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「レンタルチャイルド」石井光太著:手足を切られ、目を潰され、物乞いし、搾取される子供達。インドムンバイの現実 [本ノンフィクションいろいろ]

レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち

レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 単行本
8点

石井光太は、世界の「貧困」の中で生きる人々の現状を取材しているルポライター。

今まで読んだ著書は「絶対貧困」「地を這う祈り」「物乞う仏陀
ルポ 餓死現場で生きる」(リンク先感想)。
どれも、衝撃的な貧困の現実を教えてくれるルポ。

この「レンタルチャイルド」は、インドムンバイに2002年、2004年、2008年と取材に行った時のルポ。
貧困の泣きたくなるほど厳しい現実だけでなく、インドが大きく様変わりしていく様子も克明に描いている。

2002年のルポは、物乞いでの稼ぎを多くする為、手足を切り落とされたり、目を潰されたり、
大怪我を負わされて物乞いをさせられている浮浪児達を取材したもの。
路上で物乞いをしているがマフィアに稼ぎのほとんどを奪われてしまう浮浪児達や、
マフィアに育てられ、囲い込まれている子供・・・・、どちらの生活も悲惨である。

大怪我を負わされ路上に転がされているのに、病院に連れていこうとした著者の手を、
「稼ぎが無ければもっとひどい目にあう」と、怯え拒む浮浪児。
マフィアに目を潰されたり、足を切断されたりしているのに、
「それは自分達の稼ぎが悪いからしょうがない」と答える、マフィアに囲い込まれている子供たち。

意外だったのは、気まぐれで暴力を振るうマフィアを、「パパ」と言って慕う子供の気持ちだった。
目を潰されたり、障害を負わされ、一人では生きていく事ができないまだ10歳前後にもならない
子供達がすがるのが、その傷を負わせたマフィア達であるというのが、なんともやるせない。

2004年の取材では、障害者にされ物乞いをさせられていた子供達のその後を追っている。

衝撃的だったのは、マフィアに囲われ、物乞いをさせられていた弱々しかった子供達が、
育った事で稼ぎが悪くなり、マフィアの元を追い出された後、暴力的な集団を作り、
強盗、暴行、強姦・・・・様々なことを行うようになっていた事。

女の浮浪者達は、売春や強姦の結果、父親もわからぬ子供を孕む。
それらの赤子の一部は、政府から許可を受けている、福祉施設に「売られ」、
外国から来る養子縁組を求める人々に引き渡される。

その事務所に乗り込んだ著者は、そのマフィアのボスに、「貧困の中で一生生きるのと、
外国で養子として育てられるのとどちらがいいのか」と、問われる。
ボス自身に、「自分は養子として引き取られたかった」と言われ、幼児売買という犯罪と、
貧困の中で育つことの過酷さとを、天秤にかけ、何も言えない著者。

2008年の取材では、近代化が進み、ムンバイから追い出されてしまった浮浪児達を追う。
以前取材したマフィアもほとんどが壊滅し、しかしその後からより暴力的な黒人グループが入ってきて、
貧困層の人々は、以前より苦しんでいた。
ムンバイを追い出された浮浪児達の多くは施設に送り込まれる。
そこは、福祉施設とは名ばかりの、閉じ込め放置するだけの場所で、そこから逃げてくる子も多いという。
施設の方も、逃げる子供の多くは、衰弱しすぎていたり、薬中毒だったりして手間がかかるので、
見て見ぬふりだという。
また、郊外には、ムンバイを追い出された浮浪児達が集まっていた。
近代化が進んでも、貧困の問題は解決していない、逆により悲惨な状態になっているようにも思えた。

この本で印象的だったのは、貧しい人々の助け合いだ。
仲間と協力しなければ生きていけない為、その繋がりは強い。
しかし、グループごとの対立もあるし、トラブルなどでグループを追い出されれば悲惨な状態にもなる。
トラブルであるマフィアを追い出された男は、次の日には、他のマフィアに
捉えられ傷つけられ物乞いをさせられる。
弱肉強食の世界だ。

