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「蝿の帝国-軍医たちの黙示録」帚木蓬生著:心の叫びが聞こえてこない・・・ [本ノンフィクション:戦争・戦記]

蝿の帝国―軍医たちの黙示録

蝿の帝国―軍医たちの黙示録

  • 作者: 帚木 蓬生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/07
  • メディア: 単行本
5点

第二次世界大戦の軍医達の手記などを幅広く集め、著者が再構築した軍医戦記もの。
15人の若き軍医を主人公にした短編15編が収められている。

タイトルの元になった「蝿の街」は終戦直後、広島で原爆病のデータを集める為、
亡くなった人々の解剖をする任務についた医者が主人公の話。
他にも、徴兵検査にあたった軍医、捕虜収容所の軍医をしていた為、証人として法廷に呼ばれた軍医、
証人ではなく本人が、被告人として呼ばれた軍医、特攻隊の担当だった軍医、
満州で勤務し、ソ連軍の突然の攻撃に奔走する軍医、沖縄戦に参加した軍医・・・、
様々な立場の軍医の話が取り上げられている。

軍医の手記による戦記ものは、他にも読んでいるが、この本、他の手記で感じられた
戦場に赴いた軍医の、葛藤、苦悩、心の叫び・・・・そういうものが伝わって来ない。

手記の形式をとっているが、実際は、いろいろな記録を元に再構築された
「小説」なせいもあるのだろうけど、著者の書きたかった事と、文章のスタイルが噛みあっていないのが
原因な気が。

この本に収められている短編はどれも主人公の軍医の一人称スタイル。
戦記ものは、この一人称の手記タイプも多い。
戦争下での心理状態や、戦争での体験から考えた事、感じた事などが、
戦争の状況や戦場での出来事を通じて語られている。
メインに来るのは、状況ではなく、その時の気持ちだ。
ところが、この本で語りたいのは、主人公の軍医の生い立ちや、軍医になった過程、
そして戦時下の軍医がどのような事をしていたか、どのような立場だったかなど、
状況説明がメインな為、本来三人称で書かれるべき内容に思えた。

「蠅の街」では、原爆直後の悲惨な広島の風景が語られている。
一人称形式なので、その風景を見て感じた事が語られるのが普通である。
しかし、この本の場合、単に事実を述べるだけの事が多く、一人称のスタイルだけに
「この主人公はこんな悲惨な情景をみても、何も思わないのだろうか???」と、感じてしまう。
三人称であれば、事実の報告だけで済むのだが、一人称なら、そこかしこに、
もっと主人公のその時の気持ちが入ってこなければならないのが、それがないのだ。
結果、原爆症に苦しむ人を助ける事より、データ集めに解剖できる遺体を探すほうが重要な医師・・・
という印象を受けてしまう。
単に、原爆症で苦しむ多くの患者に対する主人公の心理描写が少なすぎるだけなのだが。
そして、途中、幼子の親を診てあげるのが遅れ、手遅れになったことを後悔するという
主人公の心理描写が長く語られるエピソードが入っているのだが、その部分だけがとって
つけたように感じられてしまった。
この構成、三人称なら、違和感が無いのだけど。
その上、一人称な為、三人称で語るより視野が狭くなり、本来語りたいはずの
状況すら見えにくいものに。

「蠅の街」に登場する医師達のモデルになったと思われる京大の医師達の話。
それを、戦中戦後の気象台の状況と、戦後、原爆投下から立ち直れない広島を襲った台風に関して、
広島の気象台を中心に描いたドキュメンタリー「空白の天気図」(後で感想書きます)でも読んだ。
テーマからは外れており、一つのエピソードとしてしか語られていないのに、
「空白の天気図」の方が、治療法を見出す為、原爆病のデータを必死で集めようとした
医師達の志の高さ、原爆症の人々を助けようと奔走する姿などが、しっかり感じられる結果に。

この本で伝えたかったことは、様々な場所での軍医の任務や立場で、
心の葛藤が中心ではないのに、心の動きが重要な一人称で語ってしまったのが、大きな失敗だと思う。
三人称であれば、ちょっとした補足で、心を痛めつつも、任務に取り組んでいる軍医という印象を
持てるが、一人称の場合、主人公の独白が続くので、それがそのまま主人公の印象に直結する。

エピソード的にはいい話もあったし、この本に出てくる話のもとになった軍医達は、
とってつけたように感じられてしまった「感動するエピソード」から想像できるような、
素晴らしい人達が多かったのだろうけど、話全体からはそれが伝わって来ない事が多かった。

どの話も、一人称にしては心理描写が少なくあっさりしすぎており、
主人公は各話違うし、個性もあるのに、どの主人公も、無個性な三人称での語り手のようだ。
過酷な状況にあって、冷静というよりは、まるで他人事のように状況を分析している
観察者というか・・・。
似た状況で、似たような心情が語られるというパターンが多かったのも気になる。
著者の代弁者になってしまっているような・・・。

徴兵検査を、される立場ではなくする立場から語った話や、戦争終了後の満州混乱など、
興味深い内容が多かっただけに、三人称で、もう少し広い視野での状況説明が入っていれば、
より面白くなったと思える話が多く、もったいないと思った。
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「ヒロシマ・ナガサキ 戦争×文学」原爆、原爆病、差別、ビキニ水爆被曝、原発・・多方面に渡ってます [本ノンフィクション:戦争・戦記]

ヒロシマ・ナガサキ (コレクション 戦争×文学)

ヒロシマ・ナガサキ (コレクション 戦争×文学)

  • 作者: 原 民喜
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/06/03
  • メディア: 単行本
7点

集英社の「戦争×文学 コレクション」(全20巻)の19巻。
現時点では、まだ「アジア太平洋戦争」(リンク先感想)など5~6巻ほどしか出てませんが、
次々と刊行されているようです。

で、この本は、原爆を落とされたヒロシマ・ナガサキの話だけではなく、ビキニ水爆被曝、
韓国人被爆者など、原爆や放射能被害が与えた影響について、多面的な視野で中短編を選び、
編纂されています。

第一章は、原爆投下とその直後の事を描いた中短編3編。
・夏の花(原民喜著)広島の原爆投下直後の悲惨な様子をリアルなタッチで描いている作品。
・屍の街(大田洋子)広島原爆直後の惨劇や、その後の原爆病の事などを、
女性ならではの心理描写も折り込み、描いている作品。
中編で読み応えもあり。
・祭りの場(林京子)あまり読んだことが無い長崎の原爆投下直後の様子を描いている作品。
平和に生きていた人たちの、変わり果てた姿の描写が辛い。

第二章は原爆投下とその後の状況を伝えた中短編。
・残存者(川上宗薫著)-復員した兵士と、被曝した少女の話。
焼け野原を歩く二人のやり取りと心理描写がメイン。
エロティシズムの要素が見え隠れし、かなり異色だった。
・死の影(中山士朗著)-酷い火傷を負ったが助かった少年の、痛みや蠅との戦いの闘病記と、
その後醜いケロイド跡が残ってしまった彼の心理や行動、周囲の反応を描いた作品。
・少年口伝隊一九四五(井上ひさし著)-原爆で孤児となった3人の少年が、
印刷できない新聞の代わりに、ニュースを口伝する話。
子供の純粋さが悲しい。

第三章は被曝がもたらした様々な影響について。
・夏の客(井上光晴著)-戦後、8月になると広島を大挙して訪れる記者達に対する皮肉と、
被曝者のおかれた境遇について語った話。
・戦(美輪明宏著)-美輪明宏が長崎で被曝した子供の頃の体験を綴っている。
・炭塵のふる町(後藤みな子著)-原爆で兄が死に、狂ってしまった母。
原爆で壊れる家庭を描いた作品。
・暗やみの夕顔(金在南)-日本で被曝し帰国した韓国人の母親と娘の話。
日本人以外の被爆者の置かれた悲惨な状況がわかる。
また、朝鮮戦争で、家族が殺された韓国人のアメリカ軍に対しての憎しみと、
戦後教育で「アメリカは平和の国」と教えられて育った著者の認識のギャップは、
日本人にも通じるものがあるのかも・・と思った。
・鳥(青来有一著)原爆投下で奇跡的に生き残った産まれたばかりの主人公と、
家族も何もかも判明しないその彼を育てた義父母。

第四章は、核を巡る様々な事柄を扱っている。
・死の灰は天を覆うービキニ被爆漁夫の手記(橋爪健著)-あまり詳しくなかったビキニ被曝。
運命に導かれるように死の灰をかぶってしまった船員達と、灰まみれになっても、
網の回収を続けた漁師達の気持ちが印象的。
・アトミック・エイジの守護神(大江健三郎著)-被曝した孤児達を、10人も引き取った男の話。
彼らに保険をかけた男の真意とは・・・。
ちょっとオチがまとまり過ぎてた気が。
・金槌の話(水上勉著)-原発勤務と原発ができた周辺の農村の話。
原発の周辺農村への影響が、著者と原発で働く男性のやりとりの端々でそれとなく書かれているが、
さわりだけなので、もっと詳しいルポタイプの物を読みたいと思った。
・「三千軍兵」の墓(小田実著)-水爆実験が行われたビキニ諸島に住む人達の、悲惨さをこれを読んで知った。
・「似島めぐり」(田口ランディ著)-被爆者である祖母の思い出を語った話。

同じ全集の「アジア・太平洋戦争」に収められている作品に比べると、
文芸の香りは弱く、読みやすい。
一章・二章は、実際体験した人が書いた手記的なものも多いが、後半は、完全な創作もので、
原爆そのものの被害などでなく、差別や、被爆者として生きることなどに触れた作品も。
長崎の原爆の手記は、ほとんど読んだことが無かったので、印象深かった。

「核」というものを多面的な視野で捉えていて、興味深い作品が多かった。
ただ、その為、3章・4章の作品は人の人生・家族などがテーマで「核」が中心ではない作品もあり、
「ヒロシマ・ナガサキ」というタイトルから期待する作品としてはちょっと弱い(短編なのでより、
中編だったらもうちょっと違ったかも)。
「核」「原爆被害」などに関して、いろいろ読みたい人にお勧め。
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「アジア太平洋戦争 戦争×文学」太宰治、高村光太郎、川端康成、三島由紀夫、吉村昭など錚々たるメンバーによる戦争文学集 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

