「トギオ」太朗想史郎著:世界がちゃんと構築されてない・・・ [本:SF]
5点
第8回(2009年)「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
口減らしされた「白」を拾った事から、主人公の家族は村八分にあい、
主人公も学校で壮絶ないじめにあう。
先が見えない貧しい村を逃げ出した主人公は、港町で生活をはじめる。
そして、周囲から隔絶された大都市「東暁」(トウギョウ)にどうにか入り込んだ主人公は、
妄想にふけり、悪事に手を染めて行くのだが・・・。
SFっぽい素材は使っているのに、何故かSFっぽさを感じない。
全体的には、勢いはあるけど、雑だなーという感じ。
近未来SFっぽい設定なのだけど、設定をつめておらず、世界観が曖昧。
その世界で生活している人が見えてこないのだ。
SFっぽい材料をいろいろ用意してあるけど、上手く生かせておらず、
お飾りになっているものも。
この世界で暮らす人の価値観、道徳観が、私たちとは「違う事」はわかるのだが、
それがきちんと説明されておらず、断片的にそれが示されるだけ。
「口減らしされた子」を拾ったせいで何故主人公の一家がここまで酷い目にあうのか、
殺人はダメなのに、酷いいじめ、暴力は許されるのか、善行をすることが何故悪なのか、
主人公の価値観と、この世界の考え方は一致しているのか・・・・いろいろ曖昧な事があり、
著者の頭の中では納得してるのかもしれないけど、読んでいる側には伝わって来ない。
また、こちらも詰めが甘くてブレがあり、登場人物達の行動や考え方が一貫した流れの中に無い為、
理解し難いも部分も多かった。
この辺を上手く書ければ面白いものになったと思うのだけど、描ききれておらず残念。
「このミス」は、新人に与えられるものだけど、
頭の中に描いた世界を、小説の中に上手く構築できていない、読者に伝えきれていないという、
新人らしい未熟さがすごく目立ってしまった作品な気がする。
ストーリーが起伏に飛んだ魅力的なものではない分、ディテールの粗さが致命的。
イマイチだったけど、面白い表現、おっ?っと思う描写もあったので、
もう少し経験を積めば、面白い作品を書く作家になるかもしれない。
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