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「ワーキングプア-アメリカの下層社会」「ワーキングプア-日本を蝕む病・解決への道」日本は徐々にアメリカに近付いている!? [本ノンフィクションいろいろ]


ワーキング・プア―アメリカの下層社会

ワーキング・プア―アメリカの下層社会

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 単行本

8点

ワーキングプア―日本を蝕む病

ワーキングプア―日本を蝕む病

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 単行本

7点

アメリカと日本のワーキングプアの現状を描き出した2冊。

「ワーキングプア アメリカの下層社会」は、いろいろな角度からワーキングプアの家庭を検証した、
かなり濃い内容。

序章-貧困の淵に立って
第1章-お金とその対策
第2章-働いてもうまくいかない
第3章-第三世界を輸入する
第4章-恥辱の収穫
第5章-やる気をくじく職場
第6章-父親たちの罪
第7章-家族の結びつき
第8章-体と心
第9章-夢
第10章-働けばうまくいく
第11章-能力と意志

の全11章。

「序章-貧困の淵に立って」では、貧困の定義について考察している。
水道や電気があり、テレビもあり、住む場所もあるアメリカの貧困層は、
貧しく何も持たない国の人々より、物質的には恵まれている。
貧困に苦しむという点では同じである。
しかし、「貧しい国で貧しいより、豊かな国で貧しい事はより耐えがたいと」、
アメリカの方が精神的なダメージは深刻だと著者は考える。

コマーシャルが購買意欲をそそり、物質的満足がなければ不幸だと思う人々。
何も無くても工夫して遊ぶ発展途上国の子供達と、
玩具を与えられない事で不満を抱えるアメリカの子供達。
貧困の定義は、国や生活スタイルによって大きく変わると。

そして、人を貧困に陥れる要素はあらゆるところで絡み合っているとも言う。
お金が無く劣悪な環境に住む事で、体調を壊し、仕事を失い、医療費がかさみ
(アメリカの医療費は恐ろしく高く、医療保険に加入することも貧困層には難しい)、
子供達の教育環境も劣悪になり・・・一つだけ解決しても、貧困は解決しないという。

また何か一つの原因から、貧困層に落ち、負のスパイラルから逃れられなくなるとも。

「第1章-お金とその対策」では、貧困層を食い物にする産業構造や、
貧困層の人々のお金の使い方の問題点に触れている。

貧困層に対する給付金を貰うには、煩雑な手続きが必要であり、
その為、給付金のかなりの額を手続きする業者が搾取してしまう。
まともな教育を受けていない者が多い貧困層の多くは、搾取されているのすら気がつかない。
また、違法な低賃金で働かせる会社も多く、そこでも貧困層の住民はいいように
利用されてしまっているという。

また貧困層の人々は、お金を手にしても、計画的に使う事ができず、
子供のミルクを買うより、ケーブルテレビ代や電話代、
その他の必要とは言えない物に使ってしまうという。
家で自炊をするよりも、外食に行ってしまうし、
クリスマスなどのイベントでははめをはずしてしまう。
そして、お金の使い方の指導をするのも難しいという。

生活保護を受けているから楽しみを我慢しろと言うのは酷だとも思う。
しかし、その部分が改善されなければ、貧困からの脱出も難しいのが現状なのだ。

「第2章-働いてもうまくいかない」では、給付金を受けている人が働くと
どんどん給付金を減らされてしまい、結局働いても生活が楽にならないという現状や、
日々の支払に追われる人々の姿を描いている。

支払の多くは、光熱費、家賃など生活に必要な物にほとんど当てられている。
しかし、貧困層の人々の多くは、加工食品やジャンクフードなどにかなりの
お金を使ってしまうという。
これは働くのに忙しすぎるためでもあるし、
育った家庭の状況が悪く、料理を全く習う機会がなかった者が多い為でもあるらしい。

また、何年真面目に働いても給料はほとんど上がらないという事も、
働いても貧困層から脱出できない理由だという。

「第3章-第三世界を輸入する」では、第三世界からの安い製品や、
移民達が、アメリカの労働者の仕事を奪い、貧しい人々は、
より賃金の低い仕事に就くしかない現状を描いている。

