「銃・病原菌・鉄」何故白人が世界を支配できたか

銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

• 作者: ジャレド ダイアモンド
• 出版社/メーカー: 草思社
• 発売日: 2000/09
• メディア: 単行本

８点

先日読んだ「文明崩壊」がとても面白かったので、同じ著者の本を読んで見た。

 

「文明崩壊」が何故一時期は発展した文明が崩壊したのかを、モアイ像などの巨石遺跡を作り上げたのに衰退したイースター島、バイキング達が入植して成功したアイスランドと全滅してしまったグリーンランド、そして現在環境破壊と人口増、繁栄との狭間でゆれるアメリカの地方都市、その他、様々な文明、文化を検証し、人類全体が模索すべき未来を検証している。

 

それとは反対にこちらの「鉄・病原菌・銃」は、ヨーロッパの国々、強いて言えば白人社会が世界を植民地化する事が出来たのは何故なのか、その理由を文明の発祥と照らし合わせて考察している。

 

その視点は、「白人が人種的に優れているから」という白人優位主義に真っ向から反対するもので、文明が発祥した場所の地理的、植生的要因により現在の白人優位な状態が作られており、同じ環境に別の人種がいれば、その逆があったであろうという事を繰り返し主張している。

 

作物化しやすい野生種が生えている所では、狩猟生活より定住し農作物を作る方が効率がよく、人々がそういう生活に移行しやすかった事。

家畜化できる野生動物が近くに存在した事により、農業生産高だけでなく、移動手段、運搬手段なども大幅に向上した事。定住と食物生産量の向上により人口が増加し、また余剰食物が、職業軍人などを養えた事から他の文明よりも優位に立てた事。

 

そして、それらの要素を満たしているのがユーラシア大陸なのだという。オーストラリア大陸やアメリカ大陸などでは、栄養が豊富で作物化しやすい植物が少なかった上、家畜化できる大型哺乳類もほとんど存在しなかったのが、文明の発達の過程で大きなハンデとなったと著者は論じている。

 

面白いと思ったのは、多くの病気が野生動物を家畜化した過程で、人間にうつるようになったというくだりである。

インフルエンザが鳥→豚→人間という経路で移るのは知っていたが、ペストや天然痘など、死至率の高い病気の多くがそうであるという。南米アメリカ大陸の先住民がヨーロッパからの攻撃で崩壊してしまった事の大きな原因が、ヨーロッパ人が持ち込むまでアメリカ大陸には存在しなかった天然痘などの病気の蔓延で、南米アメリカ大陸では家畜化できる動物がほとんどいなかった事が、そのような病気に対してアメリカ先住民達を無防備にしていたというのである。

 

またアメリカ大陸は、温帯の気候である地域が多かったので白人の入植が盛んに行われ、かなりの数の白人が入植したが、ニューギニアでそれが行われなかったのは、熱帯性の気候が白人が今まで住んでいた気候とは違い過ぎた為である事なども論じられている。

 

この本を読むと、人類の歴史というのは、侵略と略奪の歴史という事を改めて感じた。

文明的に優位に立った者達が劣勢にある者が住む場所を侵略するというのは、白人によるアフリカやオーストラリア、アメリカの先住民に対しての行いが有名であるが、元々アフリカに幅広く住む黒人達も、その昔、アフリカに住んでいた狩猟民族コイサン族やピグミー族の居住地を侵略して広がったという。

 

そして、もしアメリカ先住民や、アフリカ先住民達が、文明発達のために優位な条件の場所に住んでいたのであれば、今と逆の状況、アメリカ先住民やアフリカ先住民が白人社会に攻め入ってきたという状況もあったと著者は言う。

 

今まで読んできた、白人によるアメリカインディアンに対する残虐行為（友好的なインディアン達をも虐殺したり、贈り物として天然痘患者が使っていた毛布をプレゼントしたりもした）や、黒人奴隷に関する本では、その残虐な行いに対し憤りをあらわにしている物が多かったが、この本ではそういう部分はほとんどなく、強い者が弱い者を駆逐するのは文明発達の過程での当たり前の行為であるというような視点で描かれていると思った。

 

いろいろな事柄をできる限り平等な視点で捕らえようとする著者の態度に感心するが、その分、この本の何箇所かに見られる、漢字に対する偏見が余計に気になった。

漢字というのは、何千字もあり合理的ではない（アルファベッドはそれに比べて優れていると言いたいらしい）、日本で日本語に合わない漢字を使い続けているのは、漢字の社会的地位が高いせいである・・・など、「？？？？」と思える箇所がいくつか。

この著者は漢字が嫌いなのだろうか？？？

 

面白い本ではあったが、「文明崩壊」に比べると一段下がる気がする。「文明崩壊」が面白過ぎたせいでもあるんだけど。