「ザ・ロード」コーマック・マッカーシー著:終焉を迎えた世界の中、父と子は南を目指す・・・ [本:SF]
7.5点
2010年6月26日(土)から公開される映画「ザ・ロード」の原作。
文庫版「ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)」も出てます。
ブログ「Rudies的なつまみ喰い乱れ読み」さんで教えて頂きました。
植物は枯れ果て、生き物は死に絶え、どこまでも焼き尽くされ灰に覆われた世界が広がるなか、
冬の到来と寒さを避ける為、ひたすら南を目指す父と子。
毛布や少ない食料を入れたカートを押しつつ、
南へ南へと向かう親子に希望はあるのか・・。
設定自体は割と使い古された話で、目新しさは感じなかったけど、
この話の場合、「父と子」の視点のみで淡々と語られているのが特色。
そのせいか、近未来SF的な設定なのに、SF色はあまり感じず、文学の色が強い。
なのでジャンルをSFにするか悩んでしまいました。
SFの場合、変わった環境に人の気持ちがどう変化していくのか・・ってのも重要だと思うのだけど、
この作品の場合、環境はかわっても、父親が世界が終わる前の価値観を持ち続けている、
模索し続けているのが、SFらしさを感じない理由かも。
道中、人目を避けるように慎重に慎重に行動する親子。
何故なら、文明が無くなったこの世界では、暴力が世界を支配し、
多くのものは略奪と殺戮で生き延びていたから。
生きるために略奪するもの、暴力で人を支配するもの、
人としての尊厳すら失ってしまった者・・・
旅の途中で出会う生き残り人々の多くが、そうなってしまっている状態の中、
息子に「善き人、悪しき人がいる」と説く父親。
しかし、その父親ですら、二人が生き残る為に、
人を見殺しにしなければならない状況に何度も遭遇する。
飢え、寒さ、恐怖、そして絶望に覆われる生活の中、
そして生き抜く為に過酷な選択をしなければいけない状況が続く中、
交わされる父と子の会話は重く、厳しい。
しかし、互いを思いやる行動はどこまでも優しい。
淡々としたストーリー展開の中、人として生きる事とはどういう事なのか、
考えさせられる本になっている。
すごくいい話だと思う。
読んだ人の多くは感動すると思う。
でも、道尾秀介の「龍神の雨」の感想でも書いたけど、
いい話と好きな話は別なんだよね(^_^;)。
若い頃読んでたら、影響も大きかったろうし、好きになってたかもしれないけど、
既に擦れちゃった私。
読むのが遅かったというか・・。
私の個人の好みは別として、お勧めの本ではあります(^^)。
ちょっとネタバレ注意。
この作品のラストは、これでいいんだと思うし、作者が言いたかった事も
そこにあるのだろうけど、予定調和過ぎて私としてはもう一捻り欲しかった。
「象られた力」飛浩隆著:”かたち”と”ちから”の関係が崩れるとき厄災が星を襲う [本:SF]
7.8点
地球人がテラ・フォーミング計画よって宇宙に散らばって住んでいる時代。
惑星「百合洋」が、突然消失した。
その1年後、近隣の惑星も同じような運命を辿る。
消失した「百合洋」では、人々に影響を与えるシンボルの文化が発展していた。
「かたち」と「ちから」の関係が崩れた時、いったい何が起きるのか?
以上が、表題作「象られた力」の粗筋。
4編収められている作品の内、「象られた力」と「夜と泥」は、同じ設定の世界が舞台になっている。
他に、天才ピアニストの恐るべき力を描いた「デュオ」、
魔法の”よう”な力が使える場「呪界」から誤って飛び出し、
砂漠の惑星に墜落した男の話を描く「呪界のほとり」の
計4作の中短編が収められている。
まず感嘆するのは、著者の描写力のすごさ。
天才ピアニストの奏でる心を揺さぶる音楽がどのような物なのか、しっかり伝わってくる。
建物の構造と光が織りなす幻想的な光景、螺旋状に登る図書館、異形の生き物が蠢く沼・・・
作中に出てくる見たこともない様々なものが、目の前に浮かんでくるよう。
根本的な設定は、それほど斬新でもないけど、
設定を肉付けする優れた描写力と構成力で描き出される世界は、生き生きと存在感を主張し、
読者をその中に引き込んでしまう。
表題作「象られた力」と「デュオ」が特に面白かった。
お勧め(^^)!!
「グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)」の評価も高いようなので、こちらも読んでみたい。
「Self-Reference ENGINE」円城 塔著:とにかく凄いとしか言えない、センス・オブ・ワンダーに溢れた傑作!! [本:SF]
Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 円城 塔
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
9.5点
「自転車に乗って」のちょびさんにお勧めして頂いたSF。
この本を教えて頂いて大感謝です!!
出会えて嬉しかったし、読んでて楽しかったO(≧▽≦)O!!