「第4章-恥辱の収穫」は、不法移民達の生活環境や仕事の環境の
劣悪さと、それをどう受け止めているのか、
またそのような状況で不法移民達を雇用する側の考えが書かれている。

「第5章-やる気をくじく職場」では、貧困層に育った者が、
一般社会で働く事の難しさを書いている。
大きな劣等感、失敗への大きな不安・・育った環境で植え付けられた
心の傷は深い。

また、貧困層で育った者の多くが、仕事におけるソフトスキルを
学んで来ていないという。

ソフトスキルとは、欠勤や遅刻をしない、同僚とうまく付き合う、
すぐに感情的にならない、上司の言うことを素直に聞く・・
など働くためには必要最低限欲しいものである。
しかし、酒や麻薬に溺れ、仕事もせず、生活保護で生活している、
そんな親の姿を見て育った者達は、本来家庭で習うべきソフトスキルを身に付けていないという。
なので、仕事が続かず、またそれは劣等感につながり・・・という負のスパイラルに
陥りやすい。

生活保護受給者を雇う雇用主も、彼らのそのような働くための常識が無いという問題点に直面し、
彼らに偏見を持つようになる。

「第6章-父親たちの罪」では、貧困層では、かなりの頻度で見られるという、
父親による娘への性的虐待と、その心の傷から、その被害を受けた女性達が
辿る典型的なパターンについて、書いてある。

「第7章-家族の結びつき」では、貧しくても支え合って生きている一つの家族の様子を、
貧しい者同士、助け合う人々のエピソードも織り交ぜながら描いている。

「第8章-体と心」では、貧困や、貧困層の親による育児放棄によって子供達が被る
体と心への影響について書かれている。
栄養失調による体の発達や脳の発達への悪影響や、
まともな教育を受けられないことによる知的発達の遅れなど。

そして、それら貧困層の子供達の状況を改善しようとする人々が直面する困難についても
詳しく書かれている。

「第9章-夢」では、アメリカの教育現場の問題点について書かれている。
アメリカでは、公立学校のレベルは、地域によって雲泥の差がある。
貧しい地域では、信じられないほど悲惨な状況で、
日本のように、どこでも一定水準の教育が受けられる現状とは全く違っている。
まともな教育を受けさせるには、お金が必要なのだ。
そして、劣悪な教育環境の結果、
子供の頃考えた将来の夢を実現できる子は、ほとんどいないという状況に。

「第10章-働けばうまくいく」では、貧困層の人々にソフトスキルを身に付けさせ、
職場で成功させ、貧困層からの脱出をさせる事に成功している指導カリキュラムについて
書いてある。

「第11章-能力と意志」は政治と福祉と貧困についての、関連性と総括が書かれている。

この本を読んで一番印象に残ったのは、貧困のスパイラル、貧困の連鎖である。
親が貧困層の場合、親が中流で貧困層に落ちた者より、貧困からの脱出は困難だという。

子供の頃、欲しい物が与えられなかった不満を引き摺り、
大人になってからお金がなくてもカードなどではじけたように買い物をしてしまうという。

貧困が及ぼす影響が単純なものではないことがわかる一冊。

怖いのは、ちゃんと働かない親を見て育ち、貧困スパイラルに陥る若者が
日本でも出てきていると、ニュースなどで見るようになったこと。
日本も、アメリカと同じように深刻な格差社会に陥ろうとしているのかもしれない。

その時、生活保護が、アメリカほど進んでいない日本はどうなるのだろう?と思える本でもある。

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「ワーキングプア-日本を蝕む病」は、日本のワーキングプアの現状を取材した
ドキュメンタリー番組を本にまとめたものである。
「日本を蝕む病編」と「解決編」がある。
読んだのは「日本を蝕む病」の方。

日本に貧困の現状を知って印象的だったのは、何十年も真面目に働いていた人々が、
ここ10~20年の間に貧困層に陥っていることである。

真面目に数十年仕立て屋をやっていた老人は、中国製品などの安い製品により、
仕事が無くなり、そこに妻の痴呆での入院が重なり貧困層に陥った。
毎日、慎ましく暮らしているが、生活は立ち行かない。