アジア太平洋戦争 (コレクション 戦争×文学)

アジア太平洋戦争 (コレクション 戦争×文学)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/06/03
  • メディア: 単行本
7.5点

ノンフィクションではなく、「文学」なのですが、戦争文学なので、
「ノンフィクション:戦争・戦記」カテゴリーに入れました。

タイトルに表記した通り錚々たる作家陣。
1~4章まで、その章ごとのテーマに沿った戦争文学が収められています。

1章は「開戦と進軍」がテーマ。
開戦当時の人々の不安もあるが高揚した気持ちを描いた「歴史の日」(上林暁)、
潜水艦で真珠湾攻撃に参加した兵士を描いた「真珠湾・その生と死」(豊田穣)、
バターン半島前線での初年兵達の過酷な状況を描いた「バターン白昼の戦」(野間宏)、
戦死した兵士の前線での勇敢な行動を、その子供達に伝える手紙「軍曹の手紙」(下畑卓)、
操業先のオーストラリアで捕虜となった漁師達の生活を描いた「船幽霊」(庄野英二)など8編。
高村光太郎が「十二月八日の記」として、戦記高揚ものを書いていたのが意外だった
戦後、本人はかなり後悔していたようです)。

「バターン白昼の戦い」は初年兵(一番下っ端)は、酷いシゴキやいじめに合うとは聞いていたけど、
それが克明に描かれていて、軍隊内部の陰惨さを強く感じた。
逆に「軍曹の手紙」は、勇敢な兵士の美談とも言える内容。
外国で漁をしていて、開戦の為突然捕虜の立場となった漁師達の姿、捕虜の生活を描いた「船幽霊」は、
戦争モノとしてはあまりない設定で興味深かった。

2章は「南方、南洋での敗走・玉砕」がテーマ。
インパール戦で敵にも味方にもなった現地人との関係を描いた「異民族」(火野葦平)、
玉砕した南方の小島テニヤンでの軍医の体験「テニヤンの末日」(中山義秀)、
パラオで民間人で従軍させられた男とその家族の運命を描いた「礁瑚」(三浦朱門)、
マニラ陥落時、突然徴用された市民兵であるにも関わらず軍に縛られる男を描いた
「ルネタの市民兵」(梅崎春生)など5編。

「異民族」の主人公である真面目で、自然を愛し、インテリである将校の、
国の為には、迷いなく道理に外れた事をする、恐ろしいほどの信念、
戦局が変わった事により突然裏切った異民族への深い理解、
その二つの考えが、違和感無く独りの人間の持つものであると表現されていた事がとても印象に残った。
また、「礁瑚」は、日本にいる家族を守るため戦っている兵士と違い、
現地に妻子がいる民間徴用兵が、兵役につきながらも、近くの島にいる妻子が
衰弱死していく様を目の当たりにしなければならない悲惨な状況に胸をかきむしられるような気がした。

3章は「国内での玉砕・特攻」。
戦艦大和、最後の数日間の状況や伝聞を綴った「戦艦大和ノ最後」(吉田満)、
突撃直前に終戦となった水上特攻部隊を描いた「出発は遂に訪れず」(島尾敏雄)など3編。
「戦艦大和ノ最後」は、漢字とカタカナ文で読み難くちゃんと読まなかった(^^;)。

4章は「戦後からの眼差し」
戦死してしまった人を慕い・想う「生命の樹」(川端康成)、
帰神の会で、神霊が語った天皇のあるべき姿を描いた「英霊の声」(三島由紀夫)、
樺太での看護婦集団自決の真相を追う記者の話「手首の記憶」(吉村昭)、
祖父が孫に語る潜水艦での死を覚悟した想い出「夜光虫」(蓮見圭一)など4編。
三島由紀夫の「英霊の声」は、割腹自殺した三島由紀夫らしいなーと思った。
「手首の記憶」は吉村昭らしい、ドキュメンタリータッチにあふれた一作。
「夜光虫」は死を目前にして人が何を考えるのか、どう変わるのか、考えさせられた作品。

戦争体験者が書いている戦争文学なので、重く、深く、考えさせられるものが多かった。
望むと望まざるとに関わらず、生と死の狭間を通り、生き延びた・生き残った人が書いた話は、
生と死というものや、生きるということが、単純なものではない事を伝えてくれる。
また、あとがきでも指摘されていたけど、会話文が少なく地の文主体で話が進むものが多く、
その分雰囲気が重厚でもあるし、作家の文章の上手さ、言葉の選び方などに特徴も出る
(会話文主体の文章に比べると、読むのに時間がかかるけど)。

一般市民、兵士、捕虜、民間雇用兵、残された者、戦場で死んだ兵、生き残った兵、軍医、
従軍看護婦・・・いろいろな視点、立場から描かれた戦争文学が集められており、
バリエーション豊かなのもよかった。

ノンフィクションものとは、また違った奥深さがある作品が揃った全集で、すごくお薦め。
絶対胸を打つ話、深く考えさせられる話と巡り会えるはず。

この「アジア太平洋戦争」は全20巻の「戦争×文学 コレクション」(集英社)の8巻。
第二次世界大戦だけでなく、「ベトナム戦争」「朝鮮戦争」「9・11変容する戦争」など、
戦争に関する文学を多方面から集めた全集で、他にも読んでみたいものあり。
一冊一冊かなり厚いので、時間がある時に手を出したい。
この「アジア太平洋戦争」は単行本・2段組で800Pくらいあり
、読むのにかなり時間がかかったので(^^;)。
図書館で借りた他の本をなかなか読めず大変だった。
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「ベトナム戦記」開高健著:戦時下のベトナム人達の息遣いが聞こえてくるよう・・・ [本ノンフィクション:戦争・戦記]


ベトナム戦記 (朝日文庫)

ベトナム戦記 (朝日文庫)

  • 作者: 開高 健
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1990/10
  • メディア: 文庫

7.8点

ベトナム戦争初期の1964年末~65年初頭にかけて、
サイゴンに滞在した著者によるベトナム戦争のルポタージュ。

この本ですごいと思ったのは、ベトナム戦争下の、
サイゴンや他の町や村の様子や人々の生活、考え方、ベトナム人の気質、
人々の心に根ざす仏教の影響・・・・そういうものが、じわじわと伝わってくること。

また、言葉の選び方が上手く、簡潔でテンポがよく、
その場の雰囲気がはっきり感じられる文章にも感心。
元々、著者は、記者ではなく、作家だからだろう。

当時のサイゴンの特産物は、テロ、デマ、デモ、クー(クーデター)、それもよりぬきに激しいヤツばかり、
と著者は、サイゴンの様子を語りだす。
読み進めると、その4つが「特産物」なのが、ものすごくよくわかる。
そんなに頻繁に、テロやクーデターが起きているのだから、
住んでいる人は怯えながら生活してるのだろう・・・と思ってしまうが、人々はみなたくましい。
テロ、デマ、クーが頻発し、デマが蔓延する状況でも、
優しく、おだやかに生きている人々の様子が、目に浮かぶように描かれているのもすごい。

ベトナムには「フエ」という古都がある。
ベトナム戦争の話を読むと、必ず目にする名前。
でも、名前を知っているぐらい。
その都市が、知性と宗教、学者と高僧の都市で、
独裁政権に対する人々の反逆の狼煙は、この街からいつも始まっている事を知った。

激戦地に比べれば、まだまだ穏やかなフエ。
しかし、そこですら、道端に転がる死体に、子供達すら慣れているというベトナムの現状。

前線を聞くと「全土」と答えが帰って来たという当時のベトナムの様子を伺い知る事ができる。

ベトナムで大きな影響を持つ仏教の僧達や、
ベトコンの侵入を防ぐ為に作られた「戦略村」に閉じ込められた人々を訪ねて行った、
インタビューは、どれも興味深く、考えさせられる内容だった。

野蛮人と蔑まれていた、ベトナムの少数民族である「高原人」、
彼らの、お金には全く動かされない誇り高さを示すエピソードは特に印象に残った。

また、戦争下の都市や村だけでなく、最前線にまで出向き取材をしている。
いつ、死んでもおかしくない状況で、来たことを後悔したり、
銃撃戦の真っ只中に部隊ごと包囲され、絶体絶命の状況に陥ったりもした。
著者の目の前で打たれ死んでいく敵・味方の兵士達の姿が、生々しく、
そしてその兵士の生き様まで想像できるよう切なく描かれている。

長く続き、ベトナム全土を戦果に巻き込んだベトナム戦争のごく一部を扱った取材ルポなのに、
ベトナム戦争がどんなものであったか、見えてくるような一冊。
お勧め!!

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「ぼくが見てきた戦争と平和」長倉 洋海著:戦乱や貧しさの中で生きる人々を撮る [本ノンフィクション:戦争・戦記]


ぼくが見てきた戦争と平和

ぼくが見てきた戦争と平和

  • 作者: 長倉 洋海
  • 出版社/メーカー: バジリコ
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本
7.5点

カメラマンとして30年以上活躍している著者が、世界各国で見てきた、
戦場や難民キャンプ、貧しい人々などについて綴った本。

戦場カメラマンを志した著者。
若い頃は、スクープ写真を撮る為紛争地帯を奔走したが、
徐々にその目線は、難民や、戦乱・貧しさの中生きる人々に向けられる。
被写体が死体から、困難な中でもたくましく生きる人々へ変化した過程や、気持ちの変化、
30年以上に渡る仕事の中で思ったこと、体験したことが本書では語られている。

著者の若い頃の行動や考え方は、「地雷を踏んだらサヨウナラ 」で書かれている、
駆け出しの頃の一ノ瀬泰造と被るものがある。

一ノ瀬泰造も、スクープを追う戦場カメラマンから、現地の人々に目を向けるように変わって行った。
一ノ瀬泰造が若くして逝ってしまわなければ、この本の著者のような、
視点での写真をたくさん撮ったかもしれない。

アフガニスタンの英雄マスードと行動を共にした話は興味深かった。
マスードについては、ほとんど知らなかったけど、
アフガニスタンにこんな強い志を持って平和の為に戦っていたイスラム戦士がいたんだーと感銘。

アフリカの金鉱で働く貧しい鉱夫の温かい人柄の話も良かった。

貧しい人々に向けられる著者の優しい目は、戦いや混乱を引き起こしている原因や、
先進国の対応、特にあちこちで戦争を引き起こしている米国に対しては厳しい
(別の本でも、アメリカは軍事産業での利益が大きく、「戦争が無くなったら困る国」だと指摘されている)。

