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「匣の中の失楽」竹本健治著:3大奇書に加えられ4大奇書と評されるアンチ・ミステリー小説! [本:ホラー&ミステリー]

匣の中の失楽 (講談社ノベルス)

匣の中の失楽 (講談社ノベルス)

  • 作者: 竹本 健治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1991/10/30
  • メディア: 新書
7.5点

かくも水深き不在」が面白かったので、同じ著者の処女作であり、
代表作の一つでもある「匣の中の失楽」を読んでみました。

大学生のミステリーマニアを中心に集まったある集団。
仲間の1人である甲斐の兄が経営する喫茶店の各国の人形が並べられ黄色く統一された「黄色の部屋」、
仏文専攻の布施の真っ黒に装飾された「黒の部屋」、国文学専攻の羽仁の「白い部屋」、
そういう場所を溜まり場にして、定期的に集まっていた。
しかし、仲間の1人が密室で殺害された事から、そのファミリー内には不穏な空気が。
推理合戦、双生児の片割れである通称ナイルズが書いた仲間達を登場人物とした
連続殺人事件の小説、それらが複雑に絡み合って、ストーリーは進展していく。

うー、取り敢えず粗筋を書いたけど、この作品、虚構と現実が交差する構成になっていて、
この作品の持つ雰囲気が全然伝わってません(^^;)。

読みだしてすぐ小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」を思い出したけど、
調べてみたらこの作品、三大奇書と呼ばれる「黒死館殺人事件」、夢野久作の「ドグラ・マグラ」、
中井英夫の「虚無への供物」から影響を強く受けていて、この作品を追加して「四大奇書」と
評されることも事もあるそう。

「黒死館殺人事件」を連想したのは、衒学的な要素がとても強かったからで、
登場人物である学生達は、自分の推理を披露するのに、数学、物理学、心理学、薬学、魔術・・・
など、自分の得意な分野の知識をふんだんに盛り入れて説明する。
「黒死館殺人事件」ほど、衒学趣味が本筋を圧迫するほどにはなっていないし、
嫌になるほど長くもなく(マイケル・スレイドの小説とか何ページも説明が続いて参ったこともあるけど)
作中でも「衒学的」「ペダンチック」と、等々と自分の知識を披露することに対して、
登場人物が批判していたりもするので、かなり意図的にやっているのがわかる。
「ドグラ・マグラ」ほど現実と虚構がごっちゃにもなってなかったけど、衒学的要素と、
現実と虚構が交差する構成の融合は、読んでいてかなり面白かった。
「虚無への供物」は読んでいないので、どういう影響があったのかわからないけど。

また双子の美少年が登場することから耽美趣味も伺われるし、登場人物の女性の美しさを称えるのに、
ギリシャ彫刻のような(だと思った)比喩が使われたり、豪奢な洋館が舞台に使われるなど
西洋趣味が強く感じられたのも、大正・昭和初期の探偵小説を連想してしまった。

圧倒的で広範囲な知識量。
突っ込みどころ満載だったり、おっと思わせてくれたりする、登場人物たちが披露する推理の面白さ。
そしてすぐ覆されるそれらの推理と新展開。
作中小説と作中で現実である部分の交錯が読者を惑わせる、構成の上手さ。
また、作中にいろいろ出てくる有名なミステリーのトリックや作品名、ちょっとした解説などは、
ミステリーファンには嬉しいものかも。

著者の処女作ということだけど、確かに力作だし、「すごいものを書こう!」という著者の若さや
青臭さが感じられるとともに、そのパワーが成功している例でもある。
なかなか興味深い作品だった。
でも、私は純粋なミステリーファンではなく、ホラーファン。
もっとおどろおどろしさとか恐怖感が欲しかったので、この作品の持つ魅力の
半分もわかってないんじゃないかなーと思った。
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