もうもう絶賛!!!大絶賛!!
「虐殺器官」を読んだ時も思ったけど、
まだまだ日本のSFも捨てたもんじゃないよ~!!!
って叫びたくなった一冊。
20個もの短い話で構成され、それがバラバラでありながらも、
一つの世界観を形成し、長編ストーリーともなっている作品。
時間軸が消失し、多次元宇宙となった世界で、人が作り出した神のような存在巨大知的生命体が、
自分たちの宇宙の生存をかけ演算を繰り返す。
撃墜された瞬間、過去を書き換え、再び戦闘を繰り返す戦闘機の終りの見えない戦いが繰り返され、
ねじれた時間軸を、多次元化した宇宙を元に戻そうと、互いに攻撃しあう宇宙。
そんな世界では、多数の数学者が突然同時に同じ定理を見つけ出し、
床下から「フロイト自身」が22体も発見され、旧日本諸島では髷を結った力士による襲撃の噂が語られ、
机やドア、様々な物体が勝手に出現する村では、それに飲み込まれないよう毎日破壊活動が続けられ、
ある男の元には、フリルのついた靴下の捜査官がやってくる。
アルファ・ケンタウリ星人がテレビを通して人類に語りかけ、
自然現象が躁鬱を示す・・・・。
作中で展開される豊かなセンス・オブ・ワンダーの世界、紡がれる言葉の心地よさ、
語られる論理や比喩の面白さ・・・「言葉で表現する」という小説としての魅力にも、
SFとしての魅力にも溢れています。
虚無を見つめるような暗い話や、自己の存在について語るような難解な話があると思えば、
思わず「ニヤ」っとか、「クス」っとかしてしまう話も。
それらが、1つの世界を成していることすらすごいし、全体から漂う、優しさと切なさがまたいい。
SFティストな話が好きなら、タイトルのとっつきにくさとかに捕われず是非読んで欲しい一冊!!
難解な部分もあるけど、そのわからなさすら心地よい、そんな本です(^^)。
最近のお気に入りSF作品「虐殺器官」「ハーモニー」「Self-Reference ENGINE」の三冊、
どれも図書館で借りたけど、この本だけは自分でも買いました。
「虐殺器官」と「ハーモニー」は重い話なので、また読みたいと思う事があるとしても、
それは何年も後のことだろうけど、この本は、童話が詰まった絵本を読むように、
ぱらっと本を開いて、その時開かれたページを読む、そんな読み方がしたい本。
そして、お笑いの演算を探そうとしている巨大知的生命体や、
自分を機械に移してしまった科学者・・・この世界に生きるモノたちに何度でも会いたい(^^)。
「トギオ」太朗想史郎著:世界がちゃんと構築されてない・・・ [本:SF]
5点
第8回(2009年)「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
口減らしされた「白」を拾った事から、主人公の家族は村八分にあい、
主人公も学校で壮絶ないじめにあう。
先が見えない貧しい村を逃げ出した主人公は、港町で生活をはじめる。
そして、周囲から隔絶された大都市「東暁」(トウギョウ)にどうにか入り込んだ主人公は、
妄想にふけり、悪事に手を染めて行くのだが・・・。
SFっぽい素材は使っているのに、何故かSFっぽさを感じない。
全体的には、勢いはあるけど、雑だなーという感じ。
近未来SFっぽい設定なのだけど、設定をつめておらず、世界観が曖昧。
その世界で生活している人が見えてこないのだ。
SFっぽい材料をいろいろ用意してあるけど、上手く生かせておらず、
お飾りになっているものも。
この世界で暮らす人の価値観、道徳観が、私たちとは「違う事」はわかるのだが、
それがきちんと説明されておらず、断片的にそれが示されるだけ。
「口減らしされた子」を拾ったせいで何故主人公の一家がここまで酷い目にあうのか、
殺人はダメなのに、酷いいじめ、暴力は許されるのか、善行をすることが何故悪なのか、
主人公の価値観と、この世界の考え方は一致しているのか・・・・いろいろ曖昧な事があり、
著者の頭の中では納得してるのかもしれないけど、読んでいる側には伝わって来ない。
また、こちらも詰めが甘くてブレがあり、登場人物達の行動や考え方が一貫した流れの中に無い為、
理解し難いも部分も多かった。
この辺を上手く書ければ面白いものになったと思うのだけど、描ききれておらず残念。
「このミス」は、新人に与えられるものだけど、
頭の中に描いた世界を、小説の中に上手く構築できていない、読者に伝えきれていないという、
新人らしい未熟さがすごく目立ってしまった作品な気がする。
ストーリーが起伏に飛んだ魅力的なものではない分、ディテールの粗さが致命的。
イマイチだったけど、面白い表現、おっ?っと思う描写もあったので、
もう少し経験を積めば、面白い作品を書く作家になるかもしれない。