また、殺伐とした今の日本や企業のあり方にも疑問を投げかけている。
しかし、一方的に責めるのではなく、第二次世界大戦中の日本の国民意識なども振り返り、
誰でも、間違った方向に進んでしまう可能性も示俊している。

今の国際情勢を深く掘り下げたものではないが、
平和を願う著者の気持ち、「生きることの素晴らしさ」などが淡々と書き綴られており、
心に染み入るものがある一冊。
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「戦場の掟-Big Boy Rules-」スティーヴ・ファイナル著:イラク戦争で暗躍する傭兵。その問題点とは・・・。 [本ノンフィクション:戦争・戦記]


戦場の掟

戦場の掟

  • 作者: スティーヴ・ファイナル
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/09/25
  • メディア: 単行本
7点

2008年度ピューリッツァー賞受賞作品。

イラク戦争では、「民間警備会社」の「傭兵」達が大活躍している。
物資輸送や要人の護衛をし、アメリカ軍ですら、それに頼っている。
彼らは、戦死者にはカウントされない。
アメリカ兵の何倍もの傭兵が亡くなっている。
一番の問題は、傭兵達が、法律に縛られていない事だ。
我が物顔で好き勝手に振る舞い、時に民間人を殺し、理由もなく気まぐれに殺したとしても、
その行為は罪に問われない。
副題の「Big Boy Rules」は、強いものが法律!それをイラク国内で実践しているのだ。
アメリカは、その傍若無人な行いにも、見て見ぬふり。
特に、アメリカ国務省などと強い結びつきがある「ブラックウォーター」社は、
イラクで好き勝手しているが、止める術は無いという。
そして、イラク国民に、アメリカなどへの憎悪を埋め込んでいく。

チェイニー元副大統領が、この民間警備会社で大儲けしているというのを以前読んだ。
大量のお金が使われる戦争。
それらが、この数も把握できず、出来たり消えたりしている民間警備会社へと注ぎ込まれている。
正規軍の死亡者数が増える事を嫌った(国民のイラク戦争への反発を抑える為)為、
このような法律無視、規律も無い民間護衛会社が幅をきかせる結果になってしまったのかもしれない。

軍隊と違い、互いを信頼することも無く、厳しい規律も無い傭兵システムの問題点や、
その危険過ぎる任務と、危険な任務を行うには足りない装備や計画を、取材の中、感じる著者。
そのような中、傭兵5人がトレーラーの護衛中襲撃され、誘拐されるという事件が起きた。
アメリカ兵が誘拐されれば、全力をあげて捜索するアメリカ軍も、
傭兵の誘拐事件では積極的に動こうとしなかった。

誘拐された5人と関わりがあった著者は、この誘拐事件を、
傭兵の家族の様子も含め追い続けた。

大まかな内容は上記した感じ。

しかし、この本、とても読みにくい。

訳のせいもあると思うけど、何の説明も無く、脈絡なく傭兵何人かの人柄やプロフィール、
彼らと話した事が長々と綴られ困惑。
中盤過ぎに、長々と紹介されていた傭兵達が、誘拐拉致事件の被害者だとわかったのだが、
この事件、アメリカでは有名なのかもしれないが、私はほとんど知らなかったので、
何で、次々に傭兵の人生とか家族の話が語られるのか戸惑ってしまった。

また、イラクでの傭兵の民間人に対する残虐な行為を紹介しつつも、
視点が傭兵側なので、傭兵が存在するという事自体が問題である事、
いつも危険に晒され、誘拐されても真剣に捜索して貰えない傭兵の置かれている危険な立場、
そのどちらが中心なのか、曖昧になってしまっている。

傭兵がイラクで行っている法律を無視した行いのほうが問題だと思うのだが、
著者が書きたかったのは、誘拐される直前まで行動を共にしていた傭兵達だったからかもしれない。
私が重視した部分と、著者が重視した部分が違ったというか。

今回登場するアメリカの傭兵達は、刺激を求めて、高額な報酬を求めて、
理由はいろいろあれど自ら志願して戦場に行っている。
この本では取り上げられていないけど、イラク戦争で基地で土木工事をしたり、
戦うのではなく雑用をさせられている人々は、いろいろな国から集められ、
働く場所がイラクだと知らされないまま連れてこられた人も多いという。
そして、過酷な環境でバタバタ死んでいるという。
もちろん、彼らもイラク戦争の死者にはカウントされない。

戦死者の数を少しでも減らしたい、対面を保ちたいという各国の思惑が、
ますます状況を悪化させ、真実を闇に葬ってしまっていると思った。

この本で語られているのは、イラク戦争の闇のほんの一部だと思うけど、
その一部を知るだけでも、重い辛い気持ちになるのは確か。

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「ワールドタンクミュージアム図鑑」モリナガ ヨウ著:戦車のエピソードがたくさんの楽しめる図鑑♪ [本ノンフィクション:戦争・戦記]


PANZERTALES WORLD TANK MUSEUM illustrated―ワールドタンクミュージアム図鑑

PANZERTALES WORLD TANK MUSEUM illustrated―ワールドタンクミュージアム図鑑

  • 作者: モリナガ・ヨウ
  • 出版社/メーカー: 大日本絵画
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 大型本
7.8点

「ワールドタンクミュージアム」という戦車の食玩の解説などをまとめた本。
モリナガ ヨウの、イラストエッセイが、ほのぼのいい味だしていてすごく好き♪

兵器はあまり詳しくないけど、昔「アドバンスド大戦略」(メガドライブ版)にはまったので、
第二次世界大戦の頃の兵器には少しだけ思い入れがある。
「アドバンスド大戦略」は、自分が第二次世界大戦のドイツ軍になり、
連合と戦うという、勝つのが恐ろしく難しいゲームだった。
ついでに、当時ゲームマシンの処理速度はとても遅く、COMターンが恐ろしく長かったのも印象深い。
後半など、お風呂に入って出てきても、まだCOM側が思考してたりしたし(^_^;)。
そんな状況でも、かなり長い間遊んでいたので、ドイツ軍の強い戦車などにへの思い入れもひとしお。
もう、かなり昔の事なので、兵器名も曖昧になってきてるけど。

さて、戦車にもお国柄がすごくでるのが、この本を読むとわかる。

強い戦車を作り、連合国側から恐れられているのに、
連合国側でもっと強い戦車を作ったら困ると、どんどん装甲を厚くして、
結局、強いけど、重くて実戦には向かない戦車を作ってしまうドイツ。
職人気質ともいうべきか。

それに比べて、アメリカは合理主義。
弱くても大量生産でき、機動力が高い戦車をバンバン製造。
とても強かったらしい。ドイツ戦車に遭遇しなければの話だけど(^_^;)。

性能は良いが、乗組員の事を全く考えていないようなロシアの戦車。
寒さのあまり、ロシア兵は、戦車の中で焚き火したなんて話も。

そういう、戦車の面白いエピソード、開発話などがてんこ盛り。

現代の戦車の話も乗ってるけど、第二次世界大戦での戦車のエピソードは
開発者や兵士の試行錯誤の様子が垣間見えて面白い♪
戦争というのは、殺伐としたものだけど、戦っている人たちは、
敵も味方も、元々は普通の人なんだなーって思えるというか。
現代の戦車の場合、やっぱり殺伐とした印象のほうが強くなってしまうけど。

お気に入りの一冊です(^^)。
少しでも、第二次世界大戦や戦車に興味があるのなら、お勧め~!!!
この本が気に入ったなら、「第二次世界大戦紳士録」もどうぞ♪
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「それでも日本人は「戦争」を選んだ」加藤陽子著:近代日本の戦争への歩みをいろいろな視点から考察 [本ノンフィクション:戦争・戦記]


それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

  • 作者: 加藤陽子
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2009/07/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

7.5点

日清戦争から第二次世界大戦までの、日本と他の国々との関係、国内外の政治家の考え、
日本の軍人や庶民の気持ちの変遷を追い、何故日本が「戦争」を選んだのかを、
新しい視点で見せてくれる本。

中高校生向きの講義内容をまとめた内容なので、わかりやすい文章なのも取っつきやすい。
といっても、この講義を聞いてる中高校生、私より何倍も歴史に詳しいし、頭もいいけど(^_^;)。

少し前は戦争していた国と、互いが有利になるように密約を結んでいたり、
先の戦争では同盟国だった相手と、敵対関係になったり、国同士の関係は、
それぞれの国の利害・力関係で大きく変化するのが、本書を読むとよくわかる。

また経済的視点で戦争を見ている欧米と、自国防衛の為に戦争を見ている日本との差も面白い。

国内外の政治家同士の駆け引き、戦略、主義主張、戦争の対する考え方などは、
かなり興味深いものが多かった。

日中戦争の時、蒋介石の率いる中国国民政府にいた胡適は
「日本切腹、中国介錯論」を唱えていたという。
日本に切腹させて、その介錯を中国がするというすごい内容。

胡適は、中国が日本と多少争ってもアメリカやソ連は動かないと考える。
膨大な死者がでるだろうが、2~3年負け続けても戦い、
日本がどんどん兵を南下させれば、ソ連はその隙にと兵を動かし、
日本の南下に危機を抱いたアメリカも動くだろう・・・というもの。
普通なら降伏するほど日本に侵略されても戦い続け、
最終的にソ連とアメリカを戦争に巻き込む事に成功している。

でも、この作戦で中国国民政府は疲弊し、結局共産主義勢力に
負けてしまうのだが、この点を、胡適に対して、指摘している
汪兆銘という優れた政治家もいたりした。

上記のように、「へー」って思ってしまう、政治家の考え方がいっぱい。

特に序章は、「戦争」に関していろいろな視点で捉えてあり、
戦争が起きる理由、アメリカ南北戦争のリンカーンの演説の意味、
多くの指導者が歴史から学び、それで失敗しているという事例など、
盛りだくさんで、とても面白く、知的好奇心を刺激される内容になっている。

深く掘り下げてあるというわけではないけど、今までとは少し違った視点で
日清戦争から第二次世界大戦までの日本の戦争を見ることができる本。
大人だけでなく、歴史に興味がある中高校生にもお勧めしたい(^^)。
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「地雷を踏んだらサヨウナラ」一ノ瀬泰造:アンコールワットを求め、散った戦場カメラマン [本ノンフィクション:戦争・戦記]


