「他人事」平山夢明:現代の殺伐とした雰囲気を感じるホラー [本:ホラー&ミステリー]
あけましておめでとうございます。
2008年最初に読んだ本がこれだというのは、いいのか悪いのか(^^;)。
でも、なかなか楽しめました。
今まで出ている短編集「独白するユニバーサル横メルカトル」「ミサイルマン」に比べ、スプラッタ描写が少なく、人間の持つ嫌な面、現代の殺伐とした人間関係、無関心、そんなものを感じさせる作品が多い。
表題作でもある「他人事」は、交通事故で車に閉じ込められた男女の話。自分達も酷い怪我をしながらも、外に放り出された女の子を気にかける2人。事故を発見した男性に、必死でいろいろと頼むのだが、男はこの緊急事態に陥った3人に対し、非協力的だった・・・。
他にも、引きこもりの息子を憎悪する父親の話や、定年退職を迎えると社会的保護を全く受けられなくなってしまう世界に生きる男の話、生徒複数から自殺予告を受取り、いじめの大元を突き止める為奔走する教師の話・・・など現代文明が抱える闇の部分をカリカチュアしたような作品が多い。
キレイにまとまってしまっている作品が多く、「独白するユニバーサル・・」に比べ意外性という面では弱いが、全体的に良いでき。
平山夢明の作品は、陰惨なスプラッタシーンが長すぎて苦手・・・なんて人でも楽しめると思う。
「アイズ」鈴木光司:地味で怖くない [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 鈴木 光司
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/12
- メディア: 文庫
6点
日常に潜む恐怖を描いた短編集。
すっごく久々に鈴木光司の作品を読んだ気がする。
鈴木光司と言えば「リング」「 らせん」などで一世を風靡した作家だけど、私は「ループ」でホラー作品だったこのシリーズがSFっぽく変化してしまったのを「こういう展開はないでしょ?ホラーならホラーらしく終わって欲しかった!」 と怒って、その後離れてしまっていたのだ。
では、何で今頃読んだかと言えば、既に上記の事を忘れてしまっていたから(^^;)(「リング」「らせん」「ループ」どれも単行本発売とほぼ同時に読んでたので、読んだのはかなり昔)。
「何でずっと鈴木光司の作品を読んでなかったんだろ?」と考えてみて思い出したという。
いやーー、歳をとると怒りを持ち続けるパワーも記憶力もなくなりますね(爆)。
「壊れた少女を拾ったので」ガーン「弁頭屋」と同じ本だった・・・ [本:ホラー&ミステリー]
「鼻」曽根 圭介:久々に面白いホラーに出会った(^^) [本:ホラー&ミステリー]
「エデンの黒い牙」 [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: ジャック・ウィリアムスン
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/05
- メディア: 文庫
7点
砂漠で人類の歴史を覆す発見がされた。その事を発表している最中、発掘の責任者である博士は、記者たちの前で不可解な死を遂げる。博士が持ち帰った遺物の秘密とは。その秘密が明らかにされる事を阻止しようとする組織とは。そしてその組織が崇拝する「夜の子」とは・・・。記者である主人公は、その謎を探っているうち、恐るべき真実を知る。
後書きを読むとすごく面白そうなんだけど(先に後書きを読んで、読む気になった)、ちょっと期待外れ。
書かれた当時は斬新だったのかもしれないけど、今読むと・・という感じである。
アイディア勝負は、年月が経っちゃうと辛いものがあるのかなぁと、読了後思ったけど、H・G・ウェルズの「神々の糧 」なんかは楽しめたから、それだけが理由じゃないらしい。
ライカンスロープの話ってあまり食指をそそられない、好みじゃないというのも大きい気がする。
生物が巨大化するパニック映画は好きなので、「神々の糧」は楽しめたのかもしれない。この作品は、センスオブワンダーが溢れてるので、そこも良かったんだろうけど。
そうそう、主人公がウジウジしているのも、個人的にダメだった。「もっと自分を持て~!!」と読みながら思ってしまった。
でも、駄作という訳ではないので、ライカンスロープなどの話が好きなら読んでもいいかもしれない。
「ミサイルマン」平山夢明らしい短編集 [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 平山 夢明
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/06/20
- メディア: 単行本
7点
「独白するユニバーサル横メルカトル 」で、このミス一位をとった平山夢明の短編集。
傾向としては「独白する・・・」と同じで、拷問・虐殺などの残虐シーンや、グロシーンが多い。「独白する・・」が楽しめたなら、楽しめると思う。
ただなんというか、地図の独白で進む話があったり、シニカルな視点の作品があったり、印象に残る短編があった「独白する・・」に比べると、平凡な気がする。佳作ぞろいというか。
タイトルにもなっている「ミサイルマン」に出てくる、ちょっと頭の足りなさそうな青年のキャラクターはよかった。平山夢明はこういうタイプを書かせると上手いなぁと思う。