「魚船・獣船」上田早夕里著:少しホラーティストが入ったSF [本:SF]
7.5点
「自転車に乗って」のちょびさんにお薦め頂いた本。
短編4作、SS1作、中編1作入ってます。
ホラーティストのSFが多め。
表題作の「魚船・獣船」は、陸がほとんど水没した未来世界が舞台。
バイオ科学により生み出された魚船に住む人々。
そして、魚船になれなかったモノがなる異形の獣船。
バイオ科学により生み出された異形のモノのおぞましさと、
それを想う少女の切ない気持ちを描くと共に、
自然の力の前には、人類の技術進歩など取るに足らないものである事を見せつけてくれる。
かなり短い話なのに、長編の一部を読んでいる気分にさせてくれるほど、
見事に描かれている世界観も素晴らしい。
寄生茸による奇病が蔓延する社会を描いたバイオハザード物「くさびらの道」、
かつては医療研究都市であり、今は妖怪が闊歩するかつては街に入り込んだ男の話「真朱の街」、
観光客によって荒れ、特殊なドームで覆われることになった海底に思いを馳せる男の話「ブルーグラス」、
の3編が残りの短編。
危機管理意識、環境汚染、モラルハザード・・など現代社会の持つ問題点を風刺している部分を持っている。
アイディアも面白いが、どれも主人公一人の話としてこじんまりまとまってしまっているのが物足りない。
どの話にも強く漂っているセンチメンタリズム、その雰囲気に飲み込まれて終わってしまったという感じも。
そういう部分を気に入るか、気に入らないかで、好みが分かれる気がする。
家族とか、恋人、子どもなどを「想う気持ち」と書いてあるだけで、
自分のそういう気持ちとシンクロさせられる人は切なさに浸れるかもしれない。
でも、主人公が何故、家族・恋人などを強く想うのか、そう思えるエピソードが入っていないと
「何で?」って思えてしまう人は、共感できず置いてきぼり感が残るかも。
私はそうだった(;^_^A。
中編の「小鳥の墓」は、連続殺人鬼となった主人公が、
自分が何故人を殺すようになったかを回想する話。
周囲から隔離され、健全な子どもを育成する為管理された区画に両親と共に入居できた主人公。
しかし、同級生の誘いにより「外」の世界に遊びに出るように。
先日読んだ「ハーモーニー」にも似た世界だけど、
こちらは、精神までは管理・変革はされておらず、
人々は表面を取り繕って生きている社会という感じ。
主人公について語られるほど、彼のキャラクターが、どんどん詳しく肉付けされていくのに
著者の筆力を感じる。
この作品は、近未来社会の殺伐とした雰囲気、そして主人公の冷めた目線に覆われているが、
他の作品と同様センチメンタルな雰囲気も漂っている。
主人公のキャラクターや、彼が遭遇したエピソードがしっかりしているので、
殺伐とした雰囲気と、切ない雰囲気が上手く絡まり合っていて、面白く読めた。
全体的に完成度は高く、楽しめる一冊。
「新世界より」(上下)貴志祐介著:近未来SFとしても冒険物としても楽しめる! [本:SF]
8点
のどかな村。穏やかに過ぎる日々。
しかし、その村には、犯してはいけないいくつかの禁忌や恐ろしい言い伝えがあった。
子ども達は、大人になる為、呪力の勉強をし、雑用をこなすのは異形の生き物達。
中世の日本の農村の雰囲気を漂わせてはいるが、それは1000年後の日本の姿だった。
主人公は、同じ班の級友同士で、村の外でキャンプして過ごす学校行事の時、
失われた過去の情報を知る。
子ども達に隠されていた、人類が辿った恐るべき歴史とは。
呪術や異形の者達が出てくるホラーファンタジー、少年少女が成長する姿を描く冒険小説、
壮大な歴史アドベンチャー、人類の末路を想像させる近未来SF、とにかくいろいろな要素が
ぎっしり詰まっているのに、それがちゃんと一つの世界観を構築し、
1つの話としてまとまっているのがすごい。
ストーリーもドキドキ、ハラハラの連続で、最後までぐいぐいと読ませる内容。
序盤のおどろおどろしい雰囲気に、突然近未来SF風の設定が入り込んでくる辺りなどは、
思わずグっと来てしまった。
その後も、ホラーティスト、ファンタジーテイストを持ちながらも、ちゃんとSFの設定が生かされている。
そして、小さな村が舞台だった話が、どんどん世界を広げ壮大になって行くのもいい。
主人公が禁忌の正体やおぞましい過去の歴史を知ったり、悲しい級友との別れ、
村を襲う厄災など様々な体験によって大人になっていく様も感動的。
また人類のあり方、人の恐ろしさまでも考えさせられる内容になっている。
貴志祐介の力量が存分に発揮された作品!
エンターテイメント性も高く、多くの人にお薦めですO(≧▽≦)O!!
