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「イマジネーションの戦争 戦争×文学」芥川龍之介、安部公房、筒井康隆、伊藤計劃、小松左京、赤川次郎・・etc彼らの書いた「戦争」! [本:SF]

イマジネーションの戦争 (コレクション 戦争×文学)

イマジネーションの戦争 (コレクション 戦争×文学)

  • 作者: 芥川 龍之介 ほか
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/09/05
  • メディア: 単行本
8点

集英社の「戦争×文学 コレクション」(全20巻)の5巻。
まだ全巻揃ってませんが、どんどん発刊されているようです。
このコレクションで読んだのは「アジア太平洋戦争」「ヒロシマ・ナガサキ」(リンク先感想)、これで3冊目。

この本は、現実世界ではなく、架空の世界が舞台の戦争をテーマにした作品を集めている。
まず作家陣が豪華!
芥川龍之介、安部公房、筒井康隆、伊藤計劃、宮沢賢治、小松左京、星新一、内田百聞、赤川次郎・・etc。
顔ぶれをみるとわかるように、SF的な作品が多い。

特に第一章の作品は、現実の世界が舞台じゃないからこそ、戦争という現象を多面的に捉え、
戦争が起きる要因、理由、戦争を引き起こす人の思考パターンや愚かさなどを、
強烈に描き出している。
2章は、サブタイトル通り「イマジネーション」溢れる作品が多く、その世界観も楽しめた。

ただ、前半パワーある作品が多かったのに比べ、後半が小粒なのが惜しいっ!

「歴史」カテゴリーに入れようかと思ったけど、SF作品が多いので「SF」カテゴリーに。

【1章】は創作話を通して、現実の戦争の恐ろしさ、醜さを描いた作品。

●桃太郎(芥川龍之介)-鬼の立場から見た昔話「桃太郎」。
平和を愛する鬼を、惨殺しまくる人間、桃太郎。
しかし、それは人々の間では正義の話として伝えられる・・・。
今の戦争も、情報は都合の良いようにねじ曲げられ、勝者側の立場でしか語られない。
負けた方が悪だ。
シンプルなお伽話だけど、実はすごく怖い話。

●鉄砲屋(安部公房)-馬の目島に降り立った、大国の武器商人。
恐ろしいほどの数の渡り鳥が、今年この島を休憩地にする・・と銃の購入を進めるのだが・・・。
言い続ければ、信じる人が増え、それによって大きな人々の動きが起きる。
その波が大きければ、思想統制は進み、反論する人達は弾圧にあう。
この話も、今でも似たような現象がそこかしこで起きているだろうことが、風刺されている。
その上、動きに巻き込まれている人は、その事に気が付かない、もしくは、
自分の立場などから信じる事をやめられない・・というのも同じで怖い。
アメリカのチェイニー国務長官が戦争で大儲けしたように、死の商人達の暗躍や、
そして死の商人達が、「普通の良い人」であることも想像できて怖い。

安部公房は、学生時代、一時期はまってた。
最初の数ページで安部公房らしい、シュールでシニカル、輪郭も描かれている物もぼんやりした、
暗いパステル調の絵を思い出すような世界が広がり、懐かしかった。

●通いの軍隊(筒井康隆)-紛争地帯で、武器を売っている商社で働く日本人サラリーマンが、
売ったマシンガンの不具合修理の為、最前線に「通勤」しなければならない状況に。
筒井康隆にしては、毒の強さは弱いけど、最前線に電車で通勤するという不条理さと、
サラリーマンの悲哀溢れる作品。
社員を消耗品として扱う企業の非常さとその、社命に従わなければならないサラリーマンの姿は、
国家と兵隊の姿と重なる。

●The Indifference Engine(伊藤計劃)-アフリカ紛争で、少年兵として戦場に駆り出された少年たち。
紛争が終わり、平和が訪れた時、彼らの本当の苦しみは始まった。
アフリカの少年兵問題と、ルワンダの虐殺問題をベースに書かれた話。
戦争による心の傷の深さ、憎しみの強さを、これでもかっ!と思うくらい、
辛く、悲しく、陰惨に描いた作品。
既読だったけど、改めて読みなおしても尚、胸にずーんと来る重さがある。

