「不潔の歴史」キャスリン アシェンバーグ著:ヨーロッパ中世は垢まみれ。そして今のアメリカは不潔恐怖症! [本ノンフィクションいろいろ]
7.5点
ヨーロッパの清潔・不潔への価値観の移り変わりから、現代アメリカの不潔恐怖症までを、追った本。
古代ローマの大浴場は有名で、当時の人々は入浴を日課にし清潔にしていた。
しかし、4世紀頃からキリスト教の教義が入浴に否定的に、不潔である事を推奨するよう変化した事や、
伝染病への恐れなどから、「入浴」は堕落した行為、水に体をつけるのは体に悪い事、病気の原因、
垢が体を守ってくれるなどの価値観が徐々に広まり、中世ヨーロッパでは、
入浴というより、体を清潔に保つという事すら廃れてしまったという。
洗うのは人に見せる、顔や手だけ(髪の毛はベタベタ)。
水が悪いものだと思われていたので、高貴な人、王様などほど、体を洗わなかった。
清潔な服を着ていても、体は垢まみれ。
そんな状態が20世紀初頭まで続いた国もあるという。
中世ヨーロッパは、糞尿を道に捨てたり、その処理をちゃんとしていなかった為、
街中や、ベルサイユ宮殿までもが悪臭に満ちていたというのは、知っていたが、
入浴や体を清潔に保つという事に対し、ここまで否定的な価値観が広まっていたというのには驚いた。
貴族たちは、服を洗っていたが、貧民達は、一度来た服をずーっと来たまま。
冬服を子供に着せた親が、春までは脱がないので、シャツの前を縫ってしまっていたというような、
エピソードにはほんとびっくりした。
日本でも、平安時代、香が流行ったのは、貴族達がほとんど入浴しなかったせいだと言われるが、
ヨーロッパでも、そのような理由で香水が流行った。
日本では、入浴が大々的に否定される事は無く(江戸時代、銭湯が普及しだした時、
漢方医などは、温浴に否定的だったらしいが)、鎌倉時代の蒸し風呂から、入浴の習慣は脈々と広まり、
ヨーロッパのような、清潔恐怖症にはならなかったようだ。
ヨーロッパの衛生観念へ大きな影響を与えたのがアメリカで、
アメリカでは、石鹸業界のCM、体臭や口臭に関する否定的な広告が大きな影響を与え、
人々の衛生観念を大きく変化させた。
19世紀末のアメリカでは、不潔なヨーロッパ人、清潔なアメリカ人との区別もあったという。
しかし、本書に、アメリカでは何でも極端で、ルール化すると書いてあるように、
アメリカは極端な清潔志向、不潔恐怖症とも言える状況へ向かっていく。
現在の日本も似たような感じだろう。
ヨーロッパでは、女性が体毛をあまり剃らないのに比べ、
日本やアメリカでは綺麗なまでに処理する事の違いもこの辺にある気がした。
本書で紹介されているホラス・マイナー教授が書いた「ナーシレマの身体儀式」という論文は面白かった。
ナーシレマという人種は、成熟した市場経済を謳歌しているが、複雑な儀式をとりおこなっている。
と、その儀式の様子を事細かに描いているのだが、「Nacirema」は「American」を逆に綴った文字。
儀式とは、家庭での入浴。
軽蔑的に風刺的にアメリカ人を研究している論調で書かれており、
アメリカ人の清潔へのこだわりも、こういう視点でみると、かなり奇異な行動に見える。
しかし、アメリカ人の清潔へのこだわりは、ヨーロッパにも広がっていく。
不潔な環境や不潔な体は、皮膚病などの病気を引き起こしやすい。
医学の発達や細菌などの発見により、従来の「入浴や体を清潔にする事に否定的な医学」は消え去り、
徐々にヨーロッパでの衛生観念も変化していった。
しかし、最近では、清潔過ぎる環境が、
アレルギーや喘息患者を増やすという衛生仮説が話題になっている。
この本では、他にも清潔過ぎる環境により、糖尿病や関節リウマチ、
心臓疾患まで引き起こすとなっていた。
こういう本を読むと、自分が現在当たり前と思っていることが、
少し前までは当たり前ではなかったと知り、いつも驚く。
そして、衛生仮説などのように、不潔恐怖症とも言える現在の価値観を否定する新説があるのも面白い。
今「いい」と言われている事のいくつかは、後世には否定されているのかもしれない。
常識というのは、時代によって、これほどまでに変化するんだなーと思わせてくれる一冊。
アメリカでの衛生観念の広まりからは、CMによる煽動・洗脳の怖さも垣間見える。
お勧めです(^^)。
ヨーロッパの清潔・不潔への価値観の移り変わりから、現代アメリカの不潔恐怖症までを、追った本。
古代ローマの大浴場は有名で、当時の人々は入浴を日課にし清潔にしていた。
しかし、4世紀頃からキリスト教の教義が入浴に否定的に、不潔である事を推奨するよう変化した事や、
伝染病への恐れなどから、「入浴」は堕落した行為、水に体をつけるのは体に悪い事、病気の原因、
垢が体を守ってくれるなどの価値観が徐々に広まり、中世ヨーロッパでは、
入浴というより、体を清潔に保つという事すら廃れてしまったという。
洗うのは人に見せる、顔や手だけ(髪の毛はベタベタ)。
