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「キョウコのキョウは恐怖の恐」諸星大二郎、初の小説集!! [本:ホラー&ミステリー]


キョウコのキョウは恐怖の恐

キョウコのキョウは恐怖の恐

  • 作者: 諸星 大二郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/11/30
  • メディア: 単行本

6.5点

独特の雰囲気を持った漫画で有名な諸星大二郎が出したホラー短編集(小説版)。

「狂犬」「秘仏」「獏」「鶏小屋のある家」「濁流」の5作が収められ、
最初の3作には、キョウコという掴まえ所の無い怪しい女性が出てきます。

漫画家が書く小説ってどうかなーと思いつつ読んだけど、
期待よりは読ませる内容でした。

特に怪しい農業試験場に入り込んだ男が遭遇した怪異を書いた「狂犬」は
怪しげな農業試験場の雰囲気がよくでていて、面白かった。
主人公につきまとう謎の女キョウコの、肝心な事を匂わせるだけではぐらかす、
思わせぶりでいい加減な態度や、勝手気ままな性格が、いいスパイスになってました。

しかし、あるお寺の儀式を見に行った男が巻き込まれた恐怖体験を書いた「秘仏」では、
逆に彼女の存在意義はあまり感じられず。
どうも、最初にこの話が書かれた時、キョウコは存在しなかったのが、
小説集を出すにあたって、共通要素を持たせようと、加筆されたようです。
お寺での秘儀の不気味な雰囲気はよく出ていたので、そこそこ面白かったけど。

「獏」は、「獏」に執着するキョウコに振り回される男の話。
上の2つでは、本当にこの世に存在するかはっきりしない存在だったキョウコが、
この話では、現実の世界で生活してる。
それがキョウコの摩訶不思議さを壊してしまっているような。

「鶏小屋のある家」「濁流」は、作中で起きる怪奇現象と、
その物語のテーマを上手に絡み合わせることができておらず、テーマが浮いた感じに。
ホラーなのに、不気味な感じがあまり出ていないのも残念。

全体的に怪奇幻想っぽい話が多め。
ただ、ホラー小説で「幻想」の要素が強くなると、「えっ、現実じゃないの?」という感じで
インパクトやオチが弱くなってしまう事が多く、これに収められている短編集もその傾向が。
コミックだと、幻想色が強くても、その描写が絵的に楽しめればOKなんだけど。
特に、「獏」「鶏小屋のある家」は、コミックでやった方が雰囲気がよく出て面白かった気がする。

やっぱり諸星大二郎は、コミックの方がいいなー。

「ダイナー」イカれたヤツを書かせたらすごい平山夢明の最高傑作V(≧∇≦)V!! [本:ホラー&ミステリー]


ダイナー

ダイナー

  • 作者: 平山夢明
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2009/10/23
  • メディア: 単行本

8.5点

浅はかな行動の末、ウェイトレスをする事になった主人公カナコ。
そこは、ウェイトレスの命など、紙くずのように軽く扱われる殺し屋専門の「ダイナー」(定食屋)だった。
次々と客として訪れる、殺し屋達。
カナコは生き残る事ができるのか??

平山夢明は、イカれたヤツを書かせると、すっごく上手い。
「狂人」ではなく、頭のネジが何本か飛んでしまったような「イカれたヤツ」。
そんなのが何人もででくるのだけど、みな、個性的ですごくいいO(≧▽≦)O!
また、平山夢明は、そんなイカれたヤツらのイカれっぷりを見事に表現するだけじゃなく、
彼らが持ってる悲しさとか寂しさまでも描いてくれる。
心の奥底までイカれてるのに、その片隅にある人間らしさを垣間見せてくれるというか。

いつもより少し大人しめな気がするけど相変わらず血肉は飛び散るし、
拷問などの残酷シーンも盛りだくさん。

場所が「ダイナー」なので、脳漿飛び散るシーンと美味しそうな料理の描写が肩を並べてたりする。
スプラッタが苦手な人は、より辛いかも(^_^;)。
でも、料理の描写がまたすっごく美味しそうなんだ。

話の中心になるのが猟奇的な殺人、語られる陰惨な過去、壮絶な拷問などなのに、
愛と、切なさ、悲しさが胸を打つ内容にもなってる。
ここまで書けるとは、平山夢明凄い!

平山夢明は、「メルキオールの惨劇」が今まで一番好きだったけど、
「ダイナー」が一番になりました♪

平山夢明ファンなら絶対読むべしO(≧▽≦)O!!
これは傑作!!

映画「第9地区」を見て物足りなく感じたのは、この作品を読んでいる最中だったからかも。
この作品にかなり毒されてたから。

「メフィストの牢獄」マイケル・スレイド著:新たなる敵の登場か?? [本:ホラー&ミステリー]


メフィストの牢獄 (文春文庫)

メフィストの牢獄 (文春文庫)

  • 作者: マイケル スレイド
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 文庫

6.5点

大好きな、マイケル・スレイドのシリーズ物。

「ヘッドハンター」(創元文庫)
「グール」(創元文庫)
「カットスロート」(創元文庫)
「髑髏島の惨劇」(文春文庫)
「暗黒大陸の悪霊」(文春文庫)
「斬首人の復讐」(文春文庫)
に続く7作目。

著者は、3人の弁護士。
共同出筆なのだけど、一人頭がおかしいのが混じってるという
マイケル・スレイドに関する説明(全くのネタなんだけど)が納得できてしまう内容(^^;)。
ちなみに、このリンク先の、マイケル・スレイドの解説はすごく面白いので、
興味を持ったら読んでみて下さい。
マイケル・スレイドの作品の傾向がほんとーによくわかる。

「バカバカしいミステリー」を「バカミス」と(愛を込めて)呼ぶけど、
一番最初に「バカミス」が使われたのが、Wikによると3作目の「カットスロート」だったらしい(^^;)。

主人公、ディクラークを中心に、猟奇殺人事件に取り組むカナダ騎馬警察(RCMP)の話。
とにかく、節操なく、ごちゃごちゃといろいろな要素を詰め込み、
嫌になるほど、細々と説明があるというか、知識が詰め込んである。
読みにくいといえば読みにくい。
でも、それのこのシリーズの特徴。
またメインキャラになっている登場人物ですら、容赦なくひどい目に合うというのも特徴。

私は猟奇色が強い「グール」「髑髏島の惨劇」がお気に入り。
特に、髑髏島に招待された人々が、次々に屋敷に仕掛けられた罠で死んで行く「髑髏島の惨劇」は
その突飛な罠に感動した(特に、トイレの罠はすごすぎて忘れられない)。

で、今回の「メフィストの牢獄」はというと、偏執的に「秘宝」を探し求めるメフィストと名乗る敵が現れ、
ディクラークに戦いを挑むという内容。

好きなシリーズなんだけど、今回はイマイチだった。
「メフィスト」という、明確な悪役が登場しているのだけど、それがあまり魅力的じゃない。
拷問、火あぶりなどもあったけど、猟奇色も薄め。
じゃぁ、ミステリー要素が面白いかというと、それも・・・・。
歴史と事件を絡めて話を進めているんだけど、歴史の説明だけが印象に残り、
現代に起きた事件を盛り上げる素材になっていない。
なんか全体的に地味だし。

3人の共同出筆ではなく、メインのジェイ・クラーク一人で書いたからかな?
頭がかっとんだ人がいなくなってしまったのか??

