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「灰色の季節をこえて」ジュラルディン・ブルックス著:ペスト禍に襲われた中世イギリスの村を描く! [本:歴史]

灰色の季節をこえて

灰色の季節をこえて

  • 作者: ジェラルディン・ブルックス
  • 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
  • 発売日: 2012/04/12
  • メディア: 単行本
7.8点

史実を土台にした小説。

1655年、イギリスをロンドンを襲ったペストは、一日に6000人もの人が亡くなるなど、
膨大な死者を出したという。
丁度、同じ時期、イギリスの小さな村にもペストの魔の手が。
最初は仕立屋が。
「全てを燃やすように」との彼の遺言は無視され、ペストは村の中に広がっていく。
牧師の説得により、病魔を撒き散らさない為、村に留まる決心をした人々。
しかし、閉鎖された村の中、増える死者の数に、人々は・・・。
事故で夫を失い、一人で育てていた子供を2人をペストで失った若い未亡人アンナの目を通して、
宗教への信心と迷信が支配する中世の村の様子と人々の意識を克明に描き出す。

第一章は、1666年の春、ペスト禍が去った後の村の様子。
失われた命、消えた何十年も続いてきた村の人々の営み、人々の変化・・・・・、
光は射しているのに、時間が止まり、暗闇に囚われたままのような村の様子が、
アンナの悲しみ、絶望を通して語られ、この先の悲劇を想像させる。

その後1665年、一人の職人の死と、徐々に村の中に広がるペスト禍の様子が描かれる。
牧師の説得により、村に留まる決心をした人々だったが、限りなく続く死者の数に、
信仰は揺らぎ、迷信がはびこり、魔女狩りのような殺人まで起きてしまう。
また、衣服を脱ぎ捨て、財産を捨て去り、自分を鞭打ちながら放浪するという、
異端の信仰にのめりこむ苦行者まで現れた。

興味深かったのは、信仰と迷信が支配する中世に人々の、今とは違う物の考え方・捉え方が、
見事に書かれていた事。
医学も、血を抜いたりと、おまじないと変わらないレベルの時代。
病気自体も神の試練であると捉えられたりしている。
人々を救う為に薬草の勉強をするアンナは、神の試練ではなく、
何が原因があるのではないかと考えたりもするが、進歩的な考えでも、まだまだそのレベルだ。

そんな時代に、疫病が蔓延し、閉鎖された村の人々が狂気にかられるのはわかるし、
怪しげな宗教にのめり込んだり、異教の怪しいマジナイに手を出してしまうのも理解できる。
それでも、人々の行動の根底に「キリスト教」が根付いているのが感じられるのも興味深い。
日本では社会的な目を気にしてモラルを守るが、ヨーロッパではそれが神の目である・・と言う説を
聞いたことがあるが、中世ヨーロッパ社会では、その神の目への意識が今と比べ物にならないくらい
強いのが、本書を読んでいると感じられた。

ペスト禍に襲われた村の様子や、それに翻弄される人々、立ち向かう人々を描いたストーリーも
面白いが、中世ヨーロッパ社会に生きる人々の心理をドキュメンタリーのように描いた作品としても、
とても楽しめた一冊。
ピックアップするエピソードの選択の上手さ、女性らしい極め細やかな心理描写などから、
著者の力量もすごく感じた。
ただ、ドキュメンタリーではなく、大きな災厄際に見舞われた主人公の女性の成長、
考え方の変化、それに伴う行動の変化も描いているため、
ラストが、ちょっととってつけたような印象を受けてしまい、少し点数が低めになってしまった。

そういえば、この作品で描かれるペスト(黒死病)の症状は、ペストらしくないと思って調べたら、
1666年ロンドンで流行った黒死病は、ペストではなく、エボラ出血熱のような、 ウイルス性出血熱だったという説もあるようです。


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