「感染」映画のノベライゼーション [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 塚橋 一道
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/09
- メディア: 文庫
- 4.5点
映画「感染」のノベライゼーション。
少し前、間違って仙川環の医療サスペンス「感染 (小学館文庫) 」を読んでしまったんだけど、これはちゃんと映画のノベライゼーションだった。
でも、映画の脚本を元に、それを忠実に小説にしているだけで、映画で曖昧だったラストがほんの少しだけわかる・・程度のもの。
映画を見た後読んでも、特に発見は無く、この小説を読むなら、映画を見た方が何倍も良いという感じ。イマイチ。
「死者の体温」動機無き連続殺人者の日記 [本:ホラー&ミステリー]
「夏合宿」読後感の良いホラー [本:ホラー&ミステリー]
「くらら-怪物船団」好きな要素はいっぱいつまってるんだけど・・ [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 井上 雅彦
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1998/12
- メディア: 文庫
- 6.5点
港町を襲う怪異。浜辺に次々と流れ着く異様な物。開発計画が神を怒らせたのか?祟り?呪い?
恋人の乗った船が沈没し、その港町に駆けつけた主人公の見た物は・・・。
奇怪なサーカス団、都市伝説、人を切り刻む連続殺人鬼、神社に祭られる異形の神々・・・。個人的には好きな要素がいっぱい入っているんだけど、どうものめり込めなかった。文章に、ホラー小説から漂ってくるウェット感というか、ジメジメした重さとかそういうのが感じられなかったのだ。ドライというかなんというか・・・。
いろいろな要素が詰まっている割には、大きな破綻もなく、最後まで飽きずに読めたので、及第点ではあるのだけど、何か物足りない。
「騙し絵の館」伝奇小説を思わせるミステリー [本:ホラー&ミステリー]
「感染」ホラーじゃなくて医療サスペンスだった [本:ホラー&ミステリー]
「サイレントヒル」ノベライゼーション [本:ホラー&ミステリー]
「ジュリエット」切ないホラー [本:ホラー&ミステリー]
「独白するユニバーサル横メルカトル」異形の世界 [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 平山 夢明
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/08/22
- メディア: 単行本
「メドゥサ 鏡をごらん」井上夢人/面白いんだけど・・ [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 井上 夢人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/08
- メディア: 文庫
- 6.5点
作家である藤井陽造は、全身をコンクリートで塗り固めるという奇妙な方法で自殺した。「メドゥサを見た」という謎の言葉を残して・・。作家の娘の恋人である主人公は、自殺した作家が最後に取材していた事を調査しはじめる。その時から、主人公の身の回りで奇妙なことが次々と起こり出す。続く怪死、記憶の喪失、取材先の村人の奇妙な対応・・・メドゥサとはいったい・・。
後書きに、この本の評価は高いか低いかで中間が無いというような事が書いてあった。残念ながら私は低い方。
後半近くまでとても面白く、ぐいぐい読ませてくれるし、その辺に作者の力量を感じるのだが、ミステリーから幻想小説へと変貌してしまうのがちょっと(-_-;)。幻想小説は、ちょっと苦手なのだ。でもミステリーとして、普通に終わっていたら、面白いけどずっと記憶には残らない、そんな作品になってしまったかもしれないと思うと、これはこれで作者の個性として認めるべきなのかも。
「うしろ」倉阪鬼一郎 [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 倉阪 鬼一郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/03
- メディア: 文庫
「香水-ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: パトリック ジュースキント, パトリック・ジュースキント
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1988/12
- メディア: 単行本
「黒娘」牧野修 エログロホラー? [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 牧野 修
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/09
- メディア: 新書
- 7点
モデルなみのプロポーションを持つアトムと、ロリータ系美少女ウラン。2人の行く先々には男達の惨殺死体が転がる。そんな2人を追う影の目的は?