地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)

地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)

  • 作者: 一ノ瀬 泰造
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/03/08
  • メディア: 文庫

7点

1970年代内戦のカンボジアを取材し、共産軍支配下にあるアンコールワットの撮影を切望しながら、
志果たせず行方不明になった戦場カメラマン一ノ瀬泰造の手記や手紙を集めた本。

彼の生き様は映画「地雷を踏んだらサヨウナラ [VHS]」にもなっているようです。

本を構成する大半が彼が出した手紙。

カンボジアの人々との穏やかな生活が描かれるかと思えば、
すぐ側にいる兵士が死んで行くような危険な前線での撮影の話が書いてあったりもする。

前半に掲載されている手紙は、駆け出しのカメラマンである彼の、
青臭いとも言える野望と、試行錯誤が伺える内容になっている。
ほんの1~2年なのに、後半の手紙で見られる成長には目を見張るものがある。

銃弾がヘルメットを貫通したり(運良く軽症)、何度か負傷したり、
攻撃で撃沈される可能性の高い船に乗り込んだり、前線で命がけの撮影を行う中、
彼の気持ちがいろいろと変化していく様が、手紙から感じられる。

手紙が中心な為、客観的視線が少なく、一ノ瀬泰造の経歴を追うのには不向きだけど、
前半・後半とも変わらない彼の行動力と撮影に対しての熱意には、心打たれる。
またカンボジアの人々や、前線での兵士に関するエピソードは、
戦時下に生きる人々の様子がまざまざと伝わってくる。

今までベトナム側から描かれたものしか読んだことが無かったカンボジア内紛に関して、
カンボジア側からの視線で読むことができたというのは、すごく良かった。

ロン・ノル指揮下のカンボジア政府軍は、アメリカの後ろ盾を得、カンボジアを支配した政権であり、
ベトナム側から見れば「カンボジア政府」は敵であり悪
(カンボジア国内のベトナム人を虐殺したりもしてるし)。
なので、ベトナム視点の戦記を読むと、どうしてもそういう視点になってしまう。

しかし、「悪の政権-カンボジア政府軍」に支配されているはずのカンボジアでは人々が穏やかに暮らし、
その生活を壊すのは、ベトナム軍や共産軍(クメール・ルージュ)なのである。

戦争というのは、どちらの立場に立つかで見方・捉え方が全く変わるというのがよくわかる。

また、前半は、まだ戦闘が穏やかであり、敵である兵士同士が冗談をいいあったり
(その後打ちあったりもするんだけど)、急に銃撃がやみ、両軍とも昼食タイムに入ったりと、
のんびりした一面があったが、後半、戦闘は殺伐とした激しいものに変わっていくのも興味深かった。

タイトルである「地雷を踏んだらサヨウナラ」は、地雷が大量に設置され、
共産軍支配下だったアンコール・ワットに無謀にも撮影に向かった彼が友人への手紙に書いた一言。

そして、彼は帰って来なかったわけだけど、全編を通して見られる若さ故の無謀さ、無鉄砲さは、
もう自分には無いものなので羨ましいと思う反面、
それを心配する母親の気持ちと自分の気持ちがリンクするので辛い。

単独サハラ砂漠横断にチャレンジし、
志半ばで亡くなった上温湯隆の「サハラに死す」を読んだ時も思ったけど、
若い頃思い切って何かをやってみるのは必要だけど、命だけは大切にして欲しいと
親である身としては切に願ってしまった。

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「硫黄島の兵隊」越村敏雄著:一兵隊が体験した硫黄島戦 [本ノンフィクション:戦争・戦記]


硫黄島の兵隊

硫黄島の兵隊

  • 作者: 越村 敏雄
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本

7点

太平洋戦争で、激戦の舞台となった硫黄島。
山の形が変わるほどアメリカ軍艦から打ち込まれた砲弾、
圧倒的な戦力に対し、それまでの玉砕戦法とは異なり、持久戦で戦った日本軍。
この島に派兵された著者が体験した硫黄島での生活の手記を、
その娘が補足してまとめた一冊。

下級兵士だった著者は、大きな戦況の流れは見えず、
日々の作業に追われていた為、書かれているのは、
日々の作業状況や硫黄島での兵隊の生活、兵士がおかれていた状況が中心。
硫黄島戦の全貌を知りたいという人には不向き。

でも、個人の体験を詳細に綴っていることから、
硫黄島で、兵士が体験した壮絶な状況が手にとるようにわかる。

島はどこを掘っても熱気と亜硫酸ガスが噴出し、灼熱地獄の中作業する兵士達が
飲める水は、硫黄の臭いのする塩辛い水のみ。
塩辛い水を飲むので、喉の渇きはいつまで経っても癒されず、それが終戦まで続いたらしい。

アメリカ軍上陸前から連日の様に繰り返される爆撃で、次々に負傷する兵士たち。
また、硫黄の水のせいで下痢が止まらなくなり、劣悪な食糧事情もあって、
栄養失調で倒れる兵士も続発した。

そんな兵士たちを鎧のように覆うのは、蠅の大群。
弱っている兵士の上には、鱗が生えたように何層にも蠅が群がり、
栄養失調で倒れた著者の体も蠅に覆われたという。

兵士たちの置かれた状況が、想像を絶するほど過酷だったことがこの本を読むと伝わってくる。

「硫黄島の戦い」をより詳しく知る為には、いい本だと思う。

気になったのは、この手の手記は、写実的な描写が淡々と語られる事が多いのだが、
この本の場合、流れ出る血を「赤い蛇のように」と例えたり、小説的(?)な表現の部分が
たまに見られた事。
そのせいで、ドキュメンタリーっぽく無くなってしまっているのと、
たまになので、そういう表現の文章が浮いてしまって違和感があった(^_^;)。
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「第二次世界大戦紳士録」ホリエカニコ著:独軍・旧日本軍の歴戦の兵士たちのエピソード集。面白い!! [本ノンフィクション:戦争・戦記]


第二次世界大戦紳士録

第二次世界大戦紳士録

  • 作者: ホリエ カニコ
  • 出版社/メーカー: ホビージャパン
  • 発売日: 2009/08/10
  • メディア: 大型本

8点

ちょっとした紹介記事を読んで面白そうだったので図書館で借りてみた。
第二次世界大戦に関する人々の文章による読み物かと思ったら、
独軍・旧日本軍兵士達の漫画(オールカラー)によるエピソード集でした。

これが面白かった!大当たりV(≧∇≦)V!!

ドイツ軍では、ヒトラー、ゲッペルス、ロンメル将軍など、誰でも知ってる有名な人から、
建築家でもあったシュペーア、冷酷さで恐れられたラインハルト・ハイドリヒ・・・など、
歴史に詳しい人なら知っているだろう人まで、いろいろ紹介されています。
漫画は4等身のコミカルタッチだけど、人物の肖像画は美々しいです。
特にドイツ軍は、どの人も美形~!!に書かているので、
思わずネットで写真を確認してしまった(^^;)。

旧日本軍では、山本五十六をはじめ、大和最後の艦長森下信衛、
武蔵最後の艦長猪口敏平、硫黄島の司令官栗林忠道や、
オリンピックメダリストでもあったバロン西、
2.26事件の栗原安秀、中橋基明・・・などこれまた多彩。
日本軍の方は、ドイツ軍に比べると美形に書かれてない方も(^_^;)
(山本五十六なんてすごいぞっ!)。

この本の何が良いかって、戦記などでは取り上げられない
一人一人の人柄が偲ばれるちょっとしたエピソードをいろいろ
ピックアップしてること。

スターリングラード攻防戦で戦った陸軍中将パウルスは
一日に二度入浴して軍服を着替える潔癖症だったのに、
ペットのガチョウをこよなく愛していたとか、
硫黄島で栗林中将の補佐を務めた中根兼次中佐
(映画「硫黄島からの手紙」では最後まで栗林と一緒にいた
地味なおじさん)が、歩兵戦闘の神と呼ばれ、
かなりの豪傑だったとか(それを思わせる手紙が載ってる)、
「おおっ!」って思うエピソードや、「クスッ」って笑ってしまうエピソード
(ほのぼの系だけでなくブラック系もあり)、
ほろっと切なくなるエピソードなどが満載。

またどれも、紹介している人物に対する著者の愛情が感じられるのもいい。

これを読んでから、戦記物を読めば、
単なる「司令官」などの認識で終わってしまう人たちが
どんな人だったのかにまで思いを馳せられより深く読めそう。

もっといろいろな人を紹介して欲しいなー。
図書館で借りたけど、「買っちゃおうかなO(≧▽≦)O」って思ってます。

第二次世界大戦関連の戦記物をよく読む人にお勧め~!!
そういうのにあまり興味が無いって人でも、
読むと第二次世界大戦に興味をもつようになるかも!
とにかく好みの本でしたO(*^▽^*)o~♪
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「証言記録-兵士たちの戦争2」玉砕を命じられないこともまた悲劇なのか・・ [本ノンフィクション:戦争・戦記]


証言記録 兵士たちの戦争〈2〉

証言記録 兵士たちの戦争〈2〉

  • 作者: NHK「戦争証言」プロジェクト
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/02
  • メディア: 単行本


7.5点


NKHの「証言記録-兵士たちの戦争」シリーズの2巻。

1巻3巻は先に読みました。

第二次世界大戦で生き延びた兵士たちの貴重な証言を集めた本。

2巻の内容は以下の通り

・フィリピン絶望の市街戦

陸上の戦闘の訓練も受けたことの無い海軍兵士たちが、武器もほとんど無いままアメリカ軍と戦った。

市街地が戦場になった為、多くのフィリピン人が巻き込まれ、
またフィリピン人のゲリラを警戒した日本軍により、多くのフィリピン人が殺されもした。

命令とはいえ、民間人を殺さなければいけなかった兵士の苦悩、
またその時はどうしようもなかったという悔恨、それらが語られている。

・フィリピン・レイテ島 誤報が生んだ決戦

台湾沖航空戦で日本が圧勝したという誤報を元に、弱っているアメリカ軍を叩くために計画された決戦。
しかし、それは誤報であり、アメリカ軍の戦力は予想をはるかに上回る規模だった。
短期戦のつもりで上陸し、満足に武器も食料も持たず戦闘に挑んだ兵士達の悲劇が語られている章。

