SSブログ

「見えないアジアを歩く」見えないアジアを歩く編集委員会編: [本ノンフィクションいろいろ]

見えないアジアを歩く

見えないアジアを歩く

  • 作者: 見えないアジアを歩く編集委員会編著
  • 出版社/メーカー: 三一書房
  • 発売日: 2008/04/01
  • メディア: 単行本
7.5点

取材に入れない為報道されない、だから知られていない紛争地帯。
アジアのそんな場所を取材した一冊。

・ミャンマー(ビルマ)国内で、弾圧迫害されるカレン族
カレン族は、第二次世界大戦の東南アジア近辺の戦記を読むとよく名前を目にする、
タイ北部・西部、ミャンマー東部・南部に住む民族である。
ビルマ政府の弾圧により、現在、難民となっているカレン族も多く、
虐殺により小さな村の消滅も見られるらしい。
また、ビルマ軍に追われ、山中を逃げ惑いながら暮らす人も多く、
タイの難民キャンプには14万人のカレン族の難民がいるという。
著者は、タイ側からカレン族居住地に密入国している。
そこには、象を調教してくらす、自然に囲まれた農村があった。
一時期、日本の支配下にもあったため、老人の中には日本の歌を歌える人もいる。
しかし、外界と閉ざされた村は、子供の死亡率が高く、またビルマ軍、カレン民族同盟どちらもが
地雷を使用するため、地雷による被害者も多いという。

・内紛のスリランカ北部と、津波被害の酷かった東部
仏教徒のシンハラ人による支配に対して、北部に住むイスラム教徒のタミル人組織
「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)が独立を求め内紛状態になったスリランカ。
著者が訪れたのは、停戦後、復興に向けての動きが始まった北部。
まだまだ紛争の爪あとが残っており、燃やされ弾痕の後が生々しい家屋が点在する場所もある。
また東部は、紛争だけでなく、スマトラ沖大津波による津波被害にもあっている。
北部、東部の取材では、紛争による被害、紛争の中生きる人々のたくましさや、苦労などが語られている。

・津波被害で現地の内紛状況が知られるようになったインドネシアのアチェ
インドネシアといえば、観光地。
スマトラ沖大津波の時、被害の大きかったインドネシアのアチェが、
イスラム教徒による反政府運動で、内戦状態にあり、救援活動が難しいということを知って驚いた。
スマトラ沖大津波の後、内戦は収束し、復興を目指すこの地域に著者は入っている。
内戦は終わったが、国軍の拷問センターの中でも有名な「ランチュン・キャンプ」は立ち入り禁止で、
国軍の虐殺行為は、闇の中。
人々の、国軍の残虐行為に対する心の傷は根深く、また、大津波復興の為に、
大量に流れ込んだ他の国からの援助資金は、一部の人たちだけをうるおす事になっているなど、
まだまだ解決への道は遠い事が、書かれている。

・インドの中の民族弾圧地帯ナガランド
インドの中、隔絶された地域ナガランド(「ナガランド州」ではなく、
ナガ族が暮らすより広域の場所を指す)。
山岳少数民族ナガ族が住むそこは、入るには政府の許可が必要な禁断の地。
理由は、この地はインドが虐殺、拷問、あらゆる蛮行を行った民族浄化の地であるから。
今でも、その詳細は明らかになっていないという。

第二次世界大戦時、日本軍の兵士の屍が連なった「白骨街道」を作り出したインパール作戦。
ナガランドはインパールのすぐ近くなので「コヒマ」(ナガランド首都)「ディマプール」(玄関都市)など、
第二次世界大戦の戦記を読んだ人には、見覚えがある地名がちらほら。
かなりの山奥なのがわかる。

インド人はアーリア系だけど、ナガ族はモンゴロイド。
そして、「コヒマ」は、アジア系の日本人とよく似た人々の笑顔と、
顔立ちが違う銃を構えてうろつくインド兵に遭遇。
インド軍士官は、怪しいと思った人物は許可無く逮捕殺害しても罪に問われない
「国軍特別権限法」が適用されている軍事制圧都市でもある「コヒマ」。
日本人とナガ族は、同じモンゴロイドなので、日本人旅行者は、
ナガ族と間違われて殺される可能性もあると著者は指摘している。
発展し続けるインドの裏の顔がここにある。
また、ビルマにもナガ族居住地があり、そこは現在も弾圧・虐殺が続いているという。

・チェチェン共和国の歴史と現状
チェチェンといえば、ロシアからの独立紛争を何年も続けていた国。
チェチェン国内に急進派を生み出す事になった、ロシアによる無差別虐殺が行われた国というイメージも。
でも、どんな国なのか、国自体のイメージはあまり無かった。
この本を読むと、全土に歴史的建造物(戦禍で破壊されているものも多い)が散らばり、
そして破壊されつくした街並みが何百と連なり、市内のあちこちにロシア傀儡政府による検問所があり、
市民すら自由に移動できない、まだまだ紛争は終わっていない国だという事がわかった。
外国人が入国するのが困難で、それは、他の国でも見られる「虐殺の跡」を知られたくない為である。
また、この国の人々が、圧倒的な軍事力のロシアに対して抵抗を続けた原動力ともなった、
社会基盤や伝統にっついても触れられている。

この記事の途中で、チェチェン武装グループが起こしたとされた「ベスラン学校人質事件」に
ついて触れられていた。
死者行方不明者500名(犠牲者の多くが子供)を出したこの事件。
かなり不可解な点が多いことが、言われている。
チェチェンのテロとロシア政府は発表したが、実際犯人側にチェチェン人はいなかった。
交渉がまとまりそうな状況だったにも関わらず、強行突入が行われたと、訴える被害者達の家族も多い。
テロ弾圧の口実を作る為、ロシア政府が起こしたテロではないかという噂が絶えない事件であるが、
この本を読むと、チェチェン側が起こしたテロとロシアが主張→調べてみると怪しい点が出る→うやむや
という事件がかなり多いらしい。

・バングラディシュ政府が隠そうとする民族虐殺地チッタゴン丘陵
モンゴロイドの少数民族に対する弾圧・虐殺が繰り返されたチッタゴン丘陵は、
紛争終了後も、政府軍が駐屯するバングラディシュの「隠された地」になっている。

・イラク・シリア・ヨルダン・クェートの今
2002年~2004年くらいの間の、イラク・シリアなどのルポ。
経済制裁で、イラクの人々が困窮する様子などを描いている。
独裁政権への経済制裁は、独裁者に支配される人々を二重に苦しめる結果になるのがよくわかる。
イラク・シリアなどは、現在また情勢が大きく変わっているので、最新のルポも読みたいと思った。

など、上記した事が書かれている。
複数の記者による共書なので、読みやすい内容のもの、共感できるもの、
記者のあまりの熱意に引いてしまうもの等、いろいろ。
ただ、どの記者も、取材に入っている場所の現状を心から憂えており、
興味本位・話題取りの為の取材ではない事が伺われる。

また、皮肉な事に、隔絶されているからこそ、伝統文化が色濃く残り、
自然が保護されている側面などもうかがい知れる。

観光地だったり、経済的発展が目覚ましかったり、そういう印象が強いいろいろな国の、
隠れた闇の部分を取材した本。
この手のルポものは、ちょっと古くなると、状況がガラリと変わってしまう場合もあれば、
相変わらずの事も多い。
現状がどうなのか、確認するのが難しいのが難点。
でも、興味深い内容で、お勧めです!

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。