●既知との遭遇(モリ・ノブオ)-戦争をテーマにしたショートショート数編。
最初に掲載されているのが「映画の外の宇宙人-「人類の敵」の発明」。
ヒロシマ・ナガサキに落とされ、多くの人々の命を奪った核。
憎むべきそれは、映画の中で、宇宙人に向け、正義の鉄拳として発射される。
そして、本当に宇宙人が攻めてきた時・・・・他、
どれも3~4Pと短いながらも、ピリっとしまったショートショートが揃っている。

【2章】は、強力なイマジネーションの元に書かれた戦争。
●鳥の北斗七星(宮沢賢治)-烏の群れを軍隊と見立てて擬人化した作品。
宮沢賢治の童話的世界が展開される中、ラストの言葉が鋭い。

●春の軍隊(小松左京)-日本のあちこちで、突然、どこの国同士なのかも不明な戦闘が勃発。
住宅街が繁華街が、そこで生活している人とは無関係に破壊されていく・・・。
戦争とは、平和な生活を突然破壊するもの、それはいつ起こるかわからない、
いつ起きてもおかしくない・・ということを思わせる作品。

●おれはミサイル(秋山瑞人)-数百年の間、飛び続け、命令に従い闘い続ける戦闘機。
戦闘機は、ある時、積まれているミサイル達が会話している事に気がつく。
戦闘機もミサイル達も、戦争する理由をしらない。
ただ、命令の従い、敵と戦うだけだ。
「出来る限り生還する」が第一目標の戦闘機と、「敵を撃ち落として最後を迎える」のが目的のミサイル。
彼らの間には「グランド(地上)クラッター」が存在するという噂があったが、
広大な固体の平面があるなどということは、ナンセンス極まりない事であった。
終わり無き戦闘というシチュエーションがゾッとする虚無感を感じさせ、
また、そのような状況で交わされる戦闘機とミサイルのやりとりは、
いつも死を目の前にしていて、切ない。
センス・オブ・ワンダーに溢れる作品で、面白かった!

●鼓笛隊の襲来(三崎亜記)-戦後最大の鼓笛隊が発生!
台風のような自然災害。
でも襲ってくるのは、大音量で演奏する鼓笛隊の大群。
自然と共存できなくなった人間社会を風刺してもいるが、どこか可笑しく、ほのぼのしている。
重い話ばかりの中、ホッと一息つけるような暖かみがあり、とても好きな作品。

●スズメバチの戦闘機(青来有一)-少年は、裏山に入り、スズメバチと戦争を始めた。
敵とみなしたスズメバチを、最初は罪悪感にかられながら、一匹、一匹と殺していく。
そして、少年の心には大きな変化が・・・。
戦場での兵士の気持ちを、スズメバチを相手に戦う少年の気持ちに反映させた作品。

【3章】は「未来社会の戦争」が中心
●煉獄ロック(星野智幸)-男女は10歳になると、強固に管理・監視されたエリアで別々に生活。
そして、成人すると再び一緒に。
しかし、成人して2年間の間に、相手を見つけ子供を持てなければ、戦場に送られる世界。
歪に管理されている社会の描写は面白かったが、その管理社会が維持されている理由や、
土台になっている世界観があやふや。
途中まで面白かっただけに、あっさり終わってしまって残念。

●白い服の男(星新一)-戦争を忌むべきものとして、人類の歴史に戦争は無かったと、
改ざんしようとする世界。

●リトルガールふたたび(山本弘)-日本は、頭の悪い人間を尊敬するようになり、科学は衰退し、
愚かな民衆に政治は左右され、その結果、とんでも無いことを引き起こす・・。
山本弘の作品は、好きと嫌いが、ほんとにはっきりはっきり別れるのだけど、これは嫌いな方。
最初の方に語られる、「頭の悪い芸能人がもてはやされる」「科学的根拠の無い話をすぐ信じる」
「ネットの記事をコピペしたり、ネットで読んだ誰かの知識を自分の意見のように語り、
自分は知的だと錯覚している」・・・・etcと、きっと作者が思っているだろう、社会批判が延々と続く。
それが上から目線ですごく嫌な書き方がされており、山本弘の作品にありがちな、
語り過ぎ感も強く、読んでいて辟易。
途中から、その状況がエスカレートして、どんどんとんでも系の話になっていくんだけど、
前半の社会批判のリアルさとの乖離が激しく、笑えないし、未来社会を暗示するという怖さも、
感じられなくなっている。

