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「謎の独立国家ソマリランド」高野秀行著:3つのソマリア。民主主義国家「ソマリランド」海賊王国「プントランド」リアル北斗の拳「南部ソマリア」知らない世界を知るって面白い! [本ノンフィクションいろいろ]

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2013/02/19
  • メディア: 単行本
8.3点

「ソマリア」というと、国家が存在せず弱肉強食「リアル北斗の拳の状態国」とか、
海賊が海外の船籍を襲っている「海賊の国」とか、最悪の治安の国というイメージがあるけど、
実際のソマリアは、上記したリアル北斗の拳「南部ソマリア」、
海賊の本拠地となっている「プントランド」、そしてもう一つ、ソマリアにあって、
平和で民主主義を維持している「ソマリランド」の3つに分かれている。
以前アグネスが、遺書を書いてまで行った「ソマリア」は、この平和な「ソマリランド」。
ちなみに映画「ブラックホークダウン」の舞台になったのは、「南部ソマリア」の首都「モガディシオ」。

この本はタイトルにある「ソマリランド」、副題にある「そして、海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア」
この3つの地域に行った、現地取材ルポが載っている。

一番メジャーだと思われる「戦国南部ソマリア」ではなく、平和な民主主義国家「ソマリランド」が
メインになっている理由は、この本を読むとよくわかる。

対外的にも全く承認されていない「ソマリランド」については、知っていたけど、
平和とか民主主義とか言われていても、対外的なモノ、もしくは一時的なモノじゃないかと、
本書でも著者が書いていた「自称国家」的な言葉がピッタリ当てはまるイメージで、
あまり興味を持っていなかった。

しかし、その思い込みが全く間違っていた事を、この本を読んで知りました!
「ソマリランド」だけじゃなく、「海賊国家プントランド」や「戦国南部ソマリア」についても、
イメージしていたものとは、ものすごく違ってて、目から鱗連続。
まだまだ自分が想像した事なんて、浅い浅い!!と思わされる内容満載!
今年読んで一番面白かったのは、この本かもっ(〃∇〃)!!

「リアル北斗の拳&海賊」のイメージが強い「ソマリア」に、平和な国があるとは信じられない、
そんな「ラピュタ」みたいな国があるのか?と疑問に思った著者が、「ソマリランド」を訪問した時の
ことが、最初の章では詳しく書かれている。

「ソマリアランド」に入る前に聞いた、隣のエチオピア人のソマリア人の評価は
「荒っぽくて、粗野で、嘘つき」。

でも、実際入国してみると、ソマリア人(ソマリランド人)達は、他のアフリカ諸国とは違い、
キビキビと働き、仕事もちゃんとやっている。
銃を持っている人間も見かけず、治安もいい。
驚きだったのは、ホテルのボーイから大統領補佐官の電話番号を教えてもらえ、
即会え、通訳の手配、その後のスケジュールなどをきめ細やかに決めて(半分押し付けだけど)貰え、
その通りに、テキパキとことが運んだ事。

ソマリランドは、自国の通貨をちゃんと持ち(印刷はイギリスでしてるらしい)、
自国の通貨を持つことがいかに大変かということも、本書で触れられている。
世界各地にある「自称国家」とは全く違う、自国の通貨を持ち、ちゃんと選挙も
行われている、そして治安もいい、ちゃんとした「国」なんだそう。
ただ、治安の良さを維持しているのが、国家ではない・・というのもすごい。

ソマリアで起きる戦闘のほとんどは、部族争い。
著者によると、ソマリアというのは、他の民族が少なく、言葉もほぼ共通な「ソマリア人」が
大多数を占めるアフリカでは珍しい地域だそう。
なので、部族争いというのは、同じ民族が戦う、日本で言えば、昔、
「平氏」と「源氏」に分かれて戦ったようなものだという。
本書では「部族」ではなく、「氏族」と表現されている。
他氏族同士が闘い、どこかが勝利を収めると、今度は同氏族内で派閥争いが起きる・・ということを、
ソマリア(ソマリランドも例外ではなく)は繰り返しているという。
そして、その氏族が分家の分家の分分分分分分分分分家まで分かれている為、
かなり複雑で難しい・・・ということで、この本では、わかりやすくするため、
日本の「源氏」「平氏」「北条氏」「藤原氏」などの名前を、分家の名前につけてわかりやすくしてくれている。
で、実際、そうして貰ったおかげで、非常にわかりやすかった。

ソマリランドの中心になっている「イサック氏」だけでも、ハバル・アワル分家、サアド・ムセ分家・・
・・・・・etcetcと、恐ろしく細かく分かれているが、「イサック藤原氏系」とか書いてあると把握しやすい。
プントランドの中心になっている氏族を「ダロット平氏」、ソマリアは「ハウィエ源氏」、
ハウィエ源氏の中でも分家同士でもめた2大勢力を「頼朝系アブガル」「義経系ハバル・ギディル」
など、ちょっとニヤっと思ってしまうような分類で、説明されている。

