SSブログ

「トイレの話をしよう-世界65億人が抱える大問題」ローズ・ジョージ著:トイレは美談になりにくい [本ノンフィクションいろいろ]


トイレの話をしよう 〜世界65億人が抱える大問題

トイレの話をしよう 〜世界65億人が抱える大問題

  • 作者: ローズ ジョージ
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/09
  • メディア: 単行本

7.5点

トイレの設置と公衆衛生について真面目に語った本。

発展途上国に援助している企業や、政治家は「人々にキレイな水を・・」というのはみなやりたがるのに、
トイレには触れたがらないと著者が指摘していたが、本当にそうだなーと思う。

テレビ番組で、発展途上国の村やスラムの飲み水の汚さを示す映像は流すが、
その辺に大量にあるだろう排泄物の映像が流れる事は無い。
テレビ番組で、キレイな水の為に井戸を掘ったり、水道を引いたりという美談は放送するが、
トイレの設置支援を大々的にやる番組は無い。
「キレイなトイレが出きて嬉しいです!」ってのは感動映像にはなりにくいだろうし。

でも、飲み水を汚染しているのは人々の排泄物。
その辺に垂れ流されている排泄物がコレラや感染症を蔓延させ、
また多くの子どもが下痢のため死亡していると、著者は強く主張する。
トイレの普及が成功した村では、感染症にかかる人や、
子供の死亡率が劇的に下がるという。

キレイな水の提供や衛生環境の改善に、
トイレの提供はかかせないというのが本書の大きなテーマだ。

寄生虫の本を読むと、やはりトイレが無く、人々がその辺で排泄するため、
寄生虫を拡大させるとして、トイレの必要性を説いている事が多いが、
それは特定の場所での報告が多い。
世界各国をまわり、各国のトイレ事情と衛生環境をマクロな視点で捉えた本は初めてで興味深かった。

テレビでもあまり取り上げられない為(汚すぎて映像として流せないのだろう)、
世界にこれだけトイレがちゃんと無い場所が多いとは知らなかった。
現在世界の10人に4人が、掘込便所も、バケツも箱もなく、その辺で排泄しているという。

溜まりすぎて汚物が外に垂れ流しになっている便所でも、
それがあることが幸運だとこの本には書かれている。

インドのトイレの汚物を汲み取る仕事を専門にするカースト「サファイ・カラムチャリ」
(英語で「マニュアル・スカベンジャー」:手作業の糞尿処理人)の話は、
背景にある根深い差別の話も合わせ、衝撃的だった。

アフリカのある都市ではビニール袋に排泄し、それをその辺にポイポイ捨てるのだそうだ。

またトイレの無い地域にトイレを普及させることの難しさを、
インド、南アフリカなどいくつかの地域でトイレ普及の為に奮闘する人々を取材し、説明している。

トイレは設置するだけではダメで、維持するためには労力もお金もかかる。
日本の公衆トイレや駅のトイレも30年くらい前は、恐ろしく汚い場所が多かったのからも、
キレイに維持するというのが難しいのがわかるだろう。

水洗トイレにするには、水道が必要であり、汲み取りであれば、
定期的な汲み取りが必要だし、トイレの掃除などの維持もかかせない。
そして、それはどれもお金がかかる。

元々屋外で排泄することに慣れた人々が、荒れた汚いトイレで排泄するより、
屋外を選んでしまうのは、当たり前の事だ。
トイレを設置するだけでなく、それを維持するためには、
トイレの必要性を感じていない人々の意識を変革させることから、はじめなければいけないという。
それは時間のかかる、大変な作業だというのが、この本を読むとよくわかる。

また、先進国での下水処理の問題点についても取り上げている。
アメリカ、イギリスなどの下水道に入り、その様子を取材した記事もある。
壁一面のゴキブリとか・・(^_^;)。
でも、それより、心ない人が排水口に油を流したり、トイレにトイレットペーパー以外のものを
流したりすることの弊害が印象的だった。

下水処理の途中ででる汚泥の処理問題についても触れている。
下水処理場から出た汚泥で作られた(バイオソリッド)肥料が散布されているアメリカでは、
その周辺に住む人々の中に健康被害を訴える者がいるという。

バイオソリッドは人々の排泄物の他、排泄した人が飲んでいた薬の成分、
下水に捨てられた洗剤、薬品、重金属など様々なものから作られている。
それが組み合わさりどのような物になるのかはわからないのに、
「危険と証明された訳ではない」というような理由で散布されているという。
なんとなく、日本の「杉並病」の話を思い出してしまった。

その他にも先進国の抱える下水処理の問題が取り上げられていたが、
残念ながら日本の話は無かった。
日本でどうなっているのかも、気になるところだ。

他には、中国で盛んに取り入れられている、排泄物からガスを作り、
燃料として使用するバイオガスなどについても取材している。
中国取材の最中、有名なニーハオトイレ(仕切りの無いトイレ)に
入らなければならなくなった著者(女性)の戸惑いなどについても記述がある。

ちなみに、世界の国は「糞便恐怖症の国」と「糞便嗜好の国」の2種類にわけられるという。
インドは「糞便恐怖症の国」、中国は「糞便嗜好の国」(「びっくりするぐらい」と補足してあって笑った)だそうだ。
堆肥を使っていた日本も「糞便嗜好の国」に入るのだろう。

日本に関係のある話はウォッシュレットについて。
TOTOとイナックスの両方に取材すると共に、何故日本以外で普及しないのか
(何故日本で普及したのかも)について、言及してある。

とにかく、トイレの問題を多面的に取り上げた本として、興味深い内容が満載。

環境汚染、発展途上国に対する支援、などに興味のある人に。
ウンコの話満載なので、汚いシーン(ウンコを入れたポリタンクが爆発して
ウンコまみれになったとか)も多いので、読む時は食事の前などは避けた方が無難かも(^_^;)。


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 2

ちょび

もう干支が一周しちゃうほど昔のことですが、ムスコがトイレトレーニングで失敗して、その反動でかトイレ絵本に走ってました。

いまだにトイレ系は気になるようで、先日歴史の授業で江戸時代のトイレについて教わったときなど、帰宅するなり報告しにきました。

ベランダにいるというのにでっかい声でそのネタはやめてくれ~って思ったですよ(^_^;)

もう、進路は公衆衛生でいいんじゃ?と思うこの頃。
この本、2人で読んでみようかと思います。


by ちょび (2010-02-10 12:01) 

choko

ちょびさん

息子さん、意外なところにも興味があるのですね~!
でも興味の幅が広いのは、いいことですよね(^^)。

読みやすいし、みんながやらない困難なことを
使命に燃えてやってる人々の行動なども若い子には
刺激になる気がします。
インドのバラモンに属する人が、親族の反対を押し切って
「マニュアルスカベンジャー」救済にあたっていたり。

親子で楽しんで(?)くださいませ(^^)。
by choko (2010-02-10 16:37) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。