・ガダルカナル 繰り返された白兵突撃

昭和17年、まだ日本が連勝し「敵は弱い」という認識を持ち、軍が自分達の力を過信していた時期。
しかし、その状況は大きく変わりつつあった。
敵の武器が圧倒的に進化しているのを知らず、戦いに挑んだ兵士達は、
マシンガンを相手に、白兵突撃を繰り返すことになる。

戦場の地形をくまなく調べ、入念に作戦を立てているアメリカ軍と、
情報不足のまま過去の戦略の固執する日本軍の対照的な姿が印象に残る章。

・沖縄戦 住民を巻き込んだ悲劇の戦場

国内最大規模の地上戦が行われた沖縄。
それは住民を巻き込む悲惨なものだった。

軍が民間人を殺したり、沖縄の方言を話しただけでスパイ容疑で殺されたりなど
沖縄の人々が体験した惨い出来事にも少し触れられているが、それに関する話は少ない。
沖縄戦の悲惨さを知るには、「ドキュメント沖縄1945」などもう少し詳しく書いてある本を読む方がいいかも。

・ペリリュー島 終わりなき持久戦

「ペリリュー島を死守せよ」の命令の元、玉砕を禁止された部隊の悲劇。

雲泥の差がある武力を持つアメリカ軍に、無駄死にとしか思えない白兵突撃を繰り返す戦場の話は
たくさん読んだが、この島の部隊は、それを禁止された。
「硫黄島」もそうだったが、このペリリュー島は、「硫黄島」と違い、戦略的意味も早々に失っていた。

玉砕を禁じられた兵士達は、飢えと恐怖の中、錯乱したり自決したりしていく。
白兵突撃し玉砕するというのは、上部の命令による愚かな作戦だと思っていたが、
「死んで英雄となる」という望みすら絶たれた兵士達の絶望がとても深いことに衝撃をつけた。

・ニューギニア・ビアク島 幻の絶対国防圏

ニューギニアのビアク島で、自給自足での食料確保を命じられた部隊の悲劇。
さんご礁でできている島で土が無いにも関わらず、畑を作り自給自足を命じた本部。
ここでも、本部の調査不足が露呈している。

・インパール作戦 補給なきコヒマの苦闘

兵士達の骨が累々と連なり、「白骨街道」とまで呼ばれるほどの死傷者を出したインパール作戦。
ここでも、補給の無計画さにより、前線の兵士達は、武器も食料も無くなり、次々と倒れていく。

補給物資を牛に運ばせるという計画は、牛が川を渡れず、渡れたとしても次々に倒れ、
早々に牛は全滅してしまっている。
これを、チンギス・ハンの作戦を見習い提案した牟田口司令官は、
作戦のすばらしさを自画自賛していたようだが、結局兵士達を追い詰めるだけの結果に。

この章で取り上げられている陸軍歩兵第58連隊は、第31師団に属している。
第31師団の佐藤師団長は、このままでは全滅すると、本部の命令を無視し撤退を命じたことで有名である。

インパール作戦には、他の師団もいくつか参加しているが、撤退を命じた師団長は佐藤師団長だけ、
これによって助かった者も多いという(撤退の途中で息絶えるものが多かったとしても)。

ということで、この佐藤師団長の英断を、勇気ある行動とみる事も多く、私もそう思っていた。

しかし、インパールに展開していた別の師団は、この命令無視の31師団の撤退により、
仲間(31師団)が守っているはずの方向から、敵が攻めてきて大打撃を受けたというのを別の本で知り、
何事も短絡的に見られないものなのだと思った記憶がある。


上記で語られたどの戦場も90%以上の兵士が亡くなっている。

またこの本で語られる話の多くが、圧倒的な武力と進んだ兵器を持つアメリカ軍に対し、
ほとんど武器も無いまま、特攻を繰り返す日本兵の姿だ。

インパールの「牛を輸送に使う」など、現地の状況を省みず、
机上の理論だけで作戦を立てている司令部。
その司令部の命令で、兵士達が道具として使い捨てにされていく。
そのような理不尽が生き残った兵士達によって、切々と語られている。

生き残った兵士達は、そのような状況で死んでいった仲間達の無念さを思い、
また自分だけが生き残ってしまったという恥入り、それらを一生胸に秘めて生きている。

戦後何十年経っても、心の傷は癒えることがないのだと改めて思った。

シリーズ1~3、どれもお勧めです。
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「証言記録-兵士たちの戦争1」元日本軍兵士達の貴重な証言集 [本ノンフィクション:戦争・戦記]


証言記録 兵士たちの戦争〈1〉

証言記録 兵士たちの戦争〈1〉

  • 作者: NHK「戦争証言」プロジェクト
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/02
  • メディア: 単行本


7.5点

兵士たちの戦争3」に続いて「1」を読んでみました。

1の内容は、

・西部ニューギニアの見捨てられた戦場
ジャングルの実情を知らず自給自足を原則とした為、
ほとんどの兵士が戦闘ではなく、飢えや熱病などで命を落とした戦場。

陸軍と海軍が縦割り状態で、陸軍の兵士が飢え死にしていく側で、
海軍の兵士達は普通に食事を摂っていたという状況があったのが衝撃だった。

・北部ビルマ-密林に倒れた最強部隊
最強と言われ、天皇の象徴でもある「菊」の名前を冠した「菊兵団」。
ツワモノ揃いと言われた部隊でも、食料もなく、武器も無い状態ではまともに戦うことすらできなかった。

生き残った兵士達は、毎日何十人もの仲間が飢えや病で倒れていくのを見ているしかなかった。
その無念さが語られている。

・マリアナ沖海戦-破綻した必勝戦法
ミッドウェー海戦での敗戦を隠匿し、それが体質になっていく海軍。
情報管理もずさんで、暗号が敵に解読され作戦が筒抜け状態。
そんな状況の中で、無駄に命を落とす兵士達。

この章では、特に飛行兵と偵察員について語られている。
昔の戦闘機は、偵察員が同乗して進路をとるのが普通だったらしい。
ゼロ戦など偵察員がいない一人乗りの戦闘機は、目印の無い海上で
母艦に戻るのが非常に困難で、戻れず命を落とした飛行兵も多いという。
ゼロ戦にそんな問題点があったなんて、これを読むまで知らなかった。

・ビルマ-退却戦の悲劇
退却支援命令を受けた部隊の悲劇について語られている。
ここでも、死者の1/3近くが戦いではなく、病気などで命を落としている。

撤退が許されず、玉砕への道しかなかった部隊を救ったのは、上官自らの死だったという
エピソードが心を打った。

・中国大陸打通-苦しみの行軍1500キロ
敵の攻撃にさらされ、飢えと病と疲労に苦しみながら、
命令通り中国大陸1500キロを歩ききった部隊。
しかし、その作戦事態が意味を成さないものだった。

生き残り兵の
「作戦を無意味なものだったとしてしまったら、行軍の途中、死んでいった仲間達の死が無駄になってしまうので、そう思いたくない」
という言葉が印象的だった。

・フィリピン最後の攻防-極限の持久戦
ここでも、物資不足、飢えに苦しめられる兵士達。
またブルドーザーなど、敵の新兵器の前に、従来の戦法が全く役に立たず
追い詰められていく様が描かれている。
ここでは、死んだ仲間の肉を食べた者も出たらしい。

・満州国境-知らされなかった終戦
暗号解読表を燃やしてしまったため、終戦の通達がわからず、
終戦後も多数の犠牲者を出してしまった部隊の話。
この部隊は、終戦後もシベリアに送られ、悲惨な体験をすることになる。

「3」と同じく、作戦や状況はかいつまんで説明されるため、詳細を知るには向かないが、
その場にいた兵士達の言葉は、とても重い。

全体的には、本土から机上の論理や、自分自身の手柄、体面の為、命令を下し、
兵士達の命を無駄に散らせて行った上層部への批判が強い内容となっている。

ずさんな作戦、自分の面子を保つためだけの無理な作戦決行・・・そういうものの
積み重ねが、多くの兵士達の命を奪ったと思うとやるせない。

また戦場の生々しい凄惨さは、その場にいたものだから語ることができる臨場感がある。

戦争が「人」を、単なる「歯車」「道具」という立場に追いやるというのが伝わってくる本。
お勧めです!
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「証言記録-兵士たちの戦争3」武蔵沈没、人間魚雷、東部ニューギニア、従軍看護婦・・元兵士がその時を語る [本ノンフィクション:戦争・戦記]


証言記録 兵士たちの戦争〈3〉

証言記録 兵士たちの戦争〈3〉

  • 作者: NHK「戦争証言」プロジェクト
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: 単行本


7.5点

第二次世界大戦で戦った元兵士達が、当時の事を語ったものをまとめた一冊。
いきなり「3」なのは、図書館にこれしかなかったからです(^^;)。
その内、「1」と「2」も読んでみるつもり。

「3」は

・ビルマ攻略戦で濁流に散った連隊
・従軍看護婦が見た戦争
・中国雲南省にて孤立し、玉砕した師団
・戦艦武蔵の最後
・人間魚雷・回天の悲劇
・東部ニューギニア、絶望の密林戦
・重爆撃機を特攻用に改造した「さくら弾機」

以上の、7つの章がある。

「ビルマ攻略戦」では、物資も何も無く撤退する日本兵の悲惨な状況が語られている。
自決する仲間、動けなくなった仲間を見捨てるしかない状況、
あっという間に白骨化する死体、マラリア、飢餓、
そんな状態で濁流を渡り溺れる仲間達、どうにか渡り切ってもそこに待ち伏せる敵、
よくこの状況で生き延びることができたものだと思ってしまう。

「東部ニューギニア」に関しても同じことを思ったけど。
東部ニューギニアで兵士が体験した悲惨な状況は「「死の島」ニューギニア―極限のなかの人間 」で詳細を読んだことがある。
ジャングルを食料も無いまま、あちらに向かえ、こちらに向かえと無茶な行軍をさせられる兵士達。
多くが戦闘ではなく、飢えや病気で倒れていった。
でも、この本の証言の、無茶な行軍が、兵士達の間で「口減らし」だと言われていたというのは初耳だった。

戦艦武蔵の最後では、不沈と言われた戦艦が沈む直前、
甲板や艦内で繰り広げられた地獄絵図や、沈む直前まで武蔵にいた日本兵の
生々しい証言が語られている。
攻撃された戦艦や、沈み行く戦艦の話は今まで読んだことがなかったので
かなり興味深かった。

従軍看護婦の章では、従軍看護婦として戦地に赴いた看護婦たちの熱意、
優しさ、無念さ、などが語られている。
従軍看護婦の証言はあまり無いので、貴重とも言える。

「回天」「さくら爆弾」は、特攻を覚悟した若者達の悲しいまでの決意が語られている。

特攻隊の兵士だけでなく、多くの兵士が国のため、家族を守るため、死ぬ覚悟をして戦地に赴いていた。
そういう気持ちが、語る元兵士達の言葉から伝わってくる。
当時は、そういう教育をしていたからなのだが、それでも、彼ら兵士達の決意・覚悟はすごいと思った。
生き残りこの本で証言した人の中には、いまだに自分が生き残ったことを恥じている人もいる。

死ぬ覚悟で何かをする・・・今の私達には失われてしまったものが、
彼ら元兵士の証言の中にちりばめられている。
そして、同じような気持ちを抱いていただろう戦地で散った兵士達のことを思うと、より悲しい気持ちになる。

元兵士一人一人の言葉が重いです。
お勧めっ!!

