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「飼い喰い-三匹の豚とわたし」内澤旬子著:自分で豚を育て、それを食べる!想像以上にそれは大変!! [本ノンフィクションいろいろ]

飼い喰い――三匹の豚とわたし

飼い喰い――三匹の豚とわたし

  • 作者: 内澤 旬子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/02/23
  • メディア: 単行本
8.5点

以前「世界屠畜紀行」という本で、世界各国の屠畜についてルポを書いた著者。
「世界屠畜紀行」は、屠畜のルポは面白かったが、メインが「屠蓄業者の差別問題」だったため、
「命を奪いそれを食べる行為と嫌悪感や罪悪感」というような、自分が読みたかったものとは、
ちょっと外れていた。

しかしこの本は、タイトル通り!
著者が、3匹の種類の違う豚を育て、それを食べるまでが、詳細に描かれている。
また、それだけではなく、日本の養豚業者や屠蓄業者に関して、その仕事内容やシステム、
そして大変さなどについてや、徐々に養豚業者数が減り、それに比例して一軒の養豚業者が
育てる豚の数の肥大化など、日本の養豚業の遍歴についても書かれている。
私達が、日頃何気なく買っているスーパーに並んでいる豚肉。
しかし、その陰には養豚業者や食肉センター(屠畜解体)に従事している人の、
大変な努力があるのが、読むとわかる。

まず著者は畜霊祭へ参加する。
実は、畜霊祭ってやってるの日本くらいらしい。
西洋は、「家畜=食べられる為に存在し(神が作ったもの?)その為に人間が育てているもの」的
な感覚があると聞いていたので(鯨はそうじゃないからダメらしい。突き詰めると
結局は「自分の価値観・感覚で嫌なものは許せない」という結論になる気がする←万国共通)
なんとなくわかるんだけど、他の地域でも無いのは驚いた。

その後、豚を飼育できる場所を探すのだが、豚を飼うというのは、近隣の反対も多く難航。
「別々の養豚農家から引き取った3匹の豚を、どこかの養豚場の片隅で」というのは、
大規模化が進み、感染症の侵入を恐れる養豚農家から見ると、無理なことだったらしく、
千葉で廃屋状態元居酒屋の空き家をどうにか見つけ、そこに住んで飼うことに。

著者が豚を飼える場所探しに苦労したり、昭和中期から近所の反対で、数頭ほどの豚を買っている
養豚農家がどんどん減ってしまったというのはよくわかる。
私が、中学の時、家を建てて引っ越した場所の隣が豚を飼っていたから。
区画整理で、勝手に土地が移動され、その場所が豚小屋の隣(^^;)。
豚小屋自体それほど大きくなかったから数頭飼ってたくらいだと思う。
それでも、夏はかなり臭いがしたし、朝夕の餌の時間になると、豚の鳴き声がすごかった。
たまに豚が逃げ出して、道路を歩いていたりしたけど、とにかく超巨大でそれにびっくり!
「豚を見ませんでしたか!?」と持ち主が血相変えてやってきて、
「あ、この道をあっちに歩いて行きました」なんて会話をしたこともある。
こちらが後に越してきたので、「まぁしょうがないか~」って感じだったんだけど、
新興住宅地だったので、人がどんどん増え、その中からクレームを言う人も増えて、
結局その豚小屋は無くなってしまった。
先にあったから受け入れたけど、後から豚小屋ができるとなったら、家だって反対したと思うし。

飼える場所が決まっても、資金がほとんどなく、自分や知人達の手を借りて、
コンクリートを練ったり、門をつけたり、とにかく豚小屋の準備だけでも、大変。
最初に豚を育てている人に相談した時は「犬を飼うようなもの」と言われたらしいけど、
実際は、もっともっと大変なのがよくわかるし、著者も準備をしている段階で、それに気がつく。
特に、大量に出る糞尿の処理は、念には念を入れて、対策を考えたようだ。
著者は、作中で自分がかなり非力だと書いていたんだけど(実際そう思われる描写もしばしば)、
巻末近くに載っていた写真を見たら、確かに細くてか弱そうで驚いた!!
自画像だと、そこまではか弱そうじゃないし、行動もアクティブなので、多少の謙遜が入ってるのかと
思ってたんだけど、そうじゃなかったみたい。
豚を育て上げて、かなり筋肉がついたらしいが、それはこの本を読むと、納得できる。

著者は豚の種付け、出産、予防接種、去勢、断尾など引き取る前にもいろいろ取材、
また実際体験していて(去勢時の描写は痛そう)、この辺も興味深かった。
大規模養豚農家がほとんどで、一日に多くの豚に対応するため、迅速に行わなければならないし、
どれもが重労働。
工場で大量に処理するのと違って、手作業がほとんど。

著者が引き取った豚は、雑種LWD(Lランドレース・W大ヨークシャー・Dデュロックの
掛け合わせ)三元豚・デュロック・中ヨークで、それぞれ夢、秀、伸と名前をつける。

