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「ベトナム戦記」開高健著:戦時下のベトナム人達の息遣いが聞こえてくるよう・・・ [本ノンフィクション:戦争・戦記]


ベトナム戦記 (朝日文庫)

ベトナム戦記 (朝日文庫)

  • 作者: 開高 健
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1990/10
  • メディア: 文庫

7.8点

ベトナム戦争初期の1964年末~65年初頭にかけて、
サイゴンに滞在した著者によるベトナム戦争のルポタージュ。

この本ですごいと思ったのは、ベトナム戦争下の、
サイゴンや他の町や村の様子や人々の生活、考え方、ベトナム人の気質、
人々の心に根ざす仏教の影響・・・・そういうものが、じわじわと伝わってくること。

また、言葉の選び方が上手く、簡潔でテンポがよく、
その場の雰囲気がはっきり感じられる文章にも感心。
元々、著者は、記者ではなく、作家だからだろう。

当時のサイゴンの特産物は、テロ、デマ、デモ、クー(クーデター)、それもよりぬきに激しいヤツばかり、
と著者は、サイゴンの様子を語りだす。
読み進めると、その4つが「特産物」なのが、ものすごくよくわかる。
そんなに頻繁に、テロやクーデターが起きているのだから、
住んでいる人は怯えながら生活してるのだろう・・・と思ってしまうが、人々はみなたくましい。
テロ、デマ、クーが頻発し、デマが蔓延する状況でも、
優しく、おだやかに生きている人々の様子が、目に浮かぶように描かれているのもすごい。

ベトナムには「フエ」という古都がある。
ベトナム戦争の話を読むと、必ず目にする名前。
でも、名前を知っているぐらい。
その都市が、知性と宗教、学者と高僧の都市で、
独裁政権に対する人々の反逆の狼煙は、この街からいつも始まっている事を知った。

激戦地に比べれば、まだまだ穏やかなフエ。
しかし、そこですら、道端に転がる死体に、子供達すら慣れているというベトナムの現状。

前線を聞くと「全土」と答えが帰って来たという当時のベトナムの様子を伺い知る事ができる。

ベトナムで大きな影響を持つ仏教の僧達や、
ベトコンの侵入を防ぐ為に作られた「戦略村」に閉じ込められた人々を訪ねて行った、
インタビューは、どれも興味深く、考えさせられる内容だった。

野蛮人と蔑まれていた、ベトナムの少数民族である「高原人」、
彼らの、お金には全く動かされない誇り高さを示すエピソードは特に印象に残った。

また、戦争下の都市や村だけでなく、最前線にまで出向き取材をしている。
いつ、死んでもおかしくない状況で、来たことを後悔したり、
銃撃戦の真っ只中に部隊ごと包囲され、絶体絶命の状況に陥ったりもした。
著者の目の前で打たれ死んでいく敵・味方の兵士達の姿が、生々しく、
そしてその兵士の生き様まで想像できるよう切なく描かれている。

長く続き、ベトナム全土を戦果に巻き込んだベトナム戦争のごく一部を扱った取材ルポなのに、
ベトナム戦争がどんなものであったか、見えてくるような一冊。
お勧め!!

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rudies

若い時に、この本と夏の闇・輝ける闇を読みました。
少しだけ開高健氏にはまって
釣りモノから美味しいモノ系まで読んでました。
(*^_^*)

この本はどこに行ってしまったのか〜???
部屋の中を掘り返してみなくちゃ。
chokoさんの感想を読んで
久々に再読したくなりました。


放置状態の自分のブログを久々に見たらば
コメント残していただいている事に
今、気づきました。f(^ー^;

ありがとうございます。

ちゃんとしなきゃです。…>_<…
by rudies (2010-11-17 10:08) 

choko

rudiesさん

開高健、お好きでしたか(^^)。
この人の文章は、テンポも言葉選びのセンスもよく、
いいですよね~♪
私も、機会があったら別の本も読んでみようと思ってます。
美味しいもの系もだしてるのですね。
彼の書く美味しい物は、すごく美味しそうです(^^)。

ブログ、自分のペースで無理しないのが一番ですよ~♪
by choko (2010-11-17 11:58) 

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