水が悪いものだと思われていたので、高貴な人、王様などほど、体を洗わなかった。
清潔な服を着ていても、体は垢まみれ。
そんな状態が20世紀初頭まで続いた国もあるという。
中世ヨーロッパは、糞尿を道に捨てたり、その処理をちゃんとしていなかった為、
街中や、ベルサイユ宮殿までもが悪臭に満ちていたというのは、知っていたが、
入浴や体を清潔に保つという事に対し、ここまで否定的な価値観が広まっていたというのには驚いた。
貴族たちは、服を洗っていたが、貧民達は、一度来た服をずーっと来たまま。
冬服を子供に着せた親が、春までは脱がないので、シャツの前を縫ってしまっていたというような、
エピソードにはほんとびっくりした。
日本でも、平安時代、香が流行ったのは、貴族達がほとんど入浴しなかったせいだと言われるが、
ヨーロッパでも、そのような理由で香水が流行った。
日本では、入浴が大々的に否定される事は無く(江戸時代、銭湯が普及しだした時、
漢方医などは、温浴に否定的だったらしいが)、鎌倉時代の蒸し風呂から、入浴の習慣は脈々と広まり、
ヨーロッパのような、清潔恐怖症にはならなかったようだ。
ヨーロッパの衛生観念へ大きな影響を与えたのがアメリカで、
アメリカでは、石鹸業界のCM、体臭や口臭に関する否定的な広告が大きな影響を与え、
人々の衛生観念を大きく変化させた。
19世紀末のアメリカでは、不潔なヨーロッパ人、清潔なアメリカ人との区別もあったという。
しかし、本書に、アメリカでは何でも極端で、ルール化すると書いてあるように、
アメリカは極端な清潔志向、不潔恐怖症とも言える状況へ向かっていく。
現在の日本も似たような感じだろう。
ヨーロッパでは、女性が体毛をあまり剃らないのに比べ、
日本やアメリカでは綺麗なまでに処理する事の違いもこの辺にある気がした。
本書で紹介されているホラス・マイナー教授が書いた「ナーシレマの身体儀式」という論文は面白かった。
ナーシレマという人種は、成熟した市場経済を謳歌しているが、複雑な儀式をとりおこなっている。
と、その儀式の様子を事細かに描いているのだが、「Nacirema」は「American」を逆に綴った文字。
儀式とは、家庭での入浴。
軽蔑的に風刺的にアメリカ人を研究している論調で書かれており、
アメリカ人の清潔へのこだわりも、こういう視点でみると、かなり奇異な行動に見える。
しかし、アメリカ人の清潔へのこだわりは、ヨーロッパにも広がっていく。
不潔な環境や不潔な体は、皮膚病などの病気を引き起こしやすい。
医学の発達や細菌などの発見により、従来の「入浴や体を清潔にする事に否定的な医学」は消え去り、
徐々にヨーロッパでの衛生観念も変化していった。
しかし、最近では、清潔過ぎる環境が、
アレルギーや喘息患者を増やすという衛生仮説が話題になっている。
この本では、他にも清潔過ぎる環境により、糖尿病や関節リウマチ、
心臓疾患まで引き起こすとなっていた。
こういう本を読むと、自分が現在当たり前と思っていることが、
少し前までは当たり前ではなかったと知り、いつも驚く。
そして、衛生仮説などのように、不潔恐怖症とも言える現在の価値観を否定する新説があるのも面白い。
今「いい」と言われている事のいくつかは、後世には否定されているのかもしれない。
常識というのは、時代によって、これほどまでに変化するんだなーと思わせてくれる一冊。
アメリカでの衛生観念の広まりからは、CMによる煽動・洗脳の怖さも垣間見える。
お勧めです(^^)。
アメリカ人が潔癖だ、と言うのは「えぇ~?」と言う感じですね。
まぁ、ガイジン基準から見たらそうなるのかも知れませんが。
都市部の人間とイナカの人間、あるいは生活水準などによって
落差が激しそうな気もしますね。
一方、日本人は間違いなく潔癖でしょう。
以前トイレの洗剤のCMで「きれいに洗ったつもりでも、トイレには細菌が~」
なんっつってて「便所が汚ねーのはあたりめーじゃねーか!」と思った覚えがあります(笑
あるいは、ドアを開けると便座のフタが自動で開く、なんてのがあって、
「触らなくていいから清潔だ」ってんだから、コレには心底呆れましたね。
by コステロ (2011-01-11 10:18)
コステロさん
アメリカ人の場合、清潔というより、臭わないというのが
重要な気もします。
マウスウオッシュとか、デオドラント剤とか、その手の
衛生用品って、多くがアメリカ発ですし。
ただ、生活水準による落差は激しそうですよね~。
日本人の場合、総中流、同じ方向を向きやすい分、
全体の清潔思考も強そうですよね。
一時期抗菌物が流行りましたが、自分を守る菌まで殺しちゃって
どうする・・と思った覚えが(^^;)。
それに、シャンプーとかの回数増えると、それだけ環境汚染を
してるって事でもあるんですよね。
不潔にしろ清潔にしろ、あまりに極端なのは・・って感じですよね。
by choko (2011-01-11 13:50)