「ハーモニー」伊藤 計劃著:皆が幸せな世界、その行き着く先は??面白いが故に・・・悲しい(>_<)。 [本:SF]
8点
2009年度ベストSF1位。星雲賞日本長編部門受賞作品。
「虐殺器官」を読んで、その才能に感嘆させられた作家、伊藤 計劃の長編2作目。
期待を裏切らず、面白いでき。
そして面白い分、悲しみも。
少し前まで知らなかったけど、昨年34才という若さで亡くなられていたのですね(T_T)。
もっともっと、この人の作品を読みたかった・・・というのが読了後一番感じた気持ちです。
現在からそれほど遠くない近未来社会。
そこは、人が互いに慈しみ合い、病気の心配もない幸福な世界と変貌していた。
「いじめ」「デブ」「ヤセ」・・・などの言葉も既に忘れ去られたものに。
しかし、ユートピアのように思えるその世界は、体内にインストールされたソフトによって、
健康、精神状態が、健康を第一に考える「生府」に厳密に管理されている超高度福祉社会でもあった。
それに息苦しさを覚える主人公。
豊富な知識を持ちカリスマ的な同級生ミァハとの出会いが、彼女を大きく変えていく。
「皆が幸せな世界」に住む人々は本当に幸せなのか?
またその世界の行き着く先に待ち受けるものは??
他人に優しくするのが当たり前で、みなが型で押したように標準の体系をしている社会の空虚さ。
食事は管理され、タバコ、アルコールなどは完全に害悪になり、
カフェインは完全に禁止されてはいないが、摂取している人間は、白い目で見られる、
そんな社会の持つヒステリックさ。
映画も書物も、暴力シーンなど精神に悪影響があると思えるものは排除され
過去の作品のほとんどは見る事ができない世界の閉塞感。
今現在の社会を突き詰めて行くと、本当にそうなりそうだなーと思える部分があるのが怖い。
また、その社会に生きる人々の考え方の変化、今との違いが的確に表現されているのも凄い。
作中の社会にプライバシーはほとんど無い。
誰かを見れば、体内にインストールされたソフトが、
その人の名前や仕事、社会的レベルなどを即座に表示してくれる。
電車で隣に座った人、道ですれ違った人、彼らが誰なのか、すぐわかる。
昔は、近くにいるのが誰なのかわからなかったと知り、
「知らない人が側にいるなんて気味が悪い」と感じる人々。
他にも、そういう意識変化に関するエピソードがいくつもあり、興味深かったし、
今「当たり前」とか「良い」と思っている事をもう一度考えさせられる内容にもなっていた。
ラストまでぐいぐいと引き込まれるストーリー展開、
そして要所要所に挟まれるエピソードの面白さ。
人の優しさ、強さ、悲しさなどを感じるエピソードの入れ方も上手い。
この作者はちょっとしたエピソードの使い方や会話がすごく上手いなーと「虐殺器官」でも感じたけど、
その面白さが、この作品にもある。
読み終わって、この本の作者の作品をもう読めないと思うと、ほんと悲しかった。
読み終えてしまうのが勿体無いと思ったくらい。
また、この作品は、病床で書かれたらしく、一見「天国の様な世界」を、
著者がどのような思いで書いたのか・・というのも気になった。
「虐殺器官」「ハーモニー」どちらも傑作なので、近未来SFに興味があるならぜひぜひ読んで下さい!!
「虐殺器官」伊藤 計劃:日本のSFも捨てたもんじゃないっ! [本:SF]
8.5点
文庫版「虐殺器官 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-1)」が出たのを記念して、
下書きのまま放置してあったのをサルベージ!
これ、面白かったんですよ、すっごく。
でも褒めるのって、ダメだった事を書くより難しくて、
途中で放置してしまいました(そういう本かなりある(^^;))。
「SFが読みたい!2008年版国内編」で1位になった作品。
帯に「イーガンの近未来で「地獄の黙示録」と「モンティ・パイソン」が出会う」
という紹介文が書いてあるんだけど、読んで見て、確かにそうかも・・・と思ってしまいました。
イーガンと地獄の黙示録が好きな私としては、かなり好みな内容。
極端に管理された先進国。
そして、民族虐殺が立て続けに起きる発展途上国。
民族虐殺の影に、謎のアメリカ人ジョン・ポールの姿が見え隠れする。
アメリカ軍所属の主人公は、ジョン・ポールを追う。
「虐殺器官」とはいったい何なのか・・?
イーガンほどの、アイディアの濃厚さ、社会の歪さはないけど、
バイオテクノロジーの発達した近未来世界を上手く描いていて、それだけでも楽しめる。
特に、バイオテクノロジーによる兵器は面白かった。
そして戦場の描写は、主人公が自分のモラルや深層心理と対自する様や狂気を上手く絡めて、
「地獄の黙示録」の様な、何とも言えない雰囲気を作り出している。
立て続けに虐殺が起きる理由、ジョン・ポールの謎など、
ストーリーも飽きさせないものになっているし、ちゃんと世界観が構築されているのが素晴らしい!
