「心理学大図鑑」キャサリン・コーリン著:「心理学者大図鑑」という内容。たくさんの説が紹介され読み応え満点! [本ノンフィクションいろいろ]
7.5点
「心理学大図鑑」というので、療法とか用語集かと思って読んだら全然違ってて、
いろいろな心理学者の功績やその説について、紹介している本だった。
最初の章は「哲学的ルーツ」として、西暦190年頃のローマの哲学者であり自然学者であった
ガレノスの、人間の気質を多血質・粘液質・胆汁質・憂鬱質(黒胆汁質)に分けた四気質論や、
17世紀の哲学者デカルトの精神の身体の分離について示した「心身二元論」、
19世紀の哲学者キルケゴールの「真の自分自身を受け入れることこそ、絶望の対極」であるなど、
心理学につながる哲学の諸説が紹介されている。
「心理学」というのは、初期は哲学との境界が曖昧だったというか、
本書で説明されているように、「哲学」と「生理学」をつなぐ学問が「心理学」という見方も
できるって事に、何か目から鱗。
学問というか、科学として、何か胡散臭いイメージがあったのは、
この辺からきていたらしい。
他にこの章では「意識の定義付けの難しさ」を説いたウィリアム・ジェイムズ、
「記憶の維持の研究」をしたヘルマン・エビングハウスなども紹介されていて、
「心理学」というものが、哲学的な側面や生理学的側面を持っているということを、
強く再認識させられた。
2章は「行動主義」についての章で、生理学的な側面から心理学にアプローチした説について、
有名な「パブロフの犬」など、科学的に検証するのが不可能な内面の心的状態は放置し、
科学的に検証可能な外的刺激に対する反応を研究したものがメイン。
「報酬があった反応は刻み込まれ、報酬がなかった行為は抹消される(動物実験)」という
エドワード・ソーンダイクの説、「環境にかかわりなく、訓練しだいで何にでもなりうる」
(人間もパブロフの犬のように、条件付けできるって感じ?)というジョン・B・ワトソンの説、
「ポジティブな強化とネガティブな強化」などについて研究したB・F・スキナー、
動物の刷り込みに関して研究したコンラート・ローレンツなどが紹介されている。
3章は、「心理療法」で、有名なフロイトやユングなどが登場!
超自我とかアニマとか、高校生ぐらいの時は、ドキドキした記憶(笑)。
でも、心理療法は、後半でこの方法を批判した学者が言っているように、
治療者の主観の影響が大き過ぎて、後になると、胡散臭いイメージが強くなった。
自分の心理学が胡散臭いってイメージは、この辺から来てる感じが。
「~すべき」という気持ちを抑圧すべきだというカレン・ホーナイの説、
自分が認識しているものは客観的真実ではない、自分自身が「真実」を構築しているという
フィリッツ・パールズの説など。
心的健康のための気持ちの持ち方(自分を信頼する・自分に責任を持つ・現在の瞬間に生きる・
無条件にポジティブな眼差しで自分にも他者にも遇するetc)を説いたカール・ロジャーズの
「人間中心療法」や、「私たちは苦しむことなしで十全な人間になることはできない」
(苦しみも通常の人生の一部)というロロ・メイの説などは、仏教などの教えでも
聞きそうな内容だと思った(^^;)。
「合理的な信念が健全な情動的帰結を生み出す」(ネガティブな事が起きた時、それをどう
捉えるかで生き方が変わる、合理的に反応できるか、自分がダメになってしまうと信じこんで、
実際ダメにしてしまうか)というアルバート・エリスの説のように、思考パターンに関する説も多め。
「善人だけが憂鬱になる」という説を説いたドロシー・ロウのいう、「公正な世界への信念」
(善行は報われ、悪事は罰せられる、世界は公正で理にかなった場所であると思い込む
気持ちがあると、悪い事が起きた場合、自分の何が悪かったかと自責の念にとらわれる)と
いうのは、確かにあるなーと思ったり。
4章は「行動心理学」が無視していた「知覚」「意識」「記憶」に焦点をあてた「認知心理学」について。
これは、コンピューターの技術革新や人工知能の発達により、「脳を情報処理装置」とみなす
新しい考え方で、「行動心理学」の理論を覆しただけでなく、「心理療法」も非科学的とした。
認知心理学の章ではカルト教団などに入信した人が、信じる説(世界の破滅の日)などが
実現しなくても、何かしら自分自身を納得する説を探し出しその確信を変えない事などから
「確信をもった人がそれを変えるはまずない」と論じたレオン・フェスティンガーや、
「中断されなかった課題に比べ、途中で中断された課題は、記憶に残る可能性が増す」という
