「硫黄島の兵隊」越村敏雄著:一兵隊が体験した硫黄島戦 [本ノンフィクション:戦争・戦記]
7点
太平洋戦争で、激戦の舞台となった硫黄島。
山の形が変わるほどアメリカ軍艦から打ち込まれた砲弾、
圧倒的な戦力に対し、それまでの玉砕戦法とは異なり、持久戦で戦った日本軍。
この島に派兵された著者が体験した硫黄島での生活の手記を、
その娘が補足してまとめた一冊。
下級兵士だった著者は、大きな戦況の流れは見えず、
日々の作業に追われていた為、書かれているのは、
日々の作業状況や硫黄島での兵隊の生活、兵士がおかれていた状況が中心。
硫黄島戦の全貌を知りたいという人には不向き。
でも、個人の体験を詳細に綴っていることから、
硫黄島で、兵士が体験した壮絶な状況が手にとるようにわかる。
島はどこを掘っても熱気と亜硫酸ガスが噴出し、灼熱地獄の中作業する兵士達が
飲める水は、硫黄の臭いのする塩辛い水のみ。
塩辛い水を飲むので、喉の渇きはいつまで経っても癒されず、それが終戦まで続いたらしい。
アメリカ軍上陸前から連日の様に繰り返される爆撃で、次々に負傷する兵士たち。
また、硫黄の水のせいで下痢が止まらなくなり、劣悪な食糧事情もあって、
栄養失調で倒れる兵士も続発した。
そんな兵士たちを鎧のように覆うのは、蠅の大群。
弱っている兵士の上には、鱗が生えたように何層にも蠅が群がり、
栄養失調で倒れた著者の体も蠅に覆われたという。
兵士たちの置かれた状況が、想像を絶するほど過酷だったことがこの本を読むと伝わってくる。
「硫黄島の戦い」をより詳しく知る為には、いい本だと思う。
気になったのは、この手の手記は、写実的な描写が淡々と語られる事が多いのだが、
この本の場合、流れ出る血を「赤い蛇のように」と例えたり、小説的(?)な表現の部分が
たまに見られた事。
そのせいで、ドキュメンタリーっぽく無くなってしまっているのと、
たまになので、そういう表現の文章が浮いてしまって違和感があった(^_^;)。
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