●犬と鴉(田中慎弥)-戦争によって破壊されつくし、荒れ果てた町で、
敵の放った黒い人喰い犬達が人々を襲う。
病弱で、壕の中で横たわる主人公。
狂ってしまった母は、出征した父を探しに出かけたまま行方知れずとなり、
死んだはずの祖母が、「悲しみで満腹になれる」と語りかける。
食料が残っているという古い図書館に、父が籠城しているという噂を聞いた主人公は、
「悲しみで満腹になる」為、瓦礫の中、図書館に向かうのだが・・・。
戦場になった町の殺伐とした状況と、戦争で人を失う悲しみを、幻想的なタッチで描いた作品。

●「薄い街」(稲垣足穂)-立体万華鏡のような構造で、人々は逆さまになって暮らし、
笑ったり話したりすることは、刑法にふれる街。
SFだけど、戦争とどう関係があるのか、イマイチよくわからなかった。

【4章】は、戦争の一端を切り取ったような話。
●旅順入城式(内田百聞)-日露戦争で、多くの死傷者を出し、激戦の末勝利した旅順に
入城する様子を写した、活動写真を見ての、胸に迫る思いを書いた作品。
そのその気持ちはなんとなく理解できるのだけど、「日露戦争」や「旅順(大連)」に関して、
激戦だった・・ぐらいしか自分の背景となる知識が無くて、ピンと来なかった。

●うちわ(高橋新吉)-戦争が起きたと告げる号外。
しかし、狂った詩人は、それを自分を騙す為の嘘だと思う。
戦争云々より、論理的思考は自体は通常の人と同じなのに、出発点や物事の捉え方が違う為、
通常ではありえない考えに至ってしまう狂人の心理描写がとても興味深かった。

●悪夢の果て(赤川次郎)-大学教授である日下。
「教育改革審議会」で、「奉仕活動の義務化」が決定され、日本の未来を憂える。
奉仕活動の中には、「自衛隊の入隊」が含まれており、それが内申に有利、大学入試で考慮される、
就職でも有利・・・国はそういう方向へ持って行き、徴兵制を復活させようとしているのだと。
そして、父親の言う事など全く聞かなくなり、不登校となった息子達郎や、
他の若者達の自堕落な姿から、日本の将来をも憂える。
ある日目が覚めると、家族も立場もそのままに、昭和20年6月10日になっていた。
国の為に命を捨てるのが当たり前のことだと、赤紙を喜ぶ息子。
日本の敗戦を知っている日下は・・・・。
徴兵制、戦争中の思想統制、兵隊に行く若者や家族、周囲の気持ち・・・いろいろな要素はあるけど、
人間ドラマ中心になり、テーマがぼんやりしたものになってしまい、あっさり。
残るものが無かった。

●城壁(小島信夫)-中国の城壁。
城壁内で千年以上も暮らす人々もいる、古くて巨大なそれ。
そこを守備する事になったある部隊では、迷子になりようも無い場所で迷子になる兵が続発する。
隊長の命令は絶対など、軍の上下関係の厳しさ、理不尽な要求でも上官からの命令には
従わなければならない兵士の気持ちなどが、ドタバタした悲喜劇の中で語られている。

2章まではすごく面白かったが、後半は尻すぼみな感じ。
後半も悪くない話はあるんだけど、前半が良すぎるというか。
この本を読む人は、1・2章みたいな話を期待していると思うので、しょうがないのか?

でも、1・2章に収録されている作品は、どれも面白く、すっごくお勧め(^-^)ノ。
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コステロ

今回は逆に、たいそうなボリュームですね(笑
紹介文を一通り見た感じでは、筒井作品に特に惹かれました。


ちなみに私も現在は、"戦争モノ”と言いますか"軍事モノ”の作品
『亡国のイージス』を読んでます。
専門用語がバンバン出て来るし、上巻の半分を過ぎるまでは
ストーリー的にも読んでて結構つらいモノがありますが
それを過ぎるとナカナカに面白いです。
by コステロ (2012-01-27 10:21) 

choko

コステロさん

言われてみれば、今度は長いですね~(笑)。
筒井は往年の筒井康隆らしいドタバタとブラックなテイストに溢れてます。
でも、一章に載っている作品はどれも面白かったですよ♪

軍事モノとか、専門用語が辛いですよね。
でも、これがわかるようになると、今度は他の軍事モノも楽しめるようになると思うので、そういう意味では頑張るかいがありそう。
でも、「亡国のイージス」面白そうだなーと思いつつ、
私は、前半で挫折しそうな予感(^^;)。
by choko (2012-01-27 16:43) 

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