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「ブラヴォー・ツー・ゼロ」2冊「SAS兵士が語る壮絶な湾岸戦記」「孤独の脱出行」 [本ノンフィクション:戦争・戦記]


ブラヴォー・ツー・ゼロ―SAS兵士が語る湾岸戦争の壮絶な記録 (ハヤカワ文庫NF)

ブラヴォー・ツー・ゼロ―SAS兵士が語る湾岸戦争の壮絶な記録 (ハヤカワ文庫NF)

  • 作者: アンディ マクナブ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 文庫


7.5点

ブラヴォー・ツー・ゼロ 孤独の脱出行

ブラヴォー・ツー・ゼロ 孤独の脱出行

  • 作者: クリス ライアン
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 1996/11
  • メディア: 単行本


7点

イギリスの特殊部隊SAS兵士による湾岸戦争戦記。
同名タイトルで、2冊出てます。
本のタイトルは、この作戦のコードネーム。

特殊任務を与えられイラクに侵入したSAS兵士8名。
しかし、予想以上の敵の数、悪天候、通信回線がつながらないなどから
8名は最悪の状況下に陥っていく。
そして、いつかチームのメンバーははぐれてしまい、ばらばらに。

1冊目を書いたアンディ・マクナブは、この後、戦いを続けるが、
最終的には捕虜となり壮絶な拷問を受ける。

クリス・ライアンは、一人になってしまうが、
シリア国境に向け300キロを歩き続け単独脱出に成功する。

それぞれの体験をまとめた一冊なので、途中までは同じ経過だが、
その後は、別々のシナリオが展開する。
というか、同じ経過を辿るはずの部分でもかなり違う内容の部分があり、
どちらが正しいのか・・・と思うことも(^^;)。

同じ話を題材にしている部分でも、著者の性格・考え方の違いから、
描き方が違っているのも興味深い。

出発前の準備の段階でも、かなり違う。
「何でも早い者勝ち。無ければ他の部隊から盗る。物資はいつも足りないのが当たり前」
という認識のマクナブと、
物資の不足を憂い、怒り、他の部隊が勝手に持っていって(盗って)しまうことに
憤りを感じるクリス。

今までアメリカ軍絡みの話を読んではいたが、イギリス軍の話は始めて。

大量に軍事予算をつぎ込んでいて、ものが潤沢にあるアメリカ軍。
軍というのは、そういうものだという認識があったので、
機関銃でも地雷でも、何でも不足気味なイギリス軍の状況にはびっくり。

特殊任務に就くというのに、高性能で役に立つ地雷の数が足りず手作りしたり、
使い勝手がよく必要だと思われる武器すら数が揃わないイギリス軍と、
物が有り余っているらしいアメリカ軍(マクナブが物資の交換をしている)とのやりとりは興味深かった。

文章から受ける印象は、アンディ・マクナブは、
粗野でシンプル、戦場に生きることに喜びを感じるタイプ。

クリス・ライアンの方は、衛生兵の資格を持ち、
状況分析が好きな真面目なタイプ。

戦場に派遣される前の心境に、二人の性格の違いがでていて面白い。

とにかく、戦場にいけるのがうれしくてしょうがないアンディと、
内心「行きたくない」と不安を感じているクリス。

文章にも二人の気質が表れている。

-----------------------------------------------------------------------

個人的には、アンディ・マクナブの著作の方が面白かった。

文章が簡潔でわかりやすいのもあるが、作戦会議、出発、戦闘、
逃走(途中車を奪うというシーンも)、拷問、尋問とエピソードが多い。
また、SASのいろいろなノウハウ(彼個人のかもしれないが)
要所要所で書かれていて、参考になった。

例えば、SASは派手な仕事だと思えるが、
本当は「確認、確認、確認」(ちょっと違うかも)という地味なもの、
少しのミスが失敗につながるとか、尋問に答えるときの、答え方など、相手への態度など
いろいろな局面で彼が「この場合はこうすべき」と思っていることがしっかり書かれている。

どんな最悪の局面でも冷静に考えているように文面からは受け取れるが、
それは誇張かもしれない(後でならどうでも書けるからね)。
それを差し引いてもスリリングで面白い。

----------------------------------------------------------------------------------

クリス・ライアンの著作の方は、国境へ向かった脱出劇がメインなのだが、
脱出できたことがわかってしまっているので、
そのあたりで緊迫感がそがれてしまうのが難点。

大きな出来事も少なく、著者個人が極限状態に置かれた状況で
自分自身の冷静な気持ちをいかに維持できるかということがポイントになっている。

イラクを脱出した後、シリアでの話の方が、先が読めず緊迫感があって面白かった。

クリス・ライアンの話の方が、状況説明が細かく詳細がわかりやすいという利点があるが、
逆に細かすぎてくどく感じる部分も。

クリスが最後まで行動を共にした隊員が、イラクの民間人が助けてくれると信じて
ついていって捕まってしまうくだりがある。

しかし、民間人でも、自分達に都合が悪い状況なら殺すつもりでいるのに、
相手が助けてくれると思うその心理が不思議だった。

---------------------------------------------------------------

さて、細かいところに違いがあるこの本。

しかし、一つだけ大きな共通点が。

最大の敵は、ヤギ!!

だったってことだ(笑)。

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「帰還せず-残留日本兵 六十年目の証言」何故兵士達は日本に還らなかったのか・・ [本ノンフィクション:戦争・戦記]


帰還せず 残留日本兵 六〇年目の証言

帰還せず 残留日本兵 六〇年目の証言

  • 作者: 青沼 陽一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/07/28
  • メディア: 単行本


7.8点

戦後日本に還らず現地に留まり生活を続けた残留日本兵へのインタビューをまとめた本。
帰還せず―残留日本兵六〇年目の証言 (新潮文庫)」(文庫版)も出てます。


著者はタイ、ベトナム、インドネシアなどに赴き、高齢になった残留日本兵に、
何故日本に還らなかったのかを繰り返し問う。

戦後60年ということもあり、生き残っている残留日本兵は少なく、みなかなりの高齢。
その人達が、何故日本に還らなかったか、戦中や終戦時の体験や気持ちも含め、
その思いを語っている貴重なインタビューでもある。

一番印象に残ったのは、激戦地であるタイ(撤退する最中に倒れた兵士が累々と転がり、
白骨街道と呼ばれるようになったインパール作戦があった)やベトナムに駐留していた兵士と、
ほとんど戦闘が無いまま終戦を迎えてしまったインドネシアの兵士の、
終戦時の気持ちの違いである。

激戦地では、敵の圧倒的な物量や、弾薬も食料も付き、先が全く見えない闘いに、
日本の負けを意識していた兵士も多かった。
戦争の行方より、自分が生きるか死ぬかそれだけで精一杯。
そんな中で聞いた8月15日の玉音放送(天皇の肉声による放送)。
呆然とした人も多かったろうが、やっと終わったと思った人も多い。

しかし、全く戦闘の無かったインドネシア駐留の兵士達は、
敗戦の予感を全く持たなかっただけに、玉音放送で日本の敗戦を告げられた衝撃は大きく、
自決するもの、自分達だけで戦おうとするものが多かったという。

激戦地の戦記物はかなり読んでいたけど、
インドネシアに関しては全く知らなかったので、自決するものの多さは衝撃だった。
また、激戦地のような混乱もなく、軍隊内の統制が取れていたため、
敗戦後、今まで厳しかった軍内部の上下関係が、
突然崩れてしまったことに衝撃を受けたと述べる残留兵もいた。

日本に還らなかった理由は人それぞれ。
インドネシア独立軍に入り戦いを続けるのを選んだ人もいれば
(インドネシア独立軍に入り戦った日本兵は多かったらしい)、
日本に戻って婿になるのだけは嫌だ(長男ではなかったため)と残った人もいる。

日本はアメリカ兵に占領されて何もないからという理由もあるし、
やむにやまれぬ事情から残らなければならなくなったという人もいる。
一度日本に帰ったが身内から見捨てられ、また戻ってきたという人や、
「日本人なら生きて帰るな」との思いで日本を離れたのに、
敗戦して戻れるわけがない・・という人もいた。

日本に帰還しなかった理由も、現地での生活もみな違うが、
みな、現在の生活に満足し、それでも日本も愛しているというのが印象的だった。

祖国ではない国で激動の時代を生きた人々の言葉から伝わってくる強さや生き様は、
先が見えず暗いと言われている現在を生きる私達を勇気づけてもくれる。

お勧め!!