研究結果を発表したブルマ・ツァイガルニク、コップに半分入った水を「半分しかない」と感じるか、
「半分もはいっている」と感じるかなど、同じ状況を人がどう評価するか、人の気質に注目した
アーロン・ベック、エピソード記憶と意味記憶の2種類の記憶方法があると気がついたエンデル・
タルヴィング、「できごとと情動は一緒に記憶のうちに貯蔵される」(幸せな時は、幸せな記憶を
思い出しやすく、不幸な時は不幸な記憶を思い出しやすい)と、記憶と気分の関係を説いた
ゴードン・H・バウアー、人間の記憶の曖昧さ、歪められやすさについて研究し
「私達が心のそこから信じていることが必ずしも真実だとは限らない」としたエリザベス・ロフタス
(誤記憶を植え付けるという実験は興味深かった)など、面白い説が多かった。
第5章「社会心理学」では、社会組織の個人に対する影響に関する研究で、
有名なリチャード・グロスの実験などが紹介されている。
これは、普通の人々が、権威がありそうな人に命令されると、被験者が苦しんでいても、
電気ショックのレベルをどんどんあげてしまったという実験で、実験に関わった65%が、
最大値までレベルをあげたという、一般の人が、命令によって残虐なことを行うことを立証した
実験である。
また、ホラー映画の題材にもなっているフィリップ・ジンバルドーの「スタンフォード監獄実験」
(学生を、完全服従の囚人と、囚人を意のままにできる看守の立場に分けた事で、
起きた恐ろしい状況から、善人を悪事に走らせる社会や制度について言及)も紹介されている。
他にも、アメリカで、貧しい人たちが食べるものだと思われていた内臓肉を、
第二次世界大戦中の食糧危機対策の為、一般の主婦に食べてもらうよう
アプローチ方法を模索したクルト・レヴィンの研究(社会の常識が変化していく過程)、
集団の中でみなが間違った答えを選んだ時、被験者はどう回答するかという実験を行い、
社会的同調への衝動の強さを研究したソロモン・アッシュ、
「繰り返し見たものを好きになる、好みは理性的ではない」としたロバート・ザイアンス、
「悪い人には悪いことが起こり、善い人には良いことが起きる」という思い込み
(安定した秩序だった世界に住んでいると思いたがる)ことから起きる、
犠牲者批判(レイプ被害者が逆に非難されるなど)の構造を研究したメルヴィン・ラーナーなど、
社会的影響の怖さがわかる内容が多かった。
第6章「発達心理」では、ジャン・ピアジュの説を筆頭に、大人のミニチュアだと
思われていた子供が、実際は、ある段階を経て大人になっていくことの研究や、
教育方法などについての研究が述べられている。
教育論に関しては新しい説がでると、それに翻弄される・・という事が繰り返される上、
子供が望まなくても実験体になってしまう(詰め込み→ゆとり→詰め込み・・・学校教育指針の
変更なども)ケースも多く、ううむ・・・って部分も。
母親がいない子供は、成人すると犯罪をおかす率が高いとか。
第7章は「差異心理学」で「人格(パーソナリティ)」「個人差」などについての研究で、
「人格を恒常的で固定的にして不変のものとみなすどんな理論も間違っている」と、
人格形成への内的力(遺伝子型)と外的力(表現型)の影響を論じたゴードン・オルポート、
健常者を精神病院に入院させる実験を行い、「精神病院の中では、だれが健常で誰が
異常なのか見分けがつかない、精神病の診断は客観的ではない」としたデイヴィッド・ローゼンハン、
他に、多重人格の研究などに関する紹介も。
心理学者1人につき1~8Pほどのページを割き(多くは2p前後)、図なども取り入れ
わかりやすく説明してあるけど、元々1冊~数冊の本で発表される内容の要約だったりもするので、
具体例が足りなさすぎてピンと来なかったりすることもあるし、簡単に説明されすぎて、
自分がわかったようで、きっとわかってないなーって内容も多かった
(複雑なことをあまりに簡略化して説明されると、真実とは微妙にずれた説明になっちゃう事が
科学などではよくあるけど、それ)。
なので、ある程度心理学の知識がある人向けとも言える内容だったけど、
「心理学」という分野の発展を知ることは、人の心理研究がまだまだだってことや、
「悪い事をしたら罰を受けるべき」など、当たり前のことと思っていたことの心理的背景など、
すごく興味深い内容が詰まっていて、とても面白かった♪
心理学に興味がある人は、読んでみて下さい(^-^)ノ。
きっと新しい発見もあるはず♪
コメント 0