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「津波の墓標」石井光太著:今だから書ける、震災直後の忘れられない光景・・・読んでて辛い [本ノンフィクションいろいろ]

津波の墓標

津波の墓標

  • 作者: 石井光太
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: 単行本
7.5点

東日本大震災により、信じられないほど多くの方が亡くなった。
多すぎる遺体を相手に、死者の尊厳を守ろうと必死に奔走する人々の姿を克明に描いた
遺体-震災、津波の果てに」(リンク先感想)を書いた著者が、
当時の取材で、胸に刻み込まれた忘れられない様々なエピソードを書いたルポ。

「当時書けなかった事を、今更だけど書く」と、前書きにあるんだけど、
読んでみて、なるほど、当時書けなかったわけだ・・・と思う事、多々。

震災ルポの多くは、確かに辛い話も入っているけど、被災地で前向きに頑張る人々の姿が
描かれていたり、追跡ルポがあったり、どこかしら、希望や前向きな気持ちが見えるものが多かった。

しかし、この本で扱われているのは、取材中、著者が、一瞬だけ携わった、もしくはちょっと見聞きした
エピソードの中でも、人間の醜さや、人間の弱さ、悲しさだけが伝わってくる内容や、
この怒りをどこに・・と思ってしまうような内容が多く、読んでいて、途中何度もため息をついてしまった。

避難所で、周囲に気を遣い、嘆くことすらできない状況、早々に遺体が見つかった遺族への哀れみが、
逆に遺体が見つからない遺族への哀れみに変わる過程、ボランティアの若い女性への酷いセクハラと、
被災者だから大目に見ないと・・とそれを周囲が放置している状況、
逆にボランティアに来た人たちが無神経に撮る、被災地での笑顔での記念写真。
遺体の写真を撮り、遺族の神経を逆なでする野次馬達、
被災地近隣から来る窃盗団(中・高校生ぐらいの未成年も多かったという)、
息子が、孫が、母親が・・・身内が亡くなった事を受け入れられない遺族の悲痛な言葉・・・etc。

「どこどこに幽霊が出た」という噂が出ると、多くの被災者がそこに行ったという。
もしかして、その幽霊は身内かもしれないと・・・そんな、切なすぎるエピソードもあった。

またマスコミにあり方についても、まだまだ現場は混乱し悲惨な状態なのに、
上の命令で、被災地でも前向きな明るいニュースメインにシフトしてしまったことや、
上司の命令で、被せてあるシートを剥がしてまで遺体の顔写真を撮るマスコミのあり方に対する
著者の憤りなど。

また、復興が始まっても、家が津波被害にあった人と、ギリギリ難を逃れた人、
ほんの数メートルの距離が分けた明暗が妬みという感情をうみ、その後の人間関係にも、
大きな影響を及ぼしたり、地元の復興に力を注いだ結果、離婚にまで至るような状況に
なってしまった家庭があったり、やるせない気持ちになる話が多かった。

自分が被害にあってどん底の状態になっても、被害にあわなかった人の幸福を喜べる人も
いるだろうが、人間は強い人ばかりではない。
身内の不幸を早く乗り越えられる人もいるだろうが、ずっと乗り越えられない人もいる。
他人を恨み蔑む事、大声で罵倒し理不尽とも言える罪をなすりつけることで、
身内の不幸から自分を守ろうとする人もいる・・・。

もちろん、そういうネガティブな話だけではなかったけど、人間の弱さ、悲しさが、つまっている本だった。
そして、これもまた現実なんだと思うと、気持ちが滅入る本でもある。
いい話、感動的な話ばかりではなく、そういう部分も直視しなければいけないとは思うのだけど。
「津波の墓標」、この本を読み終わった後、改めてタイトルを見ると、「墓標」という言葉の持つ悲しさが、
より強く感じられる本だった。
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