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「弱いロボット」岡田美智男著:不完全でできることが少ないロボット。それが周囲に及ぼす影響とは・・? [本ノンフィクションいろいろ]

弱いロボット (シリーズ ケアをひらく)

弱いロボット (シリーズ ケアをひらく)

  • 作者: 岡田 美智男
  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2012/08/24
  • メディア: 単行本
7.8点

アシモが二足歩行した時も、そして走った時もすごく衝撃を受けた。
世界でもトップクラスの工業用ロボットの会社ファナック(ロボットより、
黄色過ぎる-リンク先参照-のが衝撃で覚えたんだけど(笑))。
歩き、走り、物をつかみ、会話し、オリジナルに似せ、表情を豊かにし・・どんどん進化するロボット。
本書の中の言葉を借りれば「足し算としてのデザイン」。

しかし、この本で取り上げられている「弱いロボット」とは、「引き算としてのデザイン」。

最初に取り上げられる「む~」というロボットは、上下左右の動きをPCから操作できる
ウエブカメラに、バネをつけたものがベースになっている。

カメラ本体が上下左右に動くと、バネで揺れる。
話しかけると、「む~」というような喃語で返す。
作られた当時のチップの処理速度の遅さから、反応までに間があく。

自分で移動できない、何かをとることもできない、シンプルでアナログなロボット。

著者は、このロボットの開発で、雑談などのちょっとした人間のコミュニケーションの研究と、
人間が何気なくやっていることの複雑さ、そして「何もできない」事、不完全な事が、
周囲に及ぼす影響を考察している。

ということで、この本、ロボット開発の本でもあるけど、人々の認知や、
コミュニケーションや、弱いものへの人の働きかけ、そしてその心理についても語っている本である。

最初、ロボット開発の本だとばかり思っていたので、どんどん話がコミュニケーションメインに
なっていくのに違和感を感じたんだけど、この本のシリーズは、看護や介護、
発達障害などのケアに関する本ばかりのラインナップなのに気がつき納得してしまった。

本の表紙の折りこみ部分に書いてあるように「自分でとれないならとってもらえばいい・・・・
不完全さを悟りつつ他者に委ねる姿勢を持てるか・・・他者への眼差しを持てるか・・」(途中略)が、
テーマなのである。

私達が普通にやっている「歩く」という行為。
昔のロボットの歩き方のぎこちなさは、バランスをとったまま歩行していたから。
人間はバランスを崩しながら、歩いているという。
これは、地面に自分を委ね、地面にしっかり受け止めて貰えなければ成り立たない行為。

会話も、自分の言葉を相手に委ね、相手の返事もまた、自分へ委ね・・・
互いに委ね合って2人で作り上げているものほど雑談っぽくなるという。

人と人の関係は、相手との距離、視線の向き・・・etcと、知らずにいろいろと調整されている。
「ソーシャルなロボット」の開発には、そういう視点も重要だ。

自動販売機から言われる「アリガトウゴザイマシタ」という言葉は、心に響かない。
でも、他人からの挨拶やお礼の言葉には、知らず知らずに「応答の義務(応答責任)」を感じる。
乳幼児は、何もできないのに、ちょっとした仕草、喃語などによって、
周囲が自主的に働きかけ、助けてくれる。
どうやったら、ロボットに対し、そういう気持ちを持ってもらえるかの工夫。

そして「1人では何もできないロボット」が、子どもたちや、老人ホーム、養護学校などで、
どのような影響を人々に与えたのか、どのような「場」を作り出したかなども、書かれている。

後半には、単にもぞもぞと歩きまわるだけの「ゴミ箱の姿をしたロボット」の紹介もある。
誰かがゴミを入れてくれなければ、役に立たないロボット。
ロボットが一体だけだと、三体にすると・・どう周囲の反応が変わるかなどの、観察結果も面白い。

またロボットに関することだけでなく、電車の中での携帯電話や、化粧がなぜ嫌がられるのかを
「儀礼的な無関心」を強いるからだと考察したりもしていて、人間が日々何気なく行なっている
コミュニケーションや行為について、科学的に考察、説明してくれている本でもある。

とりあえず何か作ってみよう・やってみよう!というスタンスのロボット開発の経過も楽しいし、
社会学、認知科学的な考察も面白く、またその語り口が、ほんわかとしていて、
読んでいて心地良いのも良かった♪

読みやすいので、ロボット、人間のコミュニケーションの妙、どちらかにでも
興味がある人にお勧め(^-^)ノ。
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