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「最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?」ポール・コリアー著 [本ノンフィクションいろいろ]


最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?

最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?

  • 作者: ポール・コリアー
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2008/06/26
  • メディア: 単行本

7.5点

発展途上国に位置付けられる国はたくさんあるが、この本ではその中でも最底辺、
もっとも貧しい国を「最底辺の国」とし、それらの国々が本当に必要なこと・物は何か、
該当する国やそれを援助する国際社会は何をすべきなのかを、
データを分析することにより考察している。

最底辺とされる国の多くは、アフリカとくにサハラ以南に多い。
無政府状態のソマリア、ツチ族がフツ族を大虐殺したルワンダ、
世界で一番寿命の短い国(今は違うらしい)と言われたシエラレオネ、ウガンダ、中央アフリカ・・・。

どの国も、出口が見えない貧困と混沌の中で喘いでいる。

著者は、最底辺の国々が以下の4つのいずれかの罠(複数持つ事もある)に捕らわれているとしている。

・紛争の罠
・天然資源の罠
・内陸国であることの罠
・劣悪なガバナンス(統治)の罠

最底辺の国の多くは、内戦やクーデターが頻繁に起きている。
貧困の度合いが高いほどこのリスクはあがり、また紛争が起きるほど貧困の深刻さが増す。
終わりの無い堂々巡りのようだ。

天然資源の罠に関しては、天然資源があることにより、独裁政権の資金調達が簡単になり
(国際的な制裁があっても、中国などが気にせずお金を出してしまう)それを維持しやすい罠・・
なのかと思っていたら、それよりもっと悪い状況に陥りやすいことが書いてあった。
天然資源で資金が調達できる場合、その国は、他の産業の経済的発展が滞ってしまう。
オランダ病とも言うらしい。
オランダは、天然ガスが近海で発見され、その輸出による利益が膨大だったせいで、
他の産業の発展が著しく疎外されてしまった・・ということから来ているらしい。
国が発展するには、一次産業ではなく、競争力のある国内製造業の発展が必要だと著者は言う。
しかし、天然資源の輸出で膨大な利益が入って来る場合、製造業などへの投資より、
天然資源への投資の方が利益が高く、結局その国の産業は発展せず、廃れていってしまう。

また、天然資源の輸出により得る膨大な利益は、その国の為替レートをあげ、
製造業の国際競争力を奪ってしまう。
天然資源による利益は、国民に還元されず、一部の権力者が独占しやすいという問題もある。

フェアトレードへの言及もあり、これもまた一次産業保護であり、影響は微々たるものではあるが、
その国の真の発展を促すものではないとしている。

フェアトレードの問題点については、「エコ罪人の告白」で、
自分が作ったものがフェアトレードで取引きされていても、
人々は貧困から抜け出せない事を指摘していた。
ただ、それでも、フェアトレードで自分の作った作物が取引きされている人は、
そうでない人に比べ、収入は多いし、まだ未来はあるとも「エコ罪人の告白」には書いてあったけど。

内陸国の罠は、海を持たない国は、周辺国が豊かで無い限り輸出で伸びる事が難しく、
アフリカのように貧困国がほとんどの場合、海を持つ国に比べて、
より発展が難しいということを指摘している。

劣悪なガバナンスの罠では、腐敗した政治が国の発展に与える影響を示唆し、
アジアに置けるバングラディシュなどを引き合いに、その影響の大きさを論じている。
そして、アフリカの国々のガバナンスは、アジアの国々とは比べ物にならないほど悪く、
劣悪なガバナンスの国がとても多いとも。
チャドでは、財務省が農村の診療所用に支出した資金の99%が行方不明になっていたという。
役人の腐敗による影響は、国の発展を大きく妨げる。
劣悪なガバナンスの方向転換させるのは長い時間がかかり、そしてかなり難しいという。

八方ふさがりにも見える最底辺国の方向転換。
著者は、「最底辺の国」を救うために「援助」「安全保障」「法と憲章」「貿易」について、
どのような方針・方向性を持って動けばよいか、後半で持論を展開している。

援助に関しては、本当に援助がこの国を救済しているのかについて言及し、
考えが足りない海外からの援助の弊害についても述べてある。
タイミングが悪い高額な海外援助は、「天然資源の罠」と同じ状況にその国を陥れるという。
また、融資が、独裁者の政権維持の為の軍事に回されることもある。
純粋な善意からではあるが、しっかりした考えを持たない援助の弊害は、
いろいろな本でも述べてある。

海外から援助資金を得る為、何かしらの約束をし、それを行わないまま、
援助金だけを受け取るということも多いという(北朝鮮なんかもそうだ(^_^;))。
しかし、援助による成果・結果を期待すると、失敗リスクが高い「最底辺の国」は
援助先から外されてしまう。
援助する側の役人が成果がでないのを望まないからだ。

他にも、大規模援助がクーデターを誘発しやすいこと、
援助の内容とタイミングがその国の状況にそぐわない事になりやすい理由など、
興味深い事例がいろいろあげてあった。

またこの本では、多くの人が眉をひそめるであろう軍事による介入が、
適切に行われれば、内戦を即停止することができるいうことや、
軍事介入後、即撤退した為、無政府化しいろいろな問題を抱えているソマリアや、
軍事介入に躊躇した為、被害が拡大したルワンダの虐殺などについても述べられている。

じゃぁ、国連平和維持軍が多く派兵されればいいかというと、そうでもない。
東ティモールは、危険が少ないのにたくさんの平和維持軍兵士が派兵されている。
なぜなら、兵士一人当たり月1000ドルが派兵した国の政府に入る為、
安全で、お金まで入ってくる東ティモールには派兵したがるのだそうだ。
本当に平和維持軍が必要なところには、行かせたがらないという。

「法と憲章」の章では、独裁者の預金を、欧米の銀行が平気で預かっている事、
先進国が最底辺国で何かしらの計画を進めようとする時に賄賂を使う事が、
また政治の腐敗をひどくするなどの指摘もあった。
最底辺の国のインフラ整備の為に、国際社会が多額の資金を出す。
すると、そこには必ず賄賂が発生する。
これは、難しい問題で、そうしないと、その事業がうまく進まない事が多いからでもある。
NGO活動などでも、その土地の有力者に話をつけないと、何も進まない事があるという。
しかし、こうやって賄賂を渡すことで、賄賂を貰ったものは力をつけ、
クリーンに活動をしている政治家を駆逐してしまうという結果を招くという。

また外国企業が活動している資源国ほど、腐敗が激しいという。
劣悪なガバメントを方向転換させるには、国際社会でも、
最底辺国に対するあり方の法律が必要だと著者は説いている。

他に、傍目には、「最底辺の国」を保護するように見える貿易政策が、
逆に「最底辺の国」の発展を阻害しているなどの指摘もあった。

最底辺国が、そこから脱出することの難しさ、
また外国資本・援助などの関与がそれをより難しくしているケースも多い事など、
興味深い事例がたくさん載っていた。

お勧めの一冊♪

アフリカの現状を、現地で具体的に取材した「アフリカ苦悩する大陸」も合せて読んで欲しい。
ミクロ・マクロ両方の視点からアフリカの問題を捉えることで、また新しい事が見えてくると思うので。

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