感想を書くのに「どう書けばいいんだ~(>_<)」と悩んでしまった作品。
短編がつながるオムニバス形式で、一作毎に1人不幸を背負う女性が出てくる。その原因はどれも男。執拗なストーカーや露骨過ぎるセクハラ、そして女性を調教師飼う事を目的としている集団などに悩まされる女性を救うように、アトムとウランが男達を惨殺していくのだが、男性優位の社会にあぐらをかく男達を断罪する・・・というテーマでは無いと思える。
表向きは、男性優位社会に対する女性の闘いなんだけど、そこまで深い意味は無く、それは1つのエッセンスでしかないんじゃないかと・・・うーん、それとも深読みすべきなのか???やっぱり違うな。
そして、女性が読むとかなりイライラさせられるはず。ストーカーもセクハラも女性調教も、これでもか!!というぐらい男性の持つ嫌らしさ、醜さが強調されている。
そういうヤツラをアトムとウランがやっつけてくれるのは、悪VS善という構図でスカッとはするのだが、なんかモヤモヤーーとしたスカッでもあるのだ。アトムとウランに、悪いヤツをやっつけるという気持ちはなく、単に惨殺したいという理由で男達を殺しているというのが原因かな。
ただ、「蝿の女」でも思った事だけど、主人公であるアトムとウランというキャラクターに(特にウラン)怪しい魅力があるのは確か。牧野修は強い女性(それもS?)が好きらしい。
エロとグロが満載のホラーです。「くさり-ホラー短編集」筒井康隆 [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 筒井 康隆
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/11
- メディア: 文庫
- 7.5点
筒井康隆の今までの短編の中からホラー系のものを集めた短編集。
筒井康隆に夢中になっていたのは高校生の頃なので、はるーーーーーーーーーか昔の話。「虚航船団 」以降は、あまり読まなくなってもいたので、読むのも久々。収録作品は以下の通り。
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生きている脳
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肥満考
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ふたりの印度人
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池猫
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二元論の家
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星は生きている
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さなぎ
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大怪獣ギョトス
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我輩の執念
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到着
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たぬきの方程式
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お助け
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穴
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怪物たちの夜
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くさり
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善猫メダル
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「蝶」の硫黄島
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亭主料理法
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アフリカの血
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台所にいたスパイ
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サチコちゃん
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鍵
筒井康隆とリリカル・・・あまり相容れないものがあるような気がして普通なら買わない気がするけど、この2作が入っているとなるとちと欲しい。「母子像」の方は、リリカル短編集の解説者の小池真理子さんのリクエストだったそうで、やられた~という気もします(^^;)。
「記憶の食卓」牧野修 食に対する嫌悪感全開 [本:ホラー&ミステリー]
「ダークネス」倉阪鬼一郎 [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 倉阪 鬼一郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
- 6.5点
立て続けに起きる原因不明の殺人事件。カレーがコトコトと煮える家庭で、突然妻が夫に襲いかかり、プロポーズの瞬間にプロポーズしてきた相手に少女が刃を向ける・・・加害者達には何の動機も見つからない。共通するのは、動脈を同じ角度で切りつけられている事と、加害者も犯行後すぐ心臓麻痺で死亡している事。人を殺人の衝動に向かわせるモノはなんなのか・・・。新種のウィルスなのか。この事件を担当させられた主人公は、事件の謎に迫る事ができるのか?
突然殺人鬼に変貌する平凡で善良な人々・・・という設定は同作者の「ブラッド」でも見られるが、オカルト色は「ブラッド」の方が強い気がする。どちらかというとホラーティストのミステリーサスペンスという感じか?
