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「七人の鬼ごっこ」三津田信三著、「晩年計画がはじまりました」牧野修著:どちらも現代社会の負の部分を書いた作品だけど・・ [本:ホラー&ミステリー]

七人の鬼ごっこ

七人の鬼ごっこ

  • 作者: 三津田信三
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/03/19
  • メディア: 単行本
5.5点

晩年計画がはじまりました (角川ホラー文庫)

晩年計画がはじまりました (角川ホラー文庫)

  • 作者: 牧野 修
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/08/25
  • メディア: 文庫
7.5点

三津田信三の「七人の鬼ごっこ」と、牧野修の「晩年計画がはじまりました」を読みました。

いつも、何冊か併読してるけど、長編小説同士を併読することは滅多にない。
でも、この2冊でやってしまって後悔(>_<)。
「晩年計画」(買った)を途中まで読んだところで、図書館で予約していた「七人の鬼ごっこ」が来たので、
「七人の鬼ごっこ」を読みだしてしまったのが敗因。

「晩年計画・・・」は福祉事務所のケースワーカーが主人公、
「七人の鬼ごっこ」は命の電話でのやり取りで始まる。
両方共、不景気や貧しさによる困窮や、世の中の理不尽さ、無常さにあえぐ人たちがでてくる為、
話は全く違うのに、かなり印象が被ってしまった。

スタイルがかなり固まってる(不器用とも思える)三津田信三と、
多彩な作風で、器用に何でもこなす牧野修(下手するとこじんまり綺麗にまとまり過ぎちゃうのだが)。

三津田信三の作品は、回りくどい言い回しと展開、そしてストーリーのそこかしこで語られる怪奇伝承、
そういうものの積み重ねと絡まり合いが、不気味な雰囲気を作り上げてるんだけど、
牧野修と併読したら、今回社会派的要素を持つ導入部分の印象が似ているせいもあり、
牧野修の文章の簡潔さ、上手さとついつい比較し、その回りくどさ、エピソードの扱い、
登場人物の個性の弱さなどが気になってしまって、併読せず読んだ時に比べて、
面白さが一段落ちてしまった気が。
三津田信三の、好き嫌いが分かれそうな文体も、私は、嫌いではないんだけど。

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「七人の鬼ごっこ」は、命の電話にかかってきた一本の電話から始まる。
「だぁ~れまさんがぁ、こぉ~ろしたぁ・・・」混線なのか、最初に聞こえた子供の不気味な声。
その電話をかけて来たのは、事業の失敗、父親の自殺、そして病魔にも侵され追い詰められた男だった。
自殺を考えた男は、あるカケをする。
一週間毎日、幼なじみ5人に順番に電話をかけ、繋がらなかった時に死ぬ。
運良く5人全員が出たが、かける相手がいなくなってしまい、6人目として命の電話にかけて来たのだ。
自殺の可能性が高い事を察した命の電話のボランティア。
自分の生まれ故郷だったせいでよく知っていた、男がいる可能性の高い「瓢箪山」の「達磨神社」に
役所の人間を行かせるのだが、そこには血痕だけが残り、彼の姿は無かった・・。
そして、それを発端に、彼が電話をかけた相手が次々に殺される・・・・。
最初に聞こえた不気味な声は、連続殺人事件と関係があるのか?

三津田信三のミステリーは、謎解きにオカルト的な現象が絡んでくるホラー要素が強いタイプと、
弱いタイプがあるが今回は後者。
雰囲気的にはホラー要素満点だけど、基本はミステリー。

元々、三津田信三のミステリーは、オカルト的要素が絡んできた方が好み。
何故かというと、オカルト的要素を排除して、ホラーの雰囲気のあるミステリーにした場合、
どうしても、ホラー的雰囲気を盛り上げる為に使われた設定や展開が不自然に思えがちだから。
今回も、謎解きの時点で、突っ込みたくなる点がいくつか。
それが興冷めにつながってしまっていて残念。

最近、少し読みやすくしているのか、延々と語られがちな伝奇・伝承のうんちくは、
かなり少なくなってるので、読みやすいけど、逆に伝奇・伝承のうんちくを読む楽しみが
無くなってしまっている。
もっとオカルト色を強くした方が、設定から考えても怖がれて、楽しめたんじゃないかな?と
思ってしまった作品。

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「晩年計画はじまりました」は、ケースワーカーの茜が主人公。
茜のもとに「晩年計画が始まりました」という奇妙なメールが。
はじめは気にとめなかったが、茜の担当するクライアントが自殺した現場でも、その言葉を見る。
都市伝説として語られる「晩年計画」は、自分の命と引き換えに、
怨みを持った相手に復讐してくれるというもの。
その頃、嫌がらせとストーカー行為に悩んでいた茜の友人千晶にも「晩年計画」のメールが送られて来た。

ホラーサスペンスなんですが、ケースワーカーが直面する現実の方が怖い!!と思えるほど、
生活保護世帯の悲惨な実態が最初に書き綴られる。
のらりくらりと理由をつけて働かない人、現実を直視せず夢ばかりを語っている人、
ゴミ屋敷状態の部屋に放置され、年金は実娘に使い込まれてしまっている認知症老人、
生活保護受給を頭ごなしに拒否されて途方にくれる母子家庭の母親・・・。
本当に必要な人のところには届かず、必要じゃない人がごねて恩恵を得ている状態や、
親身に、真面目に対応しても恨まれたり、怒鳴られたり・・理不尽な事ばかりが続き、
その上、報われる事が少ないケースワーカーの仕事。

脇役だけど、こういう人いそう・・・という生活保護対象者の個性的な描写や、
理想と現実の狭間で悩むケースワーカー達が語る、諦めと志の入り交じった気持ち・・・。
どれもこれも、かなり現実に近いのが怖い!

また他にも、過干渉の母親の「愛情」という名の檻に包まれている主人公茜や、
ストーカーだけではなく、いじめの因縁、親の失業、就職難・・と悩む千晶など、
現代社会が抱える負の部分があちこちに散りばめられ、それがストーリーにうまく絡んでいる。

「晩年計画」に関しては、ある程度予想ができる内容なんだけど、それがメインではなく、
それを起こしてしまう現代社会の閉塞感、人の持つ負の感情が、話全体を覆っていて怖い。
また、過干渉の茜の母親や、理想的な千晶の両親の、表の部分と、裏の部分の対比が上手い。

主人公茜が、いろいろな悩みを抱えつつも、根本がポジティブで、
幸せと感じるか、不幸と感じるかは、その人の考え方次第でどうにでもなるものだ、
と思わせてくれるのに少し救いがあるのだけど・・・。

景気も右肩下がり、生活がレベルダウンし、将来への不安が蔓延する現在、
その不安、不満、絶望を、社会や他人の責任に転嫁したり、妬んだり、当たりちらしたり、
そういう気持ちが蔓延する社会の怖さが語られている。
妬んだり、責任転嫁することは何も生まないのに。
作中で、ありそうなエピソード(実際近いケースを知ってるのも)ばかりが語られていた為、
そういう社会になりつつあるのかなーとどよーんとした気持ちになったけど、ばったり会った友人が、
仕事で、超クレーマーなどに困らせらているのに「仕事の不満な点じゃく、良い所を見なくちゃね♪」と
明るく言ってたのに、救われた。
そうだよ、世の中、いい人はまだまだいっぱいいると、私も仕事してて思うもの(^^)嫌な人もいるけど・・。
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