SSブログ

「関東大震災」吉村昭著:関東大震災の悲惨さだけでなく、デマの広がりと怖さについても語った本 [本ノンフィクションいろいろ]

関東大震災 (文春文庫)

関東大震災 (文春文庫)

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/08
  • メディア: 文庫
7.3点

吉村昭が「関東大震災」について取材したり、調べたりした事をまとめたもの。

「関東大震災」直後の町の様子、その後の火災の広がり、各地の被害状況、
混乱の中広がるデマ、朝鮮人殺害、マスコミの功罪などの他に、
関東大震災以前にあった地震予知に関しての論争についても触れられている。

大正12年9月1日に起きた「関東大震災」。
倒壊した建物の下敷きになったり、津波に襲われたり・・・・。
しかし、火災での死者の数が最も多かった。
特に一箇所で4万近い人が焼死したという本所区被服廠跡。
他でも、火災による焼死者が数多く出た。
火災の被害が広がったのは、人々が持ちだした大量の家財道具に火が燃え移ったことも、
大きいという。
本書では、猛火に包まれ人々が逃げ惑う阿鼻叫喚地獄のような状況になった
本所区被服廠跡の様子が、克明に描き出されている。

地震の後の火災が広がったり、その火災で多くの橋が焼け落ちたのは、
上記したように、群衆が家財道具を持って移動したからで、
警察によって、橋を渡る前に、無理やり荷物を捨てさせられた橋は焼け落ちず、
多くの人が助かったというケースもあるという。
民衆は警察に反発し、最初は言うことを聞かなかったが、
持参した荷物に火が燃え移る様を見て、その後捨てるようになったという。

この本で多くのページを割いているのが、デマの広がりと、その恐ろしさである。
「朝鮮人が井戸に毒を」「朝鮮人が集団で襲ってくる」などのデマが、
実際にあった日本人による強盗団の発生などと入り交じり、多くの人に信じられ、
多くの朝鮮人が自衛団によって殺害された。
訛りのあった東北人なども「日本語が怪しい」と襲われたり、
日本人と判明した後でも殺害されたり、極限状態に置かれた群集心理の恐ろしさが伝わってくる。
また、警察など公的機関が、そういうデマを否定しても、信じようとしなかった、
情報が少なく錯綜する中マスコミが根拠の無いデマを本当の事のように広めてしまったり、
そして、民衆は数ある情報の中から、自分が信じた事に基づいて各自がバラバラに行動したり・・・・
などの状況は、少し前の、東日本大震災の、買いだめや、放射能の風評などと通じるものがある。

今回の原発は、政府発表が後手後手で、隠されていたことも多かったため、
政府の言うことをそのまま信じるというのが危ないという事も思ったが、
情報が錯綜している中、各自が自分の判断で動くという状況も、
また危険な結果、パニックを生みやすいということがわかる。

「阪神淡路大震災」のことを扱った「大震災名言録―「忘れたころ」のための知恵」を
読んだ時も思ったけど、人は、前の過ちを忘れてしまい、同じような過ちを繰り返すのだなと思った。

人口が密集している上、人と人との繋がりが弱い首都圏で大地震が起きたら・・・・
この本を読むと、地震やそれによる火災の被害も恐ろしいと思ったけど、
デマやパニックによる混乱も同じくらい恐ろしいものになると思った。
震度5の地震でも、買いだめによる品切れや、ギスギスした雰囲気が生まれたくらいだし・・・。
篠田 節子の短篇集「家鳴り」の中に首都圏が地震に襲われるという話があるけど、
その話の中で語られる群集の怖さが、本当になってしまうのかも・・・・と思えたり。

2012年3月11日で、丁度震災から1年。
テレビでは、特集も組まれ、それを見ると復興が余りにも進んでいない事や、
原発周辺の先の見えなさに胸が痛くなる。
過去の教訓を生かすと共に、今被災地で懸命に生きている人達の助けが少しでも出来れば、
被害を受けていない人達の多くが、受けている人の立場になって考えられれば・・思ってしまった。
私自身は、被災地の作物を買ったり、募金くらいしかしていないのだけど・・。
被害に合われた方達が、一刻も早く元の生活に戻れることを願ってやみません。
そして、原発の問題と補償も少しでも早く解決して欲しい。

また必ず来るという関東の直下型地震への備え、心構えをしっかりしなければとも、
改めて思った。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。