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「硫黄島玉砕戦-生還者たちが語る真実」 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

硫黄島玉砕戦―生還者たちが語る真実

硫黄島玉砕戦―生還者たちが語る真実

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2007/07
  • メディア: 単行本
7点
 
NHKが放送用にインタビューしたものをまとめた本。
生存者達が最後にいた場所の共通点など、面白い部分もあったが、メインのインタビューが、文章と文章の間に紛れて入っており、誰のインタビューなのかわかりずらいのが難点。
「戦争は、戦場に行った事の無い者が引き起こす」というような言葉が本書で使われているが、それが納得できるほど、硫黄島からの生還者たちの語る経験は悲惨を極めている。
ただ、もう少し、じっくり生還者達の話を読みたいと思ってしまった。タイトルの割に、生還者達の話が少ない気が・・・。
それでも貴重な記録ではある。
 

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「ドキュメント沖縄1945」住民無視の軍隊? [本ノンフィクション:戦争・戦記]

ドキュメント沖縄1945

ドキュメント沖縄1945

  • 作者: 玉木 研二
  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 単行本
7点
 
丁度、教科書検定で、沖縄集団自決に関する軍の関与に関する内容が否定されていたりするが、1945年の沖縄での戦闘を1日1日の動きで追っているこの本を読むと、集団自決うんぬん以前に、軍が民間人の安全より戦闘や戦略を優先したことが伝わってくる。
国民を守る為の軍が、守るべきものを犠牲にして闘う。そこに何が残るのだろうか?
簡潔にまとめられていて、読みやすくもあるので、沖縄戦に関して興味を持ったという人にお勧め。

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「戦場の村」「北爆の下」本多勝一 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

戦場の村

戦場の村

  • 作者: 本多 勝一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞
  • 発売日: 1994/05
  • メディア: 単行本
北爆の下

北爆の下

  • 作者: 本多 勝一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1995/01
  • メディア: 単行本

ベトナム戦争当時の、ベトナムの様子を取材したルポ2冊。

「戦場の村」が、南ベトナムでの取材、「北爆の下」が北ベトナムでの取材を中心に書かれている。

「戦場の村」では、比較的戦禍の少なかったサイゴンでの生活や人々の様子、それと対照的に、アメリカ兵や南ベトナム兵による破壊、放火、略奪、虐殺などに苦しみつつも、その中で生きる前線で暮らす人々の姿が描かれている。

ベトナム人民の気持ちを全く省みない、いやベトナム人の命など全く考えていないアメリカ軍側の戦略が、北ベトナム側に着く人民を増やしてしまった理由が、よくわかる。そして、今イラクが置かれている状況とあまりにもよく似ているのにも驚く。

また、自国の兵隊の犠牲を少しでも出さない為、疑わしきは撃つ、捕まえるという行為が、いたずらに何の罪もない民間人の被害者を増やしていった(これもイラクで見られる)事にも、恐ろしさを感じた。

「北爆の下」は、信じられないほど大量の爆弾を落とされた北ベトナムの人々が、そんな悲惨な状況の中でも、したたかにたくましく生きている様子を取材している。

アメリカなどのベトナム戦争映画では、神出鬼没で不気味な存在として描かれているゲリラの、実際の様子なども描かれていて、ゲリラのイメージがかなり変わった。

また北ベトナムの落とされた爆弾が、建物の破壊を目的とするのではなく、より人を大量に殺傷できるよう改良されていった過程には、背筋が寒くなるものを覚えた。

爆弾というのは、爆発してドカーンで終わり!と思っていたが、違うのだ。

爆弾の中に、小さな爆弾が大量に詰め込まれており、親爆弾には子爆弾が数百個、その子爆弾の中には、人の体を傷つける破片や、球などが大量に入れられていて、爆発すれば、その周囲にいる人々の体に突き刺さるようになっていたりする。

爆弾に詰められている球をプラスティック製のものに替え、レントゲンで発見できないようにしたり、爆弾の中に地雷を入れ、大量に地雷をばら撒いたり(紙のように薄いので発見しにくい)、とにかく、人を殺す為に、よくここまで工夫したなと思える程である。

2冊ともベトナム戦争当時のベトナムの様子を知る事ができる貴重なルポだと思うが、あまりにも北ベトナムよりなのがちょっと気になった。


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「アメリカの化学戦争犯罪-ベトナム戦争枯れ葉剤被害者の証言」 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

アメリカの化学戦争犯罪―ベトナム戦争枯れ葉剤被害者の証言

アメリカの化学戦争犯罪―ベトナム戦争枯れ葉剤被害者の証言

  • 作者: 北村 元
  • 出版社/メーカー: 梨の木舎
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 単行本
  • 8点
 
戦場カメラマン 」を読んで、ベトナム戦争について、もう少し知りたいと思って図書館に行ったら見つけた本。
 
枯葉剤と言えば、ダイオキシン。
人類が作り出した最強最悪の有毒物質とも言われるこのダイオキシンに汚染されたベトナム。
多くの被害者のインタビューを中心に戦後30年経っても未だその傷が癒えないベトナムの現状を描いている。
 
シャム双生児で有名なベトちゃん、ドクちゃんの、ドクちゃんの方のインタビュー記事も載っている。
 
まず、この枯葉剤の影響は、隔世でも出るという事に驚いた。
母親が枯葉剤を浴び、その子どもには影響が出なかったが、その孫に明らかに枯葉剤の影響と思える異常が出ていたりするらしい。
 
また枯葉剤による症状が、皮膚の異常、内蔵疾患、枯葉剤を浴びた親から産まれた子供の奇形、精神遅延、虚弱体質など、多岐に渡るというのにも恐ろしさを感じた。
その上、父親だけが枯葉剤を浴びたとしても、その影響が子供に出るという。母親が妊娠中に浴びた場合は影響があるのだろうと思っていたが、そうではなく、両親どちらかが一方でも枯葉剤を浴びた場合、後々になっても子供や孫に影響が出るというのは知らなかった。
 
それだけ恐ろしい枯葉剤の影響。自然への影響も大きく、木が大きく育たず、数年経つと枯れてしまう場所もあるらしい。
 
そして、一番悲惨なのは、枯葉剤による影響に苦しんでいる人へのケアがあまりされていないということである。
枯葉剤による体の異常が出ていても病院に行くお金も無く、その上、働けないので生活は困窮している家庭がかなりあるらしい。
国から若干お金は出ているが、生活できるほどの金額ではなく、親が体を壊し、その上、子供にも異常が出ている家庭では、将来を悲観していたりする。
アメリカでは、ベトナム戦争に行き枯葉剤の影響を受けたアメリカ兵の補償をする事になったが、もちろんその補償の中に、ベトナムの人々は入っていない。
また枯葉剤による影響で見た目にわかる異常が出たり、奇形の子が生まれた場合、枯葉剤の影響があまり知られておらず、偏見により近所から差別され孤立するという事も多いらしい。
 
ベトナム戦争が終わってかなり経つが、まだまだその戦禍が人々を苦しめている事がわかる本だった。  

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「戦場カメラマン」ベトナム戦争を取材したカメラマンの視点 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

戦場カメラマン

戦場カメラマン

  • 作者: 石川 文洋
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1986/06
  • メディア: 文庫
  • 8点

「ベトナム戦争」に関しては、国が南北に分かれて戦った、北爆、枯葉剤、泥沼のゲリラ線、19歳(アメリカ兵の平均年齢がこれだったという歌があった)・・と途切れ途切れに知ってるものの、全容に関してはほとんど知らないに等しかった(^^;)。

この本は、ベトナム戦争初期から終戦まで、頻繁に現地に入り戦場を取材したカメラマンの体験記である。

以前、同じ戦場カメラマン(と言い切っていいのかな?)宮嶋茂樹の本を読んだ時、その軽いノリと、頻繁に出てくるネーちゃん話から、私の持っていた戦場カメラマンに対するイメージとはかけ離れたものを感じたのだが(シリアスに書けばもっともっと緊迫したものになると思うんだけど、このノリが宮嶋茂樹の味なんだろう)、この本は、私が元々持っていた戦場カメラマンのイメージぴったりという感じであった。

最前線で死と向き合い取材する著者の、恐怖、情熱、そして何故こんな所にいるのかという後悔、様々なものが詰まっている。

特に、前半の戦場の臨場感というのは凄い。まるで自分が前線に降り立ったような気分にさせてくれる。

他の兵士と一緒にヘリコプターから飛び降り前線に降り立つ時の恐怖、キャンプが解放軍に襲われた時の恐怖、家族が敵味方になって戦っている前線の兵士達の悲哀、否応無く戦争に巻き込まれた農民達の悲壮さ・・・現地で命をかけて取材しているからこそ書ける内容が溢れている。

また、沖縄出身の著者の、日本と沖縄(琉球王国)の関係に関する記述にも興味深いものがある。これが書かれた1970年代、沖縄出身の著者は、日本=沖縄ではなく、「琉球王国」として存在していた沖縄を強く意識していたらしい。アイヌ問題などは知っていたが、沖縄の人も、それと同じ様な気持ちを感じていたとは、想像していなかったので、ちょっと驚いてしまった。

沖縄侵略の歴史を背負っているのと、戦争に巻き込まれ苦しむ農民達の姿をずっと見ていた為もあってか、アメリカに批判的+北ベトナム側の政策を褒めすぎなのは、ちょっと気になった。

それでも、読む価値がある一冊。


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「ビルマ軍医戦記」地獄の戦場・狼兵団の戦い [本ノンフィクション:戦争・戦記]

ビルマ軍医戦記―地獄の戦場狼兵団の戦い

ビルマ軍医戦記―地獄の戦場狼兵団の戦い

  • 作者: 三島 四郎
  • 出版社/メーカー: 光人社 発売日: 2005/03 メディア: 文庫 7点
第二次世界大戦中、ビルマに派遣された見習軍医の奮闘記。
 
今まで読んだビルマ関係の戦記は、インパール関係が多かったので、壮絶なものが多かったが、これはビルマ戦記と言っても、前線を遠く離れラングーンからあまり遠くないペグー近辺に中心に描かれているので、絶望感、悲壮感が溢れるものではなく、どちらかというとのんびり(それでも戦場ではあるので、普通ののんびりとは違うが)した雰囲気がある。
またこののんびりした雰囲気というのは、作者の大らかな人柄からの影響からかな?と思うほど、作者の性格が伝わってくるような本である。
 
この本を読むと、同じ国へ配属されても、どこに配属されるかで兵士の置かれる状況が全く違って来るという事がよくわかる。また「軍医」という特殊な立場のあり方もわかる本でもある。
 
「軍医」というのは、上下関係・戒律の厳しい軍の中では、そのシガラミからかなり外されている立場にいるのだなと思った。これは、いかに階級の高い将校であろうと、負傷したら軍医の世話になるしかないという事の影響が大きいようだ。
 
