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「ルポ 餓死現場で生きる」石井光太著:栄養失調・児童労働・子供兵・・・世界の子供達が置かれている過酷な環境 [本ノンフィクションいろいろ]

ルポ 餓死現場で生きる (ちくま新書)

ルポ 餓死現場で生きる (ちくま新書)

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/04/07
  • メディア: 単行本
8点

世界の貧困現場などを中心に取材している石井光太氏のルポ。
世界の貧困地区で子供達が置かれた状況を、いろいろな視点から捉えている。

今まで読んだ著書は「絶対貧困」「地を這う祈り」「物乞う仏陀」(リンク先感想)。
どれも、知られざる世界の貧困の現状を、克明に描いたルポ。

第一章は表題にもなっている「餓死現場での生き方」。
現在、世界で飢餓に苦しんでいる人は10億人。
世界の人口の7人に1人。
特に、子供が多く、途上国で死ぬ5人に3人が栄養不良だと考えられているという。
こういう数字は、いろいろな資料で見る。
しかし、石井光太の本は、一味も二味も違う。
他の章でも、数字だけではわからない、貧困の中にいる子供達の姿、現状を捉えている。

私たちがイメージする、飢餓の現場に生きる子供達の姿は、
栄養失調でガリガリにやせ細り、弱りきって横たわっている、
タンパク質不足でお腹だけがぽっこりと出た子供。

でも、そういう子供達だけではないことを、この章では書いている。
骨と皮だけになり、お腹がぽっこりと出た、飢えている子供達も、楽しそうにサッカーをして遊んだりする。
体力がなく、長時間遊べなくても、遊ぶのだ。
家の手伝いも、食べるために、お金を稼いだりもしなければいけない。
骨と皮だけになった飢餓状態の中でも、彼らが「生きなければいけない」事がわかる。

飢餓状態に置かれている家庭の脆さも書かれている。
飢餓状態の家庭では、食事は1日一食。
それも、パンのような主食が少しだけ・・という事も多い。
栄養不良は、免疫力を低下させ、感染症にもかかりやすくなるし、失明などの他の病気ももたらす。
また父親が食事をとった残りを、子供や女達が食べる為、
成長期の子供達にとっては、栄養は絶対的に足りない。
しかし、父親が、病気になった子供に分ける為、食事を減らした結果、
稼ぎ頭である父親自身が倒れてしまい、家族がもっとひどい状態に陥った例などもあげてあり、
父親が優先で食事を得ることが、仕方が無い事であるなどにも触れられている。

また、貧困の中では、他の家族との協力がかかせない。
稼ぎが足りない時は、他の家族が面倒をみてくれるし、その逆もある。
貧困の中でのセーフティネットだ。
しかし、他の家族の面倒を見るため、余剰なお金があったとしても使わざる得ず、
余剰金をためて貧困から抜け出す事ができない。
中には、かなり仕事がうまくいっているにも関わらず、協力しあっていた他の家族
数家族がどれも経済的に困窮していて、それを助ける為、自分の子供を学校にもやれず、
働かさなければならない・・・など、お互いを助けあう為のセーフティネットが、
貧困スパイラルからの脱出を難しくしているケースが多いという。

第二章は「児童労働の裏側」。
子供達が、危険な労働に安い賃金で従事させられているのは、テレビなどでも放送されているので、
知っている人は多いと思う。
著者も、危険な労働や、劣悪な環境での、児童労働に対しては、問題視している。
しかし、普通の工場での児童労働も、世界的な「児童労働反対運動」から、
子供達が締め出されたりしている。
その結果、安全で稼げる職場を失い、食べていくために、売春や危険な労働をしなければ
いけなくなる子もいるという。

また、売春に関しては、望まずその仕事に従事させられている少女、
逆に、飢餓に苛まれ、いつ強姦されるかもわからない貧困の中で生きるより、
もしくは家政婦としてその主人に、安い賃金で性的虐待を受け続けるより、
終わりの無い貧困の生活から抜け出す手段として、売春を選ぶ少女もいる。

第三章は「無教養が生むもの・奪うもの」として、公用語が話せない事の問題、
劣悪な環境で育つことで常識が欠如してしまうこと(これはアメリカなどの貧困世帯でもある)、
迷信の功罪などが取り上げられている。

ケニア・ナイロビ周辺のスラムを例にあげているが、教育を受けられず公用語が話せない為、
孤立してしまい、社会に入れず、隔絶してしまう人達の事が書いてある。
それは、狭い町の中に国境があるようなもの。
その想像以上に大きな弊害についても述べられている。

第四章は「児童結婚という性生活」を取り上げ、幼くして本人の意思とは関係なく嫁がされてしまう
少女達について、その危険と弊害、逆にそれが必要であったり、それが少女の救済の手段にも
なっている社会について述べられている。

しかし、幼くしての性行為や妊娠は、感染症の危険を増大させたり、出産時のトラブル、
また胎児への悪影響など、問題も多い。

第五章は「ストリートチルドレンの下克上」として、子供だけで路上で暮らす子供達について、
そういう境遇に陥った背景や、彼らの未来について述べている。
ここで述べられている、アフリカ(社会と隔絶してグループ化孤立化凶悪化する)と
アジア(社会に関わり、グループ同士の交流も盛ん)のストリートチルドレンの違いと、
その社会環境や薬物との関係は、興味深かった。

第六章は「子供兵が見ている世界」として、無理やり兵士にさせられた、
もしくは志願した子供達の事が語られている。

悪名高いのは、アフリカでの子ども兵で、誘拐したり、時には集落を襲い、自分の家族をその子供に
殺させて、戻れないようにして連れ去ったりして、兵隊、それも最も危険な任務に当たる兵隊にする。
また、麻薬を与え、戦闘への恐怖を消し去ったりするため、解放されても、心の傷や、
麻薬への依存など、その後の問題も大きい。

ネパールのマオイストに参加している兵士の中には、親が子供を兵隊にしたという話が載っていた。
その親は、マオイストを指示しているわけではなかったが、町に子供を働きに出すと、
奴隷のように扱われ、行方不明になってしまうという。
それよりは、兵隊にした方が、たまには顔も見られるし、ましなのだという。
貧しい人々が普通に働くことすら難しい・・という現状がそこにはある。

第七章は「なぜエイズは貧困国で広がるのか」として、栄養不良、売春、無教養、薬物・・
第六章までで語られた様々な事柄が絡み合い、エイズが貧困国、
特にサハラ以南のアフリカで広がっている理由と、
エイズの子供達、エイズで親を亡くした子供達についての章。

著者が繰り返し書いているのは、貧困の現場や、子供達を取り巻く環境は、
複雑であり、ケースごと、その社会毎に違う。
それを知ろうとせず、頭ごなしに否定してしまうと、助けるつもりの働きかけの結果、
より不幸になってしまう子供達も多く出る。
どれも、その社会、その背景、その当事者、それを良く知った上で、
何ができるのかを考えなければ、いけないのだ。

そして、この本は、そういう様々なケースを、その社会背景も考慮して取り上げ、教えてくれる。
また、数字だけではわからない、貧困の中の子供たちのリアルな現状も教えてくれる。

世の中は、数字だけではわからない生活・文化があり、また良と悪だけでは簡単に割り切れない、
複雑なものであることがわかる本。
お勧め!!
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