これを読んで「日本のSFもまだまだ捨てたもんじゃないっ!」って思いました。
超お勧めV(≧∇≦)V!
文庫が出たから手に取りやすくなったしね(^^)。
「渚にて」理想の破滅未来?名作です [本:SF]
「巨船ベラス・レトラス」筒井康隆 [本:SF]
- 作者: 筒井 康隆
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/03
- メディア: 単行本
7点
久々に読んだ筒井康隆の新刊。
メタフィクションの中で、現在の文学・出版業界批判を繰り広げている。
作家、編集者、そして作中の作家達が小説の中で創造した登場人物達が入り乱れて話は進んでいく。こういう話をちゃんとまとめられるというのは、筒井康隆ならではだろう。
同じ様な文壇系の本として「大いなる助走」があるが、こちらはギラギラしていて苦手だった。なので、この本も苦手かなぁと不安に思っていたけど、そういうのを余り感じず読みやすかった。
作中で述べられているこれからの文学に対する不安・批判には共感できる部分も多い。
筒井康隆が作中で、無断で出版されたと怒っていた本の中に、私の持っていた本が入っていてびっくり。「怖い食卓 」という本だけど、著作権法違反の本だったのか~普通に書店で買った気がするぞ(^^;)。
「神は沈黙せず」「まだ見ぬ冬の悲しみも」「審判の日」山本弘 [本:SF]
「傀儡后」 牧野修 [本:SF]
「日本沈没」小松左京 [本:SF]
「地球最後の日」 フィリップ・ワイリー&エドウィン・バーマー [本:SF]
- 作者: フィリップ ワイリー, エドウィン バーマー
- 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 1998/03 メディア: 文庫 7.5点
子供の頃にジュブナイルで読んだ「地球最後の日」の完訳版が出ていると知って、読んで見ました。
元々1951年に映画化されたこの作品、最近では映画「ディープ・インパクト」の原作(原作にはクラークの「神の鉄槌」もあげられているので、厳密には原作とは言えないかもしれないが)としても話題になり、それがきっかけで1998年に創元から出されたらしい。映画化されるというのはそういう意味ではいい事だ。ちゃんと確認していないけど、これからまた映画化の予定があるという噂もある。この本、品切れで探しても見つからず、諦めて図書館で借りたのだが、映画化されるのならまた再販されるかも。
この作品が書かれたのは1933年。第二次世界大戦前である。という事で、科学考証などの部分ではかなり辛い部分があるのは確か。作品中では、原子力を利用したロケットエンジンの高熱に耐える金属が見つからず、宇宙に旅立てるかはっきりしない状況が続くなど、まだ宇宙に飛び立ったものがいないという設定である。書かれた時代が70年前、初めての有人宇宙飛行の30年近く前という事なので、それもしかたが無いと思う。
しかし、太陽系外から来た2つの惑星、地球の6倍もあるブロンソンアルファと、地球とほぼ同じ大きさのブロンソンベータ、この内巨大なブロンソンアルファが地球に衝突する事が判明、そのパニックの中、アメリカの科学者達は秘密裏に宇宙に脱出する為の宇宙船を作る事にするという、地球の消滅と人類滅亡の危機という壮大なテーマは、今も魅力あるものとして、いろいろな作品に取り上げられている。
作中で興味を引いたのが、他の国の扱いで、宇宙脱出はアメリカ以外の国でも計画しており、最も成功しそうなのはイギリス、他にドイツ、フランス、イタリア、日本がもしかしたら出来るかもしれない、その他にかろうじて出来そうなのがソ連、中国、南アとなっていて(微妙に違うかも(^^;))、第二次世界大戦前の国の力関係が微妙にうかがわれる。「人間がいっぱい」 ハリィ・ハリスン [本:SF]
- 作者: ハリイ ハリスン
- 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1986/02 メディア: 文庫 7点
チャールトン・ヘストン主演のSF映画「ソイレントグリーン」を見て、読みたいなと思っていた原作小説。
