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「僕はしゃべるためにここへ来た」笠井信輔著:東日本大震災、被災地の取材での苦悩 [本ノンフィクションいろいろ]

僕はしゃべるためにここへ来た

僕はしゃべるためにここへ来た

  • 作者: 笠井信輔
  • 出版社/メーカー: 産経新聞出版
  • 発売日: 2011/10/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
7点

フジテレビの朝の番組「とくダネ!」でお馴染みの笠井信輔アナウンサー。
東日本大震災での現地取材での苦労や悩み、そして震災報道の裏側を書いた本。
まだ彼が駆け出しだった頃行った、阪神大震災の現地取材での失敗談なども語られている。

タイトル「僕はしゃべるためにここへ来た」は、被災地の人々を前にして、
「取材より、ボランティア活動をした方が役立つのではないか」、と葛藤した著者が出した結論。

(きつい思いを)言葉にしなければならない。
(悲惨な光景を)リポートしなければならない。
(悲しみ、苦しむ)被災者に声を掛けなければならない。
なぜなら「僕はしゃべるためにここ、被災地にきたのだから。

と、著者は前書きで書いている。

インターネットでは書けても、テレビでは絶対言えない言葉や、放送しなかった映像についての
エピソードは、「テレビ」という媒体の特徴がよくわかる。
影響が大きいものだからこそ、公的な倫理観を意識しなければならない。
ちょっとでもそれを外れると、非難の嵐になる。

笠井アナの被災地でのリポートで、子供が母親の死体を発見する様子をルポしたものがあった。
私も見たのだが、「これを放送しちゃうのか・・・」という気持ちを持ったし、
やっぱり賛否両論の渦が巻き起こった。
でも、この本を読んで、少し否定する気持ちは消えた。
最近、テレビは、感動モノを撮るためのやらせが多いけど、この取材は、
何のスクープも取れない可能性が高い、多くの被災者との同行取材の1つで、
たくさんの取材の中の1つの出来事である事が伝わってきたから(テレビを見た時は、
こういうシチュエーションを狙って同行取材してた印象を受けたんだけど)。

被災地に入るテレビクルーの苦労もいろいろわかった。
笠井アナは、取材中トイレに行かなくて良いように(避難所のトイレ問題は深刻で、
阪神大震災の時は、大勢来た取材陣が、ただでさえ処理問題で困っている避難所のトイレを
使って問題になったらしい)、カロリーメイトなど、かさが無いものを食べていたらしい。
また報道陣が避難所のトイレを使わなくて済むよう、紙おむつなどの支給もされていたとか。
レポートの時、テレビでは身奇麗に見えていたけど、スーツのままで何日も寝ていたり、
現地で物を購入するのも厳禁だったり、テレビからは伝わってこない、
報道する側の苦労がいろいろわかる。
しかし、被災者を前にして、こんな苦労は苦労ではない・・と、自分を戒める笠井アナ。
また特定の被災者に便宜を図ることも難しく(私も、私も・・・となってしまったり、
○○テレビはやってくれた・・と他の報道陣の迷惑になる可能性が高い為)、
その辺の苦悩もあったようだ。

被災地はまだまだ大変な情報なのに、トップ記事が計画停電になってしまい憤慨する現地スタッフ。
指示を出す上層部と、現地に入っているスタッフの意識の違いなども興味深かった。

悲惨な状況のなかでも、ついついスクープを期待してしまったり、笠井アナの本音も、
ちらほら書かれているが、全体的には真面目で道徳的、書いたら大問題になるような内容は無かった。
さすがに局アナだし、そんなことは書けないだろうけど(^^;)。

被災地の過酷な現状については、もっと詳しく書かれている本がたくさんあるけど、
報道する側の大変さ、苦労、心構えなどがわかる点で興味深く読めた本だった。
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