このシリーズ、カナダでは12作くらいまで発行されている。
この後は、娘との共同出筆になってるらしい。
娘さんの頭がおかしいといいなー(^_^;)。

で、この先の話で気になったのを(後書きに紹介されてた)。
10作目は、切り裂きジャックとクトゥルフが絡んだ話らしく、すごく読みたい!
11作目は、ナチスとロズウェル事件が絡んだ話。
12作目は、広島原爆で家族を失った男の復讐劇らしい。

こうやって並べると、何でもありなのがよくわかる(^_^;)。

どんどん翻訳して欲しいけど、今の翻訳ペースだと、
10年ぐらい経たない読めない気がするよ~(T_T)。
この「メフィストの牢獄」は10年近く前の作品だし。

「厭魅の如き憑くもの」「禍家」「忌館 ホラー作家の棲む家」三津田信三:ホラーとミステリーが融合! [本:ホラー&ミステリー]


厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/03/13
  • メディア: 文庫
7.5点

禍家 (光文社文庫)

禍家 (光文社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/07
  • メディア: 文庫
7.5点


忌館 ホラー作家の棲む家 (講談社文庫)

忌館 ホラー作家の棲む家 (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/07/15
  • メディア: 文庫
7点

ホラーとミステリーが融合した作風が特徴の三津田信三の著作、三作。
「ホラーティストはあるが基本的にはミステリー」というタイプではなく、
「ミステリー要素はあるが、基本的にはホラー」という感じの作品が多い。

一応、作中で語られる怪異現象は、謎解きで現実の動きとリンクしていることがわかるのだが、
それだけでは説明できない出来事あったり、不気味な余韻が残る作品になっている。

「厭魅の如き憑くもの」「忌館 ホラー作家の棲む家」は、
作家であるその本の著者が体験した事を語る・・・という形式を取っている。

「厭魅の如き憑くもの」は「刀城言耶」という作家が、
そして「忌館 ホラー作家の棲む家」は「三津田信三」本人が語っている。
両方共シリーズ化しており、ここで紹介しているのはどちらも、シリーズ第一作目。

三津田信三のシリーズ物などについて詳しく知りたい方はこちらへ(Wikにリンク)。
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「厭魅の如き憑くもの」は、「刀城言耶」という伝奇幻想作家が体験した話として語られている。

刀城言耶が、取材の為訪れた、神々櫛村。
そこは、憑き物系の家「谺呀治家」と神事を行う「神櫛家」、
「黒」と「白」の家系に二分される閉鎖的な村だった。
村のあちこちには「カカシ様」が祀られ、村独自の地形のせいで不気味な雰囲気が漂う。
そんな中、次々と奇怪な連続殺人事件が起きる。
村に伝わる伝承を紐解きながら、刀城言耶は、事件の核心に近づいていく・・。

村の異様な雰囲気、かなりのページを裂いて要所要所で語られる日本各地の憑き物の話や、
村の名前、谺呀治、神櫛などの由来など、伝奇ホラーの要素満点。
横溝正史の世界に似ているが、それより、伝奇ホラー的な要素が強く、
人間関係のドロドロ的な要素は薄い。

ホラーの雰囲気満点のミステリーを楽しみたい方に。

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「禍家」は、ある家に引っ越した少年が体験した恐ろしい出来事を綴った、
これまたホラー色の強いミステリー。

一応、ミステリーとして成立しているが、話の流れはホラーで、
禍々しい雰囲気の家で、少年が「何かに」追い詰められて行く様が恐ろしい。
子どもの非力さ無力さ・・という要素が、話をより緊迫感のあるものにしている
(ジョン・ソール-子供が悲惨な目にあうホラーをいっぱい書いてる-の作品を思い出した(^_^;))。
ミステリーとしても完結するが、現実世界のモノではない何かが関わっていたに違いないと
思わせる作品になっている。

今回の3作の中では一番ホラー色が強いと思う。
ホラーを読みたい方に(^^)。

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「忌館 ホラー作家の棲む家」は、主人公「三津田信三」が語り手の三津田信三デビュー作。
自分の名前で出版社に送られてきたという、全く身に覚えの無い原稿。
それと同じ頃、偶然見つけた洋館で、三津田は小説を書き始める。
洋館にあったその洋館を模した模型を眺めている内、
三津田は子どもの頃の恐ろしい記憶を徐々に蘇らせる・・。

怪奇・幻想・ミステリーの要素が入った作品だけど、
後半は「幻想」の要素が強い感じ。

いろいろなホラー・ミステリー作家やその作品に関しての話も多く、
そういう部分でも楽しめた。

恐怖を感じる部分は、主人公の子どもの頃の回想部分に多い為、
子どもが主人公だった「禍家」と似た印象になってしまった。
続けて読んだので余計に。

幻想・怪奇色が強い作品。

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どの作品も、伝奇ホラー色が色濃くでていて、作品の持つ雰囲気がすごく好みです(^^)。

ただ、くどくどとした説明・表現も多く、これを好きな人は好きだろうけど、
苦手と感じる人もいるかも。

でも、好きな人はツボに嵌るはず!
まずは、何か一冊好みに合いそうな作品をどうぞ♪

短編集「赫眼」が一番取っつきやすいし、面白いかも(^^)。

「殺人鬼」綾辻行人著:スプラッタホラーの駄作(-_-メ)! [本:ホラー&ミステリー]


殺人鬼 (新潮文庫)

殺人鬼 (新潮文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/01
  • メディア: 文庫

4点

Another」が読みたかったんだけど、
図書館で予約したらまだまだ来るのが先になりそうだったので、同じ作者の「殺人鬼」も読んでみました。

好きそうな内容なのに、どうも食指が動かない作品で今まで読まないで来た作品。
読まなかったのは正解だったんだなーと思える駄作ぶりでした(-_-;)。


双子山の麓でキャンプをしていたグループを、次々と殺人鬼が襲う・・・という、
映画「13日の金曜日」のような内容の作品。

スプラッタ描写は多く、殺人鬼目線で語られている部分もあるが、どれも中途半端。
スプラッタ描写は、もっとウェット感が欲しいし、犠牲者達が追い詰められて行くという緊迫感も無い。

「13日の金曜日」というよりは、何の演出もなく突然犠牲者が襲われ
倒れて行くのが新鮮だった「悪魔のいけにえ」っぽい感じ。
ただ、それを小説でやられても・・・・という気が。

また殺人鬼目線の描写も、殺人鬼の気持ちを客観的に書いているという感じで、
殺人鬼の持つ、狂気が全く感じられない。

連続して殺人を淡々と行う狂人の目線で描いた「アメリカン・サイコ」を読んだ時は、
表面上は正常な生活を送っている主人公に巣くう狂気の深さが怖かったんだけど。

とにかく、全くといっていいほど怖さを感じなかった。
最初に提示された仕掛けも「それで?」という感じだったし。

どの要素も中途半端でがっかり。

ここまで期待外れだと、「Another」を面白いと思えるか不安だ~。

「狂鬼降臨」友成純一著:エログロスプラッタ大大大満載w( ̄△ ̄;)w! [本:ホラー&ミステリー]


狂鬼降臨 (ふしぎ文学館)

狂鬼降臨 (ふしぎ文学館)

  • 作者: 友成 純一
  • 出版社/メーカー: 出版芸術社
  • 発売日: 2009/02
  • メディア: 単行本

7点

果てしなくエログロが続く中短編集(^^;)。

中編「狂鬼降臨」は、突然冥界と現世がつながり、鬼たちが地上に現れる話。
地獄と同じように、人々を惨殺する鬼たち。
その前に、為す術もなく肉塊の塊にされていく人々。
世界中で阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる・・・。

「地獄の遊園地」は天才漫画家「手近修」(^^;)によって作られた
完全にコンピューター制御された遊園地が、人々を惨殺し始める話。
B級・C級スプラッタ映画を小説にしたような内容。