映画「ソイレントグリーン」の方は、ストーリーがちょっと陳腐だったけど、人口増加によって人が路上にまで溢れ、食料難に陥る未来社会の雰囲気が出ていて良かった。また記憶に残る名シーンもいくつかあり(ほとんど老人ソル-エドワード・G・ロビンソン-のシーン)、SF映画の秀作と言える。
原作「人間がいっぱい」の方も、住宅難から家も無く路上に溢れる人々と、資源浪費や環境破壊が進み、食料難から合成食が普通の食事になっている1999年、世紀末のアメリカ・ニューヨークの様子を描いている。プランクトンから作られる合成食すら配給制。電気も水(給水所に汲みに行く)の供給も不安定。カミソリなどの日常生活物資もまともに無い世界。現金さえあれば、牛肉なども購入でき、エアコンの効いた部屋に住む事が出来るが、それは一部の特権階級の人間にだけ可能な事である。読んでいてつい北朝鮮を思い出してしまった(^^;)。
書かれたのは1966年。現在、先進国では少子化による人口減が心配されているが、当時はそんな事になるとは想像すらされていなかった気がする。ただ、先進国は人口減だけど、先進国以外は人口が増え続けている国はいっぱいあるし、過剰生産、過剰消費による資源の枯渇や、環境破壊による食料不足の心配というのは、いまなおある。この作品を過去の作品と軽く見る事は出来ないと思う。逆にもっと未来同じ様な状況になる可能性はあるのだ。「狂風世界」 J・G・バラード [本:SF]
「祈りの海」 グレッグ・イーガン [本:SF]
「ロシュワールド」 ロバート・L・フォワード [本:SF]
「ロシュワールド」 著:ロバート・L・フォワード (早川SF文庫) 7点
地球から6光年の所にあるバーナード星。そこにはロシュの限界を越え、80キロの距離で隣接する二重惑星、ロシュワールドがあった。帰還不可な片道切符の旅へと出発する、恒星間宇宙船プロメテウス号。40年もの年月をかけて辿り付いた惑星で、乗組員達は異星人と出会う。
二度と地球には戻れない旅、それなのに抜擢された乗組員達が、「星へ行く」という言葉を合言葉のようにして、躊躇無く逆に喜んでその任務に着く事に、最初違和感を感じたのだが、それを読んでいる最中、土星探査船カッシーニに搭載された小型探査機ホイヘンスのタイタン着陸のニュースを聞き、躊躇無く任務についた乗組員達の気持ちがわかるような気持ちになってしまった。ホイヘンスが送って来たタイタンの地表の画像とかドキドキして見てしまった。未知への世界へ探求の旅に、旅立つ事。それは不安よりも希望や期待が大きい気がする。
そういえば、この作品の中で、タイタンに触れた記述があり「液体窒素の雨が降る」となっていたが、今書かれるとしたら「メタンの雨が降る」となるのだろう。
作者であるロバート・L・フォワードは、物理学者でもあり、この作品はその豊富な知識に裏付けられた物になっている。
前半の、恒星間宇宙船をバーナード星へと送り届けるレーザービームの原理や、宇宙船の形状、減速の仕組みなどは、科学考証に基づいた物でかなり読み応えがあるが、この部分が苦手だとかなり辛い(^^;)(実は辛かった(爆)。
後半、バーナード星到着後は、片方が岩に覆われ、もう一方がアンモニアと水に覆われたロシュワールドの不思議な様相や、異星人との奇妙なファーストコンタクトの様子などがメインになり、前半とは打って変わって軽いテンポな話になっている。
この異星人、形状は惑星ソラリスに出てくる異星人を思い出すのに、中身は正反対。サーフィンをしたり、ペットを飼ったり、とても愛着がもて、気に入ってしまった。特に最初にコンタクトを取るシーンは読んでいてとても楽しかった。
このタイトルにある「ロシュ」という言葉。これを聞くと子供の頃読んだジュブナイル「地球最後の日」を思い出してしまう。「ロシュの限界」というのは、この作品で知ったような、もっと後だったような。「地球最後の日」を思い出すせいか「ロシュの限界」という言葉は、不吉なイメージがある。
でも、そんな不吉なイメージとは全く関係無く、全体的に希望に満ちた明るいタッチの作品で楽しめた。
最近知ったのだけど「地球最後の日」は映画「ディープ・インパクト」の原作(2作ありもう1つはクラークの「神の鉄槌」)なんだね。ジュブナイルでしか読んでいないので、元の話が読みたいと思ったんだけど、既に品切れ。数年で品切れになっちゃうとは・・創元さん、再販して欲しいよ~!