そんなマフィアも、裕福であるわけではなく、やはり貧困の中で生きている。
浮浪児だったものが、マフィアになり、浮浪児を喰い物にするという連鎖。
そのループは、どこまで行っても貧困の中だ。

そして、自分達が障害を負わせた子供たちを追い出す事に後ろめたい気持ちを持っていたりする、
というのも意外だった。
物乞いのために、赤ん坊を借りる女乞食達も、赤ん坊に情がうつらないよう、数カ月で
赤ん坊を交換するという。
情が移り借りた赤ん坊を連れて逃げたという女乞食の末路は悲惨だ。
自分が食べるのに困っていても、瀕死の仲間の面倒をみていたりもする。
親に虐待され逃げてきた浮浪児になった子供が、心の奥底に持っているのは、
虐待していた親が、優しくなって探しに来てくれることだったりもする。
貧困の中での深い情、それは固くて脆い。

3回の取材によるルポは、想像以上に厳しく、過酷な貧困の実態を教えてくれる。
それは、ヘドロでできた底なし沼のように深く、汚く、おぞましい現実だ。

唯一の救いは、疣だらけで周囲から嫌悪されていた男に囲われていた状態だった若い男が、
著者の通訳をすることで、マフィアと顔見知りになり、その許可を得て、
靴みがきの仕事をすることができるようになり、
その後、建築現場の仕事へと移る事で、酷い貧困から抜け出す事ができた・・ということだ。
その通訳も、浮浪児で子供の頃、片目を潰され、大人になって、物乞いでも稼げなくなり、
貧困の中で一生を終えるはずだったのが、著者との出会いで運命が大きく変わったのだ。

インドの発展と、その影にいまだある貧困の厳しさ。
2008年から既に4年、きっとインドの貧困の状況はもっと変わっているだろう。
でも、インドの発展が貧困にあえぐ人々にとって良い事かというと、
2008年の状況を見るかぎりそう思えないのが辛い。
これを読むと、インドは中国以上に格差のある社会のまま発展しているように思えた。
お勧め!
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コメント 4

コステロ

以前『物乞う仏陀』の項にて
「マフィアのボスの言葉に言葉を失った筆者」とあって、
一体どんなことを言われたのだろう?と思っていましたが、
そーゆーことだったんですね。

マフィアと言うくらいなんで、もっと鬼畜なコト言ったかと思っていました。


ちなみに以前、このコメント欄にて
「ちょこさんはハードコアにばかり手を出す」
と言ったようなことを書きましたが
それは今回取り上げたような作品も含めてのハナシです。
by コステロ (2012-04-02 08:52) 

choko

コステロさん

鬼畜な事より、終わりのない負の連鎖の方が、ゾッとしません?
で、「もっと鬼畜な事」って、どんなことをコステロさんが想像したのか、
気になります(笑)。

で、「ハードコア」はお互いの認識違いだったんですね~。
私の場合、平山夢明とか、友成純一とか、拷問とか
スプラットとかその辺がメインで読ませたい!ってなものが
ハードコアって感じです(^^;)。
by choko (2012-04-02 22:58) 

コステロ

>どんなことをコステロさんが想像したのか、気になります(笑)。

それを言ったら私の人間性を疑われてしまうのでやめておきます(笑


ハードコアに関してはモチロン、
ちょこさんが認識している類のものも含みます。
ジャンルとか意味合いも変わってきますが
どちらも私にとっては「ハードな内容の本」なので(笑
by コステロ (2012-04-03 08:52) 

choko

コステロさん

「ハードコア」=「ハードな内容」というのなら、納得です。
私のこの本の認識は「真面目なルポ」、もしくは「重い現実のルポ」。
「ハード」と「重い」のイメージはある意味重なりますし。

「ハードコア」というと、もっともっと陰惨!もっと猟奇!もっとドロクチャ!
とワンランク上の認識でした(笑)。

後、コステロさんは、人間性を疑われる事を
想像しているのがわかりました(笑)。
わー、こわーい!
by choko (2012-04-03 21:48) 

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