「呪縛女」は、男性だけがかかる全身が腐る病気「退廃病」、
その感染源が女性だった事から、男性達がとった行動を綴る話。

「蟷螂の罠」は、突然凶悪な衝動にかられ人を殺してしまった男の話。

「地獄の釜開き」は、冥界に魂が溢れ、人々が死ねなくなった世界の話。
体をバラバラにされても、頭を潰されても死ねない人々。
しかし、それは永遠に続く苦痛との出会いでもあった。
「狂鬼降臨」とリンクしてます。

どの話もエロとグロに満ち満ちてます。
普通、グロの方がウェイトが高いのだけど、この本はエロの度合いも高め。

また明確なテーマは無いに等しい。
表題作「狂鬼降臨」を例にとると、鬼が地上に現れ、残虐の限りを尽くす。
その惨劇をいろいろな人の視点から、描いている。
人間牧場に囚われた人、串刺しにされる人、手足をもぎ取られる人・・・

延々と続くドログチャ汚物・血みどろ・惨劇の描写の間に、エロが入っているだけというか・・。
こう書くと、「どんな話だ??」って思われそうだけど、本当にそうなんだもん(^^;)。

他の話も似た感じなので、とにかく延々と続く惨劇の描写を堪能したーい!!
って人だけが読むべき本(^_^;)。
救いも無いし。
でも、ここまで潔くエログロに走っている著者には脱帽。

図書館のお薦め図書のコーナーにあったけど、こんなのお薦めしていいんだろうか??(^_^;)

「長い腕」川崎草志著:ゲーム業界ネタ満載なのに、日本的な怪奇色も併せ持つミステリー [本:ホラー&ミステリー]


長い腕 (角川文庫)

長い腕 (角川文庫)

  • 作者: 川崎 草志
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 文庫

7点

イカれた男が電車の中でカップルを刺殺し、女子中学生が、同級生を猟銃で撃ち殺す、
空港では、アイドルを見ようと集まった少女達が将棋倒しになり多数の死者が・・・。
そして、あるゲーム会社で起きた無理心中。
その会社に勤める主人公は、加害者の机を見て違和感を感じる。
その事件を調べ始めた主人公は、会社で起きた心中事件と、
女子中学生の事件との奇妙な関わりを発見する。
また、女子中学生の事件は、その閉鎖性が嫌で飛び出した自分の故郷で起きていた。
数々の事件には何かつながりがあるのか??

横溝正史ミステリー大賞受賞作品。

著者がゲーム会社勤務経験ありなためもあってか、前半はゲーム制作現場・状況が詳細に語られている。
私は長すぎるなーと感じたけど、あまり知らない業界話として、
その部分を楽しんで読んでいる人も多いようなので、どう感じるかは人それぞれかも。

現代的な猟奇ミステリーの前半と比べ、故郷に戻ってからは、
閉鎖的な農村を舞台にした昭和初期の雰囲気を持つミステリーとなっている。
ストーカー、カルト教団など現代的な要素と、
過去村に起きたと言われる惨劇、都市伝説などが上手く絡まってストーリーを構築しているのがいい。
本格的ミステリーとは違うし、ちょっと簡単に事が運びすぎるなと思える部分もあったけど、
なかなか読ませる話になっていて、面白く読めた。

さて、この本、何が一番びっくりしたかというと、著者が知ってる人だったこと。
読んでて、あれ?と思う事があって調べたら、そうだった。
彼が「横溝正史ミステリー大賞」を受賞したことは、当時、共通の知人から教えて貰ったんだけど、
「賞品豪華~w(゚o゚)w!!こんなに貰えるんだ~」ってところばかりに注目してて、
本のタイトルも、ペンネームも覚えてませんでした~(^^;)。

「狐火の家」貴志祐介著:可も不可も無くという感じ [本:ホラー&ミステリー]


狐火の家

狐火の家

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2008/03
  • メディア: 単行本

6点

この前の記事「新世界より」は、この「狐火の家」がイマイチだったのを書く前に、
貴志祐介のいい本も紹介しようと思って、かなり前に読んだのを紹介しました。
悪い方だけ紹介するのも何なので(^_^;)。

女性弁護士+元(現?)泥棒の組み合わせによる、ミステリー短編集。
4編入っていて、2編がシリアス、2編がコミカル。

どれもほどほど・・・というか、面白くないわけじゃないけど、わざわざ読まなくても・・という感じ。
コミカルな話は登場人物が変で、その部分は楽しめたけど。
女性弁護士の素人推理(読者が推理しそうな事)を、元泥棒が否定して行くという流れで進む話が多い。
登場人物が少ないため、トリックはともかく犯人の目星がある程度ついちゃうし、
トリックも、納得はできても、びっくりするものが少ない。

メインキャラクター二人にあまり魅力がないのも、普通に思える理由かな。
「狐火の家」ってタイトルからホラーミステリーかと思ったら、ホラーの要素は全然ないし。
それはかなりがっかり。

貴志祐介佑介は「黒い家」と「新世界より」が一番好きです。
特に「黒い家」は人間の奥底にある恐ろしさを描いた作品としてはピカイチだと思う。
生身の人間なのに、化物などより何倍も怖い(>_<)。

天使の囀り」「十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA」などのホラーもお薦め♪
貴志祐介はホラーがいいよ(^^)。

「死霊列車」「吸血蟲」北上秋彦:ゾンビ物2作。語り口のまずさが痛い(-_-;) [本:ホラー&ミステリー]


吸血蟲 (角川ホラー文庫)

吸血蟲 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 北上 秋彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/01/06
  • メディア: 文庫
4点
死霊列車 (角川ホラー文庫)

死霊列車 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 北上 秋彦
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/12/25
  • メディア: 文庫

5点

北上秋彦の、ゾンビ物2作。

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「吸血蟲」は、嵐により外界と遮断されてしまった寒村を襲う恐怖を描いた作品。

人々が次々に理性を失い、普通の人々を襲いだす。
家族を嫌い、村を離れていた主人公亜希子は、弟からの不気味な連絡と、
その後連絡が取れなくなった家族を心配し村に戻る。
しかし、50年前にも起きた悲劇が、また村を覆い尽くそうとしていた。
それも、以前より大規模に。
人々に何が起こったのか。

ゾンビ物で、ストーリー的には王道。
でも、ゾンビ物とかは好きなので、定番物でも好んで読むのだけど、これはダメだった。

何がダメかというと、とにかく言葉やエピソードの選び方が雑で、緊迫感を壊してしまう事がしばしば。
語り口も下手で、独白もくどくどと説明的で嫌になるし、登場人物に感情移入もしずらい。
いくら、おどろおどろしい描写で雰囲気を盛りあげようとしても、スプラッタシーンを書いても、
上記のような理由で大なし。

吸血鬼と化した村人達からどうにか逃れ辿りついた家。
緊迫感あふれる中、食事を取るのだが、そこで描かれる料理のシーンは長く、
主人公の女性がいかに家庭的か・・・なんてのがほのぼのと語られてしまう。

ストーリーを楽しむ前に、とにかく部分部分で気に障るところが多すぎて、
ダメダメだーという感想。

ラストもあまり盛り上がらず。

後書きで、同じゾンビモノの「屍鬼」(小野 不由美)の話が出ていて、構想は先だったのに、
書きあがるまで時間がかかってしまって、「屍鬼」に先を越されたと作者ががっかりしていた・・という
話が載ってた。

「屍鬼」は、世界観、複雑な人間関係や人物描写、ドラマチックな展開・・・とどれをとっても一流。
日本ゾンビモノの傑作「屍鬼」よりこの作品を先に発表したからといって意味ないぞ(-_-;)と
思ってしまった。

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「死霊列車」は、狂犬病のような症状の後、人を襲うようになる奇病が蔓延した日本を描いた作品。
本土はすでに病気が蔓延し、政府は北海道に移転してしまう。
鉄道マニアである高校生の少年は、生き残った人々を乗せた列車を走らせ、北海道に向かう。
その途中途中で、繰り広げられる惨劇。
襲い来る病気に感染しゾンビのようになった人々。
少年たちは、無事北海道にたどり着けるのか?

