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「はみだしシェフの世界やけっぱち放浪記」アンソニー・ボーディン著:いろいろな視点から「食」と「シェフの仕事」を見る [本ノンフィクションいろいろ]

THE NASTY BITS―はみだしシェフの世界やけっぱち放浪記

THE NASTY BITS―はみだしシェフの世界やけっぱち放浪記

  • 作者: アンソニー ボーディン
  • 出版社/メーカー: バベルプレス
  • 発売日: 2011/09
  • メディア: 単行本
7点

たまに日本テレビの「世界まる見え!テレビ特捜部」などで、シェフがガイド役の海外グルメ番組を見る。
そういうシェフが、グルメ旅行記を本にしたのかなと思って借りてみたら、
その予想は半分当たってて、半分外れてた。

アンソニー・ボーデインは、ディスカバリーチャンネルで、世界各国を旅行し、その国の料理を
紹介する「アンソニー世界を喰らう」という番組を持っている。
ベテランシェフであったが、「キッチン・コンフィデンシャル」のヒットにより、作家に。

「アンソニー世界を喰らう」の紹介に「美食のインディ・ジョーンズ」と書いてあったように、
本書で読む限り、とにかく何でも食べるし、好奇心も旺盛。
イヌイットが目の前で解体したアザラシの肉や脳みそを、血まみれになりながら生で食べるし、
ベトナムの汚い屋台でも舌鼓を打ち、そうかと思えばハリウッドに進出した
正統派フランス料理をも楽しむ。
ニューヨークのお気に入りの高級寿司屋「雅」で出される、数々の寿司を愛し堪能する。
たくさんの料理が紹介されているし、美味しいものには惜しみない絶賛を、
そうでないものには辛辣な評価を下している。

欧米(特にアメリカ)のレストランの話は、かなり詳しく記述されているのだけれど、
「知っているのが前提(欧米向けに書かれている為)」で書かれている為、
店名やオーナーシェフ、料理の名前が羅列され感想が書かれていても、全然ピンと来ないのが残念。
唯一知っていたジェイミー・オリヴァーは、ジャンクフードとお菓子で構成されていた、
学校給食を改革したシェフとして、私の持つ印象は良かったんだけど、著者は毛嫌いしていた。
でも、何故だかは不明。
以前ジェイミーをテレビで見た時、甘いマスクで、お客さんから、アイドルのような扱いを
受けていたので、日本の川越達也みたいな感じなんだろうか??
「川越達也みたいなシェフは嫌い」って言えば、日本で通じるけど、外国人にはわからない、
そんな要素が、この本の欧米関係の記事は、数多く見られた。

でも、アメリカ人の彼にとって馴染みの無い、ブラジル、中国、ベトナムといった海外の料理は、
描写も詳しく、すごく美味しそうに感じたものが多かった。
料理の紹介で一番面白かったのは、スペインの奇才、フェラン・アドリアの「エル・ブジ」の料理の紹介。
以前、テレビで見たことがあるけど、まるで科学の実験のような料理風景と、
今まで見たことも無い料理の数々に、「どんな味がするのか一度食べてみたい!!」とすごく思った。
その摩訶不思議な姿と、今まで食べたことのないような目新しい感動を味あわせてくれる
美味しい料理の数々が、かなり詳しく紹介されていた。

でも、この本の「世界食べ歩き紀行」的な部分は半分。
アメリカのセレブシェフの内情や(成功と失敗の分かれ目等も)、本当は厨房を支え、
実際料理をしている、でもスポットが当たらないメキシコ系やヒスパニック系のスタッフの話、
過酷な下積み時代に著者が得た物、、シェフとして必要な能力や心構え、
パニックと隣り合わせの厨房、そしてパニックを乗り越える方法、悪いレストランの見分け方、
各国の材料や料理法を組み合わせて新しい料理を作るシェフ達、
そしてその考えと対立する地場物、伝統的な方法にこだわるシェフ達、
著者が嫌悪する「ローフード」の話など、欧米のレストラン文化史のような話しも多い。

また著者が治安が非常に悪かったニューヨークの昔を懐かしんで書いた記事は、
いろいろな場所で、ニューヨークの今と、昔を具体的に比較し、
(今は開発されキレイになっているけど、昔は危険な場所だった所多数)、
著者本人も書いている通り、面白い視点のニューヨークガイドになっている。

意見を率直に言い(過ぎ)、過激な意見も入っているが、今まで自分が否定していた事でも、
いい面があれば認めたり、考えを改めたりする、柔軟な姿勢には好感が持てた。

これを読んで、欧米のレストランのシステムというのは、日本の「料理人が料理する」とは全く違った
システム、オーナーシェフは、料理をしなくなり、プロデュースやマネージメントにシフトするのが
一般的なんだなーと思った。
確かに、寿司屋のように、料理長と数人の料理人で賄えるこじんまりとした店、
少ない席数の店が多い日本の高級料理店と違って、席数が多く、コース料理で出す品数も多い、
フロアにすらサービスの為スタッフが大量に必要な、フレンチなどの高級レストランとでは、全く違う。
そんな、文化の違いをいろいろ考えさせてくれた一冊。

そういえば、著者は、地場物にこだわる、伝統的な料理に敬意を抱いているタイプ。
でも、新たなる事にチャレンジする精神も評価しているし、また伝統的な料理に拘るあまり、
外国産のものを全て否定するという態度には、国粋主義者の匂いを感じ取り嫌悪している。
著者の場合、素材を最大限に生かすのが大切だという「味追求型」。
外国産の食べ物が、輸送の時のX線照射で発がん性があるとわかったとしても、
それが美味しければ、迷わず「美味しい食材」を選ぶと書いている。
そういう著者のスタンスや、いろいろな物に出会って考えが変わった事などが
書いてあるのも面白かった。
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