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「ブラックライダー」東山彰良著:世界滅亡後ウェスタン時代に戻ったようなアメリカ。人は人肉を、そして牛と人間を掛けあわせた「牛」を喰う。その世界で生きる人々が思うことは・・・。 [本:SF]

ブラックライダー

ブラックライダー

  • 作者: 東山 彰良
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/20
  • メディア: 単行本

7.8点

「このミステリーがすごい2014」3位になった作品。

「6・16」と呼ばれる世界大戦後の、荒廃した世界。
世界は冷えきり、多くの動植物が滅亡した。

アメリカで生き残った人々は、ウェスタン時代に戻ったように、馬に乗り、牛を飼う。
そして、何かあれば、銃が火を吹く、弱肉強食の世界。
違うのは、あまりの食糧難に、人が人を喰うことが普通になったこと。

そして、そんな食糧難を解決するために造られたのは、牛と人間を掛けあわせた「牛」だった。
新たな「牛」の誕生によって食糧難が解決しつつあり、「人肉を食べることが禁止される法律」もでき、
一度破壊された文明は徐々に発展し、「秩序」を取り戻しつつあるように思えた。
しかし、謎の赤い寄生虫、知能の高いパッと見には人間の姿をした「ユダの牛」の誕生・・・・
変わりつつある世界には、またもや災厄の予兆が・・・・。

荒廃した未来を舞台に繰り広げられる、ウェスタン+黙示録的なストーリーはおもしろい!
ただ、ただ、ただ、とにかく読みにくいのが問題。

翻訳小説を意識したと思われる文体は、あまりにも意識し凝りすぎて、意味をとるのに一苦労。
台詞中心のストーリー展開なので、情報は小出し。
いくつもの情報を拾い集めて、世界観を想像しなきゃいけないんだけど、
情景描写があまり得意じゃないらしく、本書から読み取れる情報だけでは、
細部まで想像できず、自分の想像力をかなり駆使しないと、世界観がぼんやり。

例えばファンタジーで「ドラゴンが現れた」とあった時、「巨大な赤いドラゴン」とだけ
書いてあるのと、「研ぎ澄まされた爪は大理石のように黒光りし・・・」と詳細まで書いてあるのでは、
自分が想像する「ドラゴン像」は変わってくる。
そして、前者では、自分の知ってる「ドラゴン」を漠然と思い浮かべることになる。
この本の場合、この「前者的な表現」がメインで、自分で世界を想像しなきゃいけない。

それプラス、変に凝った読みにくい文章。
その上、登場人物も多く、物語の中心になる人物も何度か変わり、それを把握するのも一苦労。

読みにくい凝り過ぎた文体に関しては、最初の50ページくらいが非常に凝ってて読みにくく、
その後は凝るのが大変になったのか、徐々に凝り過ぎ感は緩和し、世界観を想像する為の
情報もある程度揃った中盤以降は、かなり読みやすくなる。
でも、最初の100pくらいは、読むのが大変。

イカレタ登場人物ばかりが登場する西部劇小説「シスターズ・ブラザーズ」(リンク先感想)的な、
アメリカウェスタン小説っぽさと、近未来をうまく融合させたストーリーは、
読了後、「おおおおっ!!!!!」と思えるまとまりを見せるけど、
文章の読みにくさと、描写力の弱さがもったいない。
近未来世界を描いているので、もうちょっと描写力が欲しかった。
でも、ストーリーはおもしろいので、最初の読みにくさを乗り切って、最後まで読んで欲しい小説。

作品には、現代文明へのアンチテーゼもかなり含まれている。
「人を殺して食べることはいい。でも、食べないのに殺すことは恥ずべきこと、悪である」
「食料になった人に感謝して食べる。自分が食べられる時も感謝する」というような概念など、
状況が変われば、常識が変わるという視点や、
文明が進むにつれ、以前「当たり前」だったことが、非常識として頭から否定されていく過程や
それが理不尽だと感じる気持ちと、新しい価値観を受け入れなければならないという葛藤など、
人々の意識変化に関する描写は面白い。

食べ物に飢えてた頃は、食べ物が手に入っただけでも幸せだったのに、
飢えの心配が無くなると、先のことが不安になり、欲がどんどん大きくなるということなど、
満ちているからこその不安などは、今の社会をそのまま暗示している。

そして、文明がすごい勢いで再構築されつつある実情を見て、文明が進んでいくと、
人の意識が変化し、また人はそれを破滅させるような事、「6.16」と同じことを繰り返すのでは
ないかという作中の人物が感じる不安も、今の社会に通じるものがある。

しかし、文明の進歩と価値観・モラルの変化、その狭間で、逞しく生きる人々を、
興味深く描いている作品でもある。

お勧め(^-^)ノ。
序盤、読みにくいのを我慢して読もう!!
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