「吸血蟲」に比べると文章はまだよくなってるけど、相変わらず説明口調なのは変わらない。

また、くどくど説明する割には、説得力がなく、登場人物に感情移入しにくいのも同じ。

ゾンビみたいな形相で人に襲いかかる感染者達を「人を撃つのは倫理的に・・」と、
躊躇し仲間が次々に犠牲になる自衛隊とか、
身を守る為に感染者を殺す行為に眉をひそめる主人公とか、
そう登場人物達が思ってしまうのがわかるような説得力が文章になく、
「こんな状況で何甘いことを言ってるんだろ??」と思えてしまう。

襲い掛かる感染者の群れから逃げる為に、勝手に列車に乗り込み、
動かそうとるす高校生の行為に対し、
突然「盗みはいけない!」と説教する人物が現れたり、
全体的に説教くさいと思えるシーンも多く、それは前作でも気になった。

また、相変わらず言葉の選び方もよくない。

主人公の女性がまだ状況を知らず、死体が転がる街中を放浪する緊迫感あるシーン。
主人公に向かって「逃げろ!」と叫んだ男性。

「チワワを飼ってる田村という男が叫びながら・・・」
という表現なのだが、何でチワワ??
緊迫感があるシーンがチワワという言葉で台無しに。
いや、「チワワ」がその後何かしら展開に関係があるならいいんだけど、
この男、そう叫んで勝手に車で逃げちゃうだけなのだ。

そういう言葉の選び方、表現のまずさが要所要所に見られる。

ホラーというのは行間を読ませるのも大切だと思うのだけど、
下手な説明調の語り口、余計な描写などが、それを壊してしまっている。

話的には、こちらのほうが「吸血蟲」より面白かったけど、
この著者の文章はホラー向きではないと思ってしまった。

この2冊を読むなら「屍鬼」を読みましょう。
ハードカバーだと分厚い本で上下巻、文庫本になったら全5巻という長さだけど、
面白いよV(≧∇≦)V。

「電氣人閒の虞」詠坂雄二著:都市伝説「電氣人間」に纏わる怪異 [本:ホラー&ミステリー]


電氣人閒の虞

電氣人閒の虞

  • 作者: 詠坂 雄二
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/09/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

7点

インターネットでいろいろ検索したりする時代だけど、それに逆らったようなタイトル(^^;)。
「電氣人閒の虞」の「電氣」は「電気」ではなく、「人閒」は「人間」じゃない。
最初、検索で引っかからなくて何でだろ??と思いました(^_^;)。

一部地域でのみ語られている都市伝説「電気人間」の話。
・語ると現れる
・人の思考を読む
・導体を流れ抜ける
・旧軍により作られる
・電気で綺麗に人を殺す
その都市伝説の調査に関わった人が次々と死んで行く。
本当に「電気人間」はいるのか?
それとも、都市伝説を隠れ蓑にした犯罪なのか?
都市伝説「電気人間」に纏わる怪異を追った、ホラーミステリー。

都市伝説の成り立ちや構造、広がりに関する考察が本書の中で述べられおり、それは面白く読めた。
ただ、話としては、ホラーとしては恐怖感が足りず、
ミステリーとしても、犯人を考えさせたり、先をぐいぐい読ませる部分が弱い。
細かいディテールは凝っているんだけど、物語としては物足りない。

読んで損した~とまでは思わないのだけど、微妙な感じ。
もう少し怖ければ良かったのに。

「龍神の雨」道尾秀介:人の弱さ、悲しさ漂うミステリー [本:ホラー&ミステリー]


龍神の雨

龍神の雨

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/05
  • メディア: 単行本

7.5点

実の両親を失い、飲んだくれる継父と暮らす兄妹。
同じように実の両親を失い継母と暮らす兄弟。
この2つの家族の運命を降りしきる雨が狂わせて行く。
あの日雨が降っていなければ・・・。

道尾秀介は、先日短編集「鬼の跫音」を読んだけれど、長編の方が面白いと改めて思った。

簡潔な文章、あっさりとした語り口で綴られる物語の中で、
読み進むほどに浮き彫りになって行く登場人物達の心の機微。
この辺がすごく上手いのだけど、短編だと浮き彫りになる前に話が終わってしまっている感じがする。

その点、こちらは著者のいい部分がちゃんと生かされ、
主要登場人物の4人の葛藤、悲しみ、苦悩、迷い・・など繊細な心の動きが、
雨をキーワードに、事件と連動しながら上手く表現されている。

ミステリー仕立てではあるけど、話の中心に来るのは人間の弱さ、脆さ、悲しさ。そして強さ。
読後も、切なさ、悲しさが後を引く。
これは「ラットマン」でも感じたものだ。

しっかりまとまっていて、話も面白く、最後までぐいぐい引き込まれるように読んだ。
道尾秀介の人気が高いのがわかるなーと思えた。

でも、もう一つ思った事は、「面白い」と感じることと「好き」は違う事。
道尾秀介は面白い。
でも、どの作品も読みたくなるほど自分は「好き」ではない。
道尾秀介の作品より、知らない作家が書いた怪しげなホラーを選んでしまう自分がいる(^^;)。

映画もそうなんだよね~。
「見れば絶対面白いはず」と思える名作より、
当たりか外れかわからないB級C級ホラーを見てしまうのだ。

「鬼の跫音」道尾秀介著:ホラーっぽい短編集だけど、ホラーじゃないような [本:ホラー&ミステリー]


鬼の跫音

鬼の跫音

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/01/31
  • メディア: 単行本

7点

ラットマン」が面白かったので、他の作品も読んでみました。

ジャンル的にはホラーのカテゴリーに入る気がするけど、
文芸の匂いがするというか、ホラーとは何か違う。

設定やストーリーはホラーっぽいのもあるけど、雰囲気がホラーじゃない。
あっさりとした語り口の中で、登場人物の心の機微を描き出す手腕はすごいと思うけど、
ホラー小説にただよう禍々しさが薄い。

三津田信三が「灰蛾男の恐怖」(「赫眼」収録)の作中で
「雰囲気を作れたら9割成功」と語っていたように、ホラー小説に雰囲気は大切なのだ。

また多くの話が、ストーリー展開や状況より、主人公の心情に重きが置かれており、
これも人間の怖さではなく、人間の弱さ、悲しさ、愚かさがメインに描かれている。

どの話も綺麗にまとまっているし、悪いわけじゃないのだけど、
ホラー小説が好きな人には物足りない。

収録作品は

「鈴虫」
「(ケモノ)←獣偏」
「よいぎつね」
「箱詰めの文字」
「冬の鬼」
「悪意の顔」

この中では「(ケモノ)」と「悪意の顔」が面白かった。
一応2作だけ、粗筋を紹介。

刑務所で作られたテーブルの足に刻まれた謎の文。
それは自分の家族全員を殺害した犯人が掘ったものだった。
それを見つけた主人公は、文の謎を解明しようと犯人の故郷に向かう話が「(ケモノ)」。

ある少年から執拗な嫌がらせを受けている少年が、出会った怪しい女の話が「悪意の顔」。

ホラー小説はちょっと苦手と敬遠してる人向けの、ホラー短編集な気がする。

「恐怖と狂気のクトゥルフ神話」「クトゥルフの呼び声(コミック)」画:宮崎 陽介 [本:ホラー&ミステリー]