「ハイ-ライズ」 J・G・バラード [本:SF]
「ハイ-ライズ」 著:J・G・バラード 早川SF文庫 8点
かなり昔に読んだ本ですが、久々に読み返してみました。本当はまだ読んでいない「夢幻会社」が読みたかったんだけど、本棚を漁っても出てこなかったので、バラードだし、久々だし、いいかって感じで読んでみました。
最初に読んだバラードの作品がこれで、当時もかなり面白かったけど、今回読み直しても面白かった。内容をかなり忘れていたせいもあって、初読のように(情けないけど)楽しめました。
40階建ての高層住宅に移り住んだ人々が、外界との関係を隔絶し、徐々に本能のまま生きていくようになる・・という内容で、70年代におけるバラードの代表作、テクノロジー3部作の1つ。
この本の後書きでも述べられているけど、バラードの代表作の多くは破滅する世界を描いており、主人公は、破滅する世界を食い止めようとするヒーローではなく、破滅する世界に順応し生きていく普通の人である。
60年代3部作の「燃える世界」「結晶世界」「沈んだ世界」では、大自然の脅威の前に、人間の力は全く無力なものでしか無く、静かに静かに滅び行く世界を描いていた。私は、その雰囲気がとても好きなのだけど、単調だと思う人も多いようだ。
この「ハイ-ライズ」は上記三部作に比べれば、もっとメリハリがある作品になっていると思うが、逆に主人公は誰?と思うぐらい主人公は目立たず、地味に環境に順応して生きていく。中心でアクティブに動いている人達を主人公にすれば、もっと違う話になった感じがするが、あえて目立たぬ人物を主人公にしたのは、「運命に流されつつたくましく生きていく普通の人」を主人公に据える事が多い、バラードらしいと思った。
この作品を最初に読んだ時は、まだ高層ビルは、日本にはほとんどなく、40階建ての高層住宅というのは、物凄く高い建物のようが気がして、絶壁の中に密閉された居住空間のイメージが膨らんだけど、30階建て以上の高層マンションがバンバン建ってる今読むと、それ程高いものでも無いよなぁと思ってしまうのが残念。書かれたのが70年代だから、仕方が無いんだけど・・・。
この本で、高層住宅に住む住民達は最初、下層階・中層階・上層階のグループに分かれ対立を始める。一番裕福な層である上層階の人間は中層階・下層階を蔑み、中層階の人間は下層階の人間を蔑むという図式は、今の高層マンションでもありそうな感じがする。蔑むというよりは、より上に住む事に対しての優越感なのかな。
最初は、単なるいがみ合いが、暴力へと発展し、マンションの廊下には生ゴミが溢れ、バリケードが築かれ、高層マンション内は狂気に満ちていく・・と、ホラーテイストも入っている為、ホラー好きな私としては、かなり好きな作品です。
住人達が、高層住宅という環境に身を置く事によって、自分では意識しないまま狂気に侵食されていく姿は、かなり怖いし、今現在テクノロジーの発展しつつある社会に住む私達も、知らず知らずに狂気に侵食されているのかも・・と思わせてくれる作品だと思う。
「コスミック・レイプ」 シオドア・スタージョン [本:SF]
「コスミック・レイプ」 著:シオドア・スタージョン(サンリオSF文庫) 6.5点
昨年末「スタージョンは健在なり」が「時間のかかる彫刻」と改題されて(もうスタージョンは健在じゃないものね(T_T)グスン)創元SF文庫から出された。
で、かなり昔から持っていたけど(サンリオSF文庫が廃刊になる前に購入したのだ・・もう何年だ(^^;))表紙が苦手で、読まずにいたこの本を読んでみようかと引っ張り出してみました。
サンリオSF文庫の表紙は好きな物が多いんだけど、どうもこの茶色いマリリンモンロー(?)の迫力に押されてか、この表紙は苦手。何か怖い・・・。
で、読んだ感想は「もっと早く読めば良かった」でした。
それは「物凄く面白かったから!」とかではなくて、この本で語られている事が、今の自分には甘すぎて、思わず引いてしまうから。
もっと若い頃に読んだら、この本にあるセンチメンタリズムに共感し、感動できただろうなぁという後悔。
本には読むべき時期があると思うけど、その時期を逃してしまった・・という感じです。
内容は、
アル中のルンペンがゴミ箱から拾って食べたドロドロのハンバーガーの中には、宇宙から来た集合生命体「メドゥーサ」が入っていた。
生命体の意識の中にもぐりこみ、その種族の1つに入り込めれば、その種に属するものを1つの集合体として支配できる力を持つメドゥーサであったが、その力が及ばない人類と遭遇し、「人間の頭脳を元のように1つにする為」の方法を探し始める。
この侵略者に対し、人類がとった対応とは?
