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「閉じ箱」竹本健治著:ミステリーよりの幻想・ホラー短篇集 [本:ホラー&ミステリー]

閉じ箱

閉じ箱

  • 作者: 竹本 健治
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1993/10
  • メディア: 単行本
7点

面白かったホラー・ミステリー「かくも水深き不在」(リンク先感想)、
衒学的アンチ・ミステリー小説「匣の中の失楽」(リンク先感想)に続き、
竹本健治の短篇集を読んでみました。

14篇の短編が収められた一冊。

「氷雨降る林には」は見慣れた欅の林に恐怖感を感じる男の話。
その発端は、ちょっとした出来心による浮気だった。
そして、その後起きた出来事が男を恐怖させ苦しめる・・・。

「陥穽」は断崖絶壁の上で偶然出会った男2人の話。
片方の男が語り出したのは、その男が過去に遭遇した、
雪に閉ざされたロッジでの殺人事件の事だった。
その事件とは・・・。

「けむりは血の色」は、余命いくばくも無い少年と、その親友の話。
少年のいる療養所周辺で、通り魔事件が起きる。
そして、その少年に犯行予告が届くのだが・・・。

「美樹、自らを探したまえ」は、自分の出生の秘密を探る女性の話。
間接的にだが、自分の名付け親になった死去した作家の館を訪れた主人公は、
村人の不審な反応に遭遇する。

「緑の誘い」は、絵のモデルを引き受けた女性が知ってしまった、とある秘密の話。

「夜は訪れぬうちに闇」は、暗黒準備委員会か開催する「黒樹祭」に正体された少年達の話。
その怪しげな集まりは、少年達の参加で予想もしない方向に・・・。

「月下の下の鏡のような犯罪」は、呪術を試してみようとした男を描いたホラーSS。

表題作「閉じ箱」は、牧師が霧の中出会った、「閉じ箱」で迷っているという男の話。
不確定性原理とミステリーについて、書いた作品。

「恐怖」は、恐怖を感じない男の話。

「七色の犯罪のための絵本」は、色をテーマにした、ホラーミステリーの連作。
幻想的だったり、ミステリーぽかったり、いろいろな作風の話が混じっている。

「実験」は、人を狂わせる実験に協力した男の話。
そうとは知らず狂気に陥る催眠術をかけられた女性を、監視する役目をおった男。
徐々におかしくなっていく女性を見て、後悔の念にさいなまれるのだが・・・。

「闇に用いる力学」は、自分と彼女である千尋が出演している、しかし自分たちはそんな行動を
取っていないビデオを見てしまった、男の混乱と恐怖を描いた作品。

「跫音」は背後からの跫音に怯える美しい少女千尋の話。
彼女が跫音に怯えるのには、ある理由があった・・・。

「仮面たち、踊れ」は、陰のある美少女千尋と親友になった少女が遭遇した恐怖の話。
千尋を苦しめる為、悪事を繰り返す千尋の弟。
その矛先が少女に向いた時、悲劇は起きた。

一応書いたけど、竹本健治の話は、粗筋がものすごく書きにくい。
というのも、彼の話は、ストーリーの上にいろいろな要素が加えられ、
その加えられた要素の方が重要だから。
だから、粗筋から受ける印象と、実際に読んだ内容が大きく異なってしまうというか。
ミステリーでありながら、ミステリー部分以外が本質であるアンチ・ミステリーと同じ傾向を、
幻想怪奇色が強いこの短篇集の作品のどれもが持っていたりする。

最初の5編はミステリー色が強いが、本質は違うというアンチ・ミステリー系の話で、
小粒ではあるが、楽しめた。

「夜は訪れぬうちに闇」は、怪奇幻想的な話で、怪しげな集会の雰囲気は面白かったけど、
怪奇幻想系の話はあまり好まないので、個人的にはイマイチ。

「月下の下の鏡のような犯罪」「恐怖」「実験」はホラー物だけど、
書かれた時期が古い為か、意外性はあまりなくレトロ感強し。
雰囲気が「ホラー」より、「サスペンス・ミステリー」っぽいから、怖さが弱いのも難点。

「閉じ箱」は、SFっぽい要素を持ちながらも、ミステリーの仕掛けとか謎解きについて、
著者の気持ちを言及した内容。
100%ありえない事は無いという視点で見てしまうと、謎解きも穴だらけ・・・ってのは、
ミステリーを書いている人の悩みなのかな?
本格ミステリーファンには、共感できる内容なのかも。
私は、SF的な視点で最初読んでしまったので、「何が言いたかったんだろ?」
と最初思ってしまった(^^;)。

「闇に用いる力学」「跫音」「仮面たち、踊れ」は、「千尋」という名前の少女が登場する、
「千尋シリーズ」。
ミステリー・ホラーの系譜だけど、これも、サスペンス・ミステリーっぽい雰囲気で、
ちょっと怖さが弱い。

全体的に、ホラー色が強い作品は、小林泰三と傾向が似ているように思えた。
「恐怖」と「実験」は、特に小林泰三を思い出した。

全体的によくまとまっている話ばかりだけど、ミステリーファン向けな話な気が。
私のように、ミステリーよりホラーやSFが好きってなると、ちょっと物足りない。
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