争を起こし、
最近はそうでもないが、過去にそれで勝利し、得をしていた事が多い。
そこから、アメリカが各地の紛争、戦争に関与している背景が見えてくる。

この本に「民主主義の最大の欠点」として、「誤導された世論が”平和の敵”になり、
(民衆が)どんな独裁者よりも残酷な戦争を望むようになる」という記述がある。
「道徳的な裏付けに扇動された戦争」は、ベトナム戦争、イラク戦争・・・などいろいろあるが、
いかに、道徳的な裏付けをし、民衆を扇動し、自国に有利になる戦争を肯定させるか・・
という政府の思惑と、扇動されやすい民主主義の怖さが見える。
実際、関与することにメリットを見いだせない紛争、戦争へは、
介入する為の道徳的裏付けがつけられても、ほとんどの国で、見て見ぬふりだし。

他にも「全体主義」「軍国主義」「人間自体が愚か」「国家そのもの」「軍隊自体」・・・と、
いろいろな戦争の原因と、シニカルな視点でのその解決策についても書いてある。
結局、個人の喧嘩をなくせないように、戦争というのはなくならないものなのかも・・とも思ってしまう。

国際政治学や、国際関係論は「アングロサクソンサイエンス」と呼ばれ、
一時期覇権を握っていた、イギリス人やアメリカ人が始めたものらしい。
今の国際政治で一般的だと日本国内で認識されている「戦争と平和」の考え方や「経済重視」の姿勢が、
世界の国の一般論ではなく、覇権国家からの視点で語られていると言われると、なんとなく納得。
フランスなどは、アングロサクソン的な国際関係論は、世界の雑多な出来事を寄せ集めて、
そこに機能主義的な意味付けをするだけの学問と認識しているという。
フランス人にとって、機能主義的、経験主義的な学問は、「頭が悪い人がするもの」
だという評価らしい。

民衆の意思が1つになり武力で国を倒す「フランス革命」と、絶対王政も議会制もダメ、
中道をとった「名誉革命」、2つの革命から見るフランス・イギリスの考え方の差に関する
考察も面白かった。

列強ではなく、工業革命以後のバスク・イギリス、第二次世界大戦後のバスク・アメリカなど、
一超多強(1つの強大な国があり、他にいくつか強い国がある)の状態が、世界は一番安定し、
それが覆ろうとする時、混乱が起きる(強大な仏露同盟成立が第一次世界大戦を引き起こした等)、
という説は、なるほどなーと思う部分が多かった。
現在、バスク・アメリカ状態だけど、その地位も揺らぎだし、これから混乱が始まるのかという、
嫌な予感も。

また著者は、「グローバリゼーション」の後は、反動で「国家」(ナショナリゼーション)の
時代が来ると説いている。
私も、世界の情勢から、そういう方向に進む可能性も高いと思っているので、これには納得。
食料自給率、工業生産・・・、多くの国が国の基本になるものを守ろうとする中、
日本政府は「このままグローバル化が進み、世界は1つになる」という考えの元、
それらの保護を行なっていないと著者は指摘する。
過去のユダヤ人の迫害、現在のクルド人の問題、出稼ぎ先の国で虐待される貧しい人々、
いろいろな事を見るにつけ、祖国が安定しているというのは、祖国で暮らすにしろ、
外国に出るにしろ、大切な事なんだと思う。
これからもし「ナショナリゼーション」の方向に世界が動くとしたら特に。
もちろん、「ナショナリゼーション」へ一気に傾くのではなく、
グローバリゼーションとナショナリゼーションとの間を揺れ動くのだろうけど。

他にも第二次世界大戦終戦時の、天皇制をどうするかの各国の思惑、
反アングロサクソン的思想から始まったEU(ベースはフランス中心主義)、
与謝野晶子の「君死にたまふこと勿れ」は反戦歌ではなく
「何で後継ぎの長男である弟を戦場に出さなくてはいけないのか」(次男・三男ならOK!)という、
昔の家長主義思想の元に歌われたものだった・・など、いろいろ面白い考察が。

著者の考え方は、右派寄りだし、講義をまとめたものなので、持論のベースになる資料の
検討などはほとんどされていない、またある出来事のいくつかある原因の中から、
持論に使えるものだけをピックアップしている(これだと、事実であって事実ではない、
誤解を生みやすい状態になりやすい)・・・など気になる点はあったけど、
この本で論じられている視点で世界見るというのは、かなり新鮮で面白かった。

この本の内容に賛同するかしないかは別として、「日本の外交はダメだなー」ってのは、
読んだ人がみんな思うような気がする(^^;)。
日本の「内政」もダメダメだけど、他の国も大なり小なり、内政は問題を抱えている。
でも、外交に関しては、他の国に比べて、突出してダメだよなーって気が。

バスクアメリカが崩れだし、先進国の経済状態も悪い現在、次の安定への過渡期として、
世界は不安定になる気がする。
この先、世界が日本がどうなるのか、考えさせられる一冊だった。
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