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「ヤノマミ」国分拓著:アマゾンに生きる、現代とは全く違う価値観の元生きている人々 [本ノンフィクションいろいろ]

ヤノマミ

ヤノマミ

  • 作者: 国分 拓
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2010/03/20
  • メディア: 単行本
8.3点

2009年NHKスペシャルで放送された「ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる」で、
150日間ヤノマミ族を取材した著者によるルポタージュ。

ヤノマミ族は、アマゾン広域に集落などを作って住んでいるが、その中でも、
文明化がほどんと進んでいない「ワトリキ」(風の地)という167人が住む集落に滞在したルポ。

10年間の交渉の末やっと取材が許されたらしい。
ヤノマミ族は、自分たちを「ヤノマミ」(人間の意)と呼び、
よそ者は「ナプ」(人間では無いもの)と呼ばれる。
集落に悪いことが続いたり、何かトラブルがあれば、殺されてもおかしくないという、
かなりリスクの高い取材だったらしい。

「NHKスペシャル」の方を見ていないけど、かなり衝撃的な内容だったとか。

ヤノマミ族の出産は、女性が森に入って子供を産み落とす。
そして、その場で生まれた子を育てるか、精霊にするか決めるという。
精霊にする場合、殺して、その遺体をシロアリに食べさせるという。
著者は、目の前で、生まれたばかりの子が、14歳の母親に殺されるシーンも目撃している。
これは、堕胎の技術を持たないヤノマミの人々の、人口調整法である。

「ワトリキ」では、精霊になる子が、生まれた子の半数以上と高い。
その理由が、近くにFUNASA(ブラジル国立保健財団)の保健所ができ、
乳幼児の生存率が高くなったかららしい。
文明の介入がいいのか悪いのか、考えてしまうエピソードだ。

また、殺した獲物の腹の中から出てきた胎児を弄ぶ子供達の話もあったが、
これも映像として放送され、かなりのインパクトがあったらしい。

数日かけて遠出し行う猿刈りでは、足手まといになる記者たちが狩りに同行するのを男たちは嫌がる。
それだけではなく、猿を一匹も狩ることができない記者達は、食事をわけてもらうこともできず、
持参した食料が尽き、空腹のあまり倒れそうになる。
下手をすれば、そのまま餓死しかねない状況。
この時は、長老の一人が指示を出して、記者たちを助けてくれたが、
「弱肉強食」「仲間でないものに親切にすることが良いという概念が基本的に無い」
ということが、わかるエピソードだ。

アマゾンでは、技術さえあれば、一人で生きられるからだろう。
砂漠の民ベドウインの場合、一人ではどうにもならなくなる可能性があるので、
困っている人は必ず助けなければならないという概念あるというのと対照的だ。

ヤノマミの女性達からも、体力も無く、狩りもできない記者達は、一人前の男とは見てもらえない。

別れのシーンでも、テレビでよくある涙の別離シーンは無い。
ほとんどが無関心だ。
何回かに分割されているが、トータル150日の長期滞在でも、よそ者はよそ者。
ナプはヤノマミにはなれないのだろう。

ただ、別離への無関心に関しては、仲間が死んだ時もそんな感じなので、
死と身近な事が、「別離」に関しても特別な事とは思えないということなのかもしれない。

偉大なる長老「シャボリ・バタ」が「ワトリキ」という村落を作り上げるまでの話は興味深かった。
それは文明との遭遇、文明側の人間が持ち込んだ病原菌による厄災(全滅した村も多いとか)、
過酷な体験、そして逃避の歴史でもある。
採掘の為アマゾンに入り込む採掘者達は、ヤノマミ達の生活を脅かす
(現在は保護されているが、その法律もアマゾンの利権を狙っている人達からの反対意見が多く、
いつ無くなっても不思議ではない)。
「ワトリキ」が文明を受け入れず、昔の生活を送っているのはシャボリ・バタの影響が大きいという。
しかし、著者が滞在した「ワトリキ」も若い世代は、文明への拒絶感が少なく、
シャボリ・バタがいなくなれば(取材中既に体調を崩していた)、このまま昔の生活を続けるのは
難しいのではないかと、著者は推測していた。

ヤノマミ達との生活のルポは、自然の中で生きていくたくましさ、そして非情さ、
生と死への考え方の違い、様々な事を考えさせられた。
密林で原始的な生活を営む人々は素朴ではあったが、「素朴で暖か」というイメージからは、
かけ離れたものだった。
読んだ後、ヤノマミの世界の厳しさにのまれて、胸が痛かった。
彼らの生活は、マイペースで、仕事ですら遊びのように楽しんだり、そういう側面もあるのだが、
やはり、生と死が身近で、弱肉強食の世界であり、仲間内の厳しい掟があり・・・、
安穏とした世界に生きている自分には、いいようの無い怖さがあった。

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