「食べる西洋美術史」(「最後の晩餐」から読む)宮下 規久朗著:「食とキリスト教」という面白い視点からの考察 [本:歴史]
7.5点
中世ヨーロッパの宗教画・風俗画・静物画などの絵画を中心に、
アンディ・ウォーホール他現代美術にまで、絵画における「食」の取り扱いの変化と、
キリスト教との関連を追っている本。
食べ物や食事の風景か絵画のテーマに取上げられているのは、圧倒的に西洋美術が多いという。
日本をはじめ、他の文化ではあまり見られないらしい。
その理由を、キリスト教が、パンをキリストの肉、ワインをキリストの血として、
「食という物を重要な位置に置いたからだ」という視点から考察している本。
日本の昔の絵には、食に関する絵が少なかったかな?とちょっと思ったりしたんだけど
(確認していない)、キリスト教と食の関係という視点は面白いと思った。
言われて見れば、仏教がイスラム教、ヒンズー教が食べてはいけないものを指定しているのに比べ、
キリスト教は飽食を否定してはいるが、禁忌な食べ物というのは存在しない。
また、この本によると、聖書の一節には、「食べ物を食べて幸福になるという事」
(本来は、現世の快楽に身をゆだねてはいけない)を赦している文章もあるらしい。
中世オランダの風俗画・静物画で、食べ物の絵が多いのは、当時の飢えと隣合わせの食生活から、
強く人々が思っていた「美味しい物を食べたい」という憧れからで、
その為か、本当に日常食べられていた野菜などの絵は少ないという。
またオランダでの、宗教画と風俗画や静物画が同居している絵から、
徐々に風俗画や静物画が独立していく過程が面白い。
スペインでは、カトリック信仰が強く絶対王政の元、市民社会の発達がなかった為、
宗教画的な影響が色濃く残り、純粋に静物画に見えるものですら、
神聖な雰囲気を醸し出すものとなっていると著者はいう。
人が物を食べている絵、市場の風景、食べ物などの静物画・・・
普通だったら気にもとめない題材だけど、それらが16世紀以降のもので、
それが最初に描かれた頃の時代背景や、その後の美術史への影響・発展を知ると、
新たなる観点で西洋絵画が楽しめる。
絵画の解釈はいろいろあり、諸説入り乱れているけど、
キリスト教の影響下での「食」をテーマにした西洋美術史考察という著者の視点が新鮮で、
面白く読めた。
お勧め(^-^)ノ。
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