恐怖と狂気のクトゥルフ神話

恐怖と狂気のクトゥルフ神話

  • 作者: クトゥルフ神話研究会
  • 出版社/メーカー: 笠倉出版社
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: 単行本
7.5点

クトゥルフの呼び声 (クラシックCOMIC)

クトゥルフの呼び声 (クラシックCOMIC)

  • 作者: H・P・ラヴクラフト
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2009/11/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
6点

クトゥルフもの2冊。
両方とも王道(小説)とは外れる「読み物」的存在。

「恐怖と狂気のクトゥルフ神話」は、よくコンビニに並んでいるペーパーバックタイプの本。
このタイプで、ちょっと興味が惹かれるものはちょくちょく読んでいるんだけど、
胡散臭いものも多いし(それでもついつい読んでしまう)、
雑誌感覚で読んでいるというのもあってここには書いてなかったけど、
これは面白かったのでアップしてみました。

ラブクラフトについての説明や、世界観、代表的な短編いくつか、
イラスト付きで紹介されている暗黒神や小道具、クトゥルフの舞台となる場所や世界、
そして関連作品の紹介と、内容は充実、入門書としてなかなか良い出来栄えになってます(^^)。

関連作品では少しでもクトゥルフを知ってる人なら関連がすぐわかる
諸星大二郎の「栞と紙魚子シリーズ」などや、
映画「ミスト」のように「言われてみると確かに」ってもの、
ウルトラマンティガなどのように「えーそうなの?」ってものまでいろいろあって面白い。

クトゥルフに興味があるけどこれから手を出す、
ちょっとだけ齧った程度なんて人に、すごくお勧めです(^^)。

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「クトゥルフの呼び声」は、原作を漫画化したものと、クトゥルフの解説。

解説は面白いけど、コミックの方は作者の力量が足りない。
話は原作に忠実なのだけど、絵の雰囲気がイマイチ。

もっと禍々しい雰囲気が欲しかった。
伊東潤二ぐらいの画力が欲しい。
伊東潤二なんて愛猫を書いても禍々しさ満点だし(^_^;)。

クトゥルフ物はとりあえず抑えておきたいって人に。
コミックなので読みやすいけどね。

「赫眼」三津田信三著:ホラー短編集、どの話もぞっとするほど怖い! [本:ホラー&ミステリー]


赫眼 (光文社文庫)

赫眼 (光文社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/09/08
  • メディア: 文庫

8点

ホラーとミステリーが融合した小説を書いている三津田信三によるホラー短編集。
三津田信三の小説は、ホラー小説として成り立ちつつ、しっかりミステリーとしても
成り立っているのが凄いし、また著者の力量を感じる。

ただ、この短編集は、ホラー寄りの話がメイン。
でも、元々文章や語り口がとても上手いこの作家のホラー短編なので、とにかく怖い。

収録作品は

表題作「赫眼」は禍々しい雰囲気を纏った美少女転校生。
望まず彼女と関わりを持ってしまった主人公が遭遇した怪奇現象とは。
「怪奇写真作家」は、忌まわしい場所を撮り続けた写真家の話。
「見下ろす家」高台に立った家に探検に入った少年たちが遭遇したのは・・・。
「よなかのでんわ」過去に訪れた事がある心霊スポットから電話をかけて来た友人の意図は?
「怪奇灰蛾男」露天風呂でであった老人が語る、恐ろしい事件とは?
「後ろ小路の町家」引っ越した町屋に伝わる不気味な言い伝え。
「合わせ鏡の地獄」合わせ鏡に魅せられた少年が辿った運命は。
「死を以て貴しと成す」冷やかしで心霊スポットに行った男たちの話。

ホラー作家である主人公が取材中体験したり聞いたりした話・・
というスタイルをとっている話が多いせいもあり、
恐ろしい怪奇体験話を実際に聞いた後のように、背筋が寒くなるような感覚が読後まで残る。

血が飛び散ったりしなくても、
単に電話がかかってきた・・なんてシチュエーションだけで
心底読者を怖がらせることができるのだなと感心。
ゾっとするホラーが読みたい人に、お勧め!!!!

「家鳴り」篠田節子著:人の怖さを描いたホラー短編集。怖いです [本:ホラー&ミステリー]


家鳴り (新潮文庫)

家鳴り (新潮文庫)

  • 作者: 篠田 節子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 文庫

7.5点

少しSFの要素が入ったホラーが多めの短編集。
特筆すべきは、著者の人物描写。
人を多面的な角度で捉えるのが上手い!

例えば、「操作手(マニピュレーター)」では、ボケの始まった姑を介護する嫁が出てくる。
献身的に嫌がらず寝たきりの姑に尽くす嫁。
姑への優しい言葉かけも、気配りも本心からなのに、
それでも嫁の心に「姑が死ねば」という気持ちが一瞬過ぎったりする。
そういうちょっとした描写が、作品を深いものにしている。

収録されているのは、
「幻の穀物危機」
「やどかり」
「操作手(マニピュレーター)」
「春の便り」
「家鳴り」
「水球」
「青らむ空のうつろのなかに」

一番好きなのは「幻の穀物危機」。

この話は、首都で大地震が起き、多くの被災民が地方へと移動したことによるパニックを描いている。
一部の傍若無人な被災者の行動が、田舎の平凡な善人であった農民達を、凶行に駆り立てる。
「やりたくはないけど、やらなければいけない」と言いつつ武器を用意する農民達。
その描写はリアルで(戦時中、派兵先で住民達から食べ物を奪い取った兵士達と、
それに対抗した住民達の立場を思い出す-両方共元々は悪人ではないのだ)、
こういう状況は有り得そう・・・と思えるのが怖い。

他の話も、人間の奥底にある怖さを描いた作品が多く、何とも言えない余韻が残る。
お勧めです(^^)!!

「呪眼連鎖」桂修司:北海道北見の刑務所から広がる呪い・・・ [本:ホラー&ミステリー]


呪眼連鎖

呪眼連鎖

  • 作者: 桂修司
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2008/12/03
  • メディア: 単行本

7点

このミステリーがすごい!」第6回優秀賞受賞作品。

文庫版「パンデミック・アイ 呪眼連鎖 (上) (宝島社文庫)」も出てます。

北海道の刑務所で相次いで囚人が自殺した。
囚人の遺族から依頼を受けた弁護士である主人公は、その刑務所を訪れる。
自殺した囚人が直前に閉じ込められていたという独房も調査した主人公は、そこで恐ろしい幻覚を見る。
そして、右目には黒いシミのようなものが見えるように。
「これは何かの呪いなのか??」怯え、悩む主人公の元に、
その独房に立ち入った刑務官達にも同じ症状が出ているとの連絡が。

この恐ろしい現象には、明治時代、囚人に対し、過酷な労働をかして行われた
北海道開拓道路工事が関わっていた。

呪いの原因と解く方法を解明しようと主人公たちが奔走する現代と、
明治時代の北海道開拓道路工事での囚人たちの酷い状況が交互に語られる。

話のテンポがよく、ぐいぐい物語に引き込まれた。
特に、サブストーリーである明治時代の囚人達の過酷な強制労働に関する話は、
ミステリーを読んでいるというより、歴史物を読んでいるような重々しい雰囲気に溢れ秀逸!

