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「屍者の帝国」伊藤計劃×円城塔著:未完の「屍者の帝国」を円城塔が引き継いだ!円城塔の物語になってた・・ [本:SF]

屍者の帝国

屍者の帝国

  • 作者: 伊藤 計劃
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2012/08/24
  • メディア: 単行本
7.3点

「屍者の帝国」は、死者をフランケン化する技術が確立された世界を描いた作品。
屍者達は、単純労働の担い手として、そして恐怖を感じずただ命令に従うだけの兵士として活用され、
その技術は世界中に広まりつつあった。
舞台となるのは19世紀。
この「屍者の帝国」の冒頭の30Pのみを書き、逝去した伊藤計劃。
未完のこの作品を、円城塔が引継ぎ、遂に完成!

底辺に似た部分は持っていても、あまりにも作風が違う2人の作家。
どうなるのか不安だったのですが、評判が良かったので、読んでみました。
でも、うーん、自分はダメでした。

プロローグが伊藤計劃の書いた部分で、第一章からは円城塔。
まず戸惑ったのは、第一章を数行読んだだけで、プロローグで脳裏に浮かんでいたイメージが、
ガラリと一新されてしまったこと。
伊藤計劃の作品は、映画のシーンを見るような、それもライティングが凝ってて、陰影の濃い、
ある特定の色が全体を覆うようなそんな映像が脳裏に浮かぶんですが、
第一章に入った途端、明るく、普通に撮られたような平穏な映像が浮かんできて、
あまりのギャップにびっくりして本を閉じてしまった。
プロローグで感じていた、ジメジメとして暗く陰惨な「屍者」を使役する世界のイメージも消し飛んだし。

傍観者であろうとするが、その世界に囚われ逃れられない伊藤計劃の登場人物に比べ、
円城塔の登場人物達は、渦中にいながらも完全な傍観者。
まず、その辺が違うので、作品から受ける印象も大きく違ってくる。

死者、死んだ人の遺体を「屍者」として使う世界の人々の価値観の根底からの変化、
それによって変わる社会・・・きっと伊藤計劃が書いたのなら、その辺を見事に書いてくれていた
気がするし、その辺が私は読みたかったので、円城塔の書く、「屍者」をそういうものだとすんなり受け入れ、
表面的な変化しか描かれない「屍者」を使う世界は、自分が求めていたものと大きく違ってたし。

歴史上の人物が次々と登場し、文学のパロディ的要素もふんだんに取り込まれたこの作品、
きっと面白いと思う人も多いんだろうけど、自分はホラーが好きなせいもあって、
「死者が屍者として復活させられ、単純労働に携わり、兵士としても活用されている
悍ましい異様な世界」を描いた、もっと重くて、ズーンと来るような話が読みたかった。
円城塔のふわふわした感じの文体は、恐怖や緊迫感、おぞましさを書くには不向きだと思うし、
この本でも、それは感じた。

ストーリーの大きな流れがあるこの作品。
ちゃんとストーリーを追う展開で、サクサク読めるんだけど、途中変な所でごちゃごちゃと脱線し、
それまでの流れに比べて、突然わかりにくくなる部分が現れるのは、
円城塔の本来の持ち味が出てきてしまった部分なんじゃないかと。
きっと、こういうきっかけでもない限り、円城塔はこの手の作品は書かなかったろうなと、
そういう部分を読んで思ったりもした。

ただ「伊藤計劃の『屍者の帝国』」を求めるのでなければ、完成度は高く、
しっかりまとまった作品になっていたのは、さすが円城塔という感じ。
「屍者の帝国」のタイトルや「フランケン化」なんて言葉から連想されるような、
おぞましくてズシンと来るような話を期待する人以外は、楽しめる作品なんじゃないかと。
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コメント 2

rudiesgirl

この本、ず〜〜っと気になっていたんです!

chokoさんのレビュー、まだかなあ。なんて
思っておりました。(*^_^*)待ってました!

ますます、読みたいような読むのをやめたいような。(^^ゞ

でも、7点以上付けられているから
図書館で借りて読んでみます。
by rudiesgirl (2012-12-05 13:49) 

choko

rudiesgirlさん

あまり、この本自体の感想になってませんね(^^;)。
どうも、「何か違う」「これじゃない」と、痒い所を一瞬かいて
貰えるんだけど、そこはやっぱり本当に痒いところじゃない・・
的な気持ちに読んでいる最中ずっと支配されてまして、
あまり内容にのめり込んで読めなかったんです。

でも、きっとツボな人もいるだろうなーって内容だったので、
読んでみて下さい(^-^)ノ。
rudiesgirlさんの感想楽しみです(*^.^*)。
by choko (2012-12-05 23:06) 

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