かなり不思議なファーストコンタクト物。
メドゥーサ地球侵略計画の物語の合間に、いろいろな場所に住み、いろいろな人生を歩む人々の物語が語られる。
短いページしかない中で、それら人々の生きている背景、感情などがとても伝わってくるのは、スタージョンの文才の所以だろう。
そしてこの本は、1/3がディレーニによる、スタージョン評である。
何か凄いぞ(^^;)。
「凍月」 グレッグ・ベア [本:SF]
帯によると「ナノテク/量子論シリーズ」の中の一冊らしい。
「女王天使」(上・下)と「火星転移」(上・下)という長編2つの間に挟まれる中篇。
ベアの作品は「ブラッド・ミュージック」以来久々。
「ブラッド・ミュージック」はかなり好きな話なのだけど、他の作品は粗筋を読んで引かれる所があまり無く、未読。
この本の粗筋は、
22世紀の月コロニー。天然の洞窟で絶対零度達成の為の実験が進められている。
そこに地球から、冷凍保存された人の頭部410個が持ち込まれる事になる。
頭部が持ち込まれた事で実験には大きな影響が・・。
というものなのだけど「冷凍保存された頭部が410個」という部分に、少しホラーっぽいところがあるかな?と思って購入してしまった(^^;)。
全く違ってました(爆)。
原題は「Head」。でも邦題の「凍月」はすっごくいい。
月と凍てる世界・・なんともピッタリ。
内容は、新しく開拓された世界(月コロニー)と政治のあり方が中心であった。
個人主義に徹し、政治による統制を嫌がる「ファミリー」を中心とした結束集団が支配する月コロニー。
まともな政治機能を持たない社会の危うさを描いている。
アメリカSF&ファンタジー作家協会(SFWA)の役員をし、作家達の「統制される事への反発」に悩まされていたベアの実感が篭った本ではないかと思った。
序文にてベアは「SF作家とファンタジー作家を数十万人月に置いてかきまぜると・・」と書いていて、思わず笑ってしまった。
想像するとかなり怖い社会な気が・・。
もちろん、絶対零度達成の実験や、410個の頭とのコンタクトなど、SF的要素も生きている。
他のシリーズを読んでいないので、少し世界感が曖昧な感じではあったけれど、充分楽しめた。
スローターハウス5 [本:SF]
「スローターハウス5」 著:カート・ヴォネガット・ジュニア (早川SF文庫) 7点
作者本人が体験した第二次世界大戦でのドレスデン爆撃の体験をちりばめた自伝的作品。
映画化もされている。
作者と同じ様にドイツ軍の捕虜になりドレスデン爆撃を体験する主人公ビリー。彼は宇宙人にさらわれた事がきっかけで時空を放浪するようになってしまった者でもある。
時空を放浪するビリーが見る、人生とは?
ブラックユーモアに溢れ軽いタッチで書かかれているが、そこには作者の強い反戦の気持ちと悪人にも善人にも同じ様に向けられる作者の優しい目が見え隠れしている。
印象的だったのは、ビリーが戦争映画を逆回しで見るシーン。
戦争映画を逆回しすると、爆撃機は、燃え上がる都市の上空を通過するだけで、火を沈下し、軍事工場は、災厄の元を解体するすばらしい場所となる・・本当にそうだったらいいよね。
この作中で何度も繰り返される「そういうものだ」(So it goes)というフレーズ。
最初にこのフレーズを見た時は、かなり違和感がある使われ方をしている気がしたが、物語を読み進むにつれ、思わず一緒に「そういうものだ」と思ってしまう自分がいた。
「万物理論」 [本:SF]
「万物理論」 著:グレッグ・イーガン (創元SF文庫) 8点
科学ジャーナリストである主人公は、世界に広がりつつある奇病の取材を蹴り、「万物理論」を発表する科学者モサラの取材をする事。しかし科学者モサラの周辺には、怪しげなカルト教団が出没し、主人公はその陰謀に巻き込まれていく・・。
イーガンの本は、「宇宙消失」に続いて「万物理論」が2冊目。
順番で行くと「順列都市」を読んだ方がよかった気がするんだけど、それが見つからないのと、運良くブックオフで「万物理論」を見つけたので、ホクホクと購入。
今は文庫でも高いんだもん・・ブックオフの割引券200円も使ったので450円で買えたのは嬉しい♪
で、イーガンの「宇宙消失」はずっとSFから離れていた私に、またSFを読もうかな?と思わせてくれた作品だった訳だが、今回の「万物理論」もまた面白かった。
いくつもの話が書けてしまうだろうと言われるほど、ぎっしりつまったいろいろなアイディア。
特に第一章で、死体を一瞬だけ蘇生させ殺人犯を聞くなんてくだりは、個人的に好みで、それだけで1つ話を書いて欲しいぐらいだった。
しっかりと構築された近未来世界。バイオテクノロジーが発達し、強化男性や強化女性、タイヤを食べても生きていけるように自分を改造した人間、etcなどが生活するその世界を垣間見るだけでも楽しい。
タイトルになっている「万物理論」とは、「物理的実在の根底にある論理」で、本当に研究されているらしい(原題は「DISTRESS」で、物語の中に出てくる、世界に蔓延しつつある奇病の名前)。
「宇宙消失」でもそうだったが、「万物理論」絡みで量子力学の話がかなり出てくるのだが、私はそちらの方はかなり苦手。しかし科学ジャーナリストである主人公もよくわかってない・・という感じで話は進むので(私は主人公よりもっとわかってないが)、概要ぐらいしかわからなくても、充分話は楽しめた。
「宇宙消失」「万物理論」ともハードSFを名打っていて、「宇宙消失」を読んだ後、私にもハードSFが読める!と意気込んで他のハードSFを読んで見事に挫折した(^^;)。
ハードSFと名打ってはいるが、物語のメインは、人のアイデンティティや他者との関係、物事の捉え方や社会のあり方などであり(今の社会が持っている問題点が、テクノロジー進化により、より強調されて噴出している)、ハードSFと構えて読まなくても充分楽しめる作品だと思う。