この本では、最前線という緊迫した状態の兵士の様子でなく、これから前線に向かう兵士や戦線から離れた状態の兵士の様子や生活を知る事ができ、興味深い。
 
背表紙の粗筋に書いてあるが、見習士官というだけあって、戦場に送られた時点での、作者の医療技術の怪しい事(^^;)。今ならこんな医者のお世話になるのは怖くて絶対避けたいと思ってしまうぐらいだが、戦場では、医師の手当てを受けられるだけでも幸せだったりする事も多かったのだろう。また作者が戦場で経験を積んでいく様子も伝わってくる。
 
のんびりした雰囲気があるこの本でも、敗戦色が濃くなり、撤退する状況になると一気に緊迫感を増し、少し前までのんびりしていた場所でも戦場である事に変わりはないのだなと思わせてくれたりもした。
 

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「遥かなインパール」 伊藤桂一 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

遥かなインパール

遥かなインパール

  • 作者: 伊藤 桂一
  • 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1993/02 メディア: 単行本  8.5点

無謀な計画により、戦闘でだけでなく、飢餓で多くの兵士の命が奪われたインパール作戦。作戦を中止し撤退した日本軍の退路には、飢えや病、怪我などで倒れた兵士が累々と横たわり、白骨街道とまで呼ばれるに到った。

この作戦は、牟田口中将が周囲の反対を押し切って実施した作戦で、ビルマ側からチドウィン川を渡り、標高2千メートル以上のアラカン山脈を越え、インド領の要塞インパールを占領するというものであった。

無謀と周囲から反対されていたこの作戦が、実行されてしまった結果、ここに派兵された兵士達は、どんなに無謀な事でも「命令」という名の元にそれに挑まなければならなくなった。

インパール作戦はその悲惨さからか、自伝など、いろいろな本で取り上げられている。私も光人社の文庫で、インパール作戦に関する自伝をいくつか読んだ。

「遥かなインパール」は自伝ではなく、作者がインパール作戦に参加した兵士達から話を聞いたり、データを集めたりしてまとめた戦記小説である。

インパール関係は自伝ばかり読んでいたので、特定の主人公がいないこの小説に最初少し戸惑ってしまったが、自伝が一つの隊の動きを追った1本の線なのに対し、こちらは、複数の隊の動き、戦況の流れを追ったもので、前線に立つ兵士の様子、心境だけでなく、インパール作戦の全容を知る事が出来る名著である。

インパール作戦は、烈、祭、弓の三つの兵団によって実行されたが、「遥かなインパール」ではその中の祭兵団を中心に、烈、弓との絡みも交え、インパール作戦の前線の様子を克明に描いている。
この作戦の途中、作戦実行前に約束された補給がほとんど無い事や、敵との兵力差(敵戦車に対し、日本軍は有効な武器がほとんど無く、白兵戦で挑んでいる)などから、無駄に兵士の命を浪費する状況に陥ってしまい、烈兵団の佐藤中将が、独断で作戦を中止し撤退してしまった。この事で烈の兵士の多くが助かったと言われ、撤退を命令した佐藤中将の勇気ある決断を賞賛する声があるが、烈の突然の撤退によりあっという間に前線が崩れ、本部の命令を尊守しようとした祭兵団が悲惨な状況に追い込まれる様子がよくわかる。
インパール作戦の全容を知るほどに、いかに無謀な作戦であったのかがわかる。夜襲するしか敵と渡り合う方法が無く、命をかけて夜襲をかけ、その陣地を攻略しても、夜が明ければ戦車や爆撃機によって取り返されてしまう。それでも、また夜襲をかける・・・それは、まるで命をかけた賽の河原のようにも見える。
絶望的な状況、不可能と思える作戦に命をかけて挑む前線の兵士達の心中はどのようなものであったのだろう。
人の命が一つのコマのように簡単消費される戦争の姿を描き、表立って戦争反対と唱えている訳でも無いのに、戦争のむごさ、悲惨さを伝えてくれる一冊でもある。

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「祭兵団インパール戦記 歴戦大尉の見た地獄の戦場」 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

祭兵団インパール戦記―歴戦大尉の見た地獄の戦場

祭兵団インパール戦記―歴戦大尉の見た地獄の戦場 

  • 作者: 深沢 卓男 出版社/メーカー: 光人社 発売日: 2004/02 
  • (5点)

戦記物というのは、自分が全く知らない戦争という極限状態を生き抜いてきた人の貴重な体験談であるので、点数を低めにつけるのはあまりしたくないのだけど、ちょっと低めです。

司令部付きの大尉の自伝であるので、司令部が、現場を全く知らない本部からの命令(戦況を無視し、頻繁に変わり、矛盾した指令まででる)に右往左往する様子、苦悩する様子が、この本ではよくわかる。
またインパール戦の最前線で戦った3師団、祭兵団、烈兵団、弓兵団の内の、祭兵団の歴史が、満州あたりから書かれていたり、砲兵だった著者の執筆なので砲を使った戦略なども詳しく説明されており、いろいろ興味深い点はあった。

で、何で点数が低めかと言うと、1つは、あまりにも著者本人の自慢話が多い事。
特に、インパール戦に入る前の、中国大陸編では(この部分が本の半分ほどある)、日本軍が躍進を続けた事もあり「我が栄光の歴史」という感じで、著者本人の昇進物語のようになっている。
自伝なのだし、手柄を書くのは仕方がないのかな?とも思うのだが、「(自分が立てた)作戦の成功をみなから賞賛された」と一文でも済みそうな事を「深沢大尉は有能であられる」「君は素晴らしい、きっとやってくれると思っていた」など、自分を褒め称える会話を長いと1ページも書いてしまうのはどうかと思う(その上、そういう箇所が随所にある(^^;))。

もう1つは、当番兵が付く程の上級兵の自伝というのは、どうしても戦争で極限状態に陥った人間の醜い部分、汚い部分を隠しているように思えて仕方が無いのだ。
例えば、撤退の路に累々と横たわる行き倒れた兵士の屍をこの著者も見ていて、辛いと感じる。その部分の記述はある。でも、死体以外にも動けなくなった兵士もたくさんいたはずだ。歩兵など下級兵の自伝では、動けなくなった兵士を助けられない自分の辛さや、段々それを見捨てる事に何も感じなくなる自分の気持ちの移り変わりなどが克明に記されていたりするのだが、その部分に関しては全く触れられていない。
戦場には友情もあるだろうか、そういう残酷な部分もある。しかし、この戦記には、自分を貶めるような記述は全く無く、自分がいかに部下思いの上官であったかという記述しかない。
当番兵が「深沢大尉は、他の上級兵と違って当番兵と同じ物を食べていらっしゃる」と褒めるシーンがある。司令部付きだったので、歩兵などに比べれば食料事情は良かったのだと思われるが、戦闘より飢えで死んだ者が多かったこのインパールで、歩兵達が、飢えの中軍刀などの武器を全て捨て去っても飯盒(最後の生きるすべ)だけは捨て去らないのを、他人事のように、いやどちらかというと「嘆かわしい」という感じで書いている。
ある下級兵の自伝に、インパール戦で死んだ兵士の多くは下級兵であり、上級兵の多くは生き残ったと書かれていたように、極限の戦場にいたとはいえ、著者の待遇は他の何万の兵士に比べ格段に良かった物なのだろうと思われ、飢えで倒れていく兵士達の本当の苦しさをわかっていなかったのではないか?もしくは敢えて書いていないのではないかと思ってしまう。

私が戦記物に求めるのは、極限状態の中で、人がどう変わり、どう思い、そして人間として自分の醜さを認識しつつも、いかに人間らしく生きようとするかという事である。
他の戦記物でも、自分の人間として恥ずかしい部分を前面に出しているという物は少ないが(自伝を書く人は、品行方正な人が多いのだろうか?)、この本の場合はあまりにキレイ事過ぎるかなと思ってしまった。

以前読んだ「悲劇の島―記者の見た玉砕島グアム」著:堀川 潭(光人社NF文庫)は、私が読んだ中では珍しく、自分が生き残る為には誰に取り入ればよいのか悩んだり、体力の無い自分に代わってもっと体力のある人間が自分のやるべき仕事をやってくれればいいのにと恨み言を書いたり、人間のあまり知られたく無いような心の動きを赤裸々に書いていて、この本とは対極だなぁと思った。

 


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「ビルマ最前線」 小田敦巳 [本ノンフィクション:戦争・戦記]

「ビルマ最前線 白骨街道 生死の境」 著:小田敦巳 (光人社NF文庫) 6.5点

昨年「死の島ニューギニア」(著:尾川正二)という戦記物を読み、当時の兵士の悲惨な状況や極限状態の人間の心理など、ちょっとカルチャーショックを受けたので、それ以来ポツポツと第二次世界大戦関係の戦記物を読んでいる。

といっても、地理的な物に詳しくないと状況が理解しにくかったりするので、ニューギニア関係と、インパール関係のがほとんど。その上、文庫で読みたいので、ついついそのシリーズを出している「光人社文庫」ばかりを読んでいるので、偏ってる気もします(^^;)。

で、今回読んだのは「ビルマ最前線」。白骨街道とあったのでインパール関係かと思ったけど、インド国境地帯の話ではなく、ビルマ中部から南部を中心とした話。白骨街道というと、ビルマのマンダレーより北(ビルマ北部)という印象があったのだけど、違うのかな?

場所は違えど、戦場の兵士が物資不足による飢えや、マラリアに苦しみ、その過酷な状況により戦闘による死ではなく、撤退の際バタバタと倒れていった・・というのは他のインパール関係の戦記と同じである。綿密な計画も立てず、兵士をまるでコマのように扱った当時の日本軍の状態がよくわかる。

この本の著者は「ドイツ・イタリアが負けた」と聞いても、圧倒的な敵の物量を見ても、日本が負けるという考えは浮かばなかったらしい。戦記物は、著者の性格や考えがジワジワと滲み出している気がするが、この著者の場合、国の批判、作戦への疑問などはあまり持たず、純粋に上の命令に従い、お国の為に命をかけて戦うタイプであったのでは無いかなと思った。このような兵士達が前線を支えていたのかもしれない。

ビルマ戦で、「トラによる被害の噂を聞いた」というのは他の本で何度か読んだが、この本では実際トラによる被害にあっており、珍しかった。

 


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