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「もの食う人びと」辺見庸:戦火の下で、チェルノブイリで、ソマリアで・・人は何を食べているのか [本ノンフィクションいろいろ]


もの食う人びと (角川文庫)

もの食う人びと (角川文庫)

  • 作者: 辺見 庸
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1997/06
  • メディア: 文庫


7点

バングラディシュ、ベトナムなどの東南アジア。
旧東ドイツ、ポーランド、クロアチアなどのヨーロッパ。
ソマリア、エチオピアなどアフリカ。
ロシア、ウクライナのチェルノブイリ。
韓国。

いろいろな場所を訪れ、そこでの食事を通じて、世界を見ようという本。

東南アジアは、残飯を売る商売が成り立つことから見えるバングラディシュの貧困、
ベトナムの食事風景の変化から見える社会主義から資本主義への移行などが描かれている。

ミンダナオ島の、日本兵の住民に対するカニバリズム事件に関しては、
全く知らなかったので衝撃だった。
ただこの本では、それが「起きた」ということくらいにしか触れられておらず、
機会があったらこの事件に関する本を探してみようと思っていた。
その矢先、図書館の不要本(勝手に持って帰っていい本)の中に、
この事件を扱った「悔恨の島ミンダナオ」を発見!
時間がある時、読む予定。

旧東ドイツでは監獄に食事に行き、
そこで監獄の中にまだ残っている社会主義体制(囚人の人権無視)や、
旧東ドイツで増え続けるトルコ料理の「ケバブ屋」と外国人排斥運動についての
関係などが考察されている。

クロアチアでは、戦火で破壊され、今なお砲弾が飛んでくる危険な村に残る老婆との食事や、
家を失い駅に停車したままの列車に何年も住む家族の食事の風景から、
戦争に巻き込まれた個人の悲しさを描いている。

セルビア正教会の修道院での滞在では、修道士に、
宗教は戦争を止められない、無力ではないのかということを問いただす。
独立しようとするコソボを守るために、何故武装までするのかとも。
この辺のやり取りは、あまり好きではなかった。
本来武装を否定する修道士達が、
武装しなければならないほど危険な状況である事を考慮せず、
「何故武装するのか?」と問い詰めるのは、どうかと思った。
またアルバニア系住民が90%を占めるコソボの独立を
何故認めないのかとセルビア人修道士に聞く部分も疑問に思った。

コソボ問題では、宮嶋茂樹がすごくわかりやすい説明をしていた。
日本の京都で、どんどんある国の人間が増え、日本人より多くなり独立を宣言する
コソボはそういう状態なのだと。
セルビア人にとって、コソボは日本人にとっての京都と同じような場所。
「日本人は少数派になったから、京都の独立を認めましょう」
と言える日本人がどれだけいるのだろう?

その辺の部分が、著者の考えの詳細が書かれず、
紋切り型の質問だけで表現されているので、すごく短絡的に見えてしまった。

全権を剥奪されたヤルゼルスキ前ポーランド大統領との会談は、
前大統領の素朴さが垣間見えて、この本のルポの中でも好きな話である。

内戦状態で治安が恐ろしいほど悪化したソマリアでは、難民の置かれた悲惨な状態と、
各国から派遣された治安維持軍の兵士の優雅な食事を比較し、皮肉っている。

これに関しても、簡単にまとめすぎな気が。
個人個人の食事から社会を眺める、1つの事件を追うというような視点のルポは面白いが、
こういうマクロな視点が必要な事例の場合は、ページ数の問題もあるのか、
読者にわかりやすいように簡単にまとめすぎてしまっている・・という感がぬぐえない。

ロシアでは、兵士の餓死問題を追及している。
いじめ・軍倉庫からの横流しによる食糧不足・秘密主義と腐敗・・
ロシア軍内部のいろいろな面が捉えられている。

チェルノブイリでは、放射能汚染地帯に入り、
禁止されているにも関わらず、戻って来て住んでいる人々と一緒に食事をしている。

韓国では、抗議のため割腹自殺を図った、元従軍慰安婦だった婦人3人を取材している。

著者の取材にかける熱意や、思い切った行動に脱帽してしまう話もあるし、
ほのぼのとした現地の人々とのふれ合いが心地よい話もある。

逆に、短絡的にまとめてしまっているなと思えるものもあった。
また著者の気持ち・考えがあまり述べられていなかったり、
まとまっていなかったりで「傍観者的過ぎる」と思えるものも。
これは、現状をそのまま伝えようという意図なのかもしれないけど、
そうではない話もあるので、違和感があった。

内容によって完成度のばらつきは感じるけど、
「食を通して見えてくるいろいろな国の人々の様子」というテーマは
しっかりつかんでいる本だと思う。

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