「害虫の誕生-虫から見た日本史」瀬戸口 明久著:江戸時代、ハエは [本ノンフィクションいろいろ]
7点
昔の日本に「害虫」という認識は無かった。
作物に対する虫害は、タタリであり、日照りのような自然現象・天災と同じ扱いだった。
虫は自然に湧いてくるものと認識し、害虫駆除の為のお札を畑に立てるだけで満足していた農民達。
一茶の俳句にハエの仕草が詠まれたように、町に住む人々も、
今では忌み嫌われているハエや蚊をそれほど敵視していなかった。
明治に入り、事態は一変する。
西洋から昆虫学を学び、「害虫≠自然発生・天災」ではないと農民達を啓蒙しようとした昆虫学者達と、
古くからの考えを捨てず、反抗する農民達。
害虫駆除の作業は労力がかかり、農民の意識改革無しには、実践することは困難だった。
民間の昆虫学者である名和靖は、警察などの公的な力を使い、強制的に駆除作業をさせる一方、
自然科学の概念を押し付けるだけではなく、農民達が進行していた仏教徒の融合をはかり、
害虫の供養塔を立てたりして、農民達に害虫の概念を浸透させていった。
都市部でも、人々が恐れていたコレラを広めるものがハエという啓蒙が進み、
率先してハエが駆除されていく。
昆虫の研究が進むにつれ、「害虫」という認識が人々に広がっていく。
そして、害虫駆除の研究、その発展の歴史、害虫を認識させる啓蒙活動には、
戦争の影響がとても大きいことも、この本では取り上げられている。
殺虫剤が、毒ガス兵器の開発の中でできあがったり、
逆に殺虫剤用に開発されたものが毒ガスに転化されたりもしている。
熱帯に支配地を持つようになった日本軍が直面したマラリアが、
蚊の研究を進めることにもなったという。
本書では、人々の特定の物への認識が時代によって変化していく様を、
「害虫」の誕生というテーマで語っている。
なかなか興味深い内容ではあったけど、かなり地味なテーマだし、
「応用昆虫学」の発展という、もう一つのテーマにもかなりページを裂いていることもあり、
両方に興味がないと、飽きちゃうかも。
私の場合、人々が賞金目当てで、ハエを必死に捕獲するエピソードなど、
当時の人々の生活に関する記述や、人々の意識の変化は面白かったけど、
応用昆虫学の発展に関してはあまり興味がなかったので、
興味を持って読んだところ半分、そうじゃないところ半分という感じでした。
真面目にテーマに取り組んでいる著者の姿勢には、好感を持ったけど。
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