これを読んで、明治時代北海道開拓で強制労働に駆り立てられた囚人達を描いた
吉村昭の「赤い人」を読みたくなってしまった。
何ページか読んで、行方不明になってしまったこの本(^_^;)。
頑張って発掘しようかな。

吉村昭は実際に起きた、北海道開拓民の村を羆が襲い、
村人が何人も犠牲になった事件のドキュメンタリー「羆嵐 (新潮文庫)」も書いている。
こちらは、北海道に開拓に入った農民の話だが、
北海道を開拓することがどれだけ危険で大変だった、この本からも伝わってくる。
自主的に開拓に入った農民ですら地を這うような苦労をした事を考えると、
強制労働だった囚人たちの境遇は、想像を絶するものだったに違いないと思える。

北海道開拓史やアイヌに関して興味を持つきっかけになるかもしれない一冊。
お勧めです(^^)。

「儚い羊たちの祝宴」米澤 穂信:暗黒連作ミステリー [本:ホラー&ミステリー]


儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/11
  • メディア: 単行本

7点

名家、豪華なお屋敷、女中・・・それらの要素が共通したサスペンスミステリー短編集。
女性の一人称で語られるそれぞれの物語は、静かな中に不気味さを秘め進行していく。
もう一つ共通する要素に読書会「バベルの会」があり、作中で、エドガー・アラン・ポー、
泉鏡花、海野十三、夢野久作・・・etcについてちょっと触れられているのも興味深い。

帯は
「あらゆる予想は最後の最後で覆される-ラスト一行にこだわり抜いた、暗黒連作ミステリー」
となっている。

びっくりするほどのどんでん返しがある訳ではないけど、どの作品も綺麗にまとまっているし、
作品を覆う雰囲気が重苦しさに溢れよいので、ついつい読みふけってしまった。

秀作揃いの一冊。
お勧め(^^)。

「殺伐にいたる病」我孫子武丸:犯人を猟奇的な連続殺人に駆り立てるものは?? [本:ホラー&ミステリー]


殺戮にいたる病 (講談社文庫)

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/11
  • メディア: 文庫

7.5点

女性が次々と猟奇殺人の犠牲になる。
犯人は蒲生稔。
彼は、何故次々と女性を殺め、その死体を陵辱、切断したのか。
彼をその行為に突き動かしたものとは。

犯人の蒲生稔、息子が犯人ではないかと疑う母、知人が犯行の犠牲となった元刑事、
3人の視点から語られる、おぞましい事件の全容と、猟奇殺人を犯した犯人の心理。

エログロ的な描写が多いがドロドロしておらず、乾いた印象なのは、
サイコパスである犯人の視点から語られているからかもしれない。

淡々と話が進み若干盛り上がりには欠けるが、その淡々さが日常に巣くう悪夢のようで効果的だった。
特に平和な家庭の崩壊を恐れる母親の心理は共感出来る部分も一部あり
(私はこの母親のように、息子のゴミ箱をあさったりはしないけど)、
なかなか楽しめた一冊(^^)。















ネタバレ反転(少しでも読むつもりがある人は読まない方が吉!面白さが半減します)。



叙述ミステリーなので、その点で、好き嫌いが分かれる話でもあると思うけど、私は楽しんで読めた。

叙述ミステリーというと貫井徳郎を思い出すけど、彼の作品を2作連続で読んだ時は、
それが分かってしまって2冊目は面白さがかなりダウン。
たまーに読むのがいいね。

「夜市」 恒川 光太郎著:ホラーというより幻想的な御伽噺。雰囲気がすごくいいっ! [本:ホラー&ミステリー]


夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 恒川 光太郎
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/05/24
  • メディア: 文庫


7.5点

トンコ」「サンマイ崩れ」に続く、角川ホラー文庫の当たり♪

短編「夜市」と中編「風の古道」を収録。
日本ホラー小説大賞受賞作品。

何でも売っている怪しい「夜市」で、弟と野球の才能と交換してしまった主人公。
弟を取り戻すため再び「夜市」を訪れるのだが・・・。

ガラクタみたいなものや、棺桶に入った死なない屍・・・妖怪が店主をつとめ、
売っていないものは無いと言われる「夜市」。
ストーリーも面白いけど、その「夜市」の幻想的な描写に浸るのが楽しい。

神の道に踏み込んでしまった主人公が遭遇した出来事を綴った「風の古道」。
こちらも、「風の古道」のある世界の描写がとてもよく、
著者の優れた描写力により、神の道を中心に作れられた不思議な世界に読者を誘ってくれる。

そこは、コミック「蟲師 」のような、死者や異形の物達が住む、
不気味だけど、静かで不思議な世界。

世界観がしっかり構築されているのもポイントが高い。

ストーリーを楽しむだけでなく、そういった不思議な世界を楽しみたい人にお勧め!

「サンマイ崩れ」吉岡暁、ストーリーを楽しむホラー。先が気になる気になる!! [本:ホラー&ミステリー]


サンマイ崩れ (角川ホラー文庫)

サンマイ崩れ (角川ホラー文庫)

  • 作者: 吉岡 暁
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/07/25
  • メディア: 文庫


7.8点

短編「サンマイ崩れ」と中編「ウスサマ明王」の二編を収録。

土砂崩れに襲われた集落。
精神病院を抜け出し、土砂崩れに流された墓地の応急処置の手伝いに加わった主人公が、
そこで体験したことを描く短編「サンマイ崩れ」。

どうって事の無い話なのに、登場人物の台詞やちょっとしたしぐさが緊迫感を盛り上げ、
どんどん話しに引き込まれてしまう。
怪談系で、こじんまりとまとまってしまった感はあるが、面白く読めた。

個人的には「ウスサマ明王」がすごく面白かった。
祠にまつわる呪いと、謎の怪物との戦いを描いた話。

明治時代、生活に困窮した浮浪者達一家が、一時的にお寺のお堂に身を寄せた。
そこは、「お豊の祟り」があるといわれる場所だった。
そこで、浮浪者一家を襲った恐怖とは・・。

時代は流れ現代。
寒村で起こった惨殺事件。
その事件を起こした怪物と、それを追う特殊部隊。
特殊部隊は遂に怪物を追い詰めたかにみえたが・・・。

過去の出来事と、現代の出来事が平行して語られ、それが徐々につながっていく。
怪物との戦闘シーンは、迫力満点。
映画「プレデター」(シュワルツネガーみたいなヒーローはいないけど)などの
アクションSF映画を見ているような感じで楽しめる。

呪い不気味さと、迫力ある戦闘アクション、それが上手く融合して
エンターテイメント物としてすごく楽しめる作品になってる。

両方とも、登場人物や情景の描写が上手く、著者の力量を感じる作品。

お勧めっ!!!

「臓物大博覧会」小林泰三:表紙・タイトルから受けるイメージとは違う内容(-_-;) [本:ホラー&ミステリー]


臓物大展覧会 (角川ホラー文庫)

臓物大展覧会 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/03/25
  • メディア: 文庫


6.5点

「臓物大博覧会」というタイトルから、スプラッタ物、もしくは猟奇物を連想して購入したんだけど、
そのイメージとはかなり違った内容の話が多かった短編集。

プロローグとエピローグは、タイトルと関連して書かれているけど、
他の話は、それとは関係なくテーマも傾向もばらばら。

かろうじて「ホラーっぽいかな??」と思えるものはあるけど、
SFよりのテーマが多く、何より「猟奇色」が強い話が無い(>_<)。

「ホロ」という短編は、死んだ人をコンピューターでホログラフィー化して、
生きているように行動させる技術が進んだ世界の話。

「SRP」は、未知の惑星の探査をする話。

「造られしもの」は、ほとんどのことをロボットがやってくれるようになった未来世界の話。

と、9編の内5編がホラーではなく「日本のSF」っぽい内容。

表紙やタイトルからイメージするものとは、全く違う内容ばかりでがっかり(>_<)。

特に、プロローグで思わせぶりな前振りをしてくれるので余計に。
プロローグは、この本が「臓物の語る話」のオムニバスだと思わせる内容になってる。
実際は、上記したようにSF色が強い話が多く、話のつながりもない。
これが無ければ、変な期待をして、がっかり・・・というのも、もう少し少なかったかも。