上記の話だけではなく、グローバル化の波で、海外の安い製品に押しつぶされてしまった
手に職を持つ人々の話がいくつも語られている。

他にも、リストラされた後、家族を養えるほどの賃金が得られる仕事が見つからず
3つもアルバイトをかけもちしていても、生活苦に喘いでいる人、
高校卒業後働き出したが、真面目に働いても貰える賃金は少なく、病気の父親を抱え苦しむ人、
高校時代から自分で学費を稼ぎ、フリーターとしてやってきたが、30才を過ぎてから、
なかなかアルバイト先も見つからなくなり路上生活するようになってしまった人、
貧困に喘ぐ母子家庭、蓄えがなく死ぬまで働かなければいけない老人たち・・・、
など、働いても働いても生活が楽にならない人々の話が列挙されている。

また、今の60~70代の親世代は、まだ蓄えが有り、
上記のような低賃金に喘いでいる子供世代を助けられる余裕がある者も多いが、
今親に助けられている世代が、今の親世代になった時、どうなるのか・・という不安も投げかけている。

今の日本を覆う貧困の現状と、光が見えない未来を暗示している本。
これだけ読むと自分の息子の将来が心配で、すごく重い気持ちになります。

「解決編」があるようなので、それを読めば光は見えるのか??

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と、ここまで書いて放置してる間に、「ワーキングプア-解決への道」も読んでしまいました。

ワーキングプア 解決への道

ワーキングプア 解決への道

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 単行本

7点

日本が陥っているワーキングプア増加の現状を打破する道を模索するため、
海外の状況を取材した本。

取材先は、日本より非正規雇用の割合が多い韓国(日本33%、韓国55%)、
貧富の格差の問題が進んでいるアメリカ、若年層の失業・貧困が問題になっているイギリスの3国。

日本より非正規雇用の割合が多い韓国では、有名大学卒業の一部の人間しか安定した職業に
就くことができず受験戦争に拍車をかけているという。
今の日本も、高校卒業の就職率の落ち込みが激しく、大学を卒業しても就職は厳しい。
その先には、韓国のように、信じられないほど加熱した受験戦争が待っているのかもしれない。
韓国では、非正規雇用者保護のための法律が作られたが、抜け道があるため、
逆に非正規雇用の人達の首をしめる結果にもなっている。
これも、ありそうなことだ。
難しいのは、非正規雇用者を正規雇用者と同じ待遇で雇えるほど企業に余力が無いということだ。
日本でも、最低賃金をあげたり、非正規雇用を禁止した場合、
正規雇用者の給料を下げなければ企業が持たないだろう・・という指摘もある。

アメリカでは、国ではなく、州など地方自治体の失業への取り組みを取材している。
将来的にも発展の見込みがあり、国外にアウトソーシングされない業種を選び(ここではバイオ産業)、
企業を誘致し、そこで働けるスキルを持つ人を育成するというノースカロライナ州の政策。
アメリカでは、そういう戦略的計画的な試みがなされるようになっているという。

また篤志家達が莫大な寄付をして作った無料診察所、低所得者向けの食料クーポンや配給所など、
日本ではまだまだ発展してない貧困層へのセーフティネットがアメリカにはある。
日本がアメリカと同じ状況になったら、何倍も餓死者がでるだろうという話もある。

イギリスでは、日本でも既に見られるようになった、親が定職につけず貧しく、
その子どもも同じ道を歩むという貧困の連鎖を食い止める為の、試みを取材している。

若者達への職業訓練、イギリスと日本の大きな違い。
それは有給か無給かだ。
日本では、職業訓練を受けている間、無給である為生活ができなくなり、
途中で挫折してしまう人も多いという。

イギリスでは、給料をもらいながら職業訓練を受けられる事により、職業訓練を継続して受けられ、
また仕事に対する情熱や希望がより強く持てることなどのメリットが語られている。

そして、模索する日本として、まだまだ試行錯誤中の日本の現場の様子が語られている。
最後に示された解決への道は、希薄になった人間関係を脱却し、
ワーキングプア同士が連携する事だ。

市場原理主義、グローバル化などにより、日々深刻度を増す雇用問題や貧富の格差。
本書の最後に「解決への道」が示されてはいたが、それは方法の一つであり、
まだまだ日本の模索は続きそうだと思った。






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