で、治安の問題に戻るが、ソマリランドの治安を維持しているのは、氏族のつながりだという。
必ずみな、どこかの氏族に属している為、掟破りのことをすれば、自分の氏族から糾弾されたり
するし、他の氏族に手を出せば、その他氏族全体から報復もされるという。
その辺が治安を維持する要になっているらしい。
ただ、逆に言うと、氏族に属していない、もしくは、弱い氏族に属しているということは、
恐ろしいほど立場が弱い、何をされてもやり返せない、弱肉強食的な面は、3地域残っているという。

氏族間のやりとりはかなり明確で、相手の氏族1人殺せば、ラクダ30頭分(だったかな?)、
もしくはそれに匹敵する賠償金を払うことで和解するという。

「ソマリランド」が、何度も内紛を繰り返し、しかし今の平和な状態に落ち着いたのも、
氏族の長老同士の話し合いによるものらしいが、その詳細は、かなり驚くべき事だった。
詳細は本書で。

また、何故「ソマリランド」が治安を回復し、南部「ソマリア」が回復できないかというと、
「ソマリランド」は、貧しい土地で、遊牧民が中心で戦闘が多く、戦闘をやめるノウハウを
持っていたのに比べ、土地が豊かで農耕民族中心、戦闘が少なかった南部ソマリアは、
戦闘をやめるノウハウが無かったのではないかと、「ソマリランド」に住む人々は言っているという。
そういえば、日本も、第二次世界大戦の時、終戦の仕方が下手だった・・と言われてるなーと
いうのを思い出した。
戦争中のルールも、戦闘の多い地域ほど、ルールが多く(女・子供・老人・捕虜を殺さない等)、
それが厳密に守られていて、ソマリランド地域では守られていたけれど、
南部では、それが守られていなかったという。

面白かったのは、ちゃんとした体裁を整えているのに国家として全く認められていない
(ここを認めてしまうと、アフリカなどの民族独立運動を刺激しかねない為)
「ソマリランド」が治安を維持し、選挙もちゃんと行われている背景は、国家として認められて
いないため、外国からの援助も少なく汚職・腐敗などが少ないこと(大臣クラスでも
給料は非常に低い)、資源なども無く、外国からの介入が無いことなども、
要因の1つではないかとの推測。
それはあると思う。
外国からの援助、企業の介入・・・・が、国をダメにしているケースは多いし
(ルワンダの虐殺も、日本も含め外国からの資金援助によって軍備を拡張し、
勢力を拡大した政府によって行われている)、南部ソマリアが、ここまで戦国時代なのも、
過去のアメリカなどによる軍事介入も要因の1つらしい。

「平和で民主主義の国」と聞いただけでは、面白みを感じない「ソマリランド」だけど、
内情を知れば、西洋民主主義とは、かなり違う「民主主義」であり、
それ以外にも、遊牧民の超個人主義的気質のソマリア人が持つ価値観、
考え方は、行動は、新鮮ですごく面白かった。
でも、平和でも、親しくしていても、隙をみせればすぐつけこんでくる(領収書を切らないで
お金を渡したりすれば、貰ってないと大騒ぎする等)、そういう部分は、
著者が取材中辟易していたのも理解できる。

「ソマリランド」の話だけでも、民主主義とは、国家とは、価値観とは・・と、それだけ読んでも
非常に面白い内容、

第5章では「海賊国家プントランド」について語られており、銃を持った護衛に守られての取材
ではあったが、どちらかというと、「銃を持った護衛に監禁され、お金をむしり取られている旅」と
著者は書いている。

海賊行為で潤っているらしく、街なかは、「ソマリランド」よりキレイで発展しているという。
海賊が個人経営なのとか、海賊が跋扈する背景、人質開放の仲介をする政府も、
身代金の一部を貰って潤っている・・・・etc、今まで漠然と「海賊国家」という
イメージしか無かった国の内情が、読むと見えてきて、これまた面白い内容!
これを読むと「海賊行為が無くならない」のもわかる。

そして、第6章はリアル北斗の拳「ソマリア」取材。
こちらは、本気で危険らしく、銃を持った兵士も、チンピラみたいだった「プントランド」とは違い、
制服もきっちりと着こなし管理された兵士。
街なかには、銃を肩にかけてウロウロしている人間が多数おり、あまりに多くて見慣れた後には、
銃の形の流行りのバックかと思えるほどだったという。
何故、そう思ったかというと、20年以上紛争が続いているはずの首都「モガディシオ」は、
廃墟ではなく、明らかに「都」であり、物も豊富、「ソマリランド」や「プントランド」では買えないような、
多種多様の品物、ファッション、日本でいえば、原宿とかのような感じなんだという。
しかし、銃を持った人はうろうろ、外国人はあっという間に拉致、戦闘も頻繁に起きる。
発展しており車も渋滞、その近くで銃撃戦など始まれば逃げられない・・・など、
発展しているからこその恐怖も語っている。

