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「物乞う仏陀」石井光太著:アジア各国の物乞いや障害者のルポ・・・国によって人によって事情は様々 [本ノンフィクションいろいろ]


物乞う仏陀

物乞う仏陀

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/10/13
  • メディア: 単行本
7.8点
文庫(物乞う仏陀 (文春文庫))もでてます。

アジア各国の、物乞いそして障害者を取材したルポ。

石井光太は、他に「地を這う祈り」「絶対貧困」(リンク先感想)を読んだ。

世界の貧困を取材し、その真実の姿を多くの人の知って欲しいという視点で語られる内容は、
どれも心に響くものだった。

そしてこの本もまた、深く考えさせられる内容になっている。
貧困=不幸ではない。
でも、貧困で不幸になっている人もたくさんいるし、不幸の理由も様々な事を教えてくれる。

アジア各国では、物乞いをしている人の多くが障害者である為、この本ではその両者を取り扱っている。
障害者施設や障害者を持つ家庭も取材しているので、物乞い=障害者ではないのだけど。

カンボジアは、ポル・ポト派の支配や、内戦・戦争と戦闘などで障害者になったものも多い。
著者が取材したのは、地雷を踏んで障害者となった若者。
その日暮しで、稼ぎは酒と女に使う、でも明るく前向きに生きている青年。
もう一人取材したのは、生まれつきの障害者。
かなり歳をとったとても人の良い男。
しかし、彼はカンボジアが持つ暗い歴史をも背負っていた。

ラオスでは、不発弾がそこらじゅうに落ちている場所に暮らす少数民族の取材。
不発弾が爆発して亡くなったり、障害者になるものが後を絶たない。
それでも、その場所に暮らす少数民族達。
彼らには、強い絆があり、著者の目に、そこで暮らす障害者達は幸せそうに見えた。
しかし、同じラオスの別の少数民族の取材では、障害者を持つ家族の不幸を目の当たりにする。

タイは信仰心から物乞いに施しをするものが多く、物乞いの収入はサラリーマン並、
ハンセン病だったりすると、かなりの高収入になるという。
見た目が悲惨であれば悲惨であるほど、稼ぎは高いという。
しかし、その影で物乞いとマフィアのつながりが問題とされてもいる。
作者が取材した限りでは、物乞いのマフィアのつながりは無く
(物乞いを管理するより、麻薬などの方が儲かるから)、
実はカンボジア人などのグループによる物乞い集団が多いとの事だった。

ベトナムは、枯葉剤の影響などにより、生まれながらの障害児も多い。
しかし、障害児が生まれた家庭は、悲惨だ。
ベトナムでは障害児が生まれるのは、親の前世の行いが悪かった為の災いであるとされ、
障害児が生まれた家庭は非難され、村八分にされるという。
以前、枯葉剤関係の本を読んだ時も、障害児が生まれた為疎外され、
その家庭が悲惨な状態になってしまった例がいくつか紹介されていた。
障害児が生まれた事で、貧しい家庭はより生活が立ち行かなくなる辛い状態に、
裕福な家庭ですら、お金では解決できない不幸な状態に陥ってた。

ベトナム人はアジア各国の中では、勤勉なお国柄だと言われている。
しかし、そのせいなのか、物乞いに対する施しは少なく、邪険にもする。
そんな悲惨な状態に置かれている都市部の物乞い集団を取材した著者は、
日本とは違う彼らの意識を知り感銘を受ける。

仏教国ミャンマーでは、キリスト教系の障害者施設の取材をしていた。
アジアの多くの国で、知的障害者の待遇は、かなり遅れているのが分かる内容だった。

スリランカでは、障害児を持つ2つの家庭の取材。
どちらも障害児がいてその世話に追われ、また生活は苦しく大変であるが、
2つの家庭の意識は対照的だ。

仏教徒の母親は、障害児が生まれた事を業として捉え、希望を持つことも、
夢をみることもすべて諦め、絶望の中で生きている。
同じ業の概念を持ちながら、ヒンドゥ教徒のタミル人家庭は、
3人の子供全員が障害者(小さな集落で近親婚を繰り返した為)であることを受け入れ、
この子供たちをきちんと育て上げれば来世で報われると笑う。
考え方一つ、環境一つで、状況は大きく変わる・・・と思わされるエピソードだった。

ネパールでは、ヘロインにより障害者になるものが多いという。
それも悲惨だったが、シンナー漬けになっていたストリートチルドレン達の話が、
読んでいて本当に辛かった。

そして、インド!
大国であり、喧騒と混沌の国。
この国の物乞いの話は、あまりにも救いがなかった。
インドも、物乞いに施しをするのが盛んな国である。
レンタルチャイルド・・・・子供を抱いている物乞いの方が、施しが多い為、
さらってきた子供を借りて物乞いするという。
そして、その子供達は、5歳くらいになると、手・足を切断されたり、
目をえぐられたり、顔を焼かれたりして、子供の物乞いになるという。
この話は、「地を這う祈り」で、手の切断あとも生々しい子供の物乞いの写真と共に紹介されていて、
かなり衝撃を受けた。
しかし、衝撃はそれだけではなかった。
中年の物乞い・・・・彼は同じように子供の頃、突然襲われ、足を切断され、
それから27年間も、物乞いで得たお金のほとんどを搾取されているという。
それらの人々の中には、眠らされ、知らない内に臓器を抜かれている人もいるという。
一度、この地獄に落ちたら抜け出る術は無いのか??
それを、インタビューできた、上記のシステムを統括するマフィアにぶつける著者。
マフィアの言葉に、著者は言葉を失った。
私も、マフィアの言葉に、底知れぬ暗い闇、絶望、やるせなさ、どう表現していいのか、
わからない気持ちを感じた。

貧困の中、障害を持っても明るく生きる人々がいる。
絶望の中、地を這うように生きている人々もいる。
考え方一つで、同じ境遇でも、幸福か不幸か違ってくる場合もある。
しかし、インドの話だけは、救いが見えない。
想像できないほど悲惨な世界があるんだ・・・ということを、痛切に感じただけだ。

私が打ちのめされたマフィアの言葉は、ここに書かない。
少しでも気になる方には、この本を読んで欲しい。
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rudies

「地を這う祈り」と一緒に
この「物乞う仏陀」も借りて読みました。

石井光太氏の本を
chokoさんに教えてもらい
本当に良かったです。

決してメディアでは取り上げられない
底辺の人々の世界に少なからず
衝撃を受けました。
by rudies (2011-02-14 19:20) 

choko

rudiesさん

わっ、すみません!
コメント見落としてましたヽ(lll゚Д゚)ノ!!

rudiesさん、2冊とも読みましたか♪
石井光太さんの本、いいですよね!
世界の底辺の人の重い現実、普通なら知ることができない世界を、
知ることができるのも大きいですし、石井光太さんの視点が
奢らず、等身大なのが、すごくいいです。




by choko (2011-02-20 16:31) 

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