そういうのを期待せずに読めば、それなりに楽しめたと思うんだけど。
こういうあざとい売り方はいやだなー(-_-メ)。

「TENGU」柴田 哲孝著:キワモノになりやすい素材を巧く使ってるミステリー [本:ホラー&ミステリー]


TENGU (祥伝社文庫 し 8-4)

TENGU (祥伝社文庫 し 8-4)

  • 作者: 柴田 哲孝
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2008/03/12
  • メディア: 文庫


7.5点

寒村を襲った悲惨な連続殺人事件。
殺された人々は、頭蓋骨を手で握りつぶされたり、食いちぎられたり、
人間業とは思えないむごい状態で殺されていた。
しかし、犯人は捕まらず、事件は未解決のままに。

26年後、事件の捜査ファイルを手にした記者が、再び事件を調査しはじめる。
唯一残された犯人の体毛のDNA解析結果や、当時の米軍の不振な動きが明らかになるにつれ
恐るべき事実が見えてくる。

ミステリー仕立てで、ホラー的な素材を扱いつつ、ミステリー色をしっかり残しているのがすごい。
この手の話は、一歩間違うと、後半キワモノとかホラーよりになり、種明かしの段階でがっかり・・って
なってしまうものも多いんだけど、そうなっていないところに、著者の力量を感じる。

同時多発テロの要素は、ちょっと違和感を感じたけど、
徐々に解き明かされる謎、過去と現在のリンク、閉鎖的な寒村の複雑な人間関係、
それらが上手く組み合わされ、飽きずに最後まで読める。

お勧めです(^_^)。

「トンコ」雀野日名子:豚が主人公のホラー(?)。斬新で面白い!!そして切ない! [本:ホラー&ミステリー]


トンコ (角川ホラー文庫)

トンコ (角川ホラー文庫)

  • 作者: 雀野 日名子
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/10/25
  • メディア: 文庫


7.8点

たまに、角川ホラー文庫は当たりがあるけど、久々に当たった~V(≧∇≦)V。

表題作「トンコ」を含む3篇の短編が入っている。

表題作「トンコ」は、屠殺場に運ばれる途中、トラックが事故にあい、逃げ出した豚が主人公。
豚が単に逃げ回るだけの話なのに、その行間からは、じめじめとした重い雰囲気が滲み出している。
その上、こんな話なのに、切ないのがすごい!!

「ゾンビ団地」は、ゾンビになりたがっている女の子の物語。
ゾンビもある視点から見れば平和主義なんだなーと新たなる側面を教えてくれた話。
ホラーテイスト満載なのに、哀愁やブラックユーモアの要素も入り、ラストは
「これでいいのか?・・・これでいいんだろうなー」と不思議な気分にさせられる(^_^;)。
いやー、面白い!

「黙契」は、妹の自殺の原因を追う兄の話。
これまたホラーティストでありながら、哀愁に満ちた話。

どれも、「怖い~」というわけじゃないけど、家族愛について考えさせる哀愁漂う
不思議な世界を垣間見せてくれる作品。
幻想小説ともまた違うし、ゾンビが出てきたり、霊が出てきたり、ホラーのジャンルに入ると
思うんだけど、ホラーだ!と言い切れるわけでもない。
でも、改めて考えると「やっぱりホラーだよなー」と思っちゃう。
この作品の不思議さ、特異さは、読んでみないとわからない。
ホラー好きな人にも、そうじゃない人にもお勧め!!

「闇の影」竹河聖:ここまで印象に残らないホラーも珍しい(^_^;) [本:ホラー&ミステリー]


闇の影 (角川ホラー文庫)

闇の影 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 竹河 聖
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1995/08
  • メディア: 文庫


5点

ホラーが読みたい気分だったので、図書館でなんとなく手に取った本を読んでみた。
失敗だった(-_-;)。

遺産相続の為、とある孤島の屋敷に呼び出された親類縁者達。
しかし、彼らは次々に狂気に陥っていく。
相続される遺産とは?
相続する権利があると指名された主人公を次々と奇怪な現象が襲う。

ストーリーも舞台設定も、エピソードも、どれもよくある物なんだけど、
とにかく、これだけ材料をそろえたのに全く怖くないというのは何でだろう。
どきどきするような緊迫感も全く感じられなかった。

普通は、気に入らないホラーでも、この辺はよかったなーというのが
あったりするんだけど、それも無い。

この話の場合、物語が破綻するようなこともなく、普通に普通に普通に
まとまっているので、ここがだめっ!!って部分も少ないんだけど、
いい部分も無いというか・・・。

ホラーというのは、行間からにじみ出る不気味さが重要だと思うんだけど、
それが全く感じられないのが、一番の原因か??

細かい難点を探すといろいろあるんだけど。

例えば、登場人物の会話が核心に近づくと(読者が知りたい部分に触れると)
必ず執事なりが現れて話が中断する。

主人公(女性)のファッションについて、着替えるたびに、
事細かに説明している。
だれも、そこまで気にしないのに・・ってぐらい細かい。
緊迫感のある描写の中、突然主人公の服装をだらだらと説明されると、
緊迫感も吹っ飛んでしまう。
そういうことが何度か。

料理や、建物に関しても、説明が細かすぎる上、
それが雰囲気を盛り上げるのに役に立っておらず、
豪華な雰囲気を出そう出そうとがんばっている著者のがんばりだけが見えてしまう。

こうやって書いてみて思ったけど、だらだらした状況説明が
雰囲気をぶち壊しているのかもと思った。

ストーリーが特に面白いわけではなく、文章もいまいち・・・
しかし、こじんまりとではあるが、話はまとまっているので、
可も無く不可も無い話になってしまってるのかも。

特に読む必要は無い本。
絶版みたいだし。

ソネットブログのエディターが恐ろしく使いにくい。
今打っている行が、漢字変換すると勝手にスクロールして隠れてしまうので、
文章を見ないで漢字変換しなきゃいけない。

急にそうなった。
何が原因?
設定が悪いのか?


「紗央里ちゃんの家」矢部 嵩著:不条理な雰囲気を楽しむホラーなのか?? [本:ホラー&ミステリー]


紗央里ちゃんの家 (角川ホラー文庫)

紗央里ちゃんの家 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 矢部 嵩
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/09/25
  • メディア: 文庫


6.5点

毎年遊びに行っている従兄弟の紗央里ちゃんの家。
紗央里ちゃんの家に同居しているおばあちゃんが突然亡くなった年。
その年も、紗央里ちゃんの家に行ったけど、様子が違ってた。
紗央里ちゃんは行方不明になり、家の中は異臭が漂う。
叔父夫婦の態度もいつもとは違う。
洗濯機の下から、指らしいものを見つけた小学校5年の主人公は、
家の中を調べ始めるのだが・・・。

途中意味不明な会話があったり、毎日ヤキソバだったり、
要所要所に不可解というか不条理とも思える描写が挟まれている。
遺体の一部と思われるものが家の中で次々に見つかる様子や、
重苦しい家の雰囲気など、なかなか読ませるのだが、
「この家で何があったのか??」という謎解きを読者に期待させる話なのに、
最後はあれれーーーー???という感じで終わってしまう。

漫画だったらこういう終わり方もありな気がするんだけど、
小説でこれをやられてしまうと、消化不良にしかならない。

読み終わって、呆然・・・という感じ。
ストーリーは重視せず、陰惨な雰囲気を楽しみたいという人なら楽しめるかもしれないけど。

「首挽村の殺人」大村友貴美:横溝正史ミステリ大賞受賞作、好きな要素はあるけれど・・・ [本:ホラー&ミステリー]

首挽村の殺人

首挽村の殺人

  • 作者: 大村 友貴美
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/07
  • メディア: 単行本
6点

2007年、横溝正史ミステリ大賞受賞作。

岩手県の寒村、冬の間は雪に閉ざされてしまう鷲尻村。
無医村だった村に自ら志願して来た医者、杉が謎の死を遂げ、後任として滝本が期間限定で赴任する。
しかし、村では、過去に村で起きたおぞましい出来事をなぞったような連続猟奇殺人事件が起こり、
その上、赤熊までが出没するようになる。
過去に「首挽村」という不吉な名前で呼ばれていたこの村の人々は、恐怖と不信感に包まれる。
誰が何のために、殺人を繰り返すのか?

