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「遺体-震災、津波の果てに」石井光太著:震災によって奪われた多数の命。その膨大な遺体は、生き延びた人達を奔走させる・・・ [本ノンフィクションいろいろ]

遺体―震災、津波の果てに

遺体―震災、津波の果てに

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10
  • メディア: 単行本
8.5点

貧困の中でどん底の生活をする世界の人々に関する、読み応えのある数々のルポを書いている著者
石井光太が、今回は、東日本大震災の被災地に赴き、今回もまた胸に来る、
そして考えさせられるルポを届けてくれた。

タイトルの通りテーマは「遺体」。
東日本大震災の現時点での死者は15,854人、行方不明者は3,155人だそうだ。
信じられないほどの人が犠牲になったのが、数字を見ただけでもわかる。
遺体を捜索したり、搬送したりする映像も見た。
たくさんの数の遺体が、そこかしこに転がっていたことも、本で読んだりして知っている。

でも、この本を読んで、現実は、自分の想像を遥かに越えて、もっともっと厳しく大変だったことを知った。

この本は、死者・行方不明者合わせて千人以上の被害を出した岩手県釜石市を舞台にしている。
水産業を生業とする総人口4万人ほどの町。

最初に驚いたのは、ライフラインが寸断された状態での、情報の遅さ。
震災当日や翌日、離れた場所の私達が、津波の被害状況をテレビで見て既に知っていた時、
同じ市に住んでいて津波の被害にあわなかった地区の人達は、「津波が来た」という話は過小評価し、
聞いていても、そこまで悲惨だとは現地を見るまでわからなかったケースがいくつも紹介されている。

家の近くでは、震災で、駐車場のスロープが崩れ2名の方が亡くなり、その映像はテレビで何度も見た。
実際によく知っている場所だったので、かなり衝撃だった。
でも、ある日、実際に崩れたスロープを見て、テレビの映像を通して知る・感じるものとは、
全く違う、生々しさ、何倍も強い衝撃を感じた。
現実を認識するというのは、こういう事なのかもしれない。

そして、次々に遺体安置所に搬送される遺体。
体育館にずらーっと並べられた遺体。
被災した医者も多く、どんどん増えていく遺体の検死や歯形のチェックをする医者・歯医者も少ない。
一日中、やってもやっても、数が減らない、逆に増えていく遺体の、検死や歯形のチェックをする医者達。
その上、小さな市なので、途中、知人の遺体に遭遇することも多い。
冷えきった体育館の中、連日行われた、検死の過酷な実情。

遺体の捜索、搬送も、想像以上に大変な事がわかった。
日が経つにつれ腐敗しはじめる遺体。
遺体などほとんど見たことも無い市の職員達が、体力があるなどの理由で遺体の搬送業務を
命じられるが、次々に脱落してしまう。
この本では取材されていないが、自衛隊や消防団の人達も同じように大変だっただろう。
以前、自衛隊だったという人が、土砂崩れ現場の捜索で、遺体にスコップがささった感触が
いまでも忘れられない・・・と何年も前の事を言っていたし。

また、自分の家族が行方不明な人達が、「自分の家族の遺体を早く捜索して!」と
詰め寄ったり、先にやってもらえないとわかると、暴言を吐いたりということも、頻繁にあったという。
「お金を出すからちゃんとしたお葬式を!」と葬儀業者に泣きながら詰め寄ったり、
テレビでは放送されない、現場の大変な状態が、いろいろ描かれていた。
多くの人が「自分の家族を優先して!」と思ってしまう気持ちもわかるし、
多くの人にそれを求められても、限界があり、それに答えられない遺体捜索をしている人達の
辛さも理解できる。

また、火葬場の問題も想像以上に大きい事を知った。
震災で近隣の火葬場が壊れ、火葬が全く間に合わない状態に。
遺体は日々腐敗していくし、捜索が進み、数もどんどん増えていく。
自分がこのような状態で死んだら土葬でもいいなーと思っていたけど、
土葬されてしまうと、お墓には入れず、後でお参りする場所が無いなど、
残された人達が辛いんだと、この本を読んでわかった。

数でしか見ていなかった遺体。
しかし、医者・歯科医・市の職員・消防士・自衛隊・葬儀業者・お寺の住職、そして残された遺族・・・、
亡くなった方の尊厳を守り、供養してあげるため、多くの人々が翻弄され、また過酷な状況の中、
精一杯の努力をしていたことを、この本を読んで知った。

「東日本大震災」を、被災地の大変さを、今まで全く知らなかった別の視点で捉えることが出来る本。
そして、一人一人の地道な努力が、震災直後の混乱する被災地を支えていたことが、
伝わってくる本でもある。
とてもお勧め!!
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