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「朽ちていった命-被爆治療83日間の記録」 [本ノンフィクションいろいろ]

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫
  • 8点
 
 
1999年、東海村で核燃料加工中、臨界事故が発生した。その時、大量の放射線を浴びて病院に運び込まれた作業員一人の治療を追ったドキュメンタリー。
原爆投下後の広島の様子と、被爆した主人公の体調の変化、苦しみ、悩みを描いた井伏鱒二の「黒い雨 」を読み、被爆後の体調の悪化や、被爆後しばらく元気だった人が次々に亡くなって行くというのは知っていたが、この本を読み、もっと切実にもっと具体的に、人の体が放射能に蝕まれていく様子を知る事が出来た。
それは、この本のタイトルにもあるように体が朽ちるという事なのだ。
生きている体は再生能力を持っている。しかし、放射能により、DNAがズタズタに破壊され、再生能力を失った体は、生きているにも関わらず、朽ちていくのだ。
皮膚の代謝サイクルは2週間。2週間経つと新しい皮膚になるのだが、再生能力が失われた皮膚は、腐り落ちていくだけである。本の中に、被爆直後の腕と、しばらく経ってからの腕の写真が掲載されているが、被爆直後、全く変化が見られず普通だった腕が、その後まるで大ヤケドを負った直後のような無惨な姿へと変わっている様は衝撃だった。
そして、そのような放射能の影響は、皮膚などの表面だけでなく、体内にも及び、大腸などの粘膜は再生しないまま剥がれ落ち、親族から輸血された血液は、患者の体内で異形の物へ変化してしまう。
入院した直後は、元気で会話も出来た患者の容態が、徐々に悪化し、最後には機械によって生かされていく姿へと変わっていく。
人間の再生能力そのものが破壊されてしまったという状態になった時、今の医学がいかに無力かというのがわかる。
そのような先の見えない状況の中、治療に臨む医師や、最後まで希望を捨てず耐える家族の姿が胸を打つ。
治療の最終段階において、既に回復する見込みも無く、いろいろな治療や薬の投与を試されつづけ、もはや研究材料になってしまっているのではないかと思える患者を生かし続ける医師の葛藤があまり取り上げられていないのが残念だが、NHKの取材物なので、それはしょうがないかなと思った。
でも、治療に携わった看護婦達の、運ばれて来た当初は元気で周囲にも気遣いを忘れず明るかった患者が、最後には物言わぬ変わり果てた姿で機械につながれてしまったという状況の変化への戸惑い、苦悩、悲しみは強く伝わって来た。
被爆の恐ろしさが伝わってくる一冊。

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