現在、南部ソマリアで勢力を伸ばしているのは、氏族ではなく、イスラム原理主義の「アル・シャバーブ」。
著者はケニアの難民キャンプも取材しているが、難民のほとんどが「アル・シャハーブ」を
恐れて(少しでも逆らえば殺され、子供を兵士に取られ・・・)、逃げてきているという。

危険危険危険、廃墟廃墟廃墟!!なんてイメージだった、「南部ソマリア」も、
全然イメージと違う場所(でも危険なのは確かで、戦闘も多い)だったのも、びっくり。

ドラム缶が置かれただけの、境界線(でも境界気がつかず下手に通ろうとすれば撃たれる)、
町中を走るのは、日本の中古車で(ソマリア全域に多い)、兵士を満載した「○○ようちえん」と
書かれたバスなんてシュールな光景も目にしたという。

ということで、ソマリアの3つの地域、それぞれが、想像を超えた場所だったのに驚愕!
とにかく、面白いし、新鮮だし、考えさせられる事も多く、読んで大満足だった一冊!!

上記したように、今年2013年No1の本は、この本な気がする!
お勧めお勧めお勧めです(^-^)ノ!!
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コメント 10

コステロ

ソマリアとかに関しては全くの無関心と言うか無知な私。
今回の投稿を読んで始めてアフリカにある国だと知りました(笑

それまではなんとなく、コソボとかボスニアとかそっちの方、
所謂旧ソ連とか旧ユーゴとかの東欧系の国だと思い込んでました(笑
by コステロ (2014-01-02 11:53) 

choko

コステロさん

あけましておめでとうございます♪

コソボとかボスニアには、海賊は出ないと思う(笑)。
海無いし(笑)。
そこが、北斗の拳状態でもすごいですが、
コソボとか、道を歩くとスナイパーに撃たれる状態でも、
「地味な生活の知恵」で人々が生活してて、これもある意味
すごいなーと思った記憶。

そうそう、画像承認、ソネット会員以外は入力する仕様になっちゃった
みたいで・・・(>_<)。
コメント記入の際、面倒かと思いますが、
今年もよろしくお願いします♪
by choko (2014-01-02 13:06) 

コステロ

あぁ、そー言えばおけましておめでとうございます、でしたね(笑
今年も宜しくお願いします。

画像承認に関しては入力文字をクッキー?でしたっけ、
PCに記憶させておくヤツ、アレを使ってるので全く問題ナシです。
by コステロ (2014-01-04 11:14) 

choko

コステロさん

あっ、画像承認、そんなに大変じゃないなら良かった♪

今年もよろしくお願いします♪
そして、たまにはブログ書いて下さいよ~!
すっかり、ブログからは離れちゃいました?
仕事が超充実とか?
エシレバター漬けとか??
by choko (2014-01-05 00:23) 

コステロ

ブログはですねぇ、ネタになりそーなハナシは結構あるんですケド、
いったん書くとなると結構時間食っちゃうんですよねぇ。

あと、職場ネタを書こうとすると、コレコレこーゆー店で、
同僚にはこんなやつがいて、そのなかで私のポジションは、とか、
改めてキッチリ説明しておかないといけない部分とかもあったりして、
それらがもうめんどくさいんです(笑

ここ最近ではフェイスブックにたまに書き込んでますが、
ちょこさんはやってないんですか?
by コステロ (2014-01-05 12:20) 

choko

コステロさん

なるほどなるほど、ネタが溜まってる方が、かえって書きにくいって
ありますよね~!
たまったネタ、面白そうですが、まとまった時間が無いと、
書くのも大変そうですね~(^_^;)。

で、facebookですが、少しだけどやってます。
以前、コステロさんだと思われる人に、メッセージ付きで
友達承認出したんだけど、スルーされたので、
facebookでつながるのは嫌だとばかり思ってました(^^;)。
もう一回友達承認出しておきますか??
by choko (2014-01-05 19:23) 

コステロ

受け取った記憶ないんで、それ多分別の人です(笑
by コステロ (2014-01-06 08:08) 

choko

コステロさん

絶対コステロさんですよ~!
だって、Mixiで書いてある名前と一緒で、ブリュッセル在住(^^;)。

それとも、同じような状況の人がいるのか?
今見てきたんですが、12月に剣道のことアップしてますよね?

by choko (2014-01-06 08:16) 

コステロ

返信早ッ!(笑

以前「アオイホノオ」の件でメールを送ってもらったアドレスに
私のアカウントアドレス送信しておきましたので
お手数ですがご確認及び、再申請してしてみてくださいませ。
by コステロ (2014-01-06 08:21) 

choko

コステロさん

同じ時間にアクセスしてたみたいですね~(笑)。

チャットのような素早いやりとりに感動しました(笑)。
by choko (2014-01-06 08:50) 

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