飢饉の時、人を間引くために各家を訪れたという「おつかいさま」の儀式。
人々が、子を川に投げ入れ、首を吊ったという橋。
村人に虐殺されたという娘。
それら、村に伝わるおぞましい言い伝えをなぞったように行われる猟奇殺人。

確かに、帯に「横溝正史の再来」と書いてあるように、横溝的ではある。

しかし、伝承と殺人の動機のリンクが上手く行っていない。
雰囲気を盛り上げるためだけの、伝承になってしまっている。

また、この手の猟奇物というのは、文章から立ち上ってくる不気味さ、陰惨さが必要なのだけど、
この作品の文章からは、それが感じられないのが一番痛い。

文体にも問題があると思うのだけど、次々に事件が起こるので、展開が早く、
それが雰囲気を作れない原因にもなっている。

高齢化、福祉、就職難、・・・過疎の村が抱える問題を取上げていて、意欲は感じるが、
その悲壮感もあまり伝わってこない。

殺人事件と平行して起きる、熊による惨劇も、雰囲気を盛り上げるというより、
話を分断してしまっている気が。

ミステリーにするより、熊害をメインにした話にしたほうが話が面白くなったんじゃないかなと
思ってしまった。

全体的に、いろいろな要素を詰め込んでいるが、
それらが上手くまとまっていないという印象の作品だった。

「ラットマン」道尾秀之:地味だけどグッと来る話 [本:ホラー&ミステリー]

ラットマン

ラットマン

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/01/22
  • メディア: 単行本

8点

タイトルと表紙から、「ラットマン」という泥棒とか殺人犯とかそんなのが出てくる話なんじゃないかと思って読んでみたら、全く違ってた(^^;)。

ミステリーだけど、胸躍るようなスリリングでワクワクする展開があるわけでもなく、話は淡々と進む。

売れないバンドをやっている主人公には、人に言いたくない家族の秘密があった。

しかし、恋人の死によりそれと向き合うことに・・・。

一人一人の人生には、それがどんなに平凡に見えたとしてもドラマがある・・そんな事を感じさせてくれる本。
登場人物は少ないけど、一人一人の人となりがしっかり描かれている。
作中、曖昧にされていて気になることが判明すると同時に、また次の曖昧なことが提示される・・・という展開なので、どんどん先を読みたくなる本でもある。

また心理学と絡めた、タイトルのつけ方も秀逸。

地味な話なのに、深く胸に来て、読後の余韻も強い。
お勧め!!

「黒い森」前かも後からも読める本。樹海が怖い! [本:ホラー&ミステリー]

黒い森

黒い森

  • 作者: 折原 一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 単行本

7.5点

ちょっと作りが変わった本。
前から読むと「生存者編」。後ろから読むと「殺人者編」。そして、真ん中の袋とじが「解決編」。
 
「生存者編」と「殺人者編」はどちらから読んでもいいらしいが、本書でお勧めされてる通り「生存者編」から読んだほうが楽しめると思う。
 
親の反対で引き離されてしまった恋人達。一方からツアーに参加するようにとのメールを貰った主人公は、謎のツアーに参加する。
行き先は、樹海の奥、その家の主が家族を惨殺するというおぞましい事件が起きた館。
恋人達は、再び巡り合う事ができるのか?
 
ホラーティストの強い、サスペンスミステリー。
 
何が怖いって、樹海が怖いです。
うっそうとして、入った人を飲み込む樹海の怖さが滲み出ている。
館に着いてからよりも、樹海の中の方が怖いし、面白い。
 
久々に、ドキドキしながら読んじゃいました。
ただ、館の中は展開が早すぎて、樹海の中に比べ、雰囲気が楽しめない。
それが残念!

「獣の夢」中井拓志:テーマは面白いんだけど [本:ホラー&ミステリー]

獣の夢 (角川ホラー文庫)

獣の夢 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 中井 拓志
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 文庫

6.5点

  

 

小学校の屋上で、あるクラスの生徒達が遊んでいる最中、1人が事故死、その遺体を他の生徒達がバラバラに切断するという猟奇的な犯罪が起きた。

そして、9年後、その事件の中心人物とも言える少女が、「獣が戻って来る」と不気味な台詞を言う。

その言葉通り、その小学校の屋上で、バラバラ殺人事件が起きる。

その事件を捜査する刑事と、その捜査を自分の思うように操ろうとする中央から来た犯罪心理捜査官。

「獣」とは?事件と少女との関係は?サスペンスホラー。

ある事件が起きるとそれと似たような事件が起きる。そこにはマスコミが大きく関わっている。

マスコミによる情報拡大と、それによる模倣事件。そこに、言葉が人の意識の水面下に与える影響を絡めた作品。

 

テーマは面白いんだけど、キャラクターに魅力がなく、特に、マスコミによる模倣事件の拡大を恐れる心理捜査官が変に冷静なリアリティの無いキャラクターで緊迫感が半減している。

他のキャラクターも、個性・魅力に乏しくて、「誰の台詞?」と読み直してしまうこともしばしば。

勿体無いなーと思ってしまった作品。

なんか相変わらず行間の調整がうまくいかない(-_-;)。

さぼってたのは、行間のせいじゃないけど。書いてない覚書がたくさんあるよーー。

 


「カンタン刑」式貴士:嬉しすぎる!!!v(≧∇≦)v [本:ホラー&ミステリー]

カンタン刑   式貴士 怪奇小説コレクション (光文社文庫)

カンタン刑 式貴士 怪奇小説コレクション (光文社文庫)

  • 作者: 式 貴士
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/02/07
  • メディア: 文庫
目にした瞬間、購入してしまいましたv(≧∇≦)v。
 
エロ・グロ・ナンセンス・ブラック・スプラッタ・・そんな要素を持ったホラー作家式貴士。
 
没後、いろいろ出ていた文庫本が絶版になり、忘れ去られてしまったのかしら・・・と思っていたんだけど、ついについに文庫本で短編集が!
 
帯のキャッチを平山夢明が書いているのも何となく納得。平山夢明が影響を受けていても不思議じゃない。傾向が似てるもの。
平山夢明の傾向が好きならお勧め。筒井康隆のエロ・グロ・ナンセンス・・・そんなのが好きな人にもお勧め。
 
先日、友人がゴキブリが大量に発生する夢を見たと言った時、20年ぐらい前の映画「クリープショー」CREEP SHOW の話をした。
その時、同時に「カンタン刑」も思い出したんだけど、その矢先にこの文庫と遭遇。
運命(どんな?)を感じちゃいました(^^;)。
 
そういえば、式貴士にはまって読みまくっていたのも20年くらい前の事。
青春18切符で片道12時間もかけて北海道にむかった(途中青森で友人宅に一泊)各駅停車の列車の中でずっと読んでました。
 
間洋太郎の名前で原作を担当した、上村一夫氏の劇画も載っています。
 
ほとんど一度読んだ作品で、まだこの文庫本を読んではいないけど、嬉しくてついつい書いてしまいました。
式貴士の文庫本、埋もれているのか、処分しちゃったのか、自分の本の中から発掘できないので、ほんと嬉しい♪

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