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「地獄の一三六六日 ポル・ポト政権下での真実」オム・ソンバット著:一市民から見たポル・ポト政権下のカンボジア [本ノンフィクション:ジェノサイド]

地獄の一三六六日 ポル・ポト政権下での真実
オム・ソンバット著・翻訳者:岡田知子訳・大同生命国際文化基金発行
7.3点

珍しく、amazonに書籍情報が無かった。

1975年~1979年、ポル・ポト(クメール・ルージュ)派、支配下のカンボジア。
毛沢東の影響を受け、共産主義、極端な農業主義、過酷な強制労働、
知識階級の人々を中心に大量虐殺、粛清、拷問・・・などで、その政権が支配した4年間で、
当時のカンボジア人口700万の内、200万人が死んだ(諸説あり)という。

ポル・ポト派が、当時の支配者ロン・ノルを退け首都プノンペンに入城。
プノンペンに住んでいた著者は、家族全員で首都を追い出され、過酷な労働と飢えに苛まれ、
そして次々と家族と死別しつつ、地獄のような4年間を過ごす。
その時のことを、事細かに記録した一冊。

ポルポト政権下のカンボジアに関しての個人の手記には、
他に「最初に父が殺された―飢餓と虐殺の恐怖を越えて」(リンク先感想)などもある。

「手記」なので、「最初に父が殺された」と同じく、全体像が見えにくいという難点はあるが、
ポル・ポト政権下の人々の意識や、置かれた状況が、著者の気持ちを通して伝わってくる。

ポル・ポト派の首都プノンペン入城。
支配者であったロン・ノル政権の腐敗に対して不満を持っていた市民が、
それを歓迎していた事がよくわかった。
しかし、それは即、首都からの強制退去、疑問、怯え・・・と変わっていく。

最初に強制退去が始まった場所に丁度居合わせ、ポル・ポト派の有無を言わせぬ
威圧的な態度に慌てる著者。
どうにか、まだ退去を強要されていなかった地区にある自宅に戻り、
それを家族や周囲の人に伝えるが、誰も本気にせず、他人事のように捉え、著者の訴えは無視される。
そして、その周囲の雰囲気に、「ここは大丈夫なのかも」と自分も思うようになり、
強制退去を命じられるまで、何もしなかった著者。
ポル・ポト派プノンペン侵攻の時、首都に住んでいた市民の気持ちを書いたものは読んだことが
なかったので、とても興味深かった。
ポル・ポト派に期待していた著者の父は、このポル・ポト派の蛮行により心を閉ざしていく。
きっと多くの市民が、ポル・ポト派を正義の使者のように期待していたのだろう。

またプノンペンを追い出され、戦場となった村などを通り、その荒れた風景に驚く著者の様子から、
内戦が起き、国内で戦場になっていた場所があっても、自分のところが被害に合わなければ、
内戦を身近に感じていなかったという、当時のカンボジアの人々の様子も伝わってくる。

その後は、著者が経験した強制労働の苦しみ、家族との死別、
差別(ポル・ポト派が政権を把握する前からポル・ポト解放区にいたか-基幹人民、そうじゃなかったかで
-新人民-、明確な差別があったし、知識階級、公務員などはそれだけで処刑されたりもした)に
ついて淡々と綴られている。
若い著者の恋に揺れ動く気持ちなどにも触れられている。

食べ物が足りない時は、餓えに苦しみ、のた打ち回るが、
食料が多く睡眠時間が少ない時は、労働の辛さと、疲労の重さに嘆く。
両方足りていても、水が足りない時は、水を求めて悶絶する。
北朝鮮のルポの場合、慢性的な食料不足が一番の問題であったが、
ポル・ポト政権下のカンボジアでは、食料配給が不足するかと思えば、
労働に行かされた場所が水が足りない場所であったり、
食事と睡眠時間合わせて4~5時間で、連日働かされたり・・・と、状況が頻繁に変わる。
これは著者が、新人民で、水路の開発など、いろいろな過酷な現場に、労働力として派遣
されていたからなようだ。

1つの決断が、家族全体の不幸を招き、母親は家族の不幸を嘆きつつ衰弱死し、
父親もまた苦悩の中、衰えて死んでいった。
幼い姪達もまた衰弱死する。
その他にも、弟が理由不明なまま処刑されたり、姉がほんの少し葉を盗んだだけでも殺されたり、
4年間で、プノンペンを一緒に脱出した家族・親戚12人の内、生き残れたのは著者と弟1人だけだったようだ。
本書を読むと、家族や親戚の繋がりの強さが垣間見える分、その辛さは想像を絶するものだったろう。

共産主義とは名ばかりの地獄の政権は、一部人間が圧倒的な権力を持った時の怖さを見せてくれる。
「正義」「理想」の名の元に行われる残虐行為は、いろいろな国のケースを見ても恐ろしい。
毛沢東支配下の文化大革命、ナチスドイツのユダヤ人虐殺、そして様々な戦争・・・、
どれも、「正義のため」「理想のため」と必ず大義名分がついて回る。
それを極端に、短期間、自国民に対し行ったのが、ポル・ポト政権だ。
普通は対外的に行われる事を、自国民に対して行なっているのは、毛沢東支配下の中国に似ている。
毛沢東支配は長かったので、犠牲者数もポル・ポト政権下の30倍~40倍(諸説あり)だし。

また、地域によって、著者のように飢えや病にずっと苛まれていた場所もあれば、
圧政下にはあったが、そこまで苦労せず、食べ物にも困らず暮らしていた地域もあり、
情報が分断されていたせいで、他の地域の事をお互いに知らないというのが普通だったようだ。

著者の生活を綴ったものなので、大きなメリハリにはかけるが、
ポル・ポト政権下での人々の生活の様子を、垣間見る事ができる一冊。

最初に書いたように、一個人の視点からなので、全体の様子は見えづらい。

ポル・ポト政権では、拷問による虐殺なども日常的に行われ、それに関しては
「ポル・ポト死の監獄S21」「インドシナの元年」(リンク先感想)などに詳しい。

全体を捉えるには「ポル・ポト〈革命〉史―虐殺と破壊の四年間 (講談社選書メチエ 305)」、
個々の具体的な事例は「カンボジア・ゼロ年」、
革命組織側からの視点は「ポル・ポト伝」が参考になると、
本書の訳者あとがきに書いてあった。

ポル・ポト政権に関して、多少下知識が無いと、本書を読んでもよくわからない部分が多いと思うので、
ある程度概略を掴んでから読むのがお勧め。
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