作品の途中途中に抽象的で事件を暗示する言葉が何度も挿入されているのが雰囲気を盛り上げるが、この著者の場合、他の作品でも使われているイメージと同じ様な物が使われている事が多い為、印象が重なりやすいのが難点。
倉阪鬼一郎の作品を始めて読んだ場合は、雰囲気に酔えるのだが、何冊も読んでいると「このイメージはあの作品でもあったなぁ」と思えてしまう。
そこそこ面白いんだけど、新鮮味があまり無かった。「蝿の女」牧野修 ブラックユーモア溢れるホラー [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 牧野 修
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/12/10
- メディア: 文庫
「病の世紀」牧野修 人体を発火させる黴、殺人鬼へと豹変させるウィルス・・ [本:ホラー&ミステリー]
「死の影」引っ越したマンションに隠された秘密とは・・ [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 倉阪 鬼一郎
- 出版社/メーカー: ワンツーマガジン社
- 発売日: 2004/03
- メディア: 新書
- 6.5点
「ブラッド」で一躍脚光を浴びたホラー作家である主人公は(この作者の同名の小説「ブラッド」との関係は無い)、あるマンションに引っ越す。奇妙な紋章がそこかしこにあり、4階が立ち入り禁止になっているマンション。そして、そのすぐ近くに立つ新興宗教が経営する幼稚園では、園児が行方不明になる。
どうも印象が薄い本であった。ここに感想を書こうと思い立ったのだが、どんな話だったのか思い出すのにちょっと苦労してしまった。読んでまだ2ヶ月経ってないのに・・・。
部分部分は思い出せるし、個々のエピソードは面白いと思えるのだけど、全体の印象が散漫なのだ。何でだろ?単に物忘れが激しくなってるだけか??(゚_゚;)
いろいろ考えて見たけど、印象が薄いのは、詰め込み過ぎのせいじゃないかと思い当たった。
この作品では、宗教カルト、幽霊、サイコ殺人鬼、マンションに住む変な住人達など、いろいろな要素がギュっと詰まっているのだ。B級ホラーの要素盛りだくさんではあるのだが、逆に多過ぎて1つ1つが散漫に、その上、ラストではそれらを無理に収束させたという感じが拭い切れない。
あと一歩。
「子守り首」童謡に隠された恐怖とは・・・ [本:ホラー&ミステリー]
「楽園の知恵-あるいはヒステリーの歴史」「アロマパラノイド-偏執の芳香」 牧野修 [本:ホラー&ミステリー]
「リアルヘブンへようこそ」「屍の王」「ファントムケーブル」他 牧野修 [本:ホラー&ミステリー]
- 作者: 牧野 修
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/03
- メディア: 文庫
7点
- 作者: 牧野 修
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1999/12
- メディア: 文庫 7.5点
-
- 作者: 牧野 修
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/03
- メディア: 文庫
- 7点
以前、「忌まわしい匣」を読み、面白かったので他の作品も読んでみたいと思っていた牧野修の作品をまとめて読んでみた。
上記4点はホラーで、どれもなかなかの出来。 -
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「 リアルヘヴンへようこそ 」は、新しく開発されたベッドタウンに起きる怪異を描いた作品。
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悪意が街を覆い、人が徐々におかしくなっていく。しかしそれに気が着いているのは、少年と浮浪者達だけだった。
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人々が徐々に狂気に満たされていく過程は、そこそこ読み応えがある。
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外界と隔たれた街という点で、「ホームアウェイ 」に似ているのだが、後書きで作者も書いているのだが、日本国内でそういう街をあまり不自然ではなく作り上げているのには感心。
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ただ、あまり閉鎖された街の怖さを感じなかった気がする。
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また後半の闘うシーンは、もう一ひねり欲しかった気も。
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「スイート・リトル・ベイビー 」は、幼児虐待に主眼を置いたホラー。
我が子を虐待した過去がある主人公は、幼児虐待の電話相談の仕事をしていた。
保護され愛されるべき存在である幼児。そんな幼児を虐待をする親は何故存在するのか?
そんな疑問に答えを与えてくれる不可思議な事件に、主人公は巻き込まれていく・・・。
現実の幼児虐待の悲惨な状況を物語りに上手く織り込みつつも、愛すべき存在が、実は忌まわしい者であったらどうするのか?そんな日常に潜む恐怖を上手く描き出した作品。
「ファントム・ケーブル 」は短編集。
「悪意」「異形のもの」などをテーマに、次々に惨劇が繰り広げられる。
「忌まわしい匣 」の方が面白かった気がするが、こちらもなかなか読ませてくれた。
ちょっと小粒揃いかな?という気がするけど。