SSブログ

「バナナ剥きには最適の日々」円城塔著:言葉が紡ぐリズムとイマジネーションを楽しむ本 [本:SF]

バナナ剥きには最適の日々

バナナ剥きには最適の日々

  • 作者: 円城 塔
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/04/06
  • メディア: 単行本

7.5点

円城塔の、SFあり幻想小説っぽい話ありの、9編が収められた短篇集。

「円城塔にしてはわかりやすい」と紹介にあったけど、そうかなぁ??と思った。

表題作「バナナ剥きには最適の日々」は、宇宙で終わりなき放浪をする無人探査船に
搭載された人工知能が、友達とか遭遇するかもしれない宇宙人を想像する話で、
シニカルでクスリと笑える部分があるけど、話の根底に切なさが流れていて、いい話だったし、
人工知能と人の感情、妄想と現実との違いなどを考えさせられたり、と奥深さも感じさせる内容。
この話は、かなりわかりやすかったけど、円城塔らしい、掴みどころの無い話もいくつか。

「パラダイス行」は信じること、信じないこと、自分には見えて他の人には見えないもの、
それは本当に無いのか、実はあるのか・・なんて事と左回りと右回りで、測った時長さが違う洞窟の話。

「祖母の記憶」は、全身麻痺で意思疎通ができない祖父を使ってコマ撮り映画を撮る兄弟の話。
ストーリーはわかりやすいんだけど、祖父を道具のように扱う兄弟への違和感とかグロテスクさと、
祖父を大切にしてるし、祖父で映画を撮る行為を当たり前のように肯定する語り手である兄の心理とか
自分の中で、噛み合わず、そこに映像に関する考察とかまで入ってくるので、
一番何が言いたいのか捉え切れない話だった。

「AUTOMATICA」は、文章の自動生成についての定義と考察が論説風に。

「equal」は、物の存在について、イマジネーション溢れるショートショートの連作で語っている。

「捧ぐ緑」はゾウリムシの研究をしている男の話。
「ゾウリムシは信仰を持つか」「機械に魂はあるのか」「光るゾウリムシと進化」なんてのを
合間にはさみつつ、信仰とかそういう事をちょっと考えさせるような内容になっているんだけど、
円城塔らしく、重い話ではなく、ふわふわと軽く、でも、ちょっと考えちゃうよ・・って感じの話。
割りとわかりやすいし、面白いフレーズ、興味深いフレーズが多く、好きな話。

「Jail Over」は、他人の背中を見送って、それが自分の背中ではない理由を考える事から始まる、
他人と自分、わたしは私、あなたな私的なテーマを内包しているように思える話。
でも、他にもいろいろ入っている。

「墓石にと、彼女は言う」は多次元宇宙がきっとテーマの一つなんじゃないかと思える話。

「エデン逆光」は、多くの言葉が溢れ、街を通り抜けた人がいない、
中央に向かって螺旋を描く構造の時計の街の話。

「Jail Over」と「墓石にと、彼女は言う」は、いろいろなシーン、ストーリーが錯綜し
ストーリーの説明は不可能。

どの作品も、円城塔らしい、言葉のリズムの楽しさ、文章の上手さを、
そして、目の前に展開されるイマジネーション溢れる場面を、楽しめるものになってます。
作品の中で、ポツリと、時には長く語られる言葉に耳を傾けると、
何かが掴めそうな気がするんだけど、すぐそれは逃げてしまう・・・
ぶっちゃけ、わかんないって事ですが、わからないことすら楽しい、答えの無い事を
あれこれ考える過程が楽しいのが、円城塔の作品。
掴みそこなった事について、いろいろ考えたり、お気に入りのフレーズを堪能したり、
作品によって喚起されたイメージを楽しんだり、そうやって自由に楽しむ本。

円城塔の言葉の軽快さとか、イメージの錯綜は、読んでて楽しいけど、読む人を選ぶ気がする。
でも、表題作「バナナ剥きには最適の日々」はわかりやすいし、いい話なので、
円城塔に興味がある人は、手にとってみるのもいいと思います(^^)。

多次元宇宙となった世界を短いストーリの連作で見事に描いた
Self-Reference ENGINE」(リンク先感想)もお勧め(^-^)ノ!
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。