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「ハーモニー」伊藤 計劃著:皆が幸せな世界、その行き着く先は??面白いが故に・・・悲しい(>_<)。 [本:SF]


ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

  • 作者: 伊藤 計劃
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/12
  • メディア: 単行本

8点

2009年度ベストSF1位。星雲賞日本長編部門受賞作品。
虐殺器官」を読んで、その才能に感嘆させられた作家、伊藤 計劃の長編2作目。

期待を裏切らず、面白いでき。
そして面白い分、悲しみも。
少し前まで知らなかったけど、昨年34才という若さで亡くなられていたのですね(T_T)。
もっともっと、この人の作品を読みたかった・・・というのが読了後一番感じた気持ちです。

現在からそれほど遠くない近未来社会。
そこは、人が互いに慈しみ合い、病気の心配もない幸福な世界と変貌していた。
「いじめ」「デブ」「ヤセ」・・・などの言葉も既に忘れ去られたものに。
しかし、ユートピアのように思えるその世界は、体内にインストールされたソフトによって、
健康、精神状態が、健康を第一に考える「生府」に厳密に管理されている超高度福祉社会でもあった。
それに息苦しさを覚える主人公。
豊富な知識を持ちカリスマ的な同級生ミァハとの出会いが、彼女を大きく変えていく。
「皆が幸せな世界」に住む人々は本当に幸せなのか?
またその世界の行き着く先に待ち受けるものは??

他人に優しくするのが当たり前で、みなが型で押したように標準の体系をしている社会の空虚さ。
食事は管理され、タバコ、アルコールなどは完全に害悪になり、
カフェインは完全に禁止されてはいないが、摂取している人間は、白い目で見られる、
そんな社会の持つヒステリックさ。
映画も書物も、暴力シーンなど精神に悪影響があると思えるものは排除され
過去の作品のほとんどは見る事ができない世界の閉塞感。
今現在の社会を突き詰めて行くと、本当にそうなりそうだなーと思える部分があるのが怖い。

また、その社会に生きる人々の考え方の変化、今との違いが的確に表現されているのも凄い。

作中の社会にプライバシーはほとんど無い。
誰かを見れば、体内にインストールされたソフトが、
その人の名前や仕事、社会的レベルなどを即座に表示してくれる。
電車で隣に座った人、道ですれ違った人、彼らが誰なのか、すぐわかる。

昔は、近くにいるのが誰なのかわからなかったと知り、
「知らない人が側にいるなんて気味が悪い」と感じる人々。

他にも、そういう意識変化に関するエピソードがいくつもあり、興味深かったし、
今「当たり前」とか「良い」と思っている事をもう一度考えさせられる内容にもなっていた。

ラストまでぐいぐいと引き込まれるストーリー展開、
そして要所要所に挟まれるエピソードの面白さ。
人の優しさ、強さ、悲しさなどを感じるエピソードの入れ方も上手い。
この作者はちょっとしたエピソードの使い方や会話がすごく上手いなーと「虐殺器官」でも感じたけど、
その面白さが、この作品にもある。

読み終わって、この本の作者の作品をもう読めないと思うと、ほんと悲しかった。
読み終えてしまうのが勿体無いと思ったくらい。

また、この作品は、病床で書かれたらしく、一見「天国の様な世界」を、
著者がどのような思いで書いたのか・・というのも気になった。

「虐殺器官」「ハーモニー」どちらも傑作なので、近未来SFに興味があるならぜひぜひ読んで下さい!!
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コメント 4

ufavan

また読みたい本が出来て衝動買いしちゃいそうです^^;
僕が思う「人がいる限り世界平和は訪れないのか」って事にも通じそうなストーリーです!
前作も面白そう 題名にそそられます!!
by ufavan (2010-03-08 10:24) 

choko

ufavanさん

伊藤計劃の作品は、どちらもお勧めですよ(^^)!!

「人がいる限り・・・」って、思っちゃいますよね。
「地球の為に人類は静かに滅ぶ道を選ぶべき」という
主張(そういう会があった記憶が)もあった気がします。

どちらの話も、「人がいる限り・・」のような思想に
触れている部分があるので、そう考えるufavanさんなら
楽しめると思います(^^)。
by choko (2010-03-08 11:33) 

ちょび

「虐殺器官」読み始めました。

テーマはけっこう重い(大きい)けど読みやすくて面白い!
「ハーモニー」も買っちゃおうかな。

夭折されてしまい、ほんと残念な方です。


「虐殺器官」のコメに書いたほうがいいのかもしれませんが、ここに書いちゃいますけど。この数年で読んで面白かった日本のSF。

あまり新作揃いではないんだけど(^_^;)。

「Self-Reference ENGINE 」円城塔
「魚舟・獣舟」上田早夕里
「象られた力」飛浩隆
  未読ですがオットに言わせると「グラン・ヴァカンス」は必読!。
  2から読んだほうが取り掛かりやすいみたいです。
「どーなつ」北野勇作
「ピニェルの振り子」野尻抱介
  もっとハードSFっぽいのとかラノベっぽいのもあるんですが、
  これが一番好きです。

私は未読だけど、冲方丁の「マルドゥック・スクランブル」もいいみたい。読んでみるか~と思ってるところです。
by ちょび (2010-03-12 10:40) 

choko

ちょびさん

たくさんのお勧めありがとうございますV(≧∇≦)V。

「魚舟・獣舟」は内容的にチェックしてた作品なので、
お勧めなら早めに読みたいです(^^)。

「Self-Reference ENGINE 」は、わかりにくいけどいいという
評判でしたが、面白いんですね♪

他のもありがとうとざいます♪感謝感謝!
最近ホラーばかりでSFはほとんど読んで無かったのですが、
日本SFが元気ならまた読んでみようと思います(^^)。

「マルドゥック・スクランブル」は話題になってますよね。
読んだら感想聞かせて下さいませ~♪

by choko (2010-03-12 15:45) 

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