3匹の豚との生活は、楽しさあり、苦労ありで、ここだけピックアップしても、
ほのぼのした「豚との生活日記」で、とても面白い。
著者より優位に立とうとマウンテンしたり逆らったり大変な夢、マイペースで食っちゃ寝食っちゃ寝、
豚の模範生のような秀、弱虫だけど人懐こい伸、3匹それぞれ個性があり、
豚の行動や性質もわかるし、巨大化しなければ、確かにペットとして飼ったらとっても可愛い気がした。

でも、3匹は1年後、屠畜場に送られる運命。
屠畜直前になって懐いて来た秀が可愛くて、秀だけは残そうかとか、著者も葛藤したりする。
しかし、千葉の田舎の仮住まい舎で豚を飼い続ける事は難しく、3匹とも最初の計画通り屠畜することに。

今は、家畜を個人で捌いて食べてはいけないという法律があるようで、著者は、
自分で豚を解体するのを諦め、食肉センターに頼むことにする。
一日に1800頭もの豚を解体するセンターなため、著者の豚3匹だけは、解体後も
どの豚かわかるようにして、内蔵も骨も、とにかくすべてを引き取るという事すら、
段取りがすごく大変だったよう。

そういえば、いつから家畜を自分で殺して食べてはいけなくなったんだろう?
私が今住んでいる多摩地区でも70~80年くらい前、昭和初期ぐらいまでは、
農家では庭で豚を飼っていて、何かお祝いごととかあると、殺して食べていたらしい。
「豚の頭をボカっと殴ると、バタっと倒れるんだよ」なんて話を、昔から住んでいた人が教えてくれた。
自分の家だけでは食べきれないから近所にふるまい、他の家の豚が屠畜された時は、
そのお相伴に預かったとか。
豚ってものすごく大きいけど、農家で残飯などで育てられていたなら、
そんなに大きくならなかったのかな?

そして、著者は、屠畜場で、3匹の豚が命を奪われるその時も、しっかり見ている。
私だったら、見ることができないかも・・・・と思ってしまった。

途中、著者の言葉に

「結局何が可哀想で何が可哀想でないか、何を食べて、何を食べないか
という基準のもとになるものが、わからなくなる。・・・結構いい加減な、単なる習慣に
基づいているだけにすぎないのではと思わされる。なのに、ほとんどの人は、
それを絶対的な確固たるものだと思い込んでいる。時にはタブーであるかのように、騒ぐ。
実に不思議だ」

というのがある。
本当に、これには共感してしまった。
もちろん、人にとって嫌なものは嫌なんだろうから、自分が感覚的に許せない事を、
他人にも押し付けてタブーだ、おかしいと騒がれると「???」と思ってしまう。
主観メインの主張というのは、多分に自分に対してのご都合主義が働くものだと思う。
著者の母親が、ずーーっと「自分が育てた豚を食べるなんてやめて」と騒いでいたのに、
一度、その豚たちの肉を食べると、態度が180度変わってしまったように。
本人はいいのかもしれないが、最初に非難されて嫌な思いをしていた方から見れば、
あっさり主張が変わってしまって「えーー何それ!?」って感じてしまうこともある。
他人だけの話じゃなく、この辺は自分もやりがちなので、気をつけているけど。

また、1年かけて育て、枝肉になった豚肉の価格には、かなり驚くべきものが。
養豚農家の苦労が、その辺からも垣間見える。

著者が、豚を屠畜したのが2009年9月。
その後2011年3月11日の東日本大震災時、今回のルポでお世話になった養豚農家や屠畜場が
どうだったのかの報告もある。
大規模なだけに、停電などの影響が大きく、また生き物なだけに、状況が回復するのを待つわけにもいかない。
当時の関係者の奮闘ぶりや大変さが伝わってくる内容だったし、千葉ですらそうだったのだから、
被害が大きかった地区の養豚農家、酪農家などがどれだけ大変だったのか、
どれだけの絶望感を味わったのかが、想像できて、辛かった。

帯に「豚は豚である。飼えばかわいく愛らしく、食べれば美味しい」とあるけど、
それがよくわかる一冊。
自分の見えない場所で多くの家畜が屠畜され、精肉となってスーパーに並んでいる。
そういう現実や命を頂くということを再認識するだけじゃなく、それを提供する為日々奮闘している
養豚業者や屠畜関係者などの苦労を知るにもよい本です(^^)。
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コメント 2

コステロ

これはなかなか興味深い一冊ですね。
調理師を生業としているモノにとっては特に。

それにしても、豚ってたったの一年で屠畜出荷できちゃうんですね。
by コステロ (2012-10-19 09:17) 

choko

コステロさん

豚肉の味って、育て方でかなり変わるんだろうなーとなんてのもわかります。
養豚農家にとって、早く太る育つというのがいかに重要なのかも。
なので、美味しいけど、大きくなりにくい豚は淘汰されちゃうのも。

これを読んだら、豚肉を見る目が変わるかもしれません(^^)。
豚が可愛くて、豚肉が食べられなくなる・・・ってのは、
コステロさんもなさそうですよね(